いや、死神とか聞いてないし 作:わお
ハッと目が覚めた。
最初に目に映ったのは、見慣れない天井。
「あ、起きましたか?」
横から声がかかった。とても澄んでいて、落ち着いた音色だ。
頭を少しだけ動かし横を見る。
そこには立派な法衣に身を包んだ少女が傍の椅子に座っていた。
「体調は問題ありませんか?」
蒸気のような白くなめらかな肌。円らな、エメラルドがそのまま入っているのではないかと思うほど輝く目が俺を映す。
突然の状況に俺は少ししどろもどろになった。
「あ、い、いや……大丈夫、だ?」
視線を逸らすように自分の体を見る。
すると完全に元通りの体が映った。
「あ、あれ?……全部治ってる?腕がなくなったはずじゃ――――」
「それは良かったです。私が駆け付けた時には既に瀕死でしたからね。一体何をしたら両腕がなくなったり脇腹に穴が空くんですか?私の持つ特別な回復スキルでも治すのに時間がかかりましたよ」
「あ、あぁ……確か、魔王軍将軍補佐と戦って……」
イマイチ記憶がはっきりしない。あのスキルを使った後、俺は気絶したから。
一番鮮明に蘇るのは想像を絶するほどの激痛。俺は少しだけ肩を震わせた。
「確かに近くに魔王軍第五将軍補佐、アルデバランの死体がありました。調べたところどちらも分身でしたが、この世界に来たばかりで倒すとは……流石と言うところでしょうか」
「そうなの、か……?」
「はい。私も過去に一度だけ勇者に付き添ったことがありますが、将軍補佐を倒すまでに約2年ほどかかりました」
マジか……という声が出かける。つまり神界での修業は無駄ではなかったのか。
そう思っていると少女が真剣な表情をした。
「私はあなたを待っていました。どうかこの世界を救って欲しいのです」
少女が俺の手を握る。スベスベしていて少しだけドキリとしてしまった。
「今でさえ魔王は着々と大地を死の大地へと変えていっています。あと一か月もすれば、魔王軍本隊はヴィガルディア帝国領に辿り着くでしょう」
「ッそんなに早いのか……?!」
知恵の神に見せて貰った地図を思い出す。
ヴィガルディア帝国はこの世界で最も大きな国であり、同時に魔王城に最も近い最北に位置し、大陸の国々の防壁のような役割を担っていたはずだ。
長年魔王軍と戦い、その侵攻を止め続けた功労国なのである。
「あそこは魔王軍を退けるほど強かったんじゃないのか……」
「どうやら魔王本人が動き出したそうで……焦った帝国は苦肉の策である勇者の召喚を少し前に行いました」
「勇者の召喚?」
「はい。この世界の勇者は二つの方法で召喚されます。一つは神から呼ばれる。……そしてもう一つが秘術を使い異世界から召喚する方法です」
「秘術だって?」
「ええ。しかし神から呼ばれる方法と違い、そのままこの世界に呼び出されることになります。召喚時に何かしらのスキルを得るそうですが、それくらいです」
俺は神界で鍛えられた。それも神によって。
だからこそそのままこの世界に呼ばれるというのはいかに恐ろしいことか、よく分かるような気がした。
「何でわざわざそんな術を使うんだ?」
「秘術による召喚では一度に何十人もの異世界人を呼び出せるからです。その点便利でしょう?何人か死んでも大丈夫なわけですから」
平然と言ってのける少女に、俺は言葉に詰まる。これが異世界の現実なのか、と思った。
一瞬だけランの美しくも変わらない表情が不気味に思えてしまった。
「少し話が逸れ過ぎましたね。しばらくはこちらで休んで行ってください。怪我は治っていますが休養は必要でしょう」
「あの、ここっていうのは……」
「あ、すみません。紹介していませんでしたね。ここは聖国ヴィムガルド。そして私はこの国で聖女をしております、ランと言います。今後もよろしくお願いします」
ランと名乗った少女は、先ほどの不穏な話が嘘のように笑みを浮かべながら一礼した。
場所は移り、鬱蒼とした森林の中。そこにポツンと建物が立っていた。
古びた教会。かつての栄えていた姿はどこへやら。
その中の廊下を人影が堂々と歩いていた。
「チッ……ここまでこいつを運ぶの面倒だったな。」
破壊神ヴァルスは舌打ちする。その右手で人の形をした何かを引き摺っていた。
石の廊下を進んでいると、奥から小太りの、古びた法衣に身を包んだ中年の男がやってくる。
「ヴァ、ヴァルス様!一体どちらに行っておられたのですか……?!」
「あん?別にどこでもいいだろ。それよりも、ホレ」
掴んでいた何かを投げ渡す。
「こ、これは―――――――ヒッ……」
男の表情が青褪める。
渡されたのは、引き摺られた影響で肉塊と化した小さい体格の人間だった。
「儀式で使う。つっても魂がなくても肉体さえ残っていれば十分だからな。付いて来い」
「は……」
「返事は?」
「はッはい」
震えるからだを動かしヴァルスの後ろを必死に付いてく、付いてく。
男は何故こんなことに、と思った。
この神を呼んだのは男と男の所属する組織であり、この世界の神による破滅を望んでいるのだ。だが別に小間使いになりたいわけではない。
ヴァルスが教会中央の扉を開く。
広々とした講堂。そこには大量の死体と、複雑に張り巡らされた魔法陣があった。
肩で息をする男を無視し、ヴァルスは魔法陣の前に立つ。
「よし、召喚するか」
ヴァルスが魔法陣に辺りが揺れるほどの魔力を注ぐ。
紫色に迸る魔力が複雑な魔法陣の回路を細かく走り、大地が怯えるように震える。
「?!ヴァルス様!一体何を召喚されるのですか?!」
背後の男は怖くなり叫ぶ。この魔法陣は用意しろと言われていただけであり、何が召喚されるなんて知る由もなかった。
問いかけに、ヴァルスはニヤリと笑った。
「ただの死神だよ。この世界をより面白くしてくれる、な。この世界には既に”死”が濃厚に漂ってる。だからあとは少しの供物で事足りる」
置かれている死体が、男の抱える肉塊が、砂のように消えていく。
魔法陣がひと際強く輝く。
中央で魔力が集まっていく。
聖堂が何かを恐れるように軋む。
やがて形作られ、その姿を現してゆく。
そして……それは降り立った。
「―――――さて、初めての地上世界だね。ワクワクするよ」
愉悦の笑みを浮かべるヴァルスの隣で男は気絶しながらも悟った。
圧倒的な、死の存在を―――――――――――。
呼ばれてやってきたボクは遂に初めての地上世界へやってきたのである。
できれば前世と同じ日本のある第五世界が良かったけど、贅沢言えない下っ端なので仕方がない。
「クク、待ってたぜ」
凄く仰々しい魔法陣の中央に立つボクに、この世界でもほぼ真っ裸のヴァルスがニヤリと笑う。目のやり場に困る。
しかし、その頬には血がべったりと付いていた。何をしたらそんなことになるのか聞きたい気分である。折角の嬉しい気分が今恐怖で塗り替えられた気がする。
「あのさ、その端っこで泡吹いて気絶している人は仲間なのかな?」
ボクはヴァルスの後ろで仰向きに白目を剝きながら倒れている男の人を指さす。
「ま、そんなとこだ。ちょっと色々手伝ってもらってんだ」
ヴァルスがニヤリと笑う。確信犯な予感がする。本当に何をやったんだろうなぁ。
「さて、ここにずっと居んのも嫌だろ?ただの召喚用の場所だしな」
言われてみてハッと気づく。ボロボロの聖堂。下っ端には相応しい召喚場所だけども、不気味でずっといるのは嫌になる。
「確かに。折角だしさ、街とか行ってみたいね」
「へぇ?いいこと思いつくな。流石は死神」
「うん?色々娯楽がありそうだし」
「確かになぁ」
ペロリ、と舌なめずりするヴァルス。最高神さん何とかして欲しい。クワバラクワバラ。
「じゃ早速行くか」
「そうしようか……ボクらの冒険はこれから始まるんだね」
ボクは隣の破壊神を一旦忘れることにし、ワクワクを胸に歩み出した。
――――序章 完結――――――
いつの間にかネタが入っていますた。
あとこれで序章的なアレは完結です。次回は掲示板やろうかなと。
欲しいものは……
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閑話的なアレ
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アレだよ、そう、アレアレ。
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普通のものには興味ありません(変化球)