いや、死神とか聞いてないし   作:わお

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七話:誰が本体だといった?

そもそも、反転というのは具体的に何を反転させるのか。

 

魔法の対象か、方向か……どのみち、俺のやることは変わらない。

 

俺は魔法を打ち込み続けながら一部の魔法だけ”対象”を変える。

 

余裕をかますアルデバランは勿論気づかない。

 

「無駄だねぇ!反転!」

 

その瞬間反転された一部の魔法が俺、ではなくアルデバランの方へと向かった。

 

「――――なッ!」

 

何かを言う前に魔法がアルデバランを襲う。衝撃で土煙がもうもうと舞う。

 

晴れた時、アルデバランは地に伏していた。顔はローブで隠れているものの、体の半分がズタボロの雑巾のようになっていた。

 

俺は思わずホッとした。

 

「よしッ!!やっぱり方向の反転だったか!!これで何とか勝て――――――――」

 

言いかけて、言葉が止まる。

 

止めたのは、脇腹に刺さるナイフだった。

 

「はい残念。」

 

背後から絶望を知らせる声が聞こえると同時、ナイフがねじられる。もんどり打つような灼熱の激痛が体を襲い、体裁などなんのその。痛みを軽くしようと必死に暴れる。

 

その折にアルデバランのローブに当たり、捲れた。

 

灰色短髪の死んだような目。そして正反対に端の上がっている口をしたあどけない、少年そのもののような顔つきだった。

 

「こっちが本体でしたぁ。僕は分身も作れるんだぁ、それも同レベルの。僕を倒したと思った瞬間に一瞬で逆転。いやぁこれだから初心者狩りというのはやめられないんだぁ」

 

アルデバランが踵で俺の脇腹を蹴る。

 

転がされながら、更なる激痛が襲う。

 

「グあぁああああああ!!!!」

 

「う~ん心地いいねぇ。神の奴隷が僕達に勝とうなんて、数億年早いんだぁ」

 

ドカドカと何回も踏まれ、そして蹴られる。俺は地面を数回バウンドして再び転がった。

 

「見るも無残だなぁ。今すぐ楽にしてあげよう!僕はわざわざ甚振る趣味なんてないからねぇ」

 

微かな視界から、ゆっくりとこちらへと向かってくるアルデバランの姿が見える。

 

ああ、俺は死ぬのか?元の世界に帰れずに?

 

嫌だ。そんなの嫌に決まっている。

 

だがどうする?どうすればこの状況からアルデバランを倒せる?

 

もう思考も真っ白な海に溶けそうになっている。

 

どうする?どうする?!

 

 

 

 

 

―――――あぁ。あった。

 

俺は喉に血が溜まるのを感じながら、掠れた声で呟いた。

 

「……ス、ギル。”運命の、天秤”……!」

 

世界がゆっくりになる。

 

音の消えた世界で、重苦しい声が聞こえた。

 

―――――天秤は載せられた。汝何を求む?

 

 

 


 

 

 

「……?何だろう」

 

アルデバランは止めへの歩みを止めた。

 

違和感を感じたからだ。魔王軍将軍補佐であろう者が何を、というかもしれないが何かとてつもない寒気を感じたからだ。

 

だが勇者はボロ雑巾のように地面に転がっていて、周りは一つの家屋があるだけ。

 

ローブ越しに首を傾げるアルデバラン。

 

すると勇者がボソリと呟いた。

 

「……ス、ギル。”運命の、天秤”……!」

 

ゾクリ、と悪寒が最高潮に達した。

 

静かになってゆく世界。それは突然響いた。

 

――――汝何を求む?

 

勇者の後ろから天秤が現れる。

 

縁を金で囲った美しい、しかしどこか冷たさを感じる巨大な天秤。

 

それを大きな手首が中央で摘み持っていた。

 

「目の、前の……敵をッ!」

 

勇者が掠れた声で叫び、それからカクンと頭を落とした。気絶したらしい。

 

――――天秤は載せられた

 

カタン、と天秤が独りでに一方向に傾く。

 

アルデバランは今から何が起こるのかと思わず身を構える。

 

「……?何も起こらない?」

 

そう思った。

 

―――その時だった。

 

「……?鼻血?」

 

ツーッと一筋の赤が垂れる。

 

そして。

 

「―――ゴフッ」

 

突然血を吐き、糸の切れた操り人形のように倒れた。

 

地面に横たわるアルデバランは既に死んでいた。

 

体中の穴から血を吹き出し、絶命した。

 

果たしてその場で動くのは、傾いた天秤ただ一つ。

 

―――――――契約はなった。代償は?

 

―――――――汝の代償

 

―――――――肉体的両腕。

 

天秤がこれまた独りでに水平方向へ戻る。

 

その瞬間、ブチッという音と共に勇者の両腕は消えた。

 

「―――ッグあああああああぁぁあああああっ!!」

 

気絶から一転、突然の痛みに声帯をこれでもかと震わす。

 

そしてまた痛みで気絶した。

 

それを見届けた天秤を持つ手首は、空気に溶け込むようにして消えていった。

 

 

 

 

 

風の音が戻った平原。不安を覚えた一人の救われた生存者が、家屋のドアを開ける。

 

「!!大丈夫ですか?!助けてくれた人!」

 

 

 


 

 

 

焼けた村から少し離れた、村全体を見渡せる森。

 

そこにいるはずのない存在が立っていた。

 

「……まさか、僕の分身が二人もやられるとはねぇ。本体で出向かなくて良かったなぁ」

 

アルデバランがローブを取り、その白髪をさらけ出しながら溜息を吐く。しかし、その息はどこか震えている。

 

遠くからあの天秤を見た時、正面でなくとも戦慄した。

 

「あんなスキル、見たことないなぁ……うん。だけど今勇者は瀕死。だったら今のうちに不安分子は消しておくべきかなぁ」

 

その額を流れる一筋の冷や汗を誤魔化すように、村へ向かおうとする。

 

「――――まったく、あのスキルを使う馬鹿な人間がいるんだないつの時代も」」

 

「ッ?!」

 

慌てて振り返る。そこには不気味に笑う女が立っていた。

 

ほとんど全裸といっても差し支えのない服装に、全てを知らんとばかりの鋭い朱色の目。

 

「ま、望みが軽い分代償がまだ軽かっただけマシか……。で、ワタシはここでそんな勇者が死ぬのは面白くないと思うんだが、お前はどう思う?」

 

不敵な笑みを浮かべながら問いかけてくる。揺れる乳房などお構いなし。

 

「……どうって、それ僕に関係あるの?」

 

「あるさ。だってあの勇者を殺すってんなら、ワタシはお前を殺すんだからな」

 

「僕が殺さなくても、直に死ぬと思うけど」

 

「うん?それならなんの問題もないな。ほら、見てみろよ。タイミング良くこの国の騎士団が駆け付けて来ている。勇者は助かるだろうさ、聖女の手によってな」

 

アルデバランは横目で村の方を見る。確かに馬を駆り立ている集団が勇者の倒れる場所へ向かっている。

 

「じゃあ猶更殺さなくては。……邪魔だよ。殺すよ」

 

返答を待たずアルデバランは剣先の潰れたナイフを叩きつける。

 

反転すれば切れ味のないナイフは、一瞬にして万物を斬るナイフへと変わる。

 

アルデバランにとっては奥の手の一つ。不意打ちで最大効力を発揮するものだから。

 

だがそれはあくまで人間という範疇に収まっている存在が相手なら、の話。

 

「クク。随分やる気のない攻撃だなぁ?」

 

全てを切るはずのナイフは女の手の平で止まっていた。しかも何の傷も与えれていない。

 

「おかしいッ!反転したはず……!」

 

「ワタシの肉体に傷付けようなんざ百年早いんだよ。”破壊術:破砕”」

 

パキンッ。ナイフにガラスのような罅が入り、呆気なく粉々になる。

 

「丁度いい。お前は召喚の足しにしてやる。魔王軍の将軍補佐なんて中々上等な生贄だな。有り難く思うといい」

 

驚愕するアルデバランの懐に女が滑り込む。鋭い拳がアルデバランの腹を突き破り、腕ごとアルデバランを振り回し、地面に叩きつけた。

 

「よっしゃ。これでボチボチ召喚の準備が整うな」

 

満足げに血まみれの手を払う女。

 

「カ……ハ……僕が、負ける、なんて」

 

穴の空いた腹から血がドクドクと流れるアルデバランが掠れた声で言う。

 

倒れ伏しながらの言葉は弱弱しかった。

 

「はぁ?弱いやつが何ほざいてんの?出直せよ」

 

「お前、何を……召喚、する気……なんだ?」

 

「何をって、ただの上司みたいなもんだ。ワタシでも想像が付かないなぁ……あいつが地上世界に召喚された時なんて、いつぶりか。楽しみで楽しみで仕方がない」

 

「まさ、か……お前、神じゃ……」

 

答えを知る前に、アルデバランの目から生気が消えた。




長くなっちった。次回か次々回で序章みたいなアレは終わります。
その時に掲示板やろうかな、と思っています。

欲しいものは……

  • 掲示板(世界をアニメとして読者視点)
  • 閑話的なアレ
  • アレだよ、そう、アレアレ。
  • 普通のものには興味ありません(変化球)
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