探偵士、少年探偵団と出会う。   作:ummt

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第二十九話 探偵士、疑われる。

 

「安室さんって彼女居ますよね……」

 

 少年探偵団見習いを謹慎処分という重い処置をされ、傷心のまま風見さんを居酒屋に呼び出した。

「……なに? 恋人が居るなど聞いたことがないが」

 風見さんはお冷と枝豆だけを摘みながらスマホを確認している。

 ……僕はスマホのチェックより優先順位が低い相手なんだ。

「同僚の梓さんですよ……」

 スマホを操作する指が止まった。

「ああ、彼女か……。以前彼が言った言葉を借りるならば『日本という国が恋人』だそうだ。恐らく君の勘違いだろう」

 風見さんまで安室さんを庇い立てするのか……。

「……二人は談笑をしながらふと気づく。今、この人と過ごせる時間が一番幸せなんだと。そして自然と指先を形を確かめるように絡める。ああ、彼も私と同じ気持ちなんだ。そう思うと心が高鳴りはち切れそうになる。顔を見合わせると唇が」

 パチンと手を叩く音がして、横を見ると冷や汗をかいた風見さんが此方を戦々恐々とした顔をして背を大きく引きながら此方を見ていた。

「休め……。君は異常だ」

 成る程……あむあず過激派ラブロマンス小説を語ってみせたくらいでこうなると……。

 これを使えば効果的に『異常者』『配慮が無い』『セクハラ』として周囲から距離を置ける、他者から率先して自分なら離れていく。

「はい? 安室さんと梓さんは端から見て熱々なので……」

 生ビールを注文してガラケー改の着信履歴、受信ボックスを見た。

 誰からも、何も連絡はない。

「休め……デイヴィス……。熊津を引き留め続けるのが苦しいならば、一度作戦を変えるように上に相談しよう。なにも君が恋人役として監視し実行指示を与える必要はない。身柄を拘束した上で今後の運用を考える事もできる」

 熊津が今自分の配下……庇護下にいると認識しているのは他の工作員、ガリアーノ、アブサン、コカレロに僕と他の男たちとの男女関係を不注意で流してしまったとされたせいで浮気、痴情のもつれで殺害される恐怖心からだ。

 情報を流した本人の僕が支配権を握らないと、いつ暴走して女性陣達に八つ当たりとして危害を加えるか分からない。

「ちゃんとシフト通りに休みはもらっていますよ。……安室さん、梓さんに首ったけって感じじゃないですか……」

 国が恋人だというのなら、彼女を護るのはやはり安室さんしかいない。

 護れるのなら、護るべきだ。

 

「はぁ……なぜ、どうしてこんなになるまで放置されてしまったんだ……。君は疲労している。長期休暇を取れ。おっと……噂をすれば何とやらだ……失礼する」

 


 

「……何なんですか。もう夜ですよ」

 

 工藤邸に戻ると沖矢さんの車はなく、人が居ないからか中も外も真っ暗だった。

 一抹の不安を覚えながらも自室に戻った途端にガラケー改が鳴った。

『梓さんのこと、こっ酷く振ったらしいじゃないか』

 ……突拍子もなく、何より語弊がある。

 元々可能性が無かったことを再確認しただけだ。

「彼女は誤解していたみたいで……僕には……深い仲の女性がいるので」

 熊津とは体よく交際関係としているが、実質はヴェルヴェーヌからの……。

 いや、関係になったのは自分が能動的に動いたからだ。

『……郵便局員の熊津って人だろ? ……君の敵対者なのかい? どうして尻に敷かれているんだ?』

 少しでも情報を漏らせば世良さんは必ず『組織』に辿り着いてしまう。

「安室さんと梓さんってお似合いですよね。美男美女で……。ふと彼の長い睫毛に目が止まった。瞑っていても見開いていても美しいアーチに見惚れていると、凛々しい瞳と目が合った。どうしよう、視線を逸らせない。鼓動の音を耳が捉える度に身体がカーッと熱くなる。やっぱり私、彼のこと……」

 怪文書を述べると受話口からは大きな笑い声が二つ響いた。

『アハハ!! それが例の『あむあず過激派ラブロマンス小説』ってやつかい!? アッハハハハ!! ツボに入っちゃったじゃないか! ヒハッ!!』

 その奥から領域外の妹らしき笑い声がして激しく噎せ返りゴホゴホと咳込んでいる。

「だ、大丈夫ですか? 妹さん……」

 暫く笑い声は続き、落ち着いてから咳止めの薬を飲ませた様子だった。

『大丈夫だよ! ……今、君は周囲に距離を置かないといけないフェーズに入ったと理解したよ。これ以上、詮索はしないから安心してくれ』

 意図を別の形で汲みとられた安心感でベッドにへたり込んだ。

「そんな大層な駆け引きではありません。……安室さんと梓さんが惹かれ合うのは当然ですから」

 ベッドの前に置いたアクリルケースの中でヤマカガシの近松が自らの尾を噛もうとするのを壁を叩き、注意を反らして止めた。

『安室さんねえ……確かに彼は完璧だ。まるで数多の知識や技術、天賦の才を身につけた超人に思えるくらいに』

 人類で最も優れた容姿、頭脳、技巧、肉体、武芸、経歴、人望を兼ね備えているのは彼かもしれない。

「安室さんはどうしてあそこまで強くなれるのか……」

 組織、公安、喫茶店の定員……トリプルフェイスを使い分ける器用さ、胆力……なによりも漲る自信と裏付けする実力。

 

『安室さんってさ……ボクの兄貴の友人の連れに似ている気がするんだ。……初めてあった時に問い出したけどはぐらかされてね。……その友人はスコッチと呼ばれていたな……何か知っているかい?』 

 


 

「スコッチ……」

 

 それはライと共に行動していた事のあるネームドの……公安のスパイだと露呈し、結果としてライの手により始末された男の名だ。

 世良さんの兄がライ……とは断定できないが、友人がスコッチで安室さんに似ている連れが居たのなら高い確率でバーボンであろう。

『あ、そうだ。兄貴について教えていなかったね。ボクの兄は赤井 秀一と羽田 秀吉。君には名前だけで充分過ぎるだろ?』

 ……ならば兄は赤井 秀一であり死亡した組織のネームドであるライでもあり、現在は沖矢 昴と名乗っているFBI潜入捜査官だ。

 つまり、友人はスコッチでバーボンと共に行動または接触していた。

 安室さんが公安であると病院で名乗った時点で鬼籍に入ったとはいえ、同じ公安のスパイであったから交友関係てして洗い直しするべきだった……。

 ……この見落としがドミノ倒しのように連鎖しなければいいが。

「なら僕からも。……自分には兄弟が居て……ATFに勤めています。……ファーストネームはヤン。記憶しているのはそこまでです」

 ……どうでもいい、捨て置いていい情報。

 

『初めて君から自分のことを教えてもらえた気がするよ。……アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局か、君に似て優秀で……自分の痛みを表に出さない人なんだろうね』

 

 、、、

 

『もしもし岸良ですけど、時間はあるか? 星屑』

 

 世良さんとの会話が終わった直後に岸良……コカレロの電話番号から着信があった。

「……何の用だ」

 シャルトルーズから『イザラと接触した』との共有があったのか? 

『おいおい、隠れ公安同士仲良くしましょうや。……が、盗まれた。五の色を持つ者の手によって』

 コカレロは受話口でボールペンの回転カムをカチカッ カチカチカチ カチカッカチカッと押して見せた。

 NOCが盗まれた……つまりNOCリストの流出……しかもキュラソーが動いたのか? 

 アイリッシュがNOCリストの回収に動き始めた時点で『組織のNOCの洗い出しが活発化した』と意識を改めるべきだった。

 しかしなぜコカレロは自分に知らせた? 

 風見さんよりもいち早く連絡してくるとは……まさか風見さんは今現在発信手段がないのか? 

 本物の『国家公務員のNOC』はアブサンであるはずで、それつまり公安側に組織の人間であると自主申告をしていないからであって、コードネームを告げていないはず……。

 ……互いが公安の人間と知れたら告げることもあったんだろうが。

 それが自分だった……? 

 公安が把握しているのはガリアーノ、コカレロ、アブサンが隠れ公安であって、アブサンが組織に公的に潜入している。

 ……ガリアーノ、コカレロは公安に所属し、それとはまた更に別ルートで潜入している警察権限を持つ者なのか? 

「なぜ、僕に教えた」

 公安に所属しているが組織に属することを隠匿しているだけの善意を持つ者か、組織に染まった悪意を持つ者か、何一つ分からない。

 

『呼び出しだ。今から送る地図の場所に来い。今直ぐにだ』

 


 

「これは一体……」

 

 直後に安室さんと風見さんに連絡を取ってみたが誰も捕まらず、仕方が無くその足でコカレロに指示された場所に軽トラを飛ばした。

 途中、倉庫での爆発事故があった影響で交通に支障が出たが、一時間もせず朝焼けに燃え夜警の残響が鳴り響く埠頭の倉庫に着くとコカレロ当人とヴェルヴェーヌ、ガリアーノ、アブサン、シャルトルーズの5名と共にピンガが待機していた。

「久しぶりだなイザラ!! お前、記憶が無いんだって!? まさか、あの薬剤の被験者がお前なのか?」

 ピンガに肩を組まれて苦笑いをして下を向いた。

 "記憶はNIL。君は組織を破壊する。"

 はい。RAM。

「薬剤……? すみません、よく分かりません」

 そう呟くと背中を勢いよく回し蹴りされ、地面に倒れ込んだ。

「何でも知らぬ存ぜぬで通ると思うなよ!!」

 場にいるリストの5人はピンガの顔色と出方を伺っている。

 つまり組織からの直接的な指示であり、状況的に見て上に逆らい抗えない立ち位置にいる。

「……で、ピンガ。何で俺達6人が呼び出されたんだよ」

 シャルトルーズが両手を頭の後ろに組み、先輩に当たるピンガに対して挑発的な態度を取った。

「お前達は7点セットだからな……ああ、スーズのバカがくたばったから今は6点セットか」

 その言葉にアブサンが土を踏み込んだ。

「……6点セットが何で一箇所に集められたんすか?」

 ピンガはスマホの画面を見ながら不敵な笑みを浮かべた。

「キュラソーの奴が警察からNOCリストを奪ったんだよ!! ……ただし、途中でポカしやがって行方をくらましてる。キールとバーボンはベルモットが確保して、スタウト、アクアビット、リースリングの元にはジンの奴等が始末に向かってる最中だ」

 あの安室さんがベルモットに拘束されている? 

 スタウト、アクアビット、リースリングはネームドでも組織内の権力は強い者達で、彼等がNOCとなると……。

 三人も裏切り者が潜伏していた事になる。

「本当にその人達……NOCなんですか? 何かの間違いなんじゃ……」

 ヴェルヴェーヌが恐る恐る尋ねるとスマホを掲げるピンガに腹を足蹴りされてうずくまった。

 

「間違い? あるわけ無いだろ!! ピンポイントで素性を洗出だせばこの通りだ!! スタウトはイギリス秘密情報部! アクアビットはカナダ安全情報局! リースリングはドイツ連邦情報局の諜報員だとよ!!」

 


 

「それでは、なぜ私達は生かされているんでしょうか」

 

 ガリアーノが静かに尋ねるとピンガの苛烈さが幾らか冷めたようだ。

「さっき言ったよな? キュラソーの奴はポカをして行方をくらましたと。……NOCリストが完全じゃねえ。今言った五人がNOC疑惑者であって、お前等は念の為の拘束だ。キュラソーを確保し、リストに名前がある奴は消す。それだけだ」

 キュラソーが理由を告げずに行方をくらますなどあり得ない。

 まさか、あの爆発事故に巻き込まれた……? 

 いや、たまたま同時期に事故が発生しただけだろう。

「すみません、そうなると僕は麻薬取締官として働いているので即刻処刑されるんですか?」

 右手を挙げるとピンガは鼻で笑った。

「何で警察に潜り込んでるモグラを駆除するんだよ!! 馬鹿が」

 腹に膝蹴りを受けて、そのまま衝撃と痛みを受け止めた。

 ……言及が無いということは警察病院のガリアーノ、刑務官のコカレロ、入国警備官のアブサンは職業的にもモグラが明明白白であるから、寝返っているかどうかを本人に確認する事で足りるとの判断か。

 7点セットとしてもヴェルヴェーヌとシャルトルーズがこの場にいるのならグレーと判断されるヘマをやらかしたと考えるのが妥当。

 ヴェルヴェーヌは写真の誤送信、シャルトルーズは星雲センターでの失敗……これ以外にある場合、脆弱すなわち弱点になる。

「すみません、何故ピンガさんはNOCリストの疑惑者に入っていないんですか?」

 再び右手を挙げると襟を掴まれた。

「俺が裏切り者なわけ無いだろうが!! 今は内部で秘密裏に動いてる連中を洗い出す、膿を出す時だ……。デマラメな薬剤を無断で開発し、組織に影響をもたらす程のものかテストする為に被験者を泳がせているという噂まである」

 その噂の主、つまり被験者は自分であると……。

「一つ宜しいでしょうか」

 ガリアーノが一歩前に出てシャッターの前に陣取った。

「何だよ」

 ピンガが自分から手を離して正面に立った。

「その薬剤の開発ですが、実の所はあの臆病者が携わっているんです。私がTLMA0181……テロメアリス0181という非」

 パンッという乾いた銃声音がアルミサッシに反響するとガリアーノが脳天を撃ち抜かれ、背中から倒れて絶命した。

 二丁拳銃に手を掛けながら弾道を見るとヴェルヴェーヌが構えた銃をゆっくりと降ろした。

 

「この人……NOCです。有りもしない噂を流して組織内で内部分裂、抗争を引き起こした張本人……私、ずっと内乱の火種を放った人間を探してたから……」

 


 

「オイオイ……お前なぁ……」

 

 ピンガを含め全員が銃に手を掛けてヴェルヴェーヌと対峙した。

「私、キュラソーに命令されていたんです。『テロメアリス0181という薬を作った一派があるとして組織内を混乱させようとしている人間を突き止めなさい』って……」

 ヴェルヴェーヌは冷静で、淡々と言い分を述べた。

「ちょっと待て。……スタウト、アクアビット、リースリングの始末が終わり……ジンの奴が日本にとんぼ返りするらしい」

 三人の始末が終わったのなら、バーボンとキールも確実に消される……。

「すみません、ヴェルヴェーヌの話とガリアーノは置いておくとして、何故二人を始末しないのですか? 日本にいる構成員を動かせばいいでしょう」

 二人に手が出せないのはNOCリストに疑惑者としているが、リストが不完全で現時点で名がないことに加え、別の要因が関係しているのか? 

 どうにかして安室さんだけでも疑惑を晴らす方法は無いのか……。

「……ジンがその二人に直接手を下したがってんだよ」

 二人を直接……ならば、キールも本当にNOCであるのだろう。

 

「そうなんですか……自ら……」

 

 、、、

 

「……チッ、良かったな。お前らの処分は一次見送りだ。……ただし、今の生活圏から逃げ出したりするよ? その時点で逃亡と見做す」

 

 ピンガはガリアーノの死体処理をヴェルヴェーヌに指示し、その場は解散となった。

「スタミナのガリアーノは持久力が0になっちまったらしい」

 シャルトルーズは腕を頭の後ろで組みながらにやけ面を晒してみせた。

「……おい、人ひとり死んでる……不謹慎だぞ」

 コカレロが嗜めるとアブサンが付け加えた。

「今、不用意な言動行動は慎むべきだと思うっす」

 二人に冷めた対応をされるとシャルトルーズはあからさまに不機嫌になり、駐車場に向かってツカツカと歩き始めた。

 

「シャルトルーズ……お前は自分の力で考えることを覚えた方がいい」

 


 

「なっ……いつの間にこんな時間に……」

 

 埠頭から離れてガラケー改の着信履歴を見ると昼を過ぎていた。

 そして、コナンくんからのメールを開封して愕然とした。

『この女性に心当たりない?』

 添付されていた画像に写っているのは紛れもなくキュラソーだ。

 此処でコナンくんに『組織の人間である』と伝えれば彼らを危険に晒す。

「……もしもし、コナンくんかい? 今、何処にいるの?」

 電話は直ぐに繋がり、受話口からは賑やかな人混みと場内アナウンスが聴こえてきた。

『もしもし探偵士さん? 画像は見てくれたんだよね?』

 ……答えがないということは『身辺の情報が集まりつつある』のだろう。

 キュラソーだと分かっていたなら公安や警察沙汰になり、遊園地のような場所にいるわけがない。

「見たよ。……僕を仲間外れにして遊園地かい? ズルいなぁ……」

 分かり易い溜め息をつくと、受話口から乾いた笑い声が響いた。

『バーロー、アイツらと違ってオレは見え透いた喧嘩は買わねーよ。聞かれたらちゃんと答えるっての。博士と子供達と一緒に記憶喪失の女性と東都水族館にいる』

 ……記憶喪失? 

「記憶喪失? ……へぇ……オッドアイで記憶喪失か……」

 キュラソーが演技としてオッドアイという珍しい身体的特徴をしていながら記憶喪失という人格を演じる悪手を取るか? 

『……その女性、脳に先天的な変質があったみたいで、観覧車の上で苦しみだしたんだ。……今から警察病院に搬送されるから……頼んだよ、探偵士さん』

 電話が切れると、頭を抱えた。

 キュラソーが本当に記憶喪失なら治療してしまえば安室さんを消すことになり、演技なら確保するように公安に報告せねばならないが密告したとして自分を含め他の隠れ公安の命を奪う事になる。

 ……その前に安室さんはジンから逃れられたのか? 

 着信履歴には安室さんと風見さんからのログは無いままだ。

 今、安室に連絡を取ったら自分含め隠れ公安だと明かすようなもの。

 風見さんだけでも連絡がつかないか……? 

 

「……こんな時に警察病院勤務医が生きていれば口裏合わせの都合がついたのに……。なんて運がないんだ……」

 


 

「……居た!! 風見さん……」

 

 警察病院の中に入るとキュラソーを別場所に移送しようとする風見さん達と鉢合わせした。

「デイヴィス!! 君は休めと言っただろう!!」

 キュラソーの方を見るとラムの腹心としてプライドが高く自信家な側面が鳴りを潜めて、穏やかな表情をしていた。

「こんにちは。あら……子供達と同じバッジ……あの子達とお友達なんですか?」

 首を傾げて正面玄関のほうを見るキュラソーの視線を追うと元太くん、光彦くん、歩美ちゃんの後ろ姿が見えた。

「……はい。少年探偵団見習いなので……今は謹慎中ですけど」

 苦笑いをして頭を掻くとキュラソーは慈愛に満ちた笑みを零した。

「なら、私ともお友達ですね」

 そう言って微笑みながら白いイルカのストラップを胸に掲げて見せた。

 ……キュラソーも白になったのか? 

「今は君に構っている時間はない!! いいから来たまえ!!」

 風見さんはキュラソーの腕を引くと待機していた警察車両に乗せて連行して走り去っていった。

 

「ならば、追いかけるまでです」

 

 、、、

 

「警察車両の配備が多すぎる……爆破予告でもあったのか?」

 

 ガラケー改で無線を傍受すると『観覧車に乗せる』との情報を得ると鉄骨造の基盤に当たる部分に向かった。

 この人混みの中でピンガやジンがキュラソーと接触するのなら、周囲と場所が物理的に離れ、かつ密室に近い状態になる場所を選ぶはず。

 可能性として高いのは非常用階段、地下駐車場、従業員通路。

 そこに東都水族館という地理を考えると水族館のトンネル、観覧車、足こぎボート……。

 更に狙撃しやすい場所となれば……観覧車。

 つまりキュラソーが乗り込む前に観覧車を停止すれば彼女を組織にも警察にも渡さずに済む。

『デイヴィスさん、聞こえますか?』

 骨組み部分まで足を進めるとガラケー改ではなく、探偵バッチから音声が流れた。

 ……探偵バッチの帯域など疾うの昔に割れていたか。

「はい! 聞こえています!!」

 先ずは安室さんが生存していた事に胸をなで下ろした。

『基礎部分に爆発部が仕掛けられている可能性があります。見当たりますか?』

 観覧車の支柱部分まで走ると如何にもな箱が急ごしらえで置かれていた。

 これならば時限式信管だとしても配置までの時間が短いため、構造も複雑なものでは無いだろう。

「有りました!! 今から爆弾解除に当たります」

 コンクリ部の上に置かれいたため、近くの整備室にあった釘抜きバールで鉄骨を叩いて反響させるが何も起こらない。

 つまり音波や軽い振動では炸裂しない。

 高枝切り鋏で箱の下から持ち上げたり左右にズラしたが破裂しない。

 重さや高度、位置のズレが起爆剤にならない。

 ならばやることは一つだ。

『爆弾処理、お願いしますよ。……デイヴィスさん』

 箱を抱えて人けのない森林エリアに走った。

 中身の箱は蓋付きになっており、キーボードと銅線が繋がった基板が見えて安堵の溜息が出る。

「これならいける……」

 辺りに人が居ないことを確認して解除しようと顔を近づけると基盤の電気回路とスイッチの間にマイクロチップグラフィティが施されているのに気づいた。

『lcduud(ROT3)』

 ROT13……つまり『Rotate by 13 places』ならばypqhhq……意味は通らないが、これで合っている。

 キーボードをypqhhqと叩いてエンターキーを押す瞬間に、ありえない失態を犯したことを理解し、硬直した。

 今、エンターキーは指に触れたか? 

 この時をやり直せたりしないのに、失敗など到底許されないことなのに……。

 間違えてしまった。

 ミスを犯してしまった。

 

「これはROT13ではない……ROT3……答えはizarraだ……」

 

 

 






 あとがき


 指差し呼称しなかったイザラが悪い ヨシッ
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