探偵士、少年探偵団と出会う。   作:ummt

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第三十八話 探偵士、買い物に付き添う。

 

「はぁ……。何やってんだろ……」

 

 工藤邸の自室に一人戻って、ドリームキャッチャーのタッセルに鉛筆をグリグリと刺した。

 六つある吊り下がったタッセルのうち、十字杭の代わりが無いのは残り三つ。

 パワーのコカレロ、テクニックのアブサン、そして……。

 ……タクシーの車内で会話したシャルトルーズは、自分が見知っているプライドが高く高慢で横暴な元アクション俳優特有の圧は鳴りを潜め、冷静に場を俯瞰できる一人の青年に見えた。

「正座を作らないと……7……」

 7つの点を結ぶには、1つ……足りない。

 "リストにある者を消して星にする"

 はい。RAM。

 足りないのなら……署名者を入れればいいか。

 ……そうだ、何を卑屈になっているんだ。

 リストは既に完全である。

 ベッドから身を起こしてヤマカガシの近松とサシバの林太郎に死んだラットをそれぞれ与えた。

「近松は元の飼い主の阿留に引き渡して、林太郎は野鳥を守る会の日位さんに預ければいいか……」

 ラットか……群衆、制御不能、自然災害、不吉、被実験体、煽動、噂話、増殖、代替が効くといったメタファーになるな。

 トレイに乗ったラットを二匹の口に運ぶたび、心が静まり返った。

 食物連鎖の頂点が足を挫けば、いとも容易く人の手に落ちて、人が居なければ餌を得られず駆除か保護の二択になる。

 負傷を抱えればラットと同じ最底辺に堕ちてしまう。

「天積氣耳亡處亡氣若屈伸呼吸終日在天中行止奈何憂崩墜乎。……だよな」

 ベッドの上に置いたガラケー改は何度も振動と発光を繰り返している。

 ……今は着信履歴やらメールボックスを開きたくはないな。

 餌やりとフンの始末を終えると洗面所に向かった。

 鏡には僕が映っている。

「一日一日を大切に……」

 ふと目を上げると鏡の上に付箋が貼ってあった。

 

 INYL

 NSOD

 THUB

 HISE

 ENHO

 SEOU

 U.UT

 

 縦列転置暗号……また鍵はSTARか。

「沖矢さんは本当に……抜け目の無い人だな……」

 付箋を剥がして、ガラケー改の背面に貼った。

「そうだ……整理ついでに共有部分を掃除するか」

 善は急げとエプロンを取り出してリビングルームの掃き掃除を始めた。

 いくつか小型監視カメラと盗聴器、サーモセンサーを見かけたが、FBIの範疇だ。

 見なかったことにして、沖矢さんが帰ってくる頃には綺麗さっぱりと整頓された清潔な部屋を提供出来るだろう。

 

「頑張るニャロメ……」

 


 

「デイヴィスさん居ますかー!!」

 

 朝、起きると午前8時を過ぎていた。

 ……今迄、寝過ぎる事など無かったのに。

「はい!! 今行きます!!」

 急いで歯を磨き洗面を終え、身支度を整えて玄関先に走ると千葉刑事と見知らぬ女性が立っていた。

 ……え、昨晩の目暮警部の慰めは偽りで……おはよう逮捕する為に油断をさせていたということか? 

「は、初めまして……交通課の三池です」

 交通課……まさか軽トラの車検切れ? 

 バックライトが切れている? 

 エンジンオイルが漏れたのか? 

「初めまして……デイヴィス阿笠と申します」

 まさか、ナンバープレートが撮影され『犯罪の可能性あり』と密告された? 

「いやぁ、すみません。目暮警部からデイヴィスさんを引っ張り出してこいって……」

 千葉刑事が頭を書くと三池さんが腹をどついた。

「違うでしょ千葉くん!! 遊びに誘いに来たんでしょう!!」

 あ……そういう……。

「遊びですか……えっと、何処に?」

 苦笑いを浮かべると三池さんはスマホを高らかに見せつけた。

 

「家電量販店にです!!」

 

 、、、

 

「家電量販店に来ましたけども……」

 

 千葉刑事と三池さんはアベックらしく、車内の運転席と助手席から幸せ気分が漏れ出していて、正直苦痛だった。

「ここで一番いいコスパが良いパソコンを買いたいんです!!」

 ……そうなんだ。

「デイヴィスさんってパソコンの大先生らしいじゃないですか! だから選んでもらおうかと!」

 ……米花町で薬剤を服用して気絶し、新しい探偵士デイヴィスとして、『キャット・ザ・リパー』の主人公キャラクターとして古い時代の意識とし、目にした最新家電に驚いていた自分が馬鹿みたいじゃないか。

「蔑称……あ、いえ。パソコンはどのような用途で使用するご予定ですか?」

 パソコンコーナーに向かうが、まあパーツから組み立てるとなると後々の修理や維持が難しくなるから既製品がいいか……。

「用途? パソコンとして使います!」

 三池さんの曇りなき眼を目にして久々にズルッとズッコケてしまった。

「えーっと、ゲームをするとかコーディングするとか、製図するとかデータベースを構築するとか、絵を描くとか曲を作るとかあるじゃないですか」

 二人は顔を見合わせてヒソヒソ話を始めた。

「パソコンはパソコンだよね? 千葉くん」

「苗子ちゃん。資料を作るのに資料作成ソフトは必要だよ」

 まさか警察署内で使うパソコンを吟味しに来ているわけではないよな……。

 

「あの、パソコンは三池さんのプライベート用ですよね?」

 


 

「はい!! 捜査資料を作ったりプレゼン資料には署内の配給されたものを使いますから!!」

 

 ビックリした、自宅で機密情報を扱うのかと思った。

「年賀状やメッセージカードを作る予定はありますか?」

 基本的にネット回線があれば良く、OSは無難にWin……パーティションを組む必要は無いから念の為ストレージをSSDとHDD1TBとRAMを32GB、グラフィックボードをつけて……。

「この35万円のタワー型デスクトップパソコンにしましょう」

 すると二人から同時にツッコミが入った。

「「ノートパソコンでいいんです!!」」

 息がぴったりだな……早く言ってほしかった。

「なら21万円のノートパソコン……」

「「高いですって!!」」

 ……高くないよ、パソコンを買うには必要な出費だよ。

 口を尖らせながら、仕方が無くビジネス用で余計なソフトやアプリが入っていないプレーンなノートパソコンを勧めた。

「14万円かあ……よーし、買います!!」

 三池さんがガッツポーズをすると千葉刑事もガッツポーズをして此方を見た。

「ありがとうございましたデイヴィスさん!!」

 あまり役に立っていないような気もするが、頭を下げてその場を立ち去ろうとすると千葉刑事に腕を掴まれた。

「トイレは反対側ですよ。次は苗子ちゃんの家でパソコンが使えるようにしてくれますか?」

 ……恋人の家に不審者……隠れ公安が訪ねるのは問題無いのか? 

「か、回線が繋がっていればWiFiを設定すれば終わりますから……」

 腕を掴む千葉刑事の手を振りほどこうとしても、穏やかな笑顔とは裏腹にがっちりと強い力がかかっており、軽く払った程度ではびくともしない。

「初期設定をしてください」

 初期設定……説明書を……読んでくれ……。

「はい……初期設定ですね」

 ただ頷いて三池さんが会計を済ませて保証書や取扱説明書を受け取るのを待った。

 店員の話をコクコク聞いていた三池さんはすくっと立つとVサインをした。

 

「買ったパソコンは配送じゃなく店頭受け取りにしました!! 千葉くん!! 車に運んで!!」

 


 

「お、お客様!! その会計は何かの間違いですので、お待ちください!!」

 

 ノートパソコンの段ボール箱を受け取ると、隣のレジから店員の慌てふためく声が聞こえた。

「はあ!? ちゃんと表示されてた通りの22,970円を支払ったろうが!!」

 見ると、客は明らかに値段とは釣り合わない大型サイズのTVモニターを抱えている。

「何かトラブルでもあったんですかね?」

 すると三池さんがコソコソと話始めた。

「あのお客、あの大きいテレビを抱えてレジに運んで会計が表示されたらお金だけピッタリ払って運ぼうとしたんですよ! 何かレジのミスでもあったんじゃないですか?」

 ……うーん、そうだな。

「千葉刑事、三池さんのノートパソコンを運んでいてください。僕は少しだけ事情を伺ってみます」

 怒鳴り声を上げて店外に出ようとする男性客の前に立ちはだかって梱包されている箱をマジマジと見た。

 段ボールに感熱式のバーコードが貼り付けてあるタイプ。

 見るとセンターバー以降の右キャラクターは左から順に横一列で以下の通りになっていた。

 

 |❚❚ ❚❚ |❚❚ ❚❚ |❚❚❚ ❚ |❚ ❚ |❚❚❚ ❚ |

 

 まあ、これは数あるバーコードの一例だが……この場合はこれでいいだろう。

「駄目ですよ、感熱式バーコードに熱線で文字を足したら……これは88,970円のものでしょう」

 客の男は口をあんぐりと開けたので、その隙に右手首を掴んだ。

「熱っつ!! じゃねえ……離せよ!!」

 やっぱりそうか。

「わざわざ小型ヒーターと電熱線を携帯する暇があったら、別の事に使うべきったと思いますよ」

 男はわなわなと震え、左手で殴りかかろうとしてきた所を千葉刑事が腕を掴んで止めた。

「とすると、アナタはバーコードに細工をしてレジに誤った金額を出したんですね?」

 それを聞いた男は唾を撒き散らして絶叫した。

「何でバーコードを弄ったって分かんだよ!!」

 今回に限ってはこうだ。

 元々のバーコードが以下になる。

 

 |❚ ❚ |❚ ❚ |❚❚❚ ❚ |❚ ❚ |❚❚❚ ❚ |

 

 つまり、以下の部分に線をつけ足したんだ。

 |❚ ❚ | 8 ↓

 |❚❚ ❚❚ | 2

 

「それに、線がふにゃふにゃでよくバーコードリーダーで読み込めたな、という感じですし……店員さんにこの型のバーコードをもう一度読み込んで貰えば解決しますよ」

 観念したのか、男はテレビの箱を抱えて泣き崩れた。

 

「クソが!! 俺には運がついていなかったんだ!! 天に見放された!!」

 


 

「初めまして〜! 宮本 由美です!! 三池と同じ交通課!! 宜しく〜!!」

 

 三池さんの自宅前には別の女性が立って待機していた。

 ……目暮警部は警察内部で包囲網を作るつもりなのか。

「初めまして……デイヴィス阿笠です」

 宮本さんの手にはビニール袋がある。

 ……玄地と熊津の殺害に僕が関与したとして、麻酔か鈍器で意識を失わせて拘置所に移動する気か? 

 荒っぽい手段を使わなくても公安以外であっても警察組織からの指示には従うつもりなんだが。

「由美さん!! 来てくれたんですね!!」

 三池さんがはしゃぐと宮本さんの背後に頭がボサボサの眼鏡を掛けた男が駆け寄ってきた。

「由美たーん!! 巻き簾あったよー!!」

 由美たん……? 巻き簾……? 

 弦短巻取があった……つまり……宮本さんはギターを弾く。

 ……は? 

「来てくださったんですか!! 羽田さん!!」

 羽田……。

「遅ーい!! チュウ吉ったら巻き簾探すのにどんだけ時間かかってんのよ!!」

 チュウ吉……羽田 ……羽田チュウ吉……羽田 秀吉か!? 

「だって……都内で本格手な巻き簾を買うなら河童橋道具街に行かないといけないじゃないか……」

 プロ棋士の羽田 秀吉が何故此処に……捜査協力か? 

 

「揃いましたね!! デイヴィスさんにパソコンを設定してもらっている間に私達で手巻き寿司を作ってますから!!」

 

 、、、

 

「終わりました……確認してもらえますか? 回線速度の問題は敷設しているネット回線提供業者に聞いてください」

 

 ……一体何でこの四人は巻き寿司を作っているんだろうか。

「早いですね! ……わー! 資料作成ソフトとインターネット、画面に分かりやすく有る……見やすい! ありがとうございます!」

 デスクトップ画面にショートカット集の説明書き壁紙をペイントで描いたからな……ペイントには無限の可能性がある。

「へえ……備え付けのお絵かきソフトで……大したもんだ」

 羽田さんにしょうもないことで感心されて、頭を掻いた。

 

「はは……金が……コホン、与えられた環境でどう試行錯誤するのが醍醐味と言いますか……ある物で済ます……はは」

 


 

「手巻き寿司パーティの時間よ!! さあ食べて食べて!!」

 

 宮本さんが音頭を取って既に巻かれてある手巻き寿司を食する会が始まった。

 ……お金、いくら位徴収されるのだろうか。

「由美さん、その爪キレイですね……ネイルサロンに行ったんですか?」

 宮本さんの爪を確認すると長爪ではないものの、マーブル模様に薄い金のラインが入っている。

「チュウ吉に貰ったネイルチップ!! いっぱいあるから三池にもあげてもいいわよ!!」

 スマホをスワイプして見せると色鮮やかで華美なネイルチップの写真が映された。

「嬉しい!! 千葉くんはどれがいいと思う?」

 満面の笑みを浮かべる三池さんとは裏腹に羽田さんはガックリと肩を落とした。

「僕が由美たんにって贈ったプレゼントなのにー……」

 確かに自身への贈り物を他者に譲渡するのは道徳的に問題視されるかもしれない。

「はぁ!? チュウ吉だって女装趣味があるタクシーの運転手さんから譲って貰ったって言ってたじゃない!!」

 女装趣味があるタクシー運転手……? 

「な、どうしてわざわざ人から譲って貰ったっと正直に答えたんですか?」

 千葉刑事が引き攣りながら笑うと宮本さんが鼻を鳴らした。

「いきなり女性の日用品に疎いチュウ吉が『日常使いのプレゼント』だって言ってマトモな感性をした柄の『ネイルチップ』を渡すなんて、普通は浮気を疑うでしょ!? だから問い詰めてやったのよ!!」

 まあ、突然プレゼントで女性が好むプレゼントを渡したら疑われるのもさもありなん……。

「はぁ……今度からは由美たんが喜びそうなものは自分で考えて渡すよ……」

 それよりも何が欲しいか聞いたほうが……。

「やっぱりプレゼントは選んでくれた人が何を思って贈ってくれたかが大切ですから!」

 三池さんの言う通り……そういうものか。

「あ、そうそう。デイヴィスさんでしたよね? このメモを読んでみてください」

 そう言って羽田さんから渡された紙にはこう書かれていた。

 

 ■❚❚❚❚

 □□■❚

 □□■❚

 ❚    

 □■❚❚❚ 

 ❚    

 

 ……9、26、26、1、18、1……。

 

「……羽田さんもこのリキュールがお好きなんですね。仲良くなれそうで……安心しました」

 

 






 あとがき


 最後の暗号化方式、多分概念は既存であると思う
 (しかしみつからない)
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