(本編完結)『スローモーションの怪盗譚(ルパン・クロノス)』 作:微糖コーヒー
乾いた風が吹く荒野。
遠くで錆びた看板が軋む音だけが響いていた。
「――ここなら文句ねぇだろ」
帽子のつばを押さえ、次元大介が言う。
俺――クロガネ・ユウは肩をすくめた。
「わざわざ人のいない場所選ぶあたり、本気だな」
「当たり前だ」
次元はゆっくりと煙草に火をつける。
「遊びじゃねぇ。確認だ」
「何の?」
「お前の“ズレ”が、どこまで通用するか」
……来たな。
「やるのはいいけど、条件は?」
「殺しはなし。急所は外す」
「十分物騒だろ」
「俺はいつもこんなもんだ」
煙を吐き、次元はニヤリと笑う。
「逃げていい。止めていい。好きにやれ」
「了解」
俺は軽く手を振る。
「こっちも遠慮しない」
静寂。
風が止む。
――その瞬間。
発砲。
速い。
だが――
「遅い」
俺の視界では、弾丸はゆっくりと空気を裂いてくる。
指先で掴める。
避けられる。
そう思った。
だが。
「……っ!?」
弾道が、わずかに“曲がる”。
指をかすめて、背後の岩に当たる。
「今のは……」
「勘だ」
次元が言う。
「お前が“そう動く”って読んで撃った」
「未来予知でもしてるのか?」
「してねぇよ」
次元は肩をすくめる。
「ただの経験だ」
……厄介だな。
「もう一発いくぞ」
再び発砲。
今度は二発。
連続。
俺はズラす。
時間の流れから半歩外れる。
弾丸はスローモーション。
だが。
片方が外れ、もう片方が――
「近い!」
頬をかすめる。
「……マジかよ」
「いい反応だ」
次元は淡々と言う。
「だが甘い」
「どこが」
「お前、“見てから”動いてる」
「それの何が問題だ?」
「遅れる」
次元の目が鋭くなる。
「俺は“撃ってから考える”」
再び発砲。
今度は三発。
ランダム。
読めない。
「……!」
俺はズラす。
だが弾の一つが、腕にかすった。
「チッ……!」
「だから言ったろ」
次元が言う。
「チートにも穴はある」
俺は一度距離を取る。
「なるほどな……」
「何か分かったか?」
「お前、“未来を作ってる”」
「大げさだな」
「いや、本質だ」
俺は笑う。
「予測じゃない。強引に“当てに来てる”」
「当たればいい。それだけだ」
「シンプルで厄介だな」
俺は深く息を吸う。
「じゃあ、こっちもやり方変える」
「ほう」
「“見てから”じゃなく、“ズレたまま動く”」
同期を外す。
完全じゃない。
だが――
世界が二重に見える。
「行くぞ」
俺は踏み込む。
次元が撃つ。
だが。
俺は“予測されない位置”にいる。
「……!」
弾が空を切る。
初めてだ。
「今度はこっちの番だな」
俺はナイフを投げる。
だが次元はすでに動いている。
「甘ぇ」
かわす。
即座に反撃。
発砲。
近距離。
「……っ!」
俺はギリギリでズラす。
弾が肩をかすめる。
「近づけばいいってもんじゃねぇ」
次元が言う。
「距離は関係ない。勝負は“瞬間”だ」
数分。
撃って、避けて、ズラして。
砂煙が舞う。
呼吸が荒くなる。
「……はぁ……」
「どうした、息上がってるぞ」
「そっちは余裕そうだな」
「慣れてるからな」
煙草を捨てる。
「そろそろ終わりにするか」
「同感だ」
最後の一発。
次元が構える。
俺も構える。
ズレを最大に。
全神経を集中。
――同時。
発砲。
時間が伸びる。
弾が近づく。
俺はズラす。
次元は――迷わない。
結果。
弾は互いの頬をかすめて通り過ぎた。
静寂。
「……ドローだな」
次元が言う。
「だな」
俺は息を吐く。
「面白ぇ能力だ」
「そっちもな」
「だが」
次元はニヤリと笑う。
「実戦じゃ遠慮しねぇぞ」
「こっちもだ」
遠くから声。
「おーい、終わったかー?」
手を振っているのは、ルパン三世。
その隣には、峰不二子。
「派手にやったわね」
「服汚れてるじゃない」
「うるさい」
「で、勝ったのはどっち?」
不二子が聞く。
「引き分けだ」
次元が答える。
「へぇ」
ルパンが笑う。
「いいじゃねぇか」
「何がだ」
「お互い、“殺せる距離にいる”ってことだろ?」
「物騒だな」
「最高だろ?」
……確かに。
悪くない。
こうして。
転生者とガンマンは――
互いの“底”を少しだけ知った。
そしてそれは、次の仕事で――
確実に役に立つ。