探偵士、少年探偵団と出会う。   作:ummt

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第九話 探偵士、新メニューを開発する。

 

「後少しなんだ……。」

 

 阿笠博士の家から逃げるようにして、いつもの公園でギルテスターに火をつけた。

 ……五本目。

"……アナタ、最低ね……"

 何時ぞや、彼女に言われた一言が脳内でリフレインする。

 僕が探偵士として星になれば、それでおしまいだ。

 彼らをアウトサイダーにすればいい。

 僕ならやれる。

 ふと、宇宙を見上げると、わし座の一等星がチカチカと白く光っていた。

「こうして宇宙を見上げられるのも、後わずか。」

 まだ記憶は喪失したままでいる。

 このままでいい。

 エルダー・ブルドンという人間は、もういないのだから。

 

「これでいい。僕はデイヴィス。探偵士だ。」

 

、、、

 

「ただいま帰りました……。」

 

 工藤邸に明かりは付いておらず、無人だった。

 そのまま電気をつけずに廊下を歩いた。

 この奥には図書室があると言っていたが。

「お……広いな……。」

 まるで図書館のように広い半円状の本棚が現れた。

 このエリアなら共用の範囲内だろう。

「本を借りまーす。」

 そう宣言してジャン=クリストフ・グランジェのクリムゾン・リバーを手に取った。

 伏線を回収していくさまは見事だが、伏線を見逃す者にとってには真実がなぜ繋がったのか見えないままだ。

 結局、同じ文章を追っていても視野が違えば同じ景色だとしても別の意味を持つ。

 ……とりあえず、共用エリアを歩くか。

 フラフラと暗い廊下を視点を動かさないようにして歩くが赤外線センサーの外付け機器は外観からは確認出来ない。

 脚がもつれたフリをして壁にドンと手を付くが、壁内に機器が設置されているような反響音は無い。

 そして沖矢さんの部屋の前まで歩いてドアノブを確認するが外観の異常は見られない。

 ここで磁石と少量の機材を使ってセンサーを誤操作させることも出来るが、敵意の証明になってしまうから。

 期は満ちたが、決行日までに工作物を仕掛けておくことは出来るだろう。

「阿笠博士の助手として恥じない成果物を作らないと。」

 少年探偵団に謝らないと、阿笠博士のラボには入れないだろうから。

 ……その前に、僕は少年探偵団の見習いで……。

 見習い以前に人として他人に苛立ちをぶつけたら謝罪しなければならない。

 ……たとえ、赦されなかったとしても。

 

「人を許すより、謝る方がよほど難しいな……。」

 


 

「おはようございます!デイヴィスさん。」

 

 梓さんの小動物のようなベビーシェマに口元が緩くなる。

「おはようございます。デイヴィスさん。」

 その隣には安室さんが立っていた。

 今日は突発休では無いのか。

 ……まだ、忙しなく動く必要はないという事らしい。

「おはようございます。梓さん。安室さん。」

 上半身を下げ、頭を掻きながらエプロンを身に着けた。

「今日はデイヴィスさんにミッションを与えようと思いましてね。」

 安室さんが黒い笑みを浮かべて近づいてきくる。

 ミッション……まさか、梓さんも構成員なのか……?

「新メニューを考えてみてください!!」

 ……新メニュー……火薬の調合、配分の……、ん?

「新メニューですか?」

 唖然として尋ねると二人はコクコクと頷いた。

「今、食糧庫にある食材だけで考えてみてください。」

 新メニュー……。

 安室さんのハムサンドは食パンにレタス、ハム、オリーブオイル、マヨネーズ、米みそ、パセリ、ポテチを使用したもの。

 いつものは食パンにレタス、ハム、マスタード、バジルを使用したもので……。

 え、新メニューって……。

「頑張ってくださいね!!」

 二人に微笑まれて頭を抱えた。

 サンド……イッチ……一致する食材って何だよ。

 マニュアルを見ながらうんうんと唸る。

 料理を殆どしないから何がいいのか……。

 窓の外を見ると店の植木エリアに蔓が張っており、白い花が見えた。

 ……あれだ!

 

「あの、試作品第一号です。ハニーサックルサンドです。」

 食パンの上に蒸したキャベツ、プロセスチーズ、スイカズラを挟んだサンドを二人に渡した。

「ハニーサックル?お花?……キャベツにチーズ、蜜の3つの甘さがありますね。」

 梓さんが口に入れると、何とも言えない顔をした。

「スイカズラは別名金銀花と言われ生薬になりますが、生垣にあるほぼ雑草状態の草はお客様に出せませんよ。提供となると仕入れ先も定めないといけませんし。」

 それもそうだ。

 そうなると定期的に確保でき、既存のメニューと被らないもので……。

 ……これしかない。

 

「試作品第二号です。……ワサビ菜とからし菜のピリ辛たまごサンドです。」

 食パンの上にワサビ菜、出汁を入りたまご、からし菜を挟んだサンドを二人に渡した。

「確かにワサビ菜とからし菜は比較的ではありますが安定して確保できますし出汁炒り玉子で辛味を中和していますから食べやすいですね。」

 安室さんと梓さんはサンドを食べながら首を傾げた。

 

「私はいいと思いますけど、先ずは試食してもらったほうがいいかもしれませんね。デイヴィスさん、頑張りましたね!」

 


 

「試食ですか……有志にお願いするのは気が引けますね。」

 

 肩を落とすと探偵バッチから音声通信が流れた。

『お兄さん!!助けて!!人が死んでるの!!』

 そこは警察に……いや、既に呼んでるか。

 歩美ちゃんのSOSを聴いて顔を上げると安室さんと梓さんが背中を押した。

 

「行ってらっしゃい。探偵士さん。」

 

、、、

 

「どうしたんだい!?」

 

 走って帝丹小学校近くの裏山にあるキャンプ場に向かうと高齢の男性が倒れ、その隣に中年男性が項垂れて立っていた。

「デイヴィスさん!!来てくれたんですね!!」

 光彦くんが駆け寄ってきて事情を説明してくれた。

「僕と歩美ちゃん、元太くんの三人とコナン君と灰原さんの班が別になってしまって川に行っているんです……先生は通報と子供たちへの配慮対応をしていますから、デイヴィスさんなら警察より早く動けると思って!!」

 昨晩、あんなに醜態を晒した人間をまだ信頼してくれているのか……。

「兄ちゃん!!現場保存はオレたち少年探偵団がしといたぞ!!」

 元太くんの頼もしい言葉を信じよう。

「お兄さん!!少年探偵団として一緒に解決しよう!!」

 歩美ちゃんの固い意志のこもった拳に涙腺が緩んだ。

「うん。僕は少年探偵団の見習いマスターオブディテェクティブ、探偵士です。現場保存のために遺留品に触れたり遺体に触れたりしないでください。エドワード法により検察及び警察より72時間優先して捜査ができますので。」

 そう宣言して、ポケットから白い手袋を取り出して手にはめると周囲を見回した。

 ちょうどキャンプ場にある倉庫室の裏に当たるようで簡易的な焼却炉があり、倉庫室は波板で保護されている。

 裏山だけあってすぐ脇は竹やシュロ、松、椎、イチョウなどの雑木林になっている。

 辺りは落ち葉を掃除していた途中のようで竹箒と枯葉の山が放置してある。

 

「パン!パン!!っていうピストルの音がして走ってきたらおじいさんが倒れていたの!!」

 


 

「はい、それは私も聞きました。彼らと共に裏に回ったらもう日位さんが倒れていて……犯人がまだ近くにいるかも知れません。」

 

 仰向けに倒れている日位さんを確認すると、まだ身体が温かい。

「元太くん!!AEDを持ってきて!!」

 左手の甲を上から右手で鷲掴みする形で胸骨圧迫を繰り返した。

 彼の首にはパックリと薄い刃物で切られたような傷が出来ていた。

 そして日位さんは作業着を着用し、タオルを首に巻いている。

 上着は首部分、体の首元も濡れているが刺激臭や気になる臭いはなく無色透明で微かに温かい程度だ。

 珍しいのはいくつもの鳥の絵が描かれたバッジを上着につけていることだ。

「日位さんは心臓が弱くて……。」

 ただ見ているペットボトルをいじっているだけの作業着を着用した男性に尋ねた。

「貴方についてお話していただけますか?彼とどういう関係ですか?」

 一定の速度で心臓マッサージを繰り返しながら答えを待った。

「キャンプ場を利用して野鳥を守る会を主催していたのが日位さんで、副会長が私……扇です。」

 心臓マッサージをしていると元太くんがAEDを持って来てくれた。

「兄ちゃん!!AEDだ!!」

 それを受け取って日位さんの上着を脱がせた。

「みんな離れて!!」

 音声指示の通りに電気ショックを繰り返すと、微かに鼓動を確認出来た。

「おじいさん、生きてるの!?よかったあ!」

 安堵している子供たちを他所に一人だけ首に汗を描き始めている彼に尋ねた。

「自首したほうがいいですよ。」

「な、なんで私が!!どうやって!?何を根拠に言っているんだね君は!?」

 激昂している彼を他所にクマザサの葉を1枚取った。

 そして焼却炉を見ると落ち葉に混じって椎の実が燃えていた。

「発砲音は猟友会でないのなら水を吸い込ませたドングリを燃やしたんでしょう。水分を含み弾けたドングリは弾丸のように破裂し発砲音がします。それに当たれば怪我を負うのでね。これを燃えにくいイチョウで包めば時間差が出来ますから。」

 キョロキョロと辺りを見回すと歩美ちゃんが叫んだ。

「あ!!あそこ何か光ったよ!!」

 そこに向かうと猛禽類が描かれたバッジがあり、安全ピンに布地が付いたままで、日位さんの上着に付いたバッジの付近に一つ破れた部分があった。

 これで犯人を指し示す証拠は揃ったな。

「……あ!そう言えば扇さんが『差し歯がない』ってましたよ!」

 日位さんは入れ歯をしているが、欠けている歯は無かった。

 

「なら、答えは出たね。」

 


 

「扇さん、貴方は日位さんの背後から近づいて羽交い締めにし、『刃物で首を切ってやる』と言って斬りつけた。そして斬られたショックで心臓が弱かった日位さんは心停止してしまった。」

 

 そう述べると扇は顔を真っ赤にして唾を飛ばした。

「凶器はどこにあるんだ!!」

 仕方がなくクマザサを自分の手首に思い切り引くと皮膚がバックリ割れた。

「おい兄ちゃん!!大丈夫か!?」

 流石に見た目程大した痛みではないが、子供が同じ事をしたら激しく痛むので真似はさせられない。

「ササはね、非晶質ケイ素というガラス質出できているから皮膚を簡単に切り裂けるんだ。だから焼却炉にでも入れたんじゃないですか?」

 扇は胸ぐらをつかみながら怒鳴り声を上げた。

「ササで斬ったからって」

「貴方はそのペットボトルを使って傷口に血が出血したかのように温かい水を流した、ブアメードの水滴実験のように。日位さんは突然背後から襲われ、首の切傷の痛みと温かい水から『本当に首を斬られた』と錯覚して心停止してしまった。いわゆる『ノーシーボ効果』です。プラシーボ効果の逆に位置するものだ。」

 すると扇は後ずさった。

「わ、私じゃない……第三者による犯行かもしれないだろ……。」

 まあそれもあり得る。

「ただ、雑木林に人が入った痕跡がありません。入れば枝が折れ落ち葉に踏み跡が残る。それにこの倉庫室の前には帝丹小学校の児童たちがいたので、不審者がいれば気づくでしょうし、防犯カメラもあるのではないですか?」

 まだ食って掛かろうとする扇に猛禽類のバッジを見せた。

「これが日位さんからのメッセージです。貴方は『差し歯がない』と言ったのではなく『差羽がない』と言ったのですね?差羽は別名大扇といいます。……つまりサシバは扇、貴方が犯人であるという意味になります。」

 そう告げると扇は膝から崩れ落ちた。

「静かに野鳥を守る会なのに破裂音を出す鹿威しを作る校外学習なんて始めるから……」

 あ・ほ・く・さ

「……日位さん、大丈夫ですか?」

 子供たちが手を握り支える場所の間に入った。

「直ぐに救急車が来ますからね!!」

「じいちゃん!!待ってろよ!!悪いやつはとっ捕まえたから!!」

「もう大丈夫だよ!!」

 小さな手が日位の手を握って、必死の声かけを行った。

 

「貴方は生きるんです。」

 


 

「はぁ……高木刑事と佐藤刑事のアベックペアでよかった……。」

 

 事情聴取を済ませて喫茶ポアロに戻るとちょうど安室さんと梓さんが所用で外に出るためClauseにする直前だった。

「あ!デイヴィスさん、大丈夫でしたか?」

 大丈夫も何も、……ない。

「僕は早退。梓さんは時間休で店を開けるので店番をお願いします。」

 安室さんに鍵を渡されて押し黙ってしまった。

 一人で切り盛りできるのか?

「そうだ!常連のお客様に試作品第一号、第二号を試食してもらって下さい!」

 無茶な注文が過ぎる。

 

「はい……。」

 

、、、

 

「あ!いたいたデイヴィスさんだ!!……安室さんと梓さんは居ないみたいね……ラッキー!!」

 

 彼らが出てから客の入りはほとんど無く、園子さんと蘭さんが訪れただけだった。

「試作品のハニーサックルサンドとワサビ菜とからし菜のピリ辛たまごサンドは如何でしょうか?代金は頂きません。……ご注文がお決まりになりましたらお呼びください。」

 そう言って下がろうとすると園子さんに腕を引かれた。

「その二つを注文する代わりに、世良さんと何処まで進んだか教えなさいよ!」

 ガクッと肩を落とした。

 年頃の娘は直ぐに恋愛に直結させたがるな。

「世良さんが『探偵士くんから貰ったチケットがあるから一緒に出かけないない?』って園子と私を誘ってくれたんです!……もしかして初デートが二人切りだと恥ずかしいから団体チケットを渡したんですか?」

 ……違う、そうじゃない。

「えっとですね……世良さんからリアル体験型推理アドベンチャーのテストプレイヤーチケットを貰って、その景品なんですよ。もちろんテストプレイヤーは世良さんと僕の他に梓さんが居ましたからデートではなく」

「「二股してるんですか!?」」

 女性陣がテーブル席から身を乗り出して喰らいつくように迫ってきた。

「二股なわけがないでしょう……なんで二人と同時に出かけるんですか……」

 とりあえず注文があったので調理場に向かった。

 

「世良さんがデイヴィスさんにチケットを渡したのなら梓さんを誘わない方がよかったんじゃないですか?」

 


 

「ふふん!成る程ねえ……二人のうちどちらが良いかを吟味してるのね……デイヴィスさんって記憶喪失だとか言ってたけど実はプレイボーイの遊び人だったんじゃない?」

 

 そんな事があってたまるか。

「いえ……そんな」

「確かに、デイヴィスさんはハーフみたいだし背も高いし……案外モテていたのかも……。」

 とりあえずサンドを二皿作ってテーブルに運んだ。

 コトリと皿を置くと宙を見上げた。

「……一つ思い出した事があって。」

 今にも鮮明に思い出される。

「僕は何処かのラボを担当するフィールドエンジニアだった。」

 灰色で無機質な廊下、その先は暗闇しかない。

「そのラボに可愛い人がいて……。」

 白衣を着た、皆から『可愛い』と呼ばれていた、あの寂しげな姿が脳裏に焼き付いて離れない。

「アタックしたんですか!?」

 彼女は限界だった。

 壊れるくらいなら一層のこと……。

「はい。肩を抱いて顔を近づけて唇が触れる寸前……を会うたびに繰り返していました。」

 初めは酷く拒絶されたが、次からは無言のまま顔を突き合わせた。

「軽っ!?やっぱりナンパ師だったんじゃない!!」

 彼女は聡かった。

 こちらの意図を全て理解し同じ動作を繰り返した。

「ちょっとデイヴィスさん!!世良さんと梓さんを弄んだら承知しませんからね!!」

 しかし、『可愛い』と呼ばれた彼女とは両手で数えるくらいしか接触出来なかった。

 そして僕は別の任に就き、場を離れているうちに彼女はガス室送りに成ったとピンガの高い笑い声がタールの如く耳にへばりついている。

「随分と女泣かせをしていたようね……」

 それと同時に『逃げたらしい』とも耳にした。

「結局、その人とはどうなったんですか?」

 分からない。

 彼女がメッセージを読み何処まで信用して動いたのか分からない。

 溶けていた可能性だってある。

 まして『自分をどう思っていたのか』なんて……。

「……そこまでしか覚えていないんですよ。……それでサンドのお味の方は如何ですか?」

 女性陣は呆れたため息をついて感想を述べた。

「まあ、不味くはないんじゃない?」

「私はハニーサックルサンド、好きかもしれない。」

 それは良かった。

 これでミッションクリアに近づいたかな。

 

「お気に召していただいたようで、安心しました。」






 あとがき


 サンドイッチは美味しいと思う
 訂正→ハニーサックルサンドはクソマズです

なかみについて(期間限定アンケ)

  • ややこしい(かため)
  • 分かり易い(やわらか)
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