(本編完結)『スローモーションの怪盗譚(ルパン・クロノス)』 作:微糖コーヒー
朝。
珍しく平和だった。
「……静かだな」
俺――クロガネ・ユウはコーヒーをすすりながら呟く。
「嵐の前ってやつね」
ソファに寝転がる峰不二子が笑う。
「やめろよそういうフラグ」
「事実だもの♡」
――その瞬間。
ガチャン、と扉が開いた。
「ユウ!」
ルパン三世が勢いよく入ってくる。
「仕事だ!」
「嫌な予感しかしない」
「今回のターゲットは――お前だ」
「帰る」
「待て待て待て」
ルパンが腕を掴む。
「話を聞け」
「聞きたくない」
「お前、“高値で売れる”らしいぞ」
「余計聞きたくない」
事情はこうだ。
裏社会で、“時間をズラす人間”の噂が広まっている。
当然、欲しがる連中も出てくる。
「で、その連中が“お前を盗む計画”を立てた」
煙を吐きながら次元大介が言う。
「つまり?」
「つまりだ」
ルパンがニヤリと笑う。
「盗まれる前に、俺たちが“盗む”」
「意味が分からん」
「簡単だ」
「説明しろ」
「お前を囮にする」
「帰る」
「安心しろって」
ルパンが肩を組む。
「ちゃんと助ける」
「信用できるか」
「できるだろ?」
「半分くらいな」
「十分だ!」
……ダメだこいつ。
作戦開始。
俺は一人で街を歩く。
完全に囮。
「……来るぞ」
イヤーピース越しにルパンの声。
周囲の空気が変わる。
視線。
気配。
そして――
背後から手。
「いただきだ」
「やっぱりな」
俺はズレる。
掴まれない。
……はずだった。
「捕まえた」
「……は?」
普通に腕を掴まれる。
「なんで!?」
「対策済みだ」
黒服の男が笑う。
「ズレる前に掴めばいい」
「雑だけど正解だな!」
そのまま袋を被せられる。
「ちょっと待てルパン!?」
『想定内だ!』
「絶対嘘だろ!」
目隠し。
移動。
数分後。
椅子に縛られていた。
「……マジでやられた」
「高く売れそうだ」
黒服たちが話している。
「能力者は貴重だからな」
……やばいなこれ。
ズレる。
ロープを外す。
だが――
「無駄だ」
男が言う。
「拘束具は時間干渉対策済みだ」
「なんでもありかよ」
「金をかけているからな」
……納得したくない。
「さて」
男が近づく。
「その力、どんなものか――」
その瞬間。
ガラスが割れる。
「派手に行くぜ!」
飛び込んできたのは――
ルパン三世。
「遅い!」
「演出だ!」
銃声。
煙幕。
次元大介が援護射撃。
石川五ェ門が拘束具ごと斬る。
「助かった……」
「礼はあとだ!」
不二子が叫ぶ。
峰不二子はすでにデータを抜いている。
「全部いただいたわ♡」
「仕事早いな」
脱出。
いつもの流れ。
屋上に到着。
「……で?」
俺はルパンを見る。
「想定内?」
「もちろん」
「嘘つけ」
「ちょっとだけ想定外だった」
「だろうな」
「でもよ」
ルパンが笑う。
「盗まれる気分、どうだった?」
「最悪だ」
「いい経験だろ?」
「二度といらん」
「ははっ!」
「でも」
不二子が近づく。
「分かったでしょ?」
「何が」
「あなた、ちゃんと“狙われる側”なのよ」
「……だな」
今までは使う側だった。
でもこれからは違う。
「守りも考えろってことか」
「そういうこと♡」
「まぁ安心しろ」
次元が言う。
「お前が盗まれても」
「取り返す」
五ェ門が続く。
「当然だ」
ルパンが笑う。
「俺たちは“怪盗”だからな」
「……頼もしいな」
「だろ?」
「でも次は断る」
「無理だな」
「なんでだよ」
「面白いから」
……ダメだこの連中。
こうして。
転生者クロガネ・ユウは――
“盗まれる側”の恐ろしさを知った。
そして同時に。
その状況すら楽しむ連中と、改めて関わっていることも。