探偵士、少年探偵団と出会う。   作:ummt

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第六話 探偵士、出頭する。

 

「なんだこのケーキ、あんまり甘くねえぞ」

 

 元太くんが7等分に切り分けられたケーキを口にして眉を下げた。

「もう! 元太くんったら! お兄さんが生クリーム苦手だからバターケーキにするっていったでしょ!」

 ケーキのイチゴをパクリと食べながら歩美ちゃんが続けた。

「生クリームが食べられないなんて、デイヴィスさんは人生損してますね!」

 光彦くんもフォークを手にしながら力説を始めた。

「お前ら、言い過ぎだぞ! ほら、食べなよ探偵士さん」

 コナンくんに取り皿に乗ったケーキを渡され、一口食べた。

「美味しい……美味しいよ……」

 シェリーがあんな些細なやり取りを覚えていたなんて……。

「泣くのか食べるのかどっちかにしなさいよ」

 哀ちゃんに諭され、黙って食した。

「えへへ、探偵士のお兄さんでもお祝いされると泣いちゃうんだね」

 子供たちの笑顔が向けられて、頭を掻いた。

「兄ちゃんは少年探偵団の見習いだからな! 正式なメンバーになるにはいっぱい経験を詰むしかないんだぞ!」

 元太くんが胸を張って人さし指を立てた。

「そうですよ!! 探偵士だとしても少年探偵団では見習いなんです!! ボク達と事件解決していけば自ずと成れますから!!」

 光彦くんが自慢げに語るとコナンくんと哀ちゃんが諦念の溜息を漏らした。

「うん……。頑張るね」

 バターケーキ特有の懐かしいコクを味わいながら、刹那の多幸感をも味わい尽くした。

 

「デイヴィス君、ちょっといいかな?」

 

 、、、

 

「これがワシのラボ……作業部屋じゃ」

 

 阿笠博士に案内された部屋には細かな部品が大量に入ったラックと簡素なモニターとタワー、半田ごてに3Dプリンターに測定機類が配置されていた。

「な……僕なんかに見せてしまっていいんですか?」

 他にも旋盤加工や溶接用の部屋もあるのだろうが、ここにある部品を精査すれば技術開発力が推測出来てしまう。

「いいんじゃよ。哀君から事情は聞いておる」

 まさか、シェリーは正体を明かしたのか? 

 ……どこまで情報を把握されているんだ。

「パーツがこんなに……このクラリファイヤ回路……これなら歪み補正が……あっこれはクラリファイヤ……静澄機があるなら遠心分離機もあるんですね?」

 棚を一つ見ただけでも興奮が収まらない。

 このラボにあるものだけでサイバー攻撃、いや物理的にジャックも可能になるだろう。

「好きなだけラボの機器を使ってもらって構わんよ」

 ……は? 

「それは……どういう意味ですか?」

 自分を試しているのか? 

 

「ちょっと博士! 部品や備品類は自費にさなさい!! 甘やかしてはダメよ。彼は新しい人生を歩み始めたんだから」

 


 

「バイバイみんな。気をつけて帰ってね」

 

 少年探偵団のみんなと別れてコナンくんと帰り道を歩いた。

「ねえ探偵士さん、ボク達は探偵士さんを信じていいのかな」

 二人で並び歩きながら静かにコナンくんに信用を問われた。

「……信じるか信じないか……僕には指定できないよ」

 無言が暫く続いて、喫茶ポアロの前まで来るとコナンくんはクルリと回って自分の右手を握った。

「握手! ……ボクはお兄さんが『スパイ』なんかじゃなくて……正義の『探偵士』だって信じてるから」

 ……そう言われても。

 どうしようもないんだよ。

 

「……うん」

 

 、、、

 

「ただいま帰りました」

 

 沖矢さんから渡された合鍵で玄関の戸を開いた。

 彼の所有していると思わしき車が無かったので、出かけているんだろう。

 これなら工藤家をゆっくりくまなく探索することが出来る。

 靴を脱ぎ揃えて洗面所で手を洗うと鏡に映る自分と目が合った。

 ……僕なら出来る。

 出入りを許可されたのは生活居住エリア以外には図書室だけだが、今なら沖矢さんの部屋に侵入も容易いだろうが……。

 彼が侵入を許すのなら、そこには必ず罠がある。

 ……やはり、リスクが大きすぎるな。

 防犯カメラかスコープか、モニターかセンサーか。

 何かしらアラートを踏んでしまうに違いない。

「お風呂に入って寝まーす」

 風呂桶に湯を張る間に洗濯物を取り込んで、アイロンが無いことに気がついた。

「アイロン……貸してくれるかな」

 次に買い揃えるものを考えながら広い湯船に浸かった。

 きっと彼は帰ってこない。

 朝帰り。

 東都大学の大学院生なら夜遊びくらいする。

 愛した女性を腕に抱いて、女性のベッドで眠るんだ。

 安室さんも、沖矢さんも。

 彼らには人を愛する権利があるから。

「犯罪者には……なりたくないからな……」

 どうして、どうして罪を冒してしまうんだろう。

 

「僕は誰なんだろうな……」

 


 

「す、すみません……。デイヴィスと申しまして……出頭を命じられまして……」

 

 たっぷり睡眠を取って、いの一番に警視庁の受付で馬鹿みたいな名乗りをすると待ち構えていたかのように千葉刑事、高木刑事、佐藤刑事を引き連れて恰幅のいい茶色いコートを着た男性が現れた。

「君が例の『記憶喪失の探偵士』のデイヴィス君かね。場所を変えよう」

 彼らに案内されるまま取調室に着席した。

「アナタの歯型等の医療記録は見当たらなかったわ」

 佐藤刑事が此方を見下げながら結果だけを述べた。

 それはそうだろう。

「だから不審者、危険人物としてマークをする……というお話ですか?」

 顔を上げると高木刑事が鋭い眼光を光らせる。

「仮にそうだとして、本人に宣言しませんよ。警察庁の公安がどう出るかは分かりませんが」

 ……それは公安も関与している仄めかしか? 

 公安関係者だと認識されたのか? 

 ……なぜそのような突拍子もない論理の飛躍になった? 

 公安関係者が近しい所にいるのか? 

「ただ、身元が分からない人間が事件を解決している状況が異常事態なのはご自身でもお分かりのはず」

 千葉刑事も同様に詰め寄った。

「はい……取調室に刑事が4名以上居ることも異常ですよね……」

 すると茶色いコートを着た男性が咳払いをした。

「コホン、すまんすまん。脅しと捉えられても致し方ないな。ワシ……私は捜査一課の目暮。階級は警部です。デイヴィスさんにはお礼を言いたくてな」

 警察手帳を提示され、頭を掻いた。

「あはは、僕なんかに気を使わないでください」

 捜査一課の4名が自分を認識し、観察役となっているのは確実か。

「そう? ならハッキリ言うわね。今月末に表彰式を行うから感謝状を受け取って頂戴」

 佐藤刑事が机に手を付いて顔を近づけてくる。

 表彰式……つまり『メディアに顔出し』をしろ、という話で、断るならば『拒否の理由』を確認される。

 記憶がないから、恥ずかしいから、なんとなく嫌だからは通じないだろう。

 むしろ『記憶喪失なら大衆に顔を晒して情報を募るべき』とされる。

「いいんですね? 僕なんかが……」

 タイミング的にも特に問題はない。

「はい! アナタのおかげで一人の女性が命を取り留めたんですから!!」

 たった一人じゃないか。

 たった一人しか救えていないじゃないか。

 

「……分かりました。詳しい日取りと式次第を後ほど伺いたいと……」

 


 

「デイヴィスさん、事情聴取お疲れ様でした!」

 

 ポアロに出勤すると梓さんの太陽のように朗らかな笑顔に出迎えられて、イカロスの羽根のように溶けてしまいそうになる。

「探偵士くん、こってり絞られたのかな?」

 エプロンを着用しながらテーブル席の方を見ると世良さんが一人でコーヒーを楽しんでいるようだった。

「あれ? お一人ですか?」

 ……やってしまった。

 お客様のプライベートに足を踏み入れてしまった。

「そうだよ? 何か問題でもあるのかい?」

 頭を横に振ると手招きされた。

「すみません……ありません。なんでしょうか」

 突然腕を引かれてヒソヒソ話が始まった。

「探偵士くんに会いに来たんだよ。……ってのは半分冗談で窓際の席の男性を見てくれよ」

 窓際の席に座るスーツ姿の男性に目をやると両肘を立てて手首を曲げていた。

 両手のひらを横に水平に、その後左手を外側に斜めに上げると同時に右手を外側に斜めに下げ、両手のひらを交差させ、その後左手を外側に斜めに上げると同時に右手を外側に斜めに下げ、またその後左手を外側に斜めに上げると右手を握るのを時間を置いて繰り返している。

「はあ……聞いてきますね」

 仕方なく同じ動作を繰り返している男性に声をかけた。

「あのー……先程から『ナゾ』を繰り返されておりますが、何かご用がありましたら」

「見つけた!! 君だよ君!!」

 興奮した男性に思い切り手首を握れた。

 ……どうする? 

「……見つけた……とは?」

「『リアル体験型の推理アドベンチャー』のテストプレイヤーだよ!!」

 ……は? 

「えっと、よく意味が」

「いやー! 毛利探偵にはオファーを断られてしまってね!! もしかしたら探偵の近くには探偵ファンが居るんじゃないかと張っていたわけさ!!」

 話についていけていないんだが。

「すみません」

「これが『テストプレイヤーの専用チケット』ね!! 3枚あげちゃう!!」

 そう言って男性にチケットをポンと手渡され、慌てて返そうとすると男性は置き逃げのようにサッサと会計を済ませて出ていってしまった。

「お客様から金品の授受は受けかねます……」

 肩を落とすと、世良さんがチケットを確認し始めた。

「へぇ……リアル体験型のアミューズメントパークか……」

 そうか、世良さんにけしかけられたのだから彼女に渡せばいいな。

「ちょうど3枚なのでお譲りしますよ。園子さんと蘭さんと行かれてはどうですか?」

 グイッと腕を強く引かれた。

「あのさぁ、探偵士くんは気が利かないなあ。ボクを誘いなよ!」

 はあ? 

 犯罪者に仕立て上げる気か? 

「出来ませんよ。未成年とふたりきりなど」

 チケットを渡してキッチンに向かうと梓さんから噛みつかれた。

「デイヴィスさん!! 失礼にも程がありますよ!!」

 いけない、このままでは情けない理由で拘置所に入ることになる。

「なら梓さんも来てください。それならセーフでは? それ以外なら行きませんよ」

 女性陣は呆れた声をだした。

 

「「三人で行きます!!」」

 


 

「まったくもう……デイヴィスさんは真面目というか頑固というか」

 

 世良さんが退店した後、マニュアルを読んでいると隣に梓さんが立ち、溜息をついた。

「世間は想像以上に厳しいですからね」

 マニュアルを覚えることも同様で、想像以上に難しい。 

 パンにレタスを乗せて、ハムにマスタードを少量を均等に……

「探偵士さんいますかー?」

 顔を上げると歩美ちゃんと元太くん、光彦くんが元気いっぱいに入店していた。

「いらっしゃいませ。お好きな席をどうぞ」

 三人は窓際の席に座って此方を満面の笑みで眺めた。

「ちゃんと働いているみたいですね! 彼はどうですか梓さん!!」

 光彦くんが腕を組んで鼻息を荒くした。

「デイヴィスさん、まだまだかなー。バッジがついてるうちは半人前!」

 元太くんがエプロンに付けられた若葉マークを指差して叫んだ。

「初心者マークだろ!? 少年探偵団も見習いだからな!!」

 二つの所属先で半人前扱いか。

「あ! お兄さんの目の色と一緒の黄色と緑色だ! 歩美はこのバッジ似合っていて好きだよ!!」

 ……言葉が出ない。

「ありがとう……。季節限定パフェはいかがかな? 僕の奢りだよ」

 チラリと梓さんの方を見るとオーケーサインが出たのでホッと胸を撫で下ろした。

「あ、食べますけどボクたちで払います。デイヴィスさんが金欠なの知ってますから!」

 流石にズッコケてしまった。

 子供たちに施しを受ける立場になってどうする。

 

「その代わり、兄ちゃん今日も阿笠博士の家に来いよ!! みんなで仮面ヤイバーごっこをするんだぜ!!」

 


 

『仮面……ヤイバー!!』

 

 阿笠博士の家で子供たちに布教されるカタチで特撮ヒーローものの番組の録画を観ることになった。

 子供向けにしてはVFXではなく本物の火薬や煙が多く使われており、スタントも優秀で動きを魅せている。

「悪の組織ジョッカーをやっつけろ!!」

 悪の組織相手にたった一人で立ち向かうなんて到底不可能な話で……。

「デイヴィスさんが仮面ヤイバー役になっていいですよ! ボク達がジョッカー役をやってあげます!!」

 ゴッコ遊びで気を使われてしまうと結構凹むな。

「分かった。……仮面……ヤイバー!!」

 腕の角度、足首を使った重心を傾ける姿勢、爪先まで伸ばした脚。

「お兄さんすごーい!! 本物の仮面ヤイバーみたい!!」

 一度見た動きは再現できないとこの職には……

「……す、すごいな兄ちゃん!? もしかして仮面ヤイバーの大ファンだったんじゃねえか!?」

 半分当たっているかもしれないな、僕はずっとヒーローに……

「ヤイバーキックもやってみてください!!」

 求めに応じてアクションをしていると廊下から手を叩く音が聞こえた。

「もうそれくらいにしておきなさい」

 哀ちゃんの鶴の一声によって仮面ヤイバーごっこは一段落した。

「そうだ、ここにプレステある? 面白いゲームを持ってるんだ」

 ビデオデッキの下にあったプレステに円盤をセッティングすると懐かしいオープニングが始まった。

「面白いゲーム?」

 三人は『キャット・ザ・リパー』のロゴを見るとケラケラと笑った。

「アハハ!! グラフィックが古すぎますよ!!」

 それは今だから言えること。

 今も未来からしたら古いんだから。

「なんだこれ……よくわかんねえけど、何をするゲームなんだ?」

『なにをするか』って、案外哲学的な質問かもしれない。

 ゲームを楽しむ、時間を潰す、RTAをする、粗を見つける、亡くなった声優さんの声を懐かしむ、作製された時代背景を考える。

「これはね『記憶喪失の探偵士に成りきって事件を追っていくゲーム』だよ」

 すると細い指がキャンセルボタンを押してゲームを中断させて円盤をパッケージに戻した。

「これがあなたの言っていたゲームなのね」

 隣を見ると哀ちゃんが寂しげな顔をしてゲームを握りしめ、深い溜息をついた。

「うん……これ、君にあげるよ」

 三人は顔を見合わせたが、特に異議は上がらずに『キャット・ザ・リパー』はシェリーの手に渡った。

 

「……大切にするわ」

 


 

「すっかり暗くなったな……」

 

 少年探偵団と別れ、世良さんと交戦した公園でギルテスターに火をつけた。

 ……三本目。

 "……貴方が責任を感じることはないの……"

 僕が責任を感じなければ、一体誰が罪を背負うのか。

 ベルモットが敢えて十字架を背負わせたのは理解している。

 それでも僕は挑発に乗らなければならない。

 僕が失敗してしまったら、次はキュラソーだ。

 僕は誰か分からない。

 僕は自分自身が分からない。

 まだ記憶は喪失したままでいる。

 僕は誰なんだろうな。

 

「これでいい」

 

 、、、

 

「ただいま帰りました! あ」

 

 玄関の戸を開けると沖矢さんが立っていた。

「おかえりなさい」

 ……どう返せばいい? 

「あの……今晩は夕食を……ご一緒できますかね?」

 頭を掻くと「はい」とだけ返された。

 靴を脱ぎ揃えて手を洗って鏡を見た。

 これが今の僕だ。

 ふと、鏡に不自然な水垢による濁りがある事に気付いて手で拭き取る前にシャワーの湯で湯気を作るとメッセージが表れた。

『0x2A FOEN ZOIB』

 ……必要ない。

 水で水垢を洗い流してダイニングルームに戻った。

 

「わぁ……豪華な食事で素晴らしい……If a body catch a body coming through the rye.……きっとホールデンもこのような食事を共にできる相手を……探していていたのかもしれませんね」

 

 






 あとがき



【挿絵表示】

これは使ったヴィジュネル暗号改。
ってわかるかーい。改だけに。

鍵はSTAR

読み方
今回は左の行を鍵とする
鍵AB、平文CDならCWになる
上のひらがなと英数字は複雑化したいときに使用する
ひらがなは"CはWに"英数字ならCbW1となる
同じ表を持っている前提です
遊んでみてください

なかみについて(期間限定アンケ)

  • ややこしい(かため)
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