探偵士、少年探偵団と出会う。   作:ummt

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第三十四話 探偵士、恋に堕ちる。

 

「ただいま帰りました……沖矢さん、真っ暗な中で何をなされているんですか?」

 

 風見さんとのサシ飲みから工藤邸に帰宅すると、玄関先で沖矢さんがランタンを携えて此方を見ていた。

 隣の阿笠博士の家の電気は点いているので停電ではないだろう。

「海に行くのだから、ランタンが有れば夜の海辺でいい雰囲気を醸し出せるかと思ってね」

 ……沖矢さんも海に行くのか、メールボックスと不在着信……そろそろ確認して返した方がいいか。

 飛ぶ鳥跡を濁さずと言うからな……。

「沖矢さんって案外ロマンチストなんですね……」

 未だに真意を掴みかねる人だ……FBIならではの人心掌握術の類なんだろうか。

「このランタンを貸そう。この周囲にパンチング加工を施した金属板を巻けばより幻想的になる。君なら星座を模した加工や幾何学模様を巧みに施せことで美しい作品を作れるだろう」

 手渡されたランタンを見ると円状にスリットが入っていた。

「はぁ……買い被り過ぎといいますか……僕は海には」

 顔を上げると有無を言わさず圧を放つ細く見開かれた眼と目が合い、大人しく受け取った。

 

「イザラの作り出す光をこの目で見届けさせてもらう」

 

 、、、

 

「不味いな……梓さんと熊津からだ……」

 

 メールボックスには公安と麻取関係は全て開封していたので、残るのは世良さんと梓さんからの安否確認のメールと、熊津からの裏切りの有無の確認と愛情確認の鬼のような量のメール、着信履歴は世良さんと梓さんからいくつかと熊津からの鬼電だった。

 熊津は他の構成員三人に浮気が露呈したため、報復されるのを恐れて彼らから命を守ってほしい、恋人として側に居てほしいといった内容だったが……。

「熊津……ヴェルヴェーヌはノータイムでガリアーノを殺害した」

 警察病院の勤務医であった塞本……ガリアーノを『内部分裂を引き起こすNOC』としてピンガに呼び出された際に無感情で射殺した。

 ヴェルヴェーヌとは『スタミナのガリアーノ』として情が通じている相手の一人だった筈。

 ふと、名刺ケースに入っていたガリアーノの名刺の裏に書かれた『150351522202432495』を思い出した。

 ……ポケベル暗号で『おんなにきをつけろ』だったな。

 もし仮にヴェルヴェーヌは彼らを脅威として恐れておらず、自分に泣き付き縋り付く仕草が演技であった場合。

 海に行かないとすると『ヴェルヴェーヌが民間人に危害を加えると想定している』との意思表示になり、海に誘わないと『恋人を誘わないなら浮気をするのだ』という両極端な答えになってしまう。

 

「誘うしかないか……」

 


 

「おはようございます、沖矢さん。……海なんですけど、彼女である……熊津を誘いました」

 

 沖矢さんはダイニングの椅子に座って新聞紙を捲りながら顔色人使えずにモーニングコーヒーを啜った。

「そうですか。君の彼女ですから……仕方が無いだろう」

 彼は熊津がスーズの射殺に関係したと勘づいて居ながら日本の警察に知らせていない。

 ……いや、公安共々犯人候補として把握をしているが組織の出方を見るために泳がせているといった方が正しいか。

 海には安室さんも来る……ならば警察組織も何時でも臨場出来るようにスタンバイするに違いない。

 兎に角、嫉妬にかられ凶行に走る前に人目が多い場所で警察権限の名の下に逮捕拘束が出来れば後の計画に狂いが無くなる。

 どう動くか分からない危険分子は早々に排除しないと。

 頭の中で海での安全確保計画を練っていると玄関のチャイムが鳴った。

「僕が出ます」

 小走りで玄関の扉にあるドアスコープに目を当てると、ニャロメが此方を見ていた。

 ドアスコープを塞いだということは、工作員の誰かが正面を切って乗り込んできた可能性がある。

 見知らぬ車の停車する音はしなかった為、徒歩で来たとすると逃走手段が別に来るか、逃走までに時間を持てる確信がある手練れ。

 銃火器を使わずに自分と沖矢さんを制圧出来る自信があるものであって、抵抗を受けず周囲に対して騒音を出さない確証を持つ者だ。

 仕方無く玄関の扉を閉める際に傘立てを思い切り倒した。

「痛ってえ!! ここの傘立ては何でこんなに重てぇんだよ!!」

 ダイニングテーブルにカチャリというカップとソーサーが重なる音がした。

 合図は届いた、ならばヒップホルダーにある拳銃に手を伸ばしながら鍵を開け、ドアチェーン越しに体躯を確認すればいい。

 扉の鍵を開けてゆっくりと開くと大きいニャロメのぬいぐるみが隙間を塞いだ。

 ……視界を隠すにしても身長は隠せない。

 156cm……靴のサイズから女性……この靴は……。

 

「こんニャロメ! デイヴィスさん!! 連絡を無視しないでください!!」

 


 

「へ……は? 梓さん……?」

 

 ニャロメの影からひょっこりと姿を現したのは梓さんだった。

「もーデイヴィスさんが連絡を無視するって安室さんに相談したら『連れ戻しに行って欲しい』って言われて来ちゃいましたよ!!」

 ……は、個人情報。

「あー……すみません。僕、ポアロをクビになったんで……」

 硬直したまま口を動かすとポカポカと胸を叩かれた。

「安室さんはポアロの経営者じゃないでしょう!? オーナーは解雇通知を出してません!! まったく口喧嘩を本気にして飛び出すなんて!!」

 いや、口喧嘩とかではなく……面接も安室さんだったし、あれは本気のクビ宣言だった……。

「えっとですね……勤務態度が悪かったので……」

 回らない頭で解雇相当の理由を挙げるとニャロメをギュッと押し付けられた。

「心配してたんですよ!! デイヴィスさんはここ最近色々あったし、一人で抱え込んで悩んでいたから……もしかしたら何かあったんじゃないかって……」

 梓さんの眼には薄っすらと涙が浮かんでいた。

「……そう言って、内心では彼と二人きりになれる時間が増えたことに心が踊っていた。彼と交わす言葉が増えるたび湧き上がる愛の感情も重なっていったからだ」

 引き留めに来てくれた人間に対してポエム語りをする。

 これで人間性を疑われて全てが無に帰す。

 ……何をスマホに打ち込んでいるんだ? 

「……と。よし、予約投稿完了です」

 梓さんはスマホの画面を掲げて見せた。

 その画面には今まで口頭で聞かせた『あむあず過激派ラブロマンス小説』と今述べた物が連作として小説投稿サイトに予約投稿されていた。

「……は? え、は?」

 理解が追いつかずにフリーズしたままで疑問を呈する、と梓さんが勝ち誇った様な顔をして笑った。

「デイヴィスさんのラブロマンスをずーっとメモしていたんです! デイヴィスさんの名前で予約投稿しましたからね!!」

 ようやく意味を理解してスマホを奪い取ろうと手を伸ばした。

「ちょ、ちょ、やめてくださいよ!!」

 梓さんはぬいぐるみを盾にしてちょこまかと動いた。

「デイヴィスさんが勝手に私たちで小説語りし始めたのが悪いんです!!」

 元はといえばそうで、自業自得であるのだが。

「恥ずかしいので本当にやめてください……ごめんなさい謝りますから……すみませんでした……」

 半べそをかきそうになりながら許しを請うと梓さんがぬいぐるみ越しに身体を寄せて僕の頭を撫でた。

「すみませんより『ありがとう』だって言ったじゃないですか……」

 堪らず、ぬいぐるみごと彼女の身体を固く抱きしめてしまった。

 

「はい……ありがとうございます……梓さん……大好きです」

 


 

「デイヴィスさん、玄関先で仲睦まじそうにするなら部屋に上げてはどうですか? 焼きプディングはお好きですか?」

 

 沖矢さんが玄関先に半身を覗かせながら爆弾発言を言って述べた。

「なっはっ!? は? ちょ」

「はい!! 焼きプリン大好きです!!」

 梓さんが食い気味に答えると慌てて腰に回した手を離した。

「焼き上がったら部屋にお持ちしますよ」

 そう言って沖矢さんはエプロンを身に着けて作業をし始めた。

「あの……ご迷惑でしたか?」

 迷惑なわけがないが、恋人として熊津を引き留めないと女性陣の命が……。

 ……まてよ、沖矢さんが部屋に上げろと言ったということは熊津を迎撃出来るだけの配備が成されており、熊津の嫉妬心を煽って組織の情報を芋蔓式に挙げる算段があるというメッセージか……? 

「い、いえ……全然」

 というより、さっき抱きしめ……どさくさに紛れてハグしてしまったことに対して何も咎める言葉がないのは……やはり安室さんの思惑が動いているのでは? 

「……デイヴィスさんって、靴を揃えるんですね」

 ……な、いきなり常識がなっているとの判定? 

 常識の有無を確認されている? 

「え? はい……お手洗いはあちらに有ります。僕の部屋は2階です。……以上です」

 何をしていいか分からず、洗面台に寄って手を洗うと彼女も続くようにして手を洗った。

「私、男の人の部屋に行くの初めてなので……なんだか緊張しちゃいます」

 梓さんの発言に深い意味はないことは分かっていても鼓動が跳ね、思い切り壁に額をぶつけた。

「だ、大丈夫ですか!? 背が高いから壁にぶつかっちゃうんですね……大変だ……」

 自分の頬を両手でバチンと叩いて部屋に向かった。

「大変なんですよ……」

 気を取り直して階段をゆっくりと登り自室の鍵を開けると、梓さんが抱きついてきた。

「きゃあ!! 蛇がいる!!」

 落ちつけ落ちつけ、梓さんはヤマカガシの近松とは初対面だ。

 

「ヤマカガシの近松とサシバの林太郎です……」

 


 

「サシバ……あの時に助けた鳥ですか? すごい……おとなしいですね」

 

 近松と林太郎は風見さんが来訪した時とはうって変わって大人しくしている。

「あ……はい」

 梓さんは無意識なのか、抱きついたままだ。

「デイヴィスさんの部屋、お星さまのモビールに星のシールに……なんだかメルヘンで可愛らしいですね」

 な、何と答えれば……。

「はい……星のモチーフが好きなので……」

 すると梓さんはベッド脇のドリームキャッチャーに気付いてベッドの上に乗った。

「これ、英知さんの所で作ったドリームキャッチャーですよね? どうしてコルクボードの上に掛けているんですか? ……タッセルに鉛筆が刺さっているのは願掛けですか?」

 質問が多い……悪夢の象徴としてタッセルは人柱に見立て消えたリストの人数分鉛筆を突き立てていて、賃貸であるからコルクボードに刺しているなんて言えるわけがない。

「願い事に近づく度に……タッセルを取ろうと思ったんですが……面倒なので鉛筆を刺しています」

 梓さんはピンと来ていない様子で首を傾げた。

「なんだかミサンガのおまじないみたいですね」

 希望ではなく絶望の呪いだが。

「そうですね……あ……そうだ……ミサンガを作りませんか?」

 タンスの中からストレートケーブルを引っ張り出して見せた。

「えっ!? パソコンのケーブルでミサンガを作るんですか!?」

 驚く彼女をよそにコネクタを外して青い皮膜を爪で割いた。

「はい。色が緑と青、オレンジと茶に混ざった白しか有りませんが……」

 中の銅線を解して十徳ナイフで適当な長さに切断すると8本に分けて床に置いた。

「丁度4本ずつに出来ますね! 四つ編みかぁ……」

 梓さんが4本を選んだので、その先を手で持った。

「こうすれば編みやすいと思います」

 声をかけるとベッドから降りてきて、正座をしながらミサンガを編み始めた。

 暫く様子を見ていたが、黙々とミサンガの編み込みが終わると、手首に片手で巻き付けようとして失敗するのを繰り返した。

「うー……自分で巻くのは難しいですね」

 そんな彼女を見かねてミサンガを受け取ると手首に巻きつけた。

「自分で巻かないといけないというルールはありませんでしたよね?」

 タイミングを見計らったかのように自室の扉がノックされた。

 

「今、部屋に入っても問題ないですか?」

 


 

「沖矢さんでしたよね? デイヴィスさんって普段はどんな感じですか?」

 

 梓さんは焼きプリンと紅茶が乗ったトレイを受け取るとベッドに腰を掛けた沖矢さんに突拍子もない質問をした。

「大変愉快ですよ」

 ……どういう意味だ……愉快、ユニーク、諜報員として悪い意味で突出している……初対面の時から記憶喪失の演技がわざとらしくて笑えた。

「そうだ! デイヴィスさんのお友達なら見せてもいいですよね?」

 そう言うと梓さんはスマホを取り出して沖矢さんに渡した。

「な、な、何を……何を見せるんです!?」

 慌ててスマホを覗き込むと予約投稿されている『あむあず過激派ラブロマンス小説』が表示されていた。

「ほう……」

 沖矢さんは興味深げに画面をスクロールしている。

「やめてくださいよ……」

 泣きそうになりながらスマホを奪い取るわけにもいかず行き場のない手が宙を掻いた。

「デイヴィスさんのラブロマンス小説、少女漫画チックですよね! 焦れったい恋心みたいなシチュエーションが多いですし!!」

 それはインスピレーション元が職場の人間なのに生々しい表現とか出来ないし、確実に名誉毀損でしょっ引かれるし、そんなものを聞かせてしまったら梓さんはショックで寝込むだろう。

「……これ、限定公開にして私にもURLを教えていただけませんか?」

 な……何を……そうか、FBIとして薬剤投与の影響下の文章作成能力、思考力を確かめ……心理的に分析して自分が抱えている計画を暴露するつもりなのか……。

「はい! いいですよ。安室さんと世良さん、蘭さんに園子さん……後は灰原さんにも共有してますから!!」

 それ、ほぼ女性陣は全員じゃないか……。

 確かに自分が撒いた種で自分から他者に語ったものであって表現はしてしまっている、覆水盆に返らずで吐いた唾は呑み込めないし、インスピレーション元の方に権利主張をし辛いが……。

「本当に勘弁してください……」

 項垂れると肩に手が置かれた。

「デイヴィスさん、私はいいと思います。想いの発露の仕方は人それぞれですから。ただし、一言アドバイスをすると男性視点が足りないので、そこを増やすといいと思いますよ」

 もう沖矢さんが冗談で軽口を言っているのか敵対して挑発しているのか分からない……。

 

「私は……安室さんといる時に語られると気不味いので……それさえなければ小説語りをしてもらって構いません!!」

 


 

「食事、美味しかったです。デイヴィスさん、料理が苦手なのかなって思ってたんですけど、多分ポアロのキッチンでは緊張してしまうんですね」

 

 結局、ランチを沖矢さんと自分が手分けして梓さんに振る舞い、沖矢さんが選んだ映画を観て解散の運びになった。

「ニャロメのぬいぐるみ……気に入ってもらえて良かったです」

 梓さんはニャロメのぬいぐるみを抱えながら助手席で微笑んでいる。

「気に入ってはいますけど……ぬいぐるみを持ち運ぶの、結構恥ずかしかったんですからね。……私が直接会いに行っても絶対に出てきてくれないと思ったから……」

 それは懸念通りで、あの場で梓さんがドアスコープに現れていたら居留守を使っていただろう。

「はい……すみません……わざわざありがとうございました」

 頭を軽く下げると左腕にぬいぐるみの手が置かれた。

「……明日からちゃんと出勤してくださいね」

 ……梓さんの一挙手一投足、些細な言葉ですら胸に使えて目が離せなくなる。

「運転中なので……。……はい。出勤します」

 その言葉に安心したのか、梓さんは背もたれに身を委ねた。

「良かったぁ……デイヴィスさんが辞めちゃったら……私……」

 自分が辞めたら……人手が足りなくなる。

「そろそろ……自分以外の人員を入れたほうが……僕は近々離職するので」

 ……返事がない。

 バックミラーを覗き込むと梓さんはスウスウと寝息を立てて居眠りをしてしまっていた。

 無防備だな……自分が悪党であったなら……。

 ……いずれにせよ、何も出来るはずがない。

 彼女に勝てるわけなどないのだから。

 

「梓さん、大好きです……。僕は貴方を愛しています」

 

 、、、

 

「ふわぁ……お腹いっぱいで眠くなっちゃいました」

 

 梓さんを起こして部屋の前まで送った。

「寝顔を晒すのは彼氏の前だけにしたほうがいいですよ」

 すると彼女はくわっと眉を上げて腕を引っ張った。

「またラブロマンス小説語りですか!? 私と安室さんはそういう仲じゃないっていってるのに!!」

 唇を尖らせて膨れっ面になる姿が愛しく思え、つい手が触れそうになる。

「……安室さんだとは言っていません」

 梓さんはハッとした顔になると口元を緩めた。

「相変わらずデイヴィスさんは意地悪ですね」

 自分も自然と口元が緩んでしまうのを必死で堪えた。

 

「はい。僕は意地悪なので……それでは、また明日」

 

 






 あとがき


 幸せそう

なかみについて(期間限定アンケ)

  • ややこしい(かため)
  • 分かり易い(やわらか)
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