さて暫く込め続けた。
「あれ?反応ないなぁ……」
手ごたえはあった。実際今だって卵は見ても分かるくらいドクドクと脈動している。
だけどそれ以外何も起きない。
全力で込めたために流石に疲れたボクは、傍にあった少し埃っぽいソファーに腰かけた。
「ヴァルスもどっか行っちゃったし暇だなぁ……まさか一応神のボクでも足りないとは思わなかった……そりゃこの世界の人間にはほぼ無理ってものだよ」
誰だよ。こんな卵作ったやつ。あぁ創造神様か。
そういえば、なんだかんだ創造神様見たことなかったなぁ。ずっとど真ん中に鎮座する棟に籠っているものだからね。
まぁボクごときが会えるわけもないか。文字通り格が違うのだからね。
「うーん、さっきみたいに絡まれる可能性もあるから散歩には行きたくないしなぁ……どうしようかなぁ」
おなじみの神パワーを使って前の机にパッと緑茶を召喚する。湯呑から湯気がほのかに上る。
あぁ……やっぱり前世から緑茶は大好きだ。こういうときは緑茶を飲みながら考えるに限る。
前世だって旅行したときはホテルに籠って緑茶飲んだり卓球とかをずっとしていたなぁ。
ん待て。いやでもやっぱり折角の異世界なのだから色々見て回った方がいいのではないだろうか?
ボクは取り敢えず緑茶を啜る。
「うんよし……少しだけ散歩してみよう。そのほうがきっといい経験になりそうだし」
ボクはソファから立ち上がり、冒険への扉を開いた。
置いて行かれたドラゴンの卵。
ふとひと際強く輝いた。
「今月の売り上げはどうだ?」
うす暗い部屋の中、男が低い声で呟いた。
ひどく肥えた腹を揺らしながら、跪づく部下へと視線を送る。
「は……今月は非常に低調です。この調子のままでは 毎月の目標ラインを大きく下回るかと」
「クソ……! とにかく今は売り上げを上げろ!!さもなければどうなるかわかっているんだろうな!」
「は……」
「文字通り死ぬことになるんだぞ!これはリスクのある取引きなんだ!分かっているのならさっさといって早く稼いで来い!」
そう怒鳴り捨て、部下を下げさせる。
それから男はじわりと脂汗をかいた。
「……くそ、このままじゃ不味い……」
「――――――何が不味いのですか?」
「――――――ッ!サジタリアス 様!」
突然背後から聞こえてきた凍てつくような声に、男は顔を真っ青にしながら慌てて膝を床につける。
「い、いかがいたしましたか?!」
「……自分で理解しているようですが、わざわざ私から説明させるのですか?」
ため息を吐きながら陰から姿を現した声の主。
それは二本の禍々しい紫角を頭部に生やし、しかしまるで聖女のような法衣を纏い、目を黒の包帯で覆っている小柄な少女。
しかし、その体から迸るオーラは少女が完全に人間ではないことを示していた。
魔族。魔王軍。その言葉を男の脳に強く思い浮かばせる。
「ッそんなことは!」
「そうですか。ではわかっているでしょう?私とあなたはあくまでビジネスパートナーに過ぎないわけで、いらないと判断したのなら、いつでもあなたを殺せるし、この街を滅ぼすことだってできますよ?」
「も、勿論でございます!」
「これは最後の忠告ですよ。指定した額納められないのならば、第二将軍率いる魔王軍は戦争をもってこの街を滅ぼすことになるでしょう」
「ッわかっています!」
それを聞いた少女はそうですか、と言い残し、再び陰へと消えていった。
その瞬間プレッシャーが解け、男はどっと疲れたように地面に倒れこんだ。
「……はぁ、はぁ。まったく……恐ろしい」
男は深呼吸したあと、震える手で体を支えながら立ち上がる。
「少し前に同じ将軍補佐のアルデバランが死んだと風のうわさで聞いたんだがな……魔王軍第三将軍補佐サジタリアス ……怖くて逆らう気も起きない……」
いまだ額からは大量の汗が噴き出していた。
さて、散歩をしているわけだけれど。前世のボクの世界とはやはり違っていた。
「らっしゃーい!!新鮮な果物入ってるよーっ!!」
近くの屋台で売り子が叫ぶ。果物というけれど、実際ボクが知らない果物だらけだ。
「やっぱり来てよかったかもしれないね。……お金がないから何も買うことができないけど」
多くの客が行きかう通りには他にもたくさんの屋台が並んでいる。
神界と違ってとても活気に満ち溢れている。どこかボク自身も興奮していた。
もっと見て回ろう。そんなことを思って歩き出した時だった。
ドンッ。
「きゃっ―――――――――――」
すれ違い様に誰かの肩とぶつかってしまった。一応神としてそこそこの力もあるボクはそのままに、相手を倒してしまう。
「あ、ごめん。大丈夫かな?」
ボクが視線を向け手を差し伸べると、ちょうど目が合った。
小さな女の子だった。小柄で、気づけば空気に溶けてしまいそうな雰囲気を持っている。
だけどここで不思議なことがおこった。
「ありがとうござい―――――――――ッ!!!」
ボクの手を握った女の子がボクを見るなり恐ろしいほど目を開き、凝視してくるのだ。
「?どうしたんだい?」
「……なぜ」
「なぜ……?」
「なぜッこんな存在が……ッ!」
「どういうこと?」
ボクがそう問いかけるが、女の子は答えず何かに怯えるように慌てて走り去っていた。
「一体何だったんだろうね……」
今までそんな反応をされたことがない。いや、この世界でなら、だけど。神界では何回か覚えがある。
「まぁ、いいか。一々構っていたらキリがないしね」
ボクはそう納得し、また大通りの散歩へと出向くのだった。
「はぁっ……はぁっ」
路地裏に息も絶え絶えの小柄な少女が駆け込む。
一見普通の服装の、普通の少女。
しかし次の瞬間、少女の形はグラデーションのように消え、露になったのは双角を持つ法衣の魔族。
その名を魔王軍第三将軍補佐、サジタリアスという。
「何なんですか……あの人間……」
サジタリアスは先ほどのことを思い出し、思わず身震いする。
視察がてら大通りを歩いていたときのことだ。
不意に肩がぶつかり、肉体は弱いサジタリアスは倒れてしまう。
「あ、ごめん。大丈夫かな?」
ぶつかった相手らしい若い人間が手を差し伸べてくる。
サジタリアスは特に何も思うことはなくただその手を取った。
しかしそれが間違いだとすぐに気づいた。
手を握った瞬間流れこんできたもの。
それは圧倒的な死そのもの。
魔法やスキルで魔王軍補佐で最強と呼ばれるサジタリアスでさえも、思わず仰け反ってしまうほどの死。
未だに握った手が震えている。
そうだ。
あれは人間ではない。得たいの知れない何かだ。
「……待ってください。確か前に、魔王様がある神の話をしてくれたはずです」
曰くその神は圧倒的な死。触らぬ神に祟りなし。
「まさか……そんなはずはありません」
サジタリアスは自分にそう言い聞かせる。
あり得ないはずだ。そんなレベルの神がそう簡単に呼び出されてたまるか。
しかも呑気に街中を歩いている?
あり得ない。
「……しかし、です。これは魔王様にも言っておく必要があるかもしれませんね」
サジタリアスはそのまま陰へと消えていった。
魔王様の言った神の名。
それは神界の根本を成す一柱。
死神。
家で大人しくしている神なんていると思いますか?
>いえ思いません
更新大変遅くなり申し訳ございません。
忙しかったのと、ナチュラルに続きどうしようかなー問題が発生しておりました。
石投げはどうかやめていただいて、うぽつと言っていただけると嬉しいです
視点についてのご相談
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