『梓さん、明日一日、僕にくれませんか?』
デイヴィスさんに告白して断られてから、初めてデートに誘われた。
「はい!! いいですよ!!」
彼にいくらアプローチしても暖簾に腕押しで、うんともすんとも言わなかったから、純粋に嬉しかった。
『では、明日10時にポアロの前でお待ちしています』
電話が切れると直ぐに安室さんに電話した。
「安室さん!! ようやくデイヴィスさんからデートに誘われました!!」
デイヴィスさんを好きになってからというもの、安室さんに恋愛相談をしていたから、一番に伝えたかった。
『よかったじゃないですか。押して駄目なら引いてみろですね』
、、、
「デイヴィスさん……」
翌朝、ポアロの前で立っていた男性がデイヴィスさんだと気付くまで時間がかかってしまった。
普段見慣れている作業着姿ではなく、黒いシャツに白いスラックスに革靴を身に着けていて、まるで別人みたいだった。
「梓さん、おはようございます」
ニコッと微笑まれて、ようやくデイヴィスさんだと気が付いた。
「あ、あの……何だか雰囲気違いますね……モデルさんみたい……」
そういえば、デイヴィスさんは外国人のような風貌で、金髪にオッドアイに端正な顔つき、背も高くてスマートな体型だった。
どうして今まで忘れていたんだろう。
「あはは、褒めても何も出ませんよ。……先ずは買い物に付き合ってください。今夜飲みの席に同席して頂きたいので」
飲みの席!?
「え!! どういう集まりですか?」
彼の腕を引くと耳元で囁かれた。
「……これは秘密情報なんですけど……僕、麻薬取締官なので警察との顔合わせなんです」
耳に生温かい息が掛かって顔が赤くなってしまうのが分かって恥ずかしい。
そういえば世良さんや毛利さんが『探偵士はマトリ』って話していたような……。
「あ……はい」
顔を下に向けると、頬を軽く撫でられて顔を彼の瞳に向けさせられる。
「嫌……ですか?」
慌てて顔を横に振った。
「いえ!! い、嫌じゃないです……」
どうして警察との顔合わせで私も同席する必要があるんだろう。
不思議に思って首を傾げると頬を指で撫でられてくすぐったい。
「貴方は居てくれるだけでいいんです。……梓さん」
「うーん、この服はデザインが良いけどお値段がなぁ……」
デイヴィスさんは私が好んで着るブランドの系列店連れて行ってくれたけれど、このブランドショップはその中でもハイブランドの店で、とてもではないけれどおいそれと買える価格帯じゃなかった。
「梓さんが良いなって思う服のハンガー、僕の腕に掛けていってください」
とりあえずお言葉に甘えてハンガーを腕にかけた。
「……う、やっぱり良いデザインはお値段が良い……ごめんなさいデイヴィスさん、別の店に行ってもいいですか?」
顔を見上げるとデイヴィスさんは「はい」とだけ言ってレジに向かっていった。
「ちょ、ちょっと待ってください!! 相当な金額になりますから待って!!」
デイヴィスさんの腰を掴んで止めようとしてもびくともしない。
「カードで。梓さんは次の店を検索しておいてください。宅配便でご自宅まで送る手続きをしてしまいますから」
彼はいつものがま口財布ではなく、見たこともない財布と黒いカードで支払いを済ませてしまった。
「うう……いいのかな」
、、、
「すみません、貴方が榎本 梓さんですか?」
外のベンチでデイヴィスさんを待っていると、デイヴィスさんのように金髪で背の高い男性に声をかけられた。
「え? は、はい。そうですけど……」
コクリと頷くと両手を握られた。
「わぁ、貴方が兄さんのお気に入りなんだ……可愛い人ですね」
兄さん?
「あの、デイヴィスさんのご兄弟ですか?」
ニコニコと笑う男性は表情を変えない。
「はい。僕はヤンと申します。兄さんは」
「ヤン、今直ぐ帰国しないならAFTを吹っ飛ばしてお前のお気に入りを壊す」
声の方を見るとデイヴィスさんが見たこともない表情で立っていた。
「もう!! 兄さんてば、せっかちなんだから……。分かったよ、帰るね。さようなら榎本 梓さん」
弟さんは手を離すとバイバイと手を振って立ち去ってしまった。
「……デイヴィスさん、弟さんがいらしたんですね。良かったんですか? せっかく会いに来られたのに……」
私が居たから兄弟水入らずの場を壊しちゃったのかな……。
「いえ、お気になさらず。ヤンとは二度と会うことは無いでしょうから忘れしまって結構ですよ」
そう言う彼に腰を抱き寄せられた。
二度と会うことは無い?
兄弟なのに……?
「そんな悲しいことを言わないでください!! デイヴィスさんのご家族なんですから……」
抱き寄せられたまま手で腕に縋ると、彼は困ったような顔をした。
「あはは、普通に邪魔なんで……」
「そろそろお腹空いてきませんか?」
デイヴィスさんに靴やバッグ、アクセサリーまで買ってもらってしまい、萎縮していると背中を撫でられニコッと微笑まれた。
こんなにプレゼントをされるってことは……正式なお付き合いをするつもりなんだよね?
まさか『お礼は身体で払ってもらいます』みたいな展開に……な、なってもいい。
「はい! あの……私」
「実は行ってみたかったレストランがありまして、勝手に予約しちゃってます、すみません」
そう言って連れてこられたのはスマホで検索していた『デートで行きたいレストラン』のブックマークリストに入っていた予約が取れないと有名なレストランだった。
「わ、凄い……よく予約取れましたね」
見晴らしのいい窓側のテーブル席に案内されて、メニューを見ている彼は……。
「ああ、たまたまですよ」
……ドキドキするくらい素敵に見えた。
「あの……私、メニューがよく……」
メニュー表は横文字が多くて、分かるんだけどどんなものか想像が付きにくいものだったから困ってしまった。
「今は肉……というより魚料理の気分では?」
……当たってる。
「はい! 魚料理が食べたいです!」
すると彼はウェイターさんに何かを話した後、窓の外を見た。
「今夜は彗星が通るとニュースでやっていましたね」
彗星? そんなニュース、やってたかな。
「そうなんですか? 彗星……流れ星が見られるんですね!」
デイヴィスさんはふぅと溜息をついて空を見上げた。
「……貴方が幸せになれるように三回祈りますよ。……なんてね」
その言い方が何だか物悲しくて、つい手を握ってしまった。
「デイヴィスさんも一緒に幸せになってください!!」
彼の手は、しばらく動かなかった。
「一緒に……?」
そしてゆっくりと探るよう、確かめるように私の指を撫でた。
「はい……私……デイヴィスさんのことが……好きだから……」
改まって再告白すると場の雰囲気も相まって、恥ずかしさで耳まで真っ赤になってしまったのがわかり、余計に身体が熱くなった。
「……梓さんは……本当に太陽のような人ですね。……眩しすぎて直視できない」
「いろは寿司で飲みの席をするんですか?」
夕方になると、ポアロの隣に店を構えている『いろは寿司』に連れてこられた。
「はい。近いですし、皆さんも心置きなく楽しめるかと」
話していると、板前の脇田さんが現れて凄く驚いた顔をした。
「……お! アナタが噂の探偵士さんですね!? お噂はかねがね」
脇田さんが右手を出すと、デイヴィスさんはニコッと笑った。
「はい。貴方が噂の板前探偵の脇田さんですね。……そういえば、知っていますか? 『赤い羊の不気味なゲーム』について。SNSで流行っているらしいですよ」
そういえば『彼氏の勇気と愛情を試すドッキリ』として狂言誘拐とか事故にあったとか嘘をついて本気度を試す悪質なゲームが流行ってた……。
けど、それが何なんだろう。
「……ええ。赤い羊ね。知ってますとも。……こう見えても探偵の端くれですから」
デイヴィスさんは脇田さんの手を取らずに話し続けた。
「赤い羊と言えばREDRUM、映画『シャイニング』のキーワードでしたね」
すると脇田さんは眉間にシワを寄せた。
「ええ、鏡写しでMURDERになる単語」
そうなんだ、知らなかった。
「所謂アナグラムの一種とも言えますね。脇田さん、ONDQQHCHLEAFHUHRTN」
また突然わけの分からない単語を言い始めた。
デイヴィスさんは優しいけど変わってる。
「……へい。承知しました。出前にでも出かけますよ」
話が通じたのか、脇田さんは店主の人に声を掛けて裏口から出ていってしまった。
「デイヴィスさん、なんて言ったんですか?」
腕を引いて尋ねると、唇の前に指を立てられてしまった。
「しーっ……。内緒です」
そうこうしていると、ポアロで何回か顔見知りになった警察の人達が店内に入ってきた。
「ようやく実現したわね。デイヴィスさんとの飲み会」
佐藤刑事が一番に乗り込んできて、続いて高木刑事。口髭を生やした刑事さん? と山村警部、白鳥警部に何故か羽田棋士と風見さんも一緒だった。
目暮警部と千葉刑事はシフトが違うからなのか、居なかった。
「はい。この日を待ち望んでいました」
皆で座席に座ると、特上寿司とビールが運ばれてきた。
「やった!! デイヴィスさんの奢りなんですよね? 追加注文とかオーケーだったりしちゃたりしちゃいます?」
「梓さんすき……だいすき……いっぱいすき……」
デイヴィスさんは乾杯の音頭を取った後、microSDカードと紙を警察の人達に渡した後、直ぐに酔っ払ってしまったみたいだった。
「もう! 酔っ払ってるんですか?」
私が「好き」って告白したら「付き合えない」ってツンと素っ気ない態度をしているくせに……。
「ちゅーしたいです……ちゅー」
デイヴィスさんは抱きついてきて、肩に顔を乗せてキスをせがんでくる。
「私とは付き合えないっていったくせに! キスは付き合わないとダメですからね!」
すると彼は顔を下げて膝に頭を乗せてきた。
「うう……ちゅーしたい……だめですか? ちゅう……」
酔っ払っらうと甘えん坊になっちゃうんだ……。
「……ダメです」
頭を撫でてあげると、デイヴィスさんはニコッと笑って身体を起こした。
「……ちゅ……しちゃいました」
……唇ギリギリ触れないほっぺたにキスされた!?
「きゃあ! デイヴィスさんたら!!」
びっくりして唇を押さえていると白鳥警部が唖然とした顔で尋ねた。
「……デイヴィスさん、素面ですよね? 惚気を見せるためだけにわざわざ呼びつけたんですか?」
……素面? どう見ても酔ってるのに。
「あはは、酒癖が悪すぎるみたいですね」
高木刑事が苦笑いをしながら紙を見て白鳥警部に何か指でメッセージを送ってる?
「デイヴィス……すみません。彼は疲れている。大目に見てやってください」
風見さんが溜息をつくと、デイヴィスさんはまた膝に頭を乗せて私の手を舐め始め……舐めてる!?
「ちょ、ダメです……デイヴィスさん!!」
慌てて手を引っ込めようとしても手首を掴まれて動けない。
「いい加減にしなさい!!」
佐藤刑事が立ち上がってデイヴィスさんの腕を引っ張り上げた。
「……あ?」
一瞬、場が凍ったように感じた。
「あ、ああ……すみません……無礼講だとおもっちゃって……酔っ払っちゃって……すみません……」
デイヴィスさんはふらふらと起き上がって肩に寄りかかった。
「ごめんなさい、梓さん……嫌いにならないで……」
彼は指先で私の腕をつつきながらすり寄った。
「酔っぱらっちゃてるだけみたいですよ〜? あはは、まったく困らせてくれちゃって!!」
山村警部が笑いながら戯けると、羽田棋士と諸伏警部? が顔を見合わせて口を開いた。
「Like the poor cat i' th' adage?」
「The cat would eat fish, and would not wet her feet」
デイヴィスさんはおもむろに起き上がって答えた。
「マクベスですね。でも、なぜ今そのくだりを?」
二人は真っ直ぐに彼をみて言った。
「酔いは覚めたようですね」
「あ、家までタクシーで送ります。……ただし、変に勘違いしないでくださいね」
警察の人達は紙で論議を始めて、私たち二人は先に抜ける事になった。
「もう酔いが冷めちゃったんですか!? あんなにすきすき言ってたのに!! ばか!!」
あそこまで甘えたさんになっていたのに、いつものつっけんどんなデイヴィスさんに戻ってしまったみたい。
「馬鹿という方が馬鹿なんです」
もう我慢できない!
「ばか! 大好き!! 付き合って!!」
突っ立っているデイヴィスさんに抱きついて爪先立ちをして顔を覗き込んだ。
「……貴方も懲りませんね、僕は貴方とは付き合えません。……ほら、帰りますよ」
いつの間にかタクシーが横路に止まっていた。
「デイヴィスさんのばか! 意地悪!!」
、、、
「部屋の中まで送ってください!!」
帰ろうとするデイヴィスさんをどうにか抱きついて引き留める。
「……ダメです。……やらしい雰囲気にするつもりでしょう」
ぐぬぬ、やらしい雰囲気にしたい。
「正解です! ねえ、お願い……お願いだから……」
腕をどうにか引っ張って部屋の中に引きずり込んだ。
「……仕方がないなぁ」
部屋の中に入ると、大尉とボンは珍しく二匹で寝てしまっていた。
「デイヴィスさん大好き……キスして? お願い……」
爪先立ちして頑張って顔を近づけても、全然動いてくれない。
「ダメです……ちゅ」
え……ええ!?
おでこにキスは……キス?
「な、なら……あの、あの……抱いて下さい」
また言っちゃった……。
「……はい、いいですよ」
……え!?
今日、結ばれるの……。
ドキドキしながら顔を見つめると、膝と背中に手を入れられてお姫様抱っこをされた。
「お、お姫様抱っこ!? うぅ……ずるいです……」
花火大会でのお姫様抱っこを思い出して身体が熱くなる。
「はい、抱きました」
こうなるとは思っていたけど……。
「デイヴィスさんのばか……。でも、本当に王子様みたいです……」
デイヴィスさんはピクリと動いて悲しそうな顔をした。
多分、英知さんを火事から助けた時に言った言葉だから……フラッシュバックさせてしまったのかも……。
「貴方に王子様と言われると、心がくすぐったいです」
「そんなに求愛されたら……もう……凄いこと……しますよ?」
唾を飲み込んだ。
凄い……こと?
心臓がバクバクして何も考えれない。
デイヴィスさんはベッドに私を降ろすとおもむろに……。
キッチンに行って強力粉と薄力粉を取り出した。
「深夜の背徳手作りピザ……作りますからね……? キッチンと材料、借りますよ」
……? ピザ!?
「すごい!! デイヴィスさんってピザ作れるんですか!?」
デイヴィスさんは手際よく作業を始めた。
「材料さえあればある程度は。家庭用オーブンだと少し厳しいですが」
そう言って料理人のようにあっという間にピザを焼いてしまった。
「凄い……。好き……結婚して?」
彼のピザはあり合わせなのに絶品だった。
「ダメです。ピザならいつでも作りますから」
どうしてここまでしてくれるのに交際は駄目なの?
「嫌です! 大好き!!」
何回抱きついても、彼は優しく頭を撫でてくれるだけ。
それ以上の関係に踏み込んでくれない。
「ダメです」
ならどうして優しくするの?
デイヴィスさんが玄地さんや熊津さんと交際していたのは知ってる。
女性にモテるのは分かってる。
なのに軽い遊び相手にも選んでくれないの?
安室さんに相談したら『彼はストーカー二人に折れて交際していただけ』っていっていた。
私はストーカーよりも劣るの?
「眠くなっちゃったから……。一緒に寝て下さい……」
今日こそ、一線を越えるんだ……。
「……しましょうか」
二人でベッドに入って、落ち着かないでいるとデイヴィスさんが話し始めた。
「テセウスの船というのは部品を全て変えた船の同一性の話ですが、記憶喪失の人間もある意味でテセウスの船の亜種とも言えますね。細胞がすべて入れ替わり記憶が無いものは同じと言えるのか。多くの人は同一人物と答えるでしょう」
全然何の話かわからない!!
「船の部品を全部変えてしまったら、別の船……? うーん……」
デイヴィスさんは頭を撫でながら髪を手櫛で漉いてくれている。
「船の外観は同じ。そうした場合には内部が変わっているとして……」
「うわーん! また寝かしつけられた!! デイヴィスさんの意地悪!!」
いつの間にか寝かしつけられてしまっていて、デイヴィスさんの姿は無かった。
『鍵はポストに入れました』
いっつも肝心な時に寝ちゃってる。
……でも次こそは。
安室さんが提案してくれた『アリス喫茶』での偵察デートなら公的って感じだし……チャンスはあるはず!!
「分かりました!! またポアロで待ってますから!!」
、、、
「……こんな毎日が、日常になって続けばいいなって思うんです。私……デイヴィスさんとずっと一緒にいたいから……」
アリス喫茶でスワンプマンの話をされた。
やっぱり私はデイヴィスさんを諦めきれない。
「デイヴィスさん……大好き……。私、デイヴィスさんになら……」
デイヴィスさんの背中に抱きついて、顔を埋めた。
すると、初めて手の甲を優しく包まれた。
「……なら、本読みでもしますか」
くるりと向き直ると、深い口付けを交わされた。
……ようやく今日、彼と結ばれるんだ。
「はい……」
、、、
「デイヴィスさんっデイヴィスさんっ……」
私から求めたのに、彼は私が求める以上に応えてくれた。
「梓さん……梓さん……」
彼と結ばれて、初めて大好きな人と愛し合うことの素晴らしさを知った。
「大好き……デイヴィスさん……」
彼に抱かれている間、天にも登る気持ちだった。
「僕も……好きです……」
彼とお揃いのミサンガが擦れ合う度に、好きが溢れた。
「好きなの……デイヴィスさん……」
私は彼となら幸せになれる。
そう思った。
、、、
「彼は亡くなりました」
信じたく無かった。
彼が本当に亡くなったなんて、考えたく無かった。
止め処なく涙が溢れて苦しい。
「……梓さんは僕が守ります」
目の前が真っ暗になり、安室さんにキスされたんだと分かった。
どうして?
あんなに二人の仲を応援してくれていたのに。
「安室さん……私……私はデイヴィスさんと」
肉体関係を持ったのに、私はデイヴィスさんが好きなのに。
「分かっています。……アナタの悲しみを上書きしましょう。彼の事は忘れてしまって……梓さん」
安室さんにソファに押し倒されて、考えることを止めた。
デイヴィスさんと愛し合っていたことを知っていて、彼が亡くなって直ぐに私を抱こうとするのなら……。
流れに身を委ねることにした。
「……はい」
「何か食べたいものはありますか?」
なし崩し的に安室さんと交際関係が始まった。
「いえ……」
デイヴィスさんは言わなくても食べたいものを作ってくれた。
「荷物、持ちましょうか?」
デイヴィスさんなら言わなくても持ってくれた。
「……休憩していきません?」
デイヴィスさんから求めてきたことは無かった。
「……それでは僕は予定があるので失礼します」
デイヴィスさんだったら、腕枕をしながら優しく頭を撫でてくれた。
安室さんと過ごす度にデイヴィスさんの影は実態を帯びていく。
「デイヴィスさんに会いたい……」
、、、
「……梓さん。……デイヴィスさんとは交際していなかったんですよね?」
私が彼の子供を妊娠していると分かったあと、安室さんはまたフラリと何処かに出掛けたと思ったら、突然帰って来て問いただした。
「はい。交際はしていません」
安室さんは安堵の表情をした瞬間に顔を強張らせた。
「……そうですか」
顔面蒼白になり、貧乏揺すりをしながら忙しなく目線を泳がせいてる。
どうして今更そんなことを聞くんだろう。
「次はいつまでそばにいてくれるんですか? また何処かに行っちゃうんですか?」
、、、
「良かった……僕の子供だ……」
安室さんは腕に彼と私の赤ちゃんを抱いて安堵の溜息を漏らした。
彼と同じ金髪、私と同じ瞳の色、彼と私の赤ちゃん。
「あの……手紙が来ていました」
赤ちゃんが生まれて直ぐ、デイヴィスさんの弟さんから手紙が届いていた。
『姉さんへ 兄さんがスタントマン時代に貯蓄していた3,000万ドルを贈与します 子供の養育費に当ててね もちろん遊びに使ってもいいよ 何かあったら連絡してね ヤン・ブルドン』
その手紙を見ると安室さんは顔を引き攣らせて何処かに電話しながら出ていってしまった。
「巫山戯るな!! 彼女を食い物にさせてたまるか!!」
……また赤ちゃんと私の二人ぼっちなってしまった。
溜息をつくと、ベランダから猫の鳴き声が聴こえて慌ててカーテンを開けると、灰色に彼と同じオッドアイの目の色をした猫が私を見ていた。
『もし僕が消えてもチェシャ猫になって此処に居るよと合図しますね。『梓さんは今日もかわいいニャ』って笑います。ニャ』
猫は笑っているように見えて、泣きながらミサンガを握りしめて微笑みかけた。
「ずっとずっと大好きです……デイヴィスさん……」
あとがき
★ < 僕を想って
鍵はizarraのプレイフェア暗号
デイヴィスって
-
善人
-
悪人