探偵士、少年探偵団と出会う。   作:ummt

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エピローグ
第四十九話 星に対する観測結果


 

『降谷さん、デイヴィスが東都パークに向かいました』 

 

 風見の報告通りなら、ニルズ監督……ファイグリングに接触を図るのだろう。

 ファイグリングはあの方のお気に入りの映画監督であり、映像業界に多大なコネクションを持っている。

 彼はファイグリングが撮影した『ギルテセブン』のスタントマンであり、星雲センターでは主演俳優であったシャルトルーズと銃撃戦になった。

 ただし、ファイグリングとイザラは僕が知る限り組織内で接点は無かった。

 となれば、一時期噂になった『スタントマンがダブル主演になる』という話と火薬爆発事故によりそれが叶わなくなった事を理由にした個人的な逆恨み……。

 今ファイグリングを暗殺されればあの方の情報網が切れる事に他ならない。

 

「臨場する。風見は引き続き待機しろ」

 

 、、、

 

「ああ、そうだ。前に名乗らなかったか? 組織のイザラだと……まんまと騙されてくれて助かった」

 

 コナン君に導かれるまま現場に赴くと、イザラが子供達に襲いかかろうとしていた。

「そこまでだ!! デイヴィス……いや、イザラ!!」

 拳銃を構えると、彼の背後にシャルトルーズの姿があった。

 星雲センターで死体が見つかっていなかった事から、生存の可能性は念頭にあったが、まさか五体満足で生きながらえているとは。

「油断してはいけない。彼はトリプルフェイスの皮を被った化け物だ」

 彼は一見すれば手負いに見えるが、今迄散々演技で我々を欺いてきた男。

 少しの油断が命取りになる。

 銃口が此方に向けられた時、迷わず心臓を撃ち抜くと別の方向からも心臓が撃ち抜かれた。

「イザラ!! お前を殺人の現行犯として拘束する!!」

 本来なら即死、絶命していただろう。

「……た……ん……て……い……」

 最後の最後で口元が何かを呟いたのが見えた。

 悪党の死に際の泣き言に付き合う義理はない。

「コナン君!! 子供達を避難させるんだ!!」

 迷わずシャルトルーズが子供達を抱えて非常口に向かったのを見て確信した。

 本当の公安警察官に相応しい人材は彼ではなく、シャルトルーズの方だった。

「シャルトルーズ!! 救急隊員に引き継ぎを頼め!!」

 声を掛けると「言われなくてもするっつうの!!」と軽口が聴こえて胸をなで下ろした。

 

「……ようやくお眼鏡に叶う人材と巡り会えたな」

 


 

『映画ロケ現場で死傷事故が発生、死傷者……』

 

 翌朝、喫茶ポアロに出勤するなり梓さんが従業員通用口の前で呆然とスマホに目を落としたまま固まっていた。

「あ、安室さん……これ、違いますよね? デイヴィスさんじゃないですよね?」

 震える手首には彼とお揃いでつけていた筈のミサンガが嵌められていなかった。

「……仕込みを始めましょう」

 彼女の肩を抱き寄せてスタッフルームまでの短い距離を歩いた。

「違う……デイヴィスさんじゃない……デイヴィスさんは……」

 顔を真っ青にして小刻みに震える彼女を横目に自分のロッカーを開くと内側に星型の付箋が貼ってあった。

 

 !minor arcana(eiπ + 1 = )

 

 ……最低最悪な仕込みをしてくれたものだ。

 メモを握り潰してポケットにしまった。

 いずれ彼が亡くなったことは露見してしまうのだから、今のうちに伝えてしまおう。

 彼女の傷が深くなる前に。

「彼は亡くなりました。『ギルテセブン』の大ファンだと言ってましたからね……。監督にストーカー行為をして、挙句殺害を」

「デイヴィスさんがそんなこと……するわけ無いじゃないですか!!」

 梓さんは目に涙を溜めながらポロポロと雫を零した。

「……梓さん、人間には二面性があります。アナタは彼に騙されていたんです」

 肩を引き寄せて背中を撫でた。

「違います……デイヴィスさんは……」

 涙が止め処なく流れるのを止めるため、唇を塞いだ。

「……梓さんは僕が守ります」

 キョトンとした顔をした彼女が愛らしくて、そのままスタッフルームのソファに押し倒した。

「安室さん……私……私はデイヴィスさんと」

 彼とは肉体的に結ばれる事はなかったのだろう。

 人を愛する事がウィークポイントになるとして最後まで意気地なく愛せない言い訳を述べ連ねていたのだから。

 ミサンガを外したのがそれを物語っている。

 

「分かっています。……アナタの悲しみを上書きしましょう。彼の事は忘れてしまって……梓さん」

 

 、、、

 

「安室さんっ……安室さん……」

 

 彼女をなし崩し的に抱き、涙を流す姿を愛おしく感じれば感じるほどに胸に靄が湧いた。

 

 !minor arcana(eiπ + 1 = )

 

「梓さん……」

 あのメモは『!minor』つまりNOT、論理否定……逆になる。

 タロットの『major arcana』を示し、『eiπ + 1 = 』は『0』を表す。

 彼が『ゼロ』つまり『降谷 零』を把握していたというマウントであったと同時に、タロットのメジャーアルカナのゼロは『愚者』である。

 ……僕が彼の死後、彼女を抱くことを予期していたのではないか? 

「独りにしないで……」

 そうだとしたら八つ当たりも大概にして欲しい。

 愛した女を抱けなかった、守り抜く覚悟が無かった小心者に僻まれる筋合いは無い。

 

「……僕がついています。安心してください、梓さん」

 


 

「では、家宅捜索をさせて頂く」

 

 風見と共に工藤邸に住まいを借りていた彼の部屋を訪れた。

 ……立会人として沖矢 昴と『彼から渡されたものがある』として世良 真純も立ち会った。

「対象者を星にするたびタッセルに鉛筆を立てるドリームキャッチャーか……壁に傷をつけないようにコルクボードを何重にも敷いてるの、探偵士くんらしいな」

 賃貸物件なんだから当たり前だろうに。

「このフィギュアは仮面ヤイバーか? 敬礼をしている」

 風見がタンスの上にあるフィギュアを掴もうとするとストップが掛かった。

「待ってください。このフィギュアはある一点を向いている」

 沖矢 昴が指を指すと星のモビールが導線上にあった。

「子供じみた部屋だ……くだらない」

 吐き捨てると世良 真純が手を叩いた。

「そうか!! 天井の蓄光シールが鍵だったのか!! 通りで銅板だけじゃ分からないはずだよ!!」

 彼女はランタンに巻かれた銅板を広げ、天井を写真に撮って並べた。

「ほう、重なるポイントを抽出すればツクバ付近の基地局の場所になる。星のモビールがある位置がキーポイントではないかな?」

 沖矢 昴がスマホから地図を表示して見せた。

「そこだ!! そこに探偵士くんが言っていた『慰霊のための供養塔』がある!!」

 慰霊のための供養塔……? 

「すまないが、私にも場所を共有してもらえないだろうか」

 風見が尋ねると二つ返事が返された。

「風見!! 職務中のはずでは?」

 するとバツが悪そうにタンスの中を漁り始めた。

「しかし、涅槃図とは……デイヴィスさんは相当思い詰めていたようだ」

「それは博物館の土産に僕が贈ったものですが?」

 梓さんと二人で博物館に出掛けた時、何を送るべきか悩んだ末に梓さんは図録、僕は涅槃図の複写掛け軸を選んだだけのこと。

 

「……そうでしたか。ずいぶんと……」

 


 

「掛け軸の裏にメモが貼ってあります!!」

 

 風見が星型の付箋を剥がして皆の前に掲げた。

 

 指でなぞったり、捲ったり、触れたりして

 相手の意図を汲んで高揚感を抱いたり

 思いを募らせたり情念や感情を揺さぶられる

 こたえ ◯◯◯◯

 

 ……あまりの下品さ、下劣さに目眩がした。

 そこまでして僕に当てつけをしたかったのか。

 確かに彼の意図する通り彼女と肉体関係を持った。

 だが、僕は彼とは違い必ず責任を取る。

 愛した女を抱けない悔しさを生者にぶつけるな。

「……ブックスだね」

 ……はあ? 

「確かデイヴィスは玉木古書店という書店と繋がりがありました。確認に行きましょう」

 ブックスなわけがないだろう、どう考えても肉体関係を意味する単語を示している。

 

「ご一緒してよろしいですか? デイヴィスさんの遺したものに興味がある」

 

 、、、

 

「はい。彼を訪ねてこられたら、その方に渡すように言われていた購入リストです」

 

 玉木古書店の店長が渡したレシートには暗号関連の書籍が並び、メモには出鱈目な文字列が並んでいた。

「……こんなもの」

「書籍暗号にしても鍵になる本が無いな……」

 ……ふざけるな。

「梓さんに聞いてみよう!! ……あ、もしもし梓さん? 落ち着いた? 今大丈夫かい? 聞きたい事があるんだけど……」

 世良 真純が聞き出したタイトルは『13人目の探偵士』で、メモの通りに書籍タイトルを紐付けていくと『テロメアリス』の予備薬から解析した成分情報がアップロードされたパンくずリストの無い断片的なURL群だった。

「デイヴィスさんは最後まで一貫して変わらない。……穏やかな青年が悪の仮面をつけただけでしたね。惜しい人を亡くした……」

 沖矢 昴の悟りきったような言い方に腸が煮えくり返ったが、握り締めた拳を振り上げる事が出来ない。

「デイヴィスは私の誇りですから。同僚として彼の真実が共有出来て嬉しく思います」

 風見……お前……。

「探偵士くんのことは絶対に忘れてやらないんだ!! ボクにとっても特別な人だからさ……」

 胃酸が逆流しそうだ。

 彼は明確に悪意を持って二つのメモを残している。

 ……僕にだけ、真意が伝わるように。

 愚者メモの存在を明かしてしまえば『何故愚者とするのか?』を問われ『梓さんを抱いたからだ』という結論を述べる他無く、ブックスメモに噛みつけば『なぜ肉体関係だとする?』の根拠を述べなければならない。

 

「……そうですか」

 


 


 

「彼女、妊娠したらしいじゃないか」

 

 時期的に、梓さんを初めて抱いたあの事件の翌日の情事による妊娠。

「……だったらなんだ赤井 秀一」

 あの後、彼女にはメンタルケアとヒアリング、及びカウンセリングを行った。

 まず彼に関することを問うた。

 交際した事実は無かったことから、肉体関係も無かっただろう。

 ただ前日に会った時にミサンガが同時に切れたのが不吉だと思った、本を受け取った、パンケーキを食べた、チェシャ猫の話、哲学の話をされた。

 それくらいしか引き出せる事実が無かった。

 黒田管理官と風見にその事実を告げると一瞬口籠ったのが気にかかる。

「ミサンガが切れたそうじゃないか……」

 またか、この男もオカルトに傾倒しているとは。

「ああ、ミサンガが同時に切れたのが不吉だと言っていましたね……馬鹿馬鹿しい。LANケーブルを解して作ったものなら日常生活で錆て撚れて簡単に千切れますよ?」

 鼻で嗤うと赤井 秀一の眉間にしわが寄った。

「……二人のミサンガが同時に切れたんだろう?」

 ……はぁ、話しても分からないか。

「ですから……はぁ、銅線は簡単に」

 

「……彼らは激しい男女の交わりがあったのだろう? と言っている」

 

 

【挿絵表示】

 

 






「身重の女を抱えているらしいな」
「……」
「無事に産まれるといいなあ?バーボン」



 あとがき


 ★ < ウィークポイント

デイヴィスって

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