―――7日目、バージルと相対する、が勝負は始まっている。バージルの場合、『構えないのが構え』と言わんばかりに左手に刀を持ったままだらりと両腕を下げて立っている。一方、俺は今までの日向流の構え…右腕を伸ばし右足を踏み出し少し腰を落とす従来の構えを取っている。白眼を使いチャクラを活性化させ魔人化して手足にチャクラを集中する。これでもバージルに1発でも当てられるかは賭けだった。持久戦は不利なので短期決戦といきたかった。が、初めて手合わせした時の記憶が蘇る。あの時は正面から突っ込んでトリックダウンで背後を取られて足払いをかけられた。ならば―――急襲幻影剣を発現させる。左右4本計8本の幻影剣をいつでも飛ばせるように覚悟しておいた。対するバージルは…円陣幻影剣を発現させた。あれは見た目以上に効果範囲が広い。急角度の斜め上から真上以外の攻撃を全てかき消す。そして接近するものを全て斬り刻む。
俺が先手を取った。ジャンプ、トリックアップから急降下流星脚。バージルは動かない。が、目前で消えた。白眼の死角からはみ出てバージルが姿を現す。迷わず前に踏み込んだ。足払いを躱す。幻影剣を射出した。物凄い勢いで飛んでいく。奴の幻影剣に破壊される。ついでに八卦空掌を放つ。バージルの幻影剣も砕けた。仕切り直し…と行きたいが今度はバージルが急襲幻影剣を発現させた。俺は円陣幻影剣を展開した。エアトリックで接近して奴の正面に立とうとしたが姿を消していた。頭上、トリックアップで回避していた。そこから幻影剣が襲ってくる、と同時に急降下しながら刀を振り下ろしてきた。咄嗟に2連続トリックダウンで回避した。再度エアトリックで接近する。着地際を狙うつもりだった。奴もトリックダウンで避ける俺の射程外から素早い斬り上げと斬り下ろしで幻影剣を破壊する。摺り足で後退しながら八卦空掌を左右で交互に放つ。トリックドッジで避けられる。いつの間にか幻影剣に囲まれる。烈風幻影剣―――両手を180度に広げ回転しながらチャクラを放つ。幻影剣は破壊できた。だが肝心のバージルは―――目の前にいた。納刀したまま鞘で殴りつけてくる。背中に貼りつけているミラージュエッジで防御した。奴が刀を抜く。どうにか目で追えた。それも防御した。だが同時に放たれる幻影剣はどうにも出来なかった。俺の体を貫く。苦痛は感じなかった。魔人化の影響かチャクラ活性化の影響かはわからないが無視した。奴が両手で刀を握り振り下ろす。それも防御したが力なくミラージュエッジが手から離れる。それを握った奴がスティンガーをブチ込み俺の心臓を貫き、その勢いのまま木に磔にされた。魔人化も解けチャクラも勢いを失っていく。思考がハッキリしない。むしろ薄れていく。俺の体に刺さった数本の幻影剣とミラージュエッジが俺の体に取り込まれて行く。
バージル「ほう…俺の血が目覚めたか。忍とは面白い。悪魔にすら出来んことをやってのける。」
バージルの呟きを最後に意識が途絶えた。
荒い息遣い、誰のだ? 俺だ。バージルが血を流している。その傷もすぐ癒える。誰がやった?白眼で周囲を観察する。誰もいない。ということは俺がやったのか?どうやって?両手を見る。血まみれだった。でも俺の血じゃない。俺はどこも怪我をしていない。よく見ると手足が元々の魔人の姿より変質していた。以前はこんなにブ厚い鱗に覆われていなかった。背中を見る。翼が大きくなっていた。これなら空も飛べそうだ。そんなことはどうでもいい。バージルを殺せ。俺の方が強くなったと証明してみせろ。俺じゃない誰かの声が聞こえた気がした。それもどうでもいい。目の前の男を殺せ。奴は敵だ。宗家の者も皆殺しにしろ。俺の邪魔をする奴は誰でもいい、皆殺しにしろ。脳内に響く声に惑わされ気が狂いそうだった。思いっきり叫んだ。脳内の声をかき消すように。声は消えなかった。周囲に人が多数現れたと思ったら頭に激痛が走る。だが耐えられない程じゃない。ある男に目をつける。激痛の正体はこいつか。こいつを殺せば激痛は消えるのか。殺す。殺す⁉ 俺の邪魔をする奴は皆殺しだ⁉飛び掛かろうとした時頭上から見た覚えがあるものが降り注ぐ。これは…幻影剣だ。五月雨幻影剣―――標的を拘束する技―――俺がバージルから伝授された技―――絶えず降り注ぐ。そのせいで身動きがとれない。思いっきり吼えた。激痛を与えるこいつを殺せないことに。恨みの全てをぶつけるように吼え続けた。やがてまた意識が遠くなっていった。
バージル「相当恨まれているようだな。」
「宗家と分家…立場が違うだけで一方が生殺与奪の権利を持つ。恨まれて当然だろう。」
バージル「それをどうにかするのがお前らの仕事ではないのか?」
「……そうだな。その通りだ。いずれネジにも話すつもりだ。だがこの状態ではネジも聞く耳を持つまい。その時が来るまでネジを頼むぞ。旅の者よ。」
バージル「そのつもりだ。こうなったのは俺のせいでもあるからな。しっかり教育しておく。」
「では我らは去る。後は頼んだ。旅の者よ。」
バージル「やれやれ…成長が早いのも考えものだな。」
目が覚める、チャクラは…大して消耗していない。ずっと魔人化していた気もするが記憶が曖昧だ。ゆっくり起き上がる。所々に地面が陥没したような、抉り取られたような跡がある。
「頭は冷えたか?」
聞き覚えのある声、振り向いた。バージルが立っていた。
ネジ「……俺はどうなったんだ?」
バージル「俺に心臓を貫かれたのは覚えてるか?」
ネジ「ああ…だが不思議と苦痛は感じなかった。幻影剣とミラージュエッジが俺に吸い込まれていくのを見た。」
バージル「その影響か更に進化した魔人の姿になった。だがその反動で暴走状態になった。相手が俺で良かったな。そうでなければ里の者も皆殺しになっていたかもしれん。日向宗家の当主も来て呪印を発動させたようだがほとんど効果がなかったようだぞ。」
ネジ「……そうか。ヒアシ様まで来たのか。頭に激痛が走ったのは覚えている。あの時の俺は本気でヒアシ様を殺そうとした。お前もな。」
バージル「それが暴走状態というものだ。視界に映る者は全て殺したい衝動に駆られる。俺も意図的にそうなった時があるがああならないに越したことはないぞ。これからは…そうだな、魔人化の制御に時間をかけるとするか。ついでに言っておくと人間なら致命傷になる傷を俺も負わされたぞ。手加減したとはいえ大したものだ。」
ネジ「……俺がやったのか? 全く覚えていないが。」
バージル「他におるまい。その成長速度だけは褒めてやる。今日はもう帰れ。」
白眼を使いチャクラ活性化をして帰った。バージルを負傷させたことを喜びたかったが全く実感も記憶もないので喜べなかった。宗家に目を着けられてしまったが恐怖は無かった。それからの日々は魔人化の状態でいかに冷静でいられるかに費やされた。始めはバージルとの戦闘はおろか全ての鍛錬を禁じられた。実際に魔人化してその意味がわかった。闘争本能を刺激されて今すぐにでも暴れ出したい気分だった。必死で我慢した。瞑想しながら魔力切れする前にチャクラを魔力に変えて魔人化し続けた。理性を保てるようになるまで2週間以上もかかった。残り1週間弱、ようやくバージルとの実践戦闘訓練が許可された。気分が高揚しているのは魔人化のせいではないはずだ。
初日、7日目、そして今日と3度目の立ち会いとなる。既に白眼を使いチャクラ活性化させ魔人化の状態だ。勝負はもう始まっている。気のせいか魔人化の影響か成長したのか不明だが自分がどう動けばバージルがどう反応するのかが見える気がした。試すことにした。トリックダウンで背後を取る。後ろ回し蹴りで足払い――読み通りだった。摺り足で下がる。がら空きの上半身に踏み込みながら貫手をブチ込む。トリックドッジ―ーこれも読み通りだった。避けた先を踏み込み貫手をブチ込む。トリックアップからの兜割り――好機、半身を逸らして回し蹴りを叩きこむ。両手で持っていたミラージュエッジを片手に持ち替え空いた手で刀の鞘で防ぐ。激しい衝突音、お互いにのけ反る。俺が先に動いた。チャクラを放出して高速で踏み込みスティンガーの要領で俺の貫手がバージルの腹を貫く。勝負あったか⁉
バージル「Don't get so cocky.」(調子に乗るなよ。)
恐らく異界の言葉だろうが不思議と意味は理解できた気がする。バージルが俺を蹴っ飛ばし貫いた手も抜ける。本来なら腸がまろび出るだろうが相手は伝説の悪魔の息子。やがて何事もなかったかのように傷が塞がっていく。
バージル「You're going down!」(跪け…!)
居合の姿勢のまま動かない奴に膨大な魔力が蓄積していく。何度八卦空掌で攻撃しても結界らしきものに阻まれ阻止できない。奴の姿が消える。そして俺は確かに見た。バージルの放った無数の剣閃に全身を斬り刻まれる未来を。トリックドッジで避けまくるか射程外まで退避するか躊躇している間に実際にそうなった。だが魔人化している影響か耐えきった。奴が姿を現す。絶好のチャンス⁉ エアトリックで一気に間合いを詰め今度は心臓を貫いた。今度こそ殺ったはずだ⁉
バージル「This is power.」(これが力だ。)
奴が異形の姿になり魔力が爆発するような衝撃に吹っ飛ばされた。体勢を整えて着地する。奴の姿を直視する。その姿は悪魔以外の何者でもなかった。バージルと初めて会った時の殺意と暴力の権化の如し存在。それがまさしく今の姿だった。魔力が全身から溢れ出ている。伝説の存在である龍が人の形をしたような禍々しく圧倒的な力の前に俺は成す術がなかった。
バージル「What's wrong? Is that all you got?」(どうした? もう終わりか?)
そうは言われても何をやってもバージルに刀で真っ二つにされる未来しか見えなかった。それ程の力の差を感じた。実際にやらなくてもわかる。
バージル「Show me your motivation.」(俺にやる気を見せてみろ。)
いつだっただろうか。バージルを失望させたくない、そんな想いを抱いていたはずだ。このままではバージルに見放される。そんな気がした。急に闘志が湧いてきた。持てる全てのスキルを使ってバージルに対抗して見せる。そう思った。自分に誓ったはずだ。誰よりも強くなって日向の分家の運命を変えてみせると。ここで戦いを放棄すれば結局運命に逆らわないと同義だ。己を奮い立たせた。相手が強者なら黙って殺される覚えはない。構えた。両手にチャクラを極限まで圧縮させる。トリックダウンで背後を取る―――五月雨幻影剣が降り注ぐ。動きを止められる。ここまでは予測できた。次の動きが理解不能だった。
バージル「There is no escape!」(逃がさん!)
ミラージュエッジを正面に、刀を縦に地面に平行飛行しながら回転と突進を駆使した異常な攻撃だった。腹にチャクラを集中させて強化した。凄まじい速度で回転するミラージュエッジが食い込む。この攻撃を耐えれば必ずチャンスがやってくる。俺が見た未来ではそうなっていた。俺とバージルの壮絶な我慢比べが始まった。
ネジ「ぐううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅ⁉ うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉああああ⁉」
一方バージルは終始無言だった。耐えきった。隙が出来る。まずは右手で奴に直接ヘルオンアースをブチ込んだ。悪魔の姿が僅かだが光の粒子となって消える。もう1発、左手で顔面にヘルオンアースを叩きこんだ。俺の拳と地面に挟まれてモロに直撃した。即座に右手にチャクラを圧縮させる。これでも通じないなら方法は思いつかないがどうにかするしかなかった。左手のヘルオンアースも耐えた。続いて再び右手をブチ込もうとした時、バージルの魔人化が解けた。かろうじて寸止めで終えられた。奴は笑っていた。
バージル「俺の『真魔人』の秘奥義すら耐えるとはな…嬉しいぞ。よくぞここまで成長した。」
ネジ「……俺は勝ったのか?」
バージル「この先は殺し合いになるがせっかく育てたお前を殺す気はない。お前がどんな運命を歩むのか興味もあるからな。とりあえずお前の勝ちでいいだろう。」
ネジ「『とりあえず』か。まあ…俺も途中で戦いを放棄しそうになったから偉そうなことは言えん。それに本当にギリギリだった。『真魔人』といったか。どうすれば俺もあれになれる?」
バージル「数万、数十万人、いや…もっと多いかもしれん。無関係の人間を犠牲にして得た力だ。お前には必要がない。人の道を外れてまで力を得たいとはお前も思うまい。」
ネジ「……それは…そうだが…。」
バージル「力に溺れるな。チャクラ活性化を利用して地道に鍛えろ。今のお前は年齢の割には充分すぎるほど強い。人類の敵になるような真似は決してするな。俺のようにはなるな。人生の先輩としての助言として胸に刻んでおけ。」
ネジ「わかった。俺はお前に鍛えられている内に強くなることにこだわり過ぎた。いつか自分に誓った『日向の分家の運命を変えてみせる』という想いを忘れるところだった。それに…ここまで鍛えてくれたお前を失望させるようなことはしたくない。」
バージル「その意気だ。精々あがいて見せろ。その先に違う未来があるのかもしれん。俺は一旦ここを離れる。里の者にこれ以上目を着けられるのも面倒だ。後は好きにしろ。限界までチャクラを消耗し続けろ。本戦の前日は休め。休養も必要だ。俺も退屈しのぎが出来た。礼を言う。」
ネジ「礼を言うのは俺の方だ。約3週間前と比較するまでもないほど強くなれた。お前のおかげだ。感謝する。」
頭を下げた。
バージル「……他人の役に立って礼を言われるというのも悪くないものだな。力に溺れるなとは言ったが強さを求めることは常に頭に入れておけ。お前ならもっと強くなれる。」
ネジ「お前の言うことだ。それを信じよう。いつかお前を超えたい。それが俺の願いのひとつだ。」
バージル「……そうだった。餞別だ。」
ミラージュエッジを生成し俺に渡した。
バージル「それではな。お前が強くなった頃にまた戻ってくる。」
俺はかける言葉が見つからなかった。ただ黙ってバージルの背中を見送ることしか出来なかった。
それから約1週間、魔人化の状態でバージルに教えられたスキルのおさらいをひたすら続けた。各
幻影剣の発生、生成速度も奴と同じ程度まで調整出来た。そしてミラージュエッジを振り続けベオウルフで見せられた各スキルも鍛え上げた。奴が1度だけ見せた秘奥義『ディープスティンガー』あれを習得すべくひたすら真似をした。俺には刀がないので手刀で代用した。限界までチャクラを消耗し続けた。そのせいでまた山がひとつ消失し火影様に叱られた。本戦の前日まで迫り休養を取った。そして本戦を迎えた。
ネジの魔人化第弐形態はバージルの真魔人の大きな翼がなく二枚の翼のままで尻尾もなく
体格相応により細身になったような姿と想像していただけると幸いです。