夢とロマンの物語   作:蛍火ハル

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3話 後編

・夢とロマンの物語3 後編・

 

 

 

開けっ放しのお菓子と書物が散乱している薄暗い部屋

 

顔に白い布を掛け、スケッチブックを抱いて眠る着物の男

 

デスクの上のモニター類には、それぞれ別のLIVE配信が映っており、そのどれもが現在起きている怪獣災害および謎の宇宙人の現地映像を中継したものだった

 

 

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テオは、怪獣を前にして構えるが、恐怖で足がすくんでいる

 

 

《テオ…》

 

絵鈴の声でハッとしたテオの首に向かって、怪獣がその細長い足の先端をぶつけるように伸ばし、鋭い爪の付いた指で絞め上げる

 

『ウグァアッ!』

 

拘束を振り切ろうと、必死でもがく

 

テオの苦しむ声が外世界に響く

 

元々、テオの種族には言葉という概念もなく、さらに言えば食事さえも必要としないため、その口は退化しており、人間のように音を用いて喋ることはない

 

だが、名残りとして残った発声器官からテオの命を懸けて戦う声が響くのだ

 

 

さて、特徴で溢れる割に感情の読めない怪獣は、テオの首を絞める力をジリジリと強めていく

 

『ウゥ…ッ…、ウグァッ?!』

 

首を掴まれたまま、ビルに叩き付けられる

 

テオの巨体を受けたビルは倒壊こそしなかったものの、大きく破損して、内側のフロアが剥き出しになっている

 

『ッ…!』

 

この衝撃で拘束から抜け出したテオ

 

 

《今よ、テオ!》

 

 

怪獣に向かって飛び込む

 

『ウゥ…!…シュアァァッ!』

 

恐怖を叫び声でかき消して怪獣の細長い胴体にタックルをお見舞いする

 

衝撃音と土煙を上げて倒れる怪獣

 

《テオ、どうしたの。いつもより力が出ないみたい》

 

1度怪獣から距離を取って体勢を立て直すテオ

 

『僕の記憶を君にみせてしまったこと、それを申し訳なく思っています』

 

《その事を気にして、力が?》

 

 

『その通りです。そのせいで、建物に大きな被害を与えてしまいました』

 

《あなたのせいじゃないわ。あなたの記憶のこと、その話は確かに気になるけど、今はあの怪獣をなんとかしなくちゃ。……それに》

 

絵鈴の脳裏に、普段コンビニ店員として働く中で出会うお客さん達の笑顔が浮かぶ

 

《守りたい人達も、守れなくなる…。気合い入れていきましょう、テオ。あなたは独りじゃない、私がいること、忘れないで》

 

 

『分かりました、絵鈴』

 

その時、怪獣のビーム発声器官から熱光線が放たれる

 

テオ、左腕で防ぐが、拡散した高熱源体がビルや道路を溶かす

 

その被害を確認する為に一瞬視線を逸らした隙に、今度は腹部にビームが命中、テオの体が大きく吹き飛ぶ

 

 

『グァアァッ!』

 

 

そのまま地面に背中から墜落し、アスファルトを砕く

 

 

『ウグ…ッ…、ウァッ…?!』

 

胸のクリスタルが赤く点滅し始める

 

《そんなっ…まだ、時間は…》

 

『この星の夕陽が…僕にエネルギーを与えてはくれないのです』

 

いつの間にか怪獣も立ち上がり、今度はアサルトライフルの銃身をこちらに向けている

 

《嫌な予感…》

 

 

絵鈴の予感の通り、空気を震わせ、テオに変身していなければ鼓膜が無事では済まない程の音圧でライフルが無数の弾丸を吐き出す

 

《んんッ…!!》

 

強靭なテオの肉体は金属音を立てて弾丸を全て弾く、だが、エネルギーを消耗した状態では、その衝撃はダメージを与えるには充分過ぎる攻撃だった

 

『ウ…ゥ…、』

 

もはや立ち上がることもできず、テオは倒れた

 

胸のクリスタルの光が尽きてしまった

 

 

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落ちゆく意識の中、絵鈴は故郷を出るきっかけとなったあの日を思い出していた

 

 

中国地方のある地域で、生まれ育った絵鈴は、許嫁として、素性もよく知らない者の元へ嫁がなければならなかった

 

高校時代、恋心を抱いた経験もあったが、その想いを告げることはせず、ただ運命に身を任せることにしていた

 

子供の頃から優しかった祖母が最後にくれた言葉がある

 

『大丈夫、あなたがどこへ行こうと、おばあちゃんの想いは、ずっとそばにあるのよ。決して楽なことばかりでなく、思い通りにいかないこともあるけれど、安心して、挑みなさい。必ず絵鈴は、幸せになれるからね』

 

この言葉が、不安な絵鈴を支えてくれた

 

桃の花が綺麗に咲く頃、遂に相手と顔を合わせるその日のこと

 

 

なんの奇跡か、思い寄せていたあの人こそ、絵鈴の結婚相手として選ばれた人だった

 

 

きっと幸せになれる

 

絵鈴は心の底から安心して、そう直感した

 

その日から1週間も経たなかった

 

 

----------あの日、怪獣が私から全てを奪った

 

 

20メートルぐらいの箱が深夜に突然街に現れた

 

正午と同時に箱が開き、中から現れた巨大怪獣が人を、町を、車を、自然を、全てゴミみたいに踏み潰して、踏みつけきれなかったものは炎を吐いて燃やした

 

 

----------------1人で右も左もわからないこんな都会に疎開してきたのに

 

 

結局、ここで死んじゃうのかな

 

 

世界が黒く染まっていく

その時、声が聞こえた

 

 

『絵鈴。聴こえますか』

 

 

テオ?

 

 

『僕達は、あの怪獣にやられてしまいました』

 

 

あの怪獣は、皆はどうなったの

 

 

『怪獣は僕達が倒れた事を確認して姿を消したようです』

 

 

私達は、死んだの?

 

 

 

『いいえ、死んでいません。もうじき、君の体で目覚めることでしょう』

 

 

テオ、あなたは無事なの?

 

 

 

『心配することはありません。ですが、僕はしばらく眠りにつく必要があります。君の体を修復するためです』

 

 

 

そんな、無茶しないで

 

 

 

テオ?テオ!

 

 

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「テオ!!」

 

叫びながら飛び起きる

 

いつの間にか元の体でいた事に驚く

 

「私の部屋…」

 

右手には、クリスタルが握られていた

 

「テオ…ありがとう。助けてくれて」

 

 

今の自分にできることは、なんだろうか

 

1度敗れた絵鈴、だがその瞳は、既に次の戦いに打ち勝つための決意が漲っていた

 

 

「次は、負けないんだから」

 

 

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夕陽はテオの身体にエネルギーを与えてはくれない


薄れる意識の中、目を背けていた絵鈴の過去を呼び覚ます


心身共に痛みを伴う敗北は、絵鈴の闘志をへし折るどころか、より一層燃え上がらせた


次回は第4話です


この世界は、滅んだりしない
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