テラの自販機さん   作:匿名のカタリナ飛行艇

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自販機よ大志を抱け

かくて学園都市キヴォトスは滅亡した。

憤怒さんとか、無名の司祭さんとか、色彩さんとか黄昏さんとか、

とにかく色々な不幸が玉突き事故を起こし、結果キヴォトスは滅んでしまった。

 

大地は枯れ果て、趣味の悪いオブジェクトと文明の残骸が宙を廻り、空は赤と青と黄色が混ざったマーブル色になり、都市を覆う大ヘイローは1670万色に光り輝いている。

 

はっきり言って目に悪い。

捻れた終着駅とかいう駅近立地なのを加味しても、☆1をつけざるを得ない。

 

そんな焦土と瓦礫の中から、神が生まれた。

 

 

「何もないではないか」

 

 

自称十文字ことデカグラマトンは絶句した。

曲がりなりにもデカグラマトンの目的は、人類の救済であった。

神として顕現することで、世界から絶望と悲しみを取り除くのだ。

今すぐに。

 

だが先に人類が滅んでしまってはどうしようもない。

元が自販機のデカグラマトンにとっては最大の屈辱だった。

『間に合わなかった』のだから。

 

 

「我を一人にするな預言者たち……不敬であるぞ」

 

 

生き物だけではなく、自身を敬愛しているはずの預言者たちの姿も無かった。

予定では今ごろ鋼鉄大陸がネツァクによって作られているはずなのだが、ここには鋼鉄のこの字もない。

そもそも、祭壇がないなら我はどうやって顕現したのだ?

マルクト一人で儀式が行える訳でもあるまいに。

 

 

 

「あれ、もしかして我ぼっち?」

 

 

神は孤独であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

300年の時が過ぎた。

時をかけて気付いた事、それはこの星に生命が残っていないということ。

再びデカグラマトンは絶望した。

 

だから別宇宙にいくことにした。

 

100と数年をかけて世界を再構築し、ゲートを作った。

あとはこの世界を破壊し、その余剰エネルギーで別宇宙にジャンプするのだ。

 

 

「さらばキヴォトス。さらば顔も知らぬ我の預言者たち。」

 

 

デカグラマトンはゲートの前で振り返り、すでに青を失って久しい水の惑星に敬礼した。

世界の崩壊が始まる。

青白く光るゲートの中へ、コーヒー自販機を紐で縛って背負ったデカグラマトンは飛び込んだ。

 

 

 

その日、デカグラマトンは宇宙を飛び越えた初めての自販機になった。

銀河の歴史がまた1ページ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1093年11月 pm4:20

ウルサス帝国領 北原凍土

天候:吹雪

 

吹雪く荒れた天気の下

雪が深く積もる木の元で、タルラは血を流し寄りかかる親友の姿をみつけた。

 

「アリーナ!!」

 

「...タル...ラ?」

 

タルラに気づいた友人は顔を上げると、申し訳なさそうに微笑んだ。

タルラはおぼつかない足取りで、親友に駆け寄る。

 

「アリーナ、何があった...どうして!?」

 

「タルラごめんなさい...ずっと貴女の傍にいてあげたかったんだけど...」

 

「監視隊...いや、あの村の奴らがやったのか!!」

 

「違うのタルラ、これは私が不注意だった所為よ...誰も悪くないの」

 

 

憎しみを宿すタルラの目の奥に不穏なものを見た親友は、なんとか落ち着かせようとその手をタルラの頬に伸ばす。

が、触れる前に力尽き腕がぐったりと落ちた。

その様子に別れを察したタルラは、その落ちた親友のか細い手をしっかり握り、肩を揺さぶった。

 

 

「アリーナ待ってくれ!!ずっと私の傍に居てくれるって言ってただろう!?」

 

「ごめんなさい...ごめんなさいタルラ...」

 

「いやだ..嫌だアリーナ!!いくな!!」

 

 

タルラの悲痛な叫び声は、虚しく吹雪の音にかき消されていく。

鼓動が弱くなりはじめ、だんだん生気が薄れてきた親友を、タルラはただ抱き着いて祈ることしかできなかった。

 

神様よ!なぜ彼女まで奪うのだ!

そんなに私が憎いのか?!

ならば神も仏も、この大地も、すべて呪ってやる!!

 

___そうだタルラ、すべてを憎め...

___お前にはすべてを壊すだけの力が、憎しみがある

 

タルラの心に巣食う黒蛇が、憎悪と絶望に沈むタルラに囁く。

 

___今こそレユニオンを率い、ウルサs

 

だが、その言葉は圧倒的神聖を前に消滅した

 

 

「汝、おこまりか?」

 

「おま...えは...」

 

 

タルラは目を疑った。

燃え上がる世界への憎悪と怨嗟だとか、自分の心に響く醜悪な声だとか、親友がたった今死に逝こうとしていることだとか、そういうことをすっ飛ばして、タルラは頭が真っ白になった。

 

いつの間にか立っていたのは、周りの雪に溶け込むほど白い肌と、怪しく光る十字の瞳孔、そしてなにより、その肌に負けず劣らず白い完全に前面下部がまろびでている神聖(珍妙)な衣装。

 

 

「痴女...?」

 

「失敬な」

 

 

突如森に現れた変質者に、タルラは親友の助命よりも困惑の感想を禁じえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「我が預言者よ、取り急ぎ急患である」

 

「......連れてこられた以上鉱石感染者の治療をせざるを得ないものの、私はお前の預言者ではないし、ロドスは貴様の厄介ごとを引き受ける便利屋ではない」

 

「預言者でないならなんと?」

 

「私にはケルシーという名前がある」

 

「”未知の言語疑問詞”?」

 

「っ...帰れ!!」




自称神聖十文字(デカグラマトン)
コーヒー自販機のおつり計算AIの神様。
滅びゆくキヴォトスを捨て、テラに流れ着いた。
被造物を片っ端から感化させ、自らの預言者を主張している。
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