いや、死神とか聞いてないし   作:わお

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一話:いやただの下っ端神ですが

ここは神の住まう世界、神界。

 

上位次元に存在する、神のみが過ごす楽園である。

 

そこには様々な神が住んでいる。

 

銃の神、剣の神、戦の神……下っ端神から上位神、男神から女神まで。

 

その中で取り分け恐れられ、敬われているのが二柱。

 

一つは最高神。神界における最高権力者であり、絶対的な存在。

 

そしてもう一柱は……死神。

 

「死」という概念を司る神であり、最高神に並びうる存在。

 

そんな死神は……

 

「いやぁ……陰で飲む緑茶は美味しいなぁ」

 

誰も通らないような場所の、更にその隅っこの日陰で一人、昼食を楽しんでいた。

 

 

 

 

 

 

「ひとり飯……ずっとやっていると慣れるものだね」

 

ボクは神食堂で買った和風弁当のご飯の米粒を箸でツンツンと突いた。

 

飽きると隣に置いている湯呑に入った緑茶を啜る。

 

「はぁ美味しい」

 

この言葉を一体何回繰り返したことやら。

 

ボクは元々日本人の一般男性だった。だが事故だったと思うが巻き込まれ、無事死亡。

 

ハッと気づけば、ボクはこの体に生まれ変わっていた。

 

死を司る死神。死の女神。といっても外見は少女。

 

黒を基調にした服。見た目の割に動きやすくて、着ていて困ることはない。

 

膝のあたりで止まる短いズボンに、細いタイツ。

 

その上から外套を一枚羽織っている。そのせいで座りづらいのだけれども。

 

そして頭の上に載る、小さな王冠の乗った軍帽みたいな帽子。

 

手には黒色の手袋が付けられている。タクシー運転手が付けてるようなものの黒タイプ。

 

「まさか神に転生するとは思わなかったなぁ」

 

死神。よく物語で登場する、鎌を持ちフードを被ったやつである。

 

正直神のランクの中では下っ端ではないだろうか。最近は目を合わすことさえされなくなったし。

 

そしてここの神達、特に上位の神達は雰囲気が怖い。逆らったら終わり、というオーラがだだ漏れなのである。

 

だからボクは長年(何年か忘れた)こうして隅っこでひとりご飯を食べ、基本ぼーっとしている。誰も何も言ってこないということは、ボクは忘れられたのかもしれない。

 

「―――――今日召喚の勇者、どんなやつなのでしょうな」

 

「おや?」

 

廊下の奥から荘厳な雰囲気を纏った老人の声が聞こえてくる。

 

勇者……そういえば今日召喚する予定だった。友人から聞いていたんだった。

 

「まさか上位神様が直々に召喚されるとは……いやはや珍しい」

 

「そうですな。恐らく例の世界に送りたいのでしょう」

 

「例の世界……まさか、あの恐ろしい魔王がいる第三世界のことか」

 

「ええ、ええ。今第三世界は基軸世界も含め危機ですから」

 

隅っこで座っているボクのことなど気づくこともなく、二人の男神が大声で会話しながら過ぎ去っていく。

 

どうやら上位神さん達が久しぶりに勇者を召喚するということで盛り上がっているらしい。

 

……ふぅむ何となく気になる。覗き見くらいは問題ないだろう。

 

空になった弁当箱に手を当てると、弁当箱は消えた。ボクの神パワーは匙加減もクソもないから地味に不便だ。必要ないけど服を軽く払いながら立ち上がる。

 

「おっす、いつもそこで食べてんな。端っこ好きなのか?」

 

いざ行かんとしたボクに話しかけてきたのは、ほぼ真っ裸の不敵な笑みを浮かべている女神。

 

大事なところのみをシンプルな布で隠した破壊の女神ヴァルスである。

 

何故かボクに構ってくれる友達なのだが、彼女はえぐいほど強い。

 

「神は食べなくても生きていけるだろうに」

 

「ただの趣味だよ」

 

「ふーん?で、今から勇者の召喚でも見に行く気か?」

 

「ちょっと面白そうだと思って」

 

「へぇ……じゃあワタシも付いて行っていいか?」

 

「?全然どうぞ」

 

ボクに拒否権などないだろうに。

 

ヴァルスと共に神界の中央にある巨大な棟に向かう。

 

最高神の住む神界の中枢で、勇者召喚などを行う施設がある。

 

「お、あれじゃねぇか?」

 

ヴァルスの指さす方を追うと、丁度中央の祭壇で上位神達が召喚をしていた。

 

入口の影からそっと中を覗くと、祭壇に描かれた巨大な魔法陣が光輝き、パッと点滅する。

 

「……ようこそ勇者よ」

 

光の収まった魔法陣の中央に立っていたのは、一人の青年だった。

 

学生服を着ており、恐らくボクの前世と同じ日本から来たのだろう。

 

「あ、あの……ここは……」

 

オドオドした様子で一番前に出ている男神へ話しかけた。

 

因みにその男神は見た目厳つい、戦神ヴァルハさん。

 

「そなたは異世界を救うもの、勇者として選ばれたのだ」

 

厳かな声に、青年の背筋がピンと伸びる。

 

「ゆ、勇者……?」

 

「そうだ。そなたはこれからこの神界で修行し、危機に瀕している世界を救ってもらう」

 

「そ、そんな……!元の世界には戻れないんですか?!」

 

「残念ながら、救うまでそなたを元の世界に戻すことはできない。これは決まりなのだ」

 

「?!」

 

青年の表情がどんどん青褪めていく。

 

だがヴァルハは表情を変えず続けた。

 

「しかし、そなたは勇者の中でも選ばれた勇者。我ら上位神がそなたを鍛えよう」

 

「ほ、本当ですか?!」

 

「われらが鍛えれば異世界を救うなど簡単であろう。協力してくれるな?」

 

安堵の表情を浮かべる青年。

 

「……ったく、相変わらず丸め込むのが得意だなあのジジイは」

 

ボクの隣でヴァルスが苛立ち気に呟く。

 

彼女は戦神とは真逆のタイプなので、犬猿の仲だからだろう。

 

「まぁでも、あの青年も上位神がバックにつくから大丈夫じゃない?」

 

「つっても相手は第三世界の魔王だぜ?そう簡単にいくか?」

 

神界では様々な世界を観察しており、順番に第一、第二、と付けている。

 

詳しい話は省くけれども、聞くところによれば第三世界は今、魔王が恐ろしいほど強くなっているらしい。

 

「さぁどうだろう。ボクはその世界については一切触れてないからね」

 

死神としてのボクの仕事はそう多くはない。基本的に名前を保証するために貸す、という何とも神らしいことしかやっていないので、人間たちの世界で強い”死”が必要とされない限り暇だし、早々そんな危機は訪れない。

 

「ならワタシが行ってちょっといたずらしてやろうか」

 

ヴァルスが舌なめずりする。破壊神なので大変好戦的だ。それがボクに向いたらと思うと怖い。

 

「ボクも暇だから第三世界見に行きたいけどなぁ」

 

「ハハハッ、あんたを召喚できる魔法陣があるか?」

 

「あぁそうかもね」

 

神の召喚は様々あるがメジャーなのは儀式での召喚である。

 

人間に召喚されないといけないので、その世界で一定の知名度が必要となるし、神のランクが高いほど膨大な代価が必要となる。

 

でボクは下っ端なのできっと知名度がない。だからヴァルスは笑ったのだろう。

 

「でもヴァルスも第三世界とはあまり観点なかったよね」

 

「ワタシはこれでも破壊神だぜ?」

 

ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべる。

 

「後で最高神サマに怒られるかもしれねぇが、楽しいほうがいいよな?」

 

「えぇまぁ。そうじゃないかな?」

 

「じゃワタシは一足先に現地行っとくわ。準備が整ったらあんたも呼ぶ」

 

「本当?ありがたいよ。ボクは今まで呼ばれたことがないから」

 

初めての体験だ。楽しみである。

 

上位神に案内される勇者を見送ってから、ボク達は祭壇を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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