(本編完結)『スローモーションの怪盗譚(ルパン・クロノス)』 作:微糖コーヒー
雨。
路地裏。
「……最悪だ」
俺――クロガネ・ユウは壁にもたれていた。
その隣。
「同感だ」
濡れたコートを払いながら言うのは、銭形警部。
――なぜこうなった。
数十分前。
いつも通り、ルパン一味で仕事中。
ターゲットは“変装も監視も全部すり抜ける”厄介な盗賊。
その名も《ゴースト》。
「姿が見えねぇ」
次元大介が眉をひそめる。
「センサーにも映らない」
峰不二子が端末を叩く。
「斬る対象がない」
石川五ェ門が静かに言う。
「いいねぇ」
ルパン三世は笑っていた。
「最高に面白そうじゃねぇか」
……嫌な予感しかしない。
そして現在。
なぜか俺は銭形と二人。
「で、なんであんたと組んでるんだ」
「それはこっちのセリフだ!」
銭形が即座に返す。
「本来なら貴様も逮捕対象だぞ!」
「分かってるよ」
「だが今は――」
銭形は拳を握る。
「奴を捕まえるのが先だ」
……真面目すぎる。
「で、そのゴーストってやつ」
「痕跡がない」
銭形が言う。
「だが、盗みは確実に起きている」
「つまり“結果だけ残る”タイプか」
「そうだ」
……どっかで聞いたような能力だな。
「ユウ」
銭形が俺を見る。
「お前の力、使えるな」
「まぁな」
「貸せ」
「雑だな頼み方」
「命令だ」
「断る」
「むぅ……!」
少し考えて、銭形は咳払い。
「……協力してくれ」
「最初からそう言え」
現場。
高級美術館。
警備は厳重。
だが――
「……もう盗まれてるな」
「何?」
銭形が振り向く。
「展示ケースの“空気”がズレてる」
「分かるのか?」
「なんとなくな」
俺は目を細める。
ズレる。
時間の流れを落とす。
すると――
「いた」
ほんの一瞬。
空間に“揺らぎ”。
「そこだ!」
銭形が突っ込む。
躊躇なし。
「待て!」
俺が叫ぶ前に。
銭形が何もない空間を“掴む”。
「……!?」
その手の中で、“何か”が暴れる。
姿は見えない。
だが確かにいる。
「捕まえたぞぉぉぉ!!」
……マジかよ。
「なんで掴めるんだよ」
「刑事の勘だ!」
「それで済ますな!」
「逃がさん!」
ゴーストが暴れる。
姿は見えないまま。
「ユウ!」
「分かってる!」
俺はズレる。
見えない対象の“輪郭”を探る。
触れる。
そこにある。
「そこだ!」
俺が位置を固定する。
銭形が手錠をかける。
――カチン。
その瞬間。
姿が現れる。
黒いスーツの男。
「くそ……!」
「観念しろ!」
銭形が叫ぶ。
「ルパンではなく、私に捕まるとは運がいいと思え!」
「それ、褒めてるのか?」
俺がツッコむ。
数分後。
事件解決。
「……やるな」
銭形が腕を組む。
「お前」
「そっちこそな」
「いや」
銭形は首を振る。
「お前がいなければ捕まえられなかった」
……素直だな。
「で」
「なんだ」
「俺、逮捕される?」
「……」
一瞬の沈黙。
銭形は空を見上げる。
「今回は見逃す」
「珍しいな」
「借りだ」
「律儀だな」
「だがな」
銭形は俺を指差す。
「次に会った時は容赦せん!」
「はいはい」
そのとき。
「おーいユウ!」
遠くから手を振る影。
ルパン三世。
その後ろに、いつもの面々。
「迎えに来たぜ!」
「遅い」
「いいとこ見てたからな」
「最低だな」
「最高だろ?」
「ルパァァァン!!」
銭形のスイッチが入る。
「やはり貴様らもいたか!!」
「じゃ、またなとっつぁん!」
ルパンが笑う。
全員で逃走開始。
俺も巻き込まれる。
「結局これかよ!」
「これが日常だ!」
……否定できない。
走りながら思う。
敵にも味方にもなる。
追う側にも逃げる側にもなる。
この世界は、ほんとにめちゃくちゃだ。
でも――
「悪くないな」
「だろ?」
ルパンが笑う。
こうして。
一時的な共闘と、いつもの追跡劇は――
何事もなかったかのように終わる。