(本編完結)『スローモーションの怪盗譚(ルパン・クロノス)』   作:微糖コーヒー

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番外編④:銭形の執念(ワイルド・チェイス)

 

 

 夕暮れの街。

 

 人混み、クラクション、雑踏――その全部を切り裂くように響く怒号。

 

「ルパァァァン!!」

 

 お約束の開幕だ。

 

 怒声の主はもちろん、銭形警部。

 

 その先を、余裕の笑みで走るのが――

 

「捕まえてみな、とっつぁん!」

 

 ルパン三世。

 

 そして、その少し後ろ。

 

「……なんで毎回こうなるんだ」

 

 俺――クロガネ・ユウはため息をつきながら走っていた。

 

「文句言うなよ、ユウ!」

 

 ルパンが振り返る。

 

「これが“日常”だ!」

 

「嫌な日常だな!」

 

 裏路地に飛び込む。

 

 狭い。

 

 入り組んでる。

 

 逃げるには最適だが――

 

「包囲済みだ!」

 

 銭形の声。

 

 前方からも警官。

 

「マジかよ」

 

「予定通りだ」

 

 ルパンが笑う。

 

「予定に入れるなそんなもん」

 

「じゃあ、いつも通り行くぞ」

 

 俺を見る。

 

「ユウ」

 

「分かってる」

 

 ――ズレる。

 

 時間の流れから半歩外れる。

 

 世界が遅くなる。

 

「右ルート、三秒後に塞がる!」

 

「了解!」

 

 ルパンが即座に動く。

 

 次元がカバーに入り、次元大介が銃を撃つ。

 

 五ェ門が壁を斬り、石川五ェ門が道を作る。

 

 不二子が先導する。

 

 完璧な連携。

 

 だが――

 

「逃がさん!!」

 

 銭形が突っ込んでくる。

 

 真正面から。

 

 ズレも関係ない。

 

「……この人おかしいだろ」

 

「とっつぁんだからな」

 

 ルパンが軽く言う。

 

 俺はズレを強める。

 

 視界が歪む。

 

 動きが遅くなる。

 

 ――だが。

 

「止まれぇぇ!!」

 

 銭形が“読まずに突っ込む”。

 

 理屈じゃない。

 

 予測じゃない。

 

 執念。

 

「……っ!」

 

 タイミングが狂う。

 

 ズレてるはずなのに、距離が縮まる。

 

「マジでバグだろ……!」

 

「誉め言葉だ!」

 

 銭形が叫ぶ。

 

 いや、本人にとってはそうかもしれん。

 

 屋上へ。

 

 飛び出す。

 

 風が強い。

 

「ここまでだ!」

 

 銭形が叫ぶ。

 

 背後には警官隊。

 

 前は崖。

 

「どうする?」

 

 次元が聞く。

 

「簡単だ」

 

 ルパンが笑う。

 

「飛ぶ」

 

「毎回それだな」

 

「王道だろ?」

 

 ワイヤーを取り出す。

 

 だが――

 

「させるかぁぁぁ!!」

 

 銭形が飛び込んでくる。

 

 真正面。

 

 一直線。

 

「ユウ!」

 

「分かってる!」

 

 俺は最大までズレる。

 

 時間を歪める。

 

 銭形の動きが遅く――

 

 ……ならない。

 

「なんでだよ!?」

 

「気合いだ!!」

 

 気合いでどうにかなる話じゃないだろ!

 

 だが、ほんの一瞬。

 

 “ズレ”が効いた。

 

 足の位置。

 

 体重の乗り方。

 

 そのわずかな差。

 

「今だ!」

 

 ルパンが跳ぶ。

 

 ワイヤーが張る。

 

 全員が飛び移る。

 

 俺も続く。

 

 その瞬間。

 

「待てルパーン!!」

 

 銭形の手が伸びる。

 

 届きそうになる。

 

「……っ!」

 

 俺は反射的に手を出す。

 

 ズレた状態で。

 

 その結果。

 

 銭形の動きが、ほんの一瞬だけ遅れる。

 

 その“ほんの一瞬”で――

 

 距離が開く。

 

 向こう側のビル。

 

 着地。

 

 全員無事。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 息を整える。

 

 下を見ると、銭形が悔しそうに拳を握っている。

 

「……逃げられたか……」

 

 その顔。

 

 悔しさと、どこか満足そうな表情。

 

「また来るぞ、あれ」

 

 次元が言う。

 

「分かってる」

 

 俺は苦笑する。

 

「むしろ来ないと不安になるレベルだ」

 

「それがとっつぁんだ」

 

 ルパンが笑う。

 

 少し離れた屋上。

 

「ねぇ」

 

 峰不二子が言う。

 

「ユウ、さっき助けたでしょ?」

 

「無意識だ」

 

「優しいのね」

 

「違う」

 

 俺は首を振る。

 

「ただ……あの人に捕まるのは、なんか嫌だっただけだ」

 

「どういう意味?」

 

「負けた気がする」

 

「ははっ!」

 

 ルパンが大笑いする。

 

「分かるぜ、それ!」

 

 遠くで、まだ銭形の声が響く。

 

「ルパァァァン!!」

 

 その声を聞きながら、俺は思う。

 

 時間も。

 

 未来も。

 

 全部ズラせる。

 

 でも――

 

 あの男だけは。

 

「ズレねぇな……」

 

「だから面白いんだよ」

 

 ルパンが言う。

 

「追う奴がいるから、逃げるのも楽しい」

 

 ……確かに。

 

 こうして。

 

 執念の警部と、逃げる怪盗たちの追いかけっこは――

 

 今日も終わらない。

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