―――女が眠っている間に体を白眼で見通す。うっすらと全身に呪印が刻まれているのを発見した。念のために点穴を突いて最小限のチャクラ量に抑える。うちはサスケがそうだったらしいが身体強化系の呪印も存在するらしいので呪印が発現したら縛っている紐など簡単にちぎってしまうだろうから予防策はとっておいた。女の寝顔を見つめる。見れば見るほど美しい。こんな感情を抱くのは人生で初めてではないだろうか。いつかは自分も嫁をもらって子を成して育てるという、朧気ながら人生設計を立てていたがこんなに早くその機会が訪れるとは思ってもいなかった。とはいってもこの女とは会話すらしていないので拒絶されたらそれでおしまいなのだが。と思っている内に女が目を覚ます。俺を見た瞬間ビクッと怯えた反応を見せる。
「テ、テメー⁉ ウチをどうする気だ⁉ ここはどこだ⁉ 他の奴らはどうした⁉ クソヤロー⁉」
ネジ「他の3人はお前を置いて逃げた。犬死にするかどちらか選べと聞いて奴らは逃げた。」
魔人化する。ノイズの掛かった声で女に尋ねる。
ネジ「呪印とやらを発現してここから逃げるか? また捕まえるがな。」
「テメー…一体何者なんだ…⁉ 妖怪と人間の合いの子か…⁉」
ネジ「悪魔の存在を信じるか? 悪魔と人間の女から生まれた半人半魔の男がこの世界に迷い込んで修行の中でいくらか血を飲まされた。だから俺の中にも悪魔の血が混じっている。まだ人間の割合が多いはずだ。」
「悪魔…普通ならとても信じられねーがテメーの姿を見た今なら信じられる。それにチャクラとは違う恐ろしい力を感じる。」
ネジ「それで…お前はどうする? 大蛇丸の下へ帰るのか?」
「今更帰ったって…スパイと思われるか役立たずとして処分されるか人体実験の材料にされるか…何にしろロクな死に方はしねーだろーよ。」
ネジ「ひとつ提案がある。俺と一緒にここで暮らさないか?」
「ウチを木の葉に突き出さねーのかよ⁉ 拷問しても無駄だぞ⁉ いつでも死ぬ覚悟は出来てる⁉」
ネジ「そんなこと出来るはずがない。俺はお前に惚れた。ひと目惚れという奴だ。」
「な、な、何言ってんだテメー⁉ ウチは敵だぞ⁉ 正気かクソヤロー⁉」
ネジ「俺にとっては敵じゃない。俺にとってはな。だがお前が逃げてどこかへ行こうとするならお前を殺さなくてはならない。誰かに捕まえられる前にな。」
魔人化を解く。寝転がる女の顔を両手で挟んで掴んで起こした。素顔のままでじっと女の目を見つめて告げる。
ネジ「俺は本気だ。お前に惚れた。人生初めての経験だ。これが女を好きになることなのかと思う。この感情を大事にしたい。」
「ほ、本気なのかよ…⁉ そんなこと急に言われてもウチはどうしたらいいのかわかんねーよ。」
ネジ「今すぐに返事が欲しいとは言わん。だがゆっくりと考えてほしい。とりあえず腹は減ってないか?今飯を持ってくる。」
「……。」
急いで握り飯と刻んだたくあんを皿に乗せて盆で運んでいく。女の前に置いた。女が犬のように顔を畳みに伏せて握り飯にかぶりついた。
ネジ「待て待て、そんな食い方をするな。俺が食わせてやる。口を開けろ。」
女が口を開ける。そっと握り飯を口に運ぶ。ひと口、ふた口でひとつの握り飯を食った。淡々と同じ作業を繰り返した。あっという間に完食した。水も飲ませた。
ネジ「いい食いっぷりだな。」
「便所に行きてーんだけど。」
ネジ「せめてトイレと言え。美人が台無しだぞ。」
「び⁉ じゃなくって⁉ 早く行かせろよ。漏れそーなんだよ。」
急いで手足の紐を解いて腰に巻きなおした。
ネジ「逃げるなよ。」
「逃げねーよ。」
トイレまで案内して入らせる。しばらく耳を塞いだ。しばらくして出てくる。ホッとした。湯呑に茶を入れて女に渡した。
ネジ「俺はしばらく鍛錬に励む。お前は眺めているか眠くなったら寝てもいいし腹が減ったらすぐに言え。しつこいようだが逃げるなよ。」
「お前から逃げられるくらいならそもそも捕まってねーよ。」
ネジ「わかっていればそれで良い。」
チャクラ活性化をさせてバージルに教わったことを黙々とおさらいした。途中から魔人化して体術の鍛錬もした。ミラージュエッジを使っての鍛錬も欠かさなかった。気づけば日が沈もうとしていた。チャクラも充分に消耗したのを確認して鍛錬を終えた。女はずっと俺から目を離さず眺めていた。
ネジ「腹が減っただろう。今支度をする。少し待っててくれ。あと風呂の支度もする。」
「お前…スゲー奴だったんだな。あんな術も体術も剣捌きも初めて見た。ウチがあっさりやられたのも納得できた。」
ネジ「俺の知ってる男はもっと凄いぞ。今はどこにいるか知らんが。」
「……。」
それから浴槽に湯を入れながら晩飯の支度を始めた。料理は決して得意ではないが今ある食材でたっぷりと美味いものを食べさせてやりたいと思い、張り切って作った。もう女の手足は縛らなかった。
ネジ「口に合うか自信がないが満足するまで食べてくれ。おかわりもあるぞ。」
「……お前、家族は?」
ネジ「母上は俺を産んでまもなく亡くなったらしい。父上は俺が幼いころに亡くなった。兄弟もいないので独り暮らしだ。親戚はそれなりにいるが。」
「それが日向の宗家か? 分家のままで悔しくねーの?」
ネジ「以前は宗家を恨んでいたが今はもうそんな気はない。俺には他にやるべきことがある。」
「『やるべきこと』って?」
「里の上層部も日向の宗家も誰も文句のつけようがないくらいにもっともっと強くなって…そうだな…手柄でも上げられれば手っ取り早い。」
「お前ならもっともっと強くなれる。そんな気がする。ウチなんかに言われても嬉しくねーだろーけど。」
ネジ「そんなことはない。お前の期待に応えるためにも強くなる。今そう決めた。そうだ、風呂に入るか?案内するぞ。」
「……入る。」
風呂場まで案内したところで気が付いた。着替えがない。どうしようかと思っていたところに母上の遺品がそのままになっているのを思い出した。急いで母上の使っていた部屋に入って遺品を漁って下着から浴衣まで一式揃えて女にひと声かけて着替えを置いた。母上には心の中で詫びた。俺は俺の分の晩飯を食って食器を洗って歯磨きを済ませてチャクラを活性化させながら空いている部屋に布団を敷いてくつろいだ。女の足音が聞こえる。湯上りの女を見る。綺麗だった。
ネジ「改めて見ると本当に美人だな。髪も美しい。」
「そんなこと言われてたの初めてで何て答えたらいいのかわからねーよ。」
ネジ「喜べばいいんじゃないか? 俺は素直に褒めてるつもりだ。洗面所に歯ブラシを用意したから歯磨きして布団を敷いたから眠かったら先に寝てていいぞ、こっちだ。」
洗面所と空き部屋に案内した。
ネジ「俺も風呂に入ってくる。それじゃあな。」
「……多由也。ウチの名だ。これからはそう呼んでくれ…。お前は日向ネジだろ?ウチもそう呼ぶ。」
ネジ「多由也か…。良い名前だな。それではお言葉に甘えてそう呼ばせてもらうとする。おやすみ。」
多由也「……おやすみ。」
少しだけでも女…いや多由也が心を開いてくれたようで俺は上機嫌で風呂に入って床に就いた。
今日は朝から妙な奴に出会った。名前は日向ネジ。木の葉の名門、日向一族の者だと聞いたがウチと同じくらいの年頃だと思って舐めてかかっていたが大蛇丸様の名前を口にした瞬間一気に叩きのめされた。あの時何をされたのか今でも思い出せない。中忍試験で大蛇丸様が気に入ったようなのでそれなりにやる奴だと思い込んでいたがそれなりどころじゃなかった。何度あの場面をやり直してもウチが負けることは変わらない運命だということを後で思い知らされることになった。目が覚めたら手足を紐で縛られていてどこかの屋敷の一室まで連れ去られたことはわかった。何故未だに生きているのかわからなかった。体に力が入らない。日向一族の柔拳というやつで弱体化させられたのだろうか。疑問に思っていると日向ネジが今思い出しても鳥肌が立つような恐ろしい姿に変化した。悪魔なんつー普通なら信じない存在を伝えられた。ウチは信じた。チャクラとは異質のもっと恐ろしい力を感じたからだ。それから日向ネジが悪魔の存在以上にブッたまげたことを言い出した。『俺はお前に惚れた。ひと目惚れという奴だ。』なんて言われた。それから優しく起こしてくれてウチの目を見つめながら『俺は本気だ。お前に惚れた。人生初めての経験だ。これが女を好きになることなのかと思う。この感情を大事にしたい。』って言われた。気が動転した。ウチを好きになる男が現れるなんて思いもしなかった。今まで男に囲まれて生きてきた。女で生き残ったのは他にひとりだけだ。音の五人衆なんて呼ばれたが筆頭の君麻呂には恐怖しかなかったし他の3人は仲間というよりライバルと言った方が正しい。いつも負けまいと張り合ってきた。大蛇丸様に至っては恐怖と崇拝と言ったところだろうか。カブト様も同様だ。恋心なんて持ったことは1度だってない。そんなウチに日向ネジはひたすら優しくしてくれた。飯も便所も世話してくれてそれから奴が鍛錬する姿をずっと眺めた。凄かった。途中から悪魔の姿になって鍛錬を続けた。眺めるだけで圧倒された。あんな力があれば君麻呂も…いや大蛇丸様だって殺されるんじゃないかって思った。それくらい物凄く強いのにウチに対しては晩飯も風呂も布団も用意してくれた。決して偉そうな態度は取らなかった。一日中優しくしてくれた。今までウチが生きてきた世界では強い者は傲慢に振る舞うのが当たり前だった。ウチもそうしてきた。ウチは日向ネジというひとりの男を通して人間の温かさというものに初めて触れた気がする。ウチも日向ネジのようになれるだろうか。忍としてではなく普通の人間として日向ネジのように優しい人間になりたいと思った。それに…『本当に美人だな。髪も美しい。』なんて言ってくれた。どうやら『褒められた』らしい。これが『嬉しい』という気持ちなんだろうか。もっと日向ネジに褒められたい、そう思いながら眠りについた。
一夜明けて多由也は素直な性格になった。言葉遣いも下品なものではなく普通になった。どういう心境の変化かは知らないが良い兆候だとは思った。多由也には忍ではなく普通の女として生きてほしいと伝えた。彼女は『そうする。」と答えた。嬉しかった。それから中忍試験本戦での俺の戦いぶりが評価されたのかそれなりに報酬の高い任務を任されるようになった。未だに下忍のままではあったが。任務に追われる日々が続いたが家に帰ると多由也が必ず迎えてくれるようになってくれて俺は増々任務に励むようになった。俺の個人的事情は良くなっていく一方だったが、いつの間にか次期火影が決まっていた。何でも初代様の孫で伝説の三忍のひとりとされる綱手とかいう女だそうだ。何故木の葉最大の一族を治めるヒアシ様が選ばれなかったのか不満に思った。燻った思いを抱えた日々を過ごしたある夜、覚えのある3つのチャクラを感知した。そしてその3人の近くにいるのは見知ったチャクラ…うちはサスケのものだった。急いで駆けつけた。
ネジ「何をしている貴様ら。死にに来たのか?」
「くっ⁉ 退け⁉」
3人は消え去った、うちはサスケを残して。
ネジ「……それで? 何を話していたんだ? 大蛇丸の勧誘でも受けたか?」
サスケ「……お前には関係ない。」
ネジ「関係ないっていうことはないだろう。抜け忍は死刑同然だぞ?木の葉だけでも大蛇丸に…お前の兄だったか、うちはイタチという立派なS級犯罪者で国際指名手配犯がいるんだぞ。もしお前が里を抜けるつもりなら俺がお前を殺すぞ。抜け忍を放っておくとロクなことにならんからな。」
サスケ「……俺の勝手だろうが⁉」
ネジ「……もしかしてハッタリだと思っているのか?お前を殺すなんて簡単だぞ。」
魔人化してミラージュエッジを喉に突き付ける。少し食い込んで首から血が流れる。ついでに烈風幻影剣で囲んでうちはサスケに刺さる寸前のところで止める。
ネジ「さて…どうする? このザマでも里を抜けるか?」
サスケ「……いいや。」
ネジ「物分かりが良くて助かる。妙な真似はするなよ。もし里を抜けたら日向一族の名誉に懸けてもお前を殺しに追いかけるぞ。それを忘れるな。」
サスケ「……わかった。」
俺の意思で幻影剣を砕く。ミラージュエッジについた血を血ぶりしてから背負った。早く言えに帰りたかった。立ち尽くすうちはサスケを置いて帰った。多由也が出迎えてくれる。幸せとはこういうものなのではないかと思った。それから数日後の朝、うちはサスケが里を抜けたという報せを聞いた。
俺はキレた。