(本編完結)『スローモーションの怪盗譚(ルパン・クロノス)』 作:微糖コーヒー
引き金を引いた瞬間、世界が止まった。
――いや、正確には“止まったように見えた”だけだ。
弾丸は確かに発射されている。火薬の爆ぜる音も、反動も、すべてが現実だ。だが、その軌道を、俺は“目で追っていた”。
「……やっぱりな」
俺は軽く首を傾け、弾丸を指先でつまんだ。
あり得ない? その通りだ。だが、ここは常識が通用する世界じゃない。
俺は――ルパン三世の世界に転生しているのだから。
名前はクロガネ・ユウ。
前世はただの一般人。だが、死んだ瞬間に“スキル”とやらを押し付けられ、この世界に叩き込まれた。
その能力は単純明快。
「あらゆる物理現象の遅延認識と干渉」
要するに、俺の視界では世界がスローモーションになる。ついでに、干渉もできる。
銃弾? 止められる。
爆発? 回避できる。
鍵? 構造を見れば開けられる。
チートってやつだ。
だが――
「そのチート、ルパン相手に通用すると思うか?」
低く渋い声が響いた。
振り向くと、帽子の影から鋭い視線がこちらを射抜く。
次元大介。
その手には愛銃、コンバットマグナム。
「試してみる価値はあると思ってる」
「いい度胸だな」
次元は煙草に火をつけ、紫煙を吐いた。
その瞬間。
俺の視界が変わる。
煙の流れが、風の揺らぎが、空気の密度が――すべて見える。
「……あんた、ただ者じゃねぇな」
「そっちこそ」
俺は笑った。
「ルパン一味に喧嘩売るつもりはない。ただ――」
言いかけたその時。
パンッ、と乾いた銃声。
俺は反射的に弾丸を掴む。
今度は背後から。
「ほぉ、やるじゃねぇか」
軽薄で楽しげな声。
振り返ると、そこに立っていたのは――
ルパン三世本人だった。
赤いジャケットを翻し、ニヤリと笑う。
「弾を素手で止めるなんて、まるで漫画みてぇだな」
「ここ、漫画みたいな世界だろ?」
「違いねぇ!」
ルパンは豪快に笑った。
その背後から、静かに歩み寄る影。
「斬る価値があるかどうか……試させてもらおう」
石川五ェ門。
刀をわずかに抜く。
空気が張り詰める。
だが――
「待って」
艶やかな声が場を制した。
振り向けば、妖艶な笑みを浮かべる女。
峰不二子だ。
「こんな面白そうな男、すぐ斬っちゃうのはもったいないわ」
「不二子ちゃ~ん♡」
「黙って、ルパン」
ピシャリと一蹴。
そして彼女は俺を見つめる。
「あなた、何者?」
「転生者って言ったら信じるか?」
一瞬の沈黙。
そして――
「信じるわ」
あっさりとした返答。
「だって、ここにいる人たち全員、常識外れだもの」
……まあ、確かに。
その時、遠くからサイレンが鳴り響いた。
「来たな」
ルパンがニヤリと笑う。
「とっつぁんだ」
案の定、次の瞬間には怒号が響く。
「ルパァァァン!!」
銭形警部が、部隊を率いて突入してきた。
「今日こそ逮捕だ!!」
「毎回言ってるよな、それ」
ルパンは軽く手を振る。
だが、その目は鋭い。
「で、どうする? 転生者くん」
「どうする、って?」
「決まってるだろ」
ルパンはニヤリと笑った。
「俺たちと組むか、敵になるかだ」
銭形の部隊が包囲を狭める。
五ェ門は刀に手をかけ、次元は銃を構え、不二子は逃走経路を計算している。
全員が“戦う準備”をしている。
俺は少し考えて――
「面白そうだな」
そう言って笑った。
「今回は手伝ってやるよ」
「交渉成立だな!」
ルパンが親指を立てた瞬間。
世界が加速する。
――いや、俺が“加速した”。
銃弾が飛ぶ。
警官が突入する。
閃光弾が炸裂する。
だが、俺の中ではすべてが遅い。
「こっちだ!」
俺は最適なルートを見抜き、叫ぶ。
ルパンがそれに乗る。
「いいねぇ! 気に入った!」
次元がカバー射撃。
五ェ門が障害物を一閃で切断。
不二子が爆弾を設置。
そして――
俺がすべてを“調整”する。
弾道、爆発のタイミング、敵の動き。
すべてが俺の手の中だ。
数秒後。
煙が晴れた時には――
そこにルパン一味の姿はなかった。
銭形だけが呆然と立ち尽くす。
「……また逃げられたか……」
屋上。
夜風が吹き抜ける。
「いやぁ、最高だったぜ!」
ルパンが笑う。
「お前、マジで使えるな!」
「便利屋じゃないんだけど」
「似たようなもんだろ?」
次元が煙草をくわえる。
「だが、あの能力……厄介すぎるな」
「敵に回したくないタイプだな」
五ェ門が静かに言う。
不二子は俺の腕に軽く触れた。
「ねぇ、ずっと一緒にやらない?」
「おい不二子!」
「冗談よ♡」
……多分な。
ルパンはそんなやり取りを見ながら、ニヤリと笑った。
「決まりだな」
「何が?」
「次の仕事だよ」
彼は夜空を指差す。
「世界一不可能な金庫を盗みに行く」
その目は、完全に“獲物”を見ていた。
「転生者くん、お前の出番だ」
俺は肩をすくめる。
「報酬次第だな」
「ははっ! ケチだねぇ!」
ルパンは笑いながら言った。
「だが――それでこそ仲間だ」
その瞬間、妙な確信があった。
この世界で。
この連中となら。
どんな無茶でも、きっと成功する。
――いや、成功させる。
俺のチートと、この最高の犯罪者たちで。
こうして、転生者クロガネ・ユウは――
ルパン一味と共に、“世界最高の不可能”へ挑むことになった。
第二章予告
「標的は“絶対に開かない金庫”――?」
「そう、その名も“ゼロ・ロック”だ」
「面白ぇじゃねぇか」
「……斬れぬものなどない」
「でも開けるのは私よ♡」
「やれやれ、騒がしい連中だ」
そして――
「その金庫、“時間”すら封じてるぞ」
転生者の能力が試される時が来る。