(本編完結)『スローモーションの怪盗譚(ルパン・クロノス)』   作:微糖コーヒー

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番外編⑤:ルパンと二人(スモーク・アンド・トーク)

 

 

 夜の屋上。

 

 街の灯りが宝石みたいに瞬いてる。

 

 風は穏やかで、銃声もサイレンも――今はない。

 

「静かだな」

 

 俺――クロガネ・ユウが言うと、

 

「たまにはな」

 

 手すりにもたれていたルパン三世が、軽く肩をすくめた。

 

 煙草に火をつける仕草は、いつも通り雑で、どこか様になってる。

 

「で、なんだよ。わざわざ呼び出して」

 

「別に」

 

 ルパンは煙を吐く。

 

「なんとなく話したくなっただけだ」

 

「珍しいな」

 

「そうか?」

 

「お前、基本うるさいじゃん」

 

「ひでぇな!」

 

 ケラケラ笑う。

 

 ……いつものルパンだ。

 

 少しの沈黙。

 

 街のざわめきだけが遠くで響く。

 

「なぁ、ユウ」

 

「なんだ」

 

「お前さ、元の世界に戻りたいか?」

 

 唐突だ。

 

 だが、軽い調子のまま聞いてくるあたりがルパンらしい。

 

「……どうだろうな」

 

「曖昧だな」

 

「そっちこそ、なんでそんなこと聞く」

 

「気になっただけだ」

 

 ルパンは空を見上げる。

 

「この世界、結構イカれてるだろ?」

 

「否定はしない」

 

「でも、悪くねぇだろ?」

 

「……まぁな」

 

 銃も、追跡も、無茶も。

 

 全部ひっくるめて――悪くない。

 

「だからさ」

 

 ルパンはニヤリと笑う。

 

「お前が戻るって言うなら、ちょっと寂しいなって思ってな」

 

「……意外と素直だな」

 

「たまにはな」

 

 俺は手すりにもたれる。

 

 風が気持ちいい。

 

「正直な話」

 

「おう」

 

「戻る理由があんまりない」

 

「へぇ」

 

「こっちの方が面白いしな」

 

「だろ?」

 

 ルパンは満足そうに笑う。

 

「それに」

 

 俺は少しだけ言葉を選ぶ。

 

「お前らがいるしな」

 

 一瞬、沈黙。

 

 ルパンは煙草を口から外して、少しだけ目を細めた。

 

「……いいこと言うじゃねぇか」

 

「今のはちょっと恥ずかしいから流してくれ」

 

「無理だな。覚えとく」

 

「最悪だ」

 

「なぁ」

 

 ルパンが再び口を開く。

 

「お前のその力」

 

「ズレのことか」

 

「そう」

 

 軽い調子が、ほんの少しだけ真面目になる。

 

「危ねぇよな」

 

「自覚はある」

 

「そのうちさ」

 

 ルパンは言う。

 

「本当に“戻れなくなる”かもしれねぇ」

 

「……かもな」

 

 否定はできない。

 

 むしろ、あり得る未来だ。

 

「怖くねぇの?」

 

「ちょっとはな」

 

 正直に答える。

 

「でもまぁ、その時はその時だ」

 

「適当だなぁ」

 

「お前に言われたくない」

 

「違いねぇ!」

 

 また笑う。

 

 少しして。

 

 ルパンはふと、真面目な顔になる。

 

「もしさ」

 

「ん?」

 

「お前が“消えそう”になったら」

 

 その言葉に、自然と視線が合う。

 

「……」

 

「ちゃんと盗み返してやるよ」

 

 軽い口調。

 

 でも、冗談じゃない。

 

 本気だ。

 

「何を?」

 

「お前自身だよ」

 

 ニヤリと笑う。

 

「時間だろうが、存在だろうが、全部ひっくるめてな」

 

「……無茶言うな」

 

「得意だろ?」

 

「まぁな」

 

 少し考えて――

 

「頼むわ」

 

「任せとけ」

 

 即答だった。

 

 そのとき。

 

「おーい、二人で何してんのよ」

 

 声が飛ぶ。

 

 振り向くと、峰不二子が手を振っている。

 

「内緒話?」

 

「秘密♡」

 

 ルパンが軽く答える。

 

「怪しいわね」

 

「いつもだろ?」

 

「それもそうね」

 

 不二子はため息をつく。

 

 少し遅れて、次元大介もやってくる。

 

「またくだらねぇ話してたのか」

 

「重要な話だ」

 

「どうせロクでもねぇ内容だろ」

 

「大当たり」

 

 五ェ門も静かに現れる。

 

 石川五ェ門は何も言わないが、空気で全部分かってる感じだ。

 

「さて」

 

 ルパンがパンと手を叩く。

 

「そろそろ次の仕事行くか」

 

「休みじゃなかったのか?」

 

「気が変わった」

 

「お前な」

 

「いいじゃねぇか」

 

 ルパンは笑う。

 

「静かな夜のあとには、派手な仕事が似合う」

 

「理屈になってない」

 

「雰囲気だ」

 

 夜風の中。

 

 俺は少しだけ空を見上げる。

 

 この世界。

 

 この連中。

 

 騒がしくて、無茶苦茶で――

 

 でも、悪くない。

 

「……行くか」

 

「その調子だ」

 

 ルパンが笑う。

 

「次も最高にイカした仕事にしようぜ」

 

 こうして。

 

 怪盗と転生者の、どうでもいいようで大事な会話は終わる。

 

 そしてまた――

 

 “いつも通りの非日常”が始まる。

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