(本編完結)『スローモーションの怪盗譚(ルパン・クロノス)』   作:微糖コーヒー

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番外編⑧:不二子の二重三重(トリプル・クロス)

 

 

 夜の高層ホテル。

 

 ガラス張りのラウンジに、柔らかなジャズが流れている。

 

「――遅いわね」

 

 脚を組み替え、峰不二子がため息をつく。

 

 視線の先には、俺――クロガネ・ユウ。

 

「呼び出したのそっちだろ」

 

「待たせるのが礼儀よ」

 

「どこの文化だそれ」

 

 不二子はくすっと笑った。

 

「で、仕事。やる?」

 

「内容次第」

 

「いい返事ね♡」

 

「ターゲットは“トリニティ・キー”」

 

 不二子がテーブルに写真を置く。

 

 金属製の小さな鍵。だがただの鍵じゃない。

 

「三つで一組。揃えると、どんな金庫も開くって噂」

 

「便利すぎるだろ」

 

「だから高いのよ」

 

 にっこり。

 

「で、三つのうち一つはここにある」

 

「残りは?」

 

「企業とマフィアが一つずつ持ってる」

 

「めんどくさいな」

 

「簡単な仕事なんてつまらないでしょ?」

 

 ……それは否定できない。

 

「今回の問題はね」

 

 不二子が身を乗り出す。

 

「この鍵、三つとも“偽物”が出回ってるの」

 

「は?」

 

「本物かどうか分からない」

 

「最悪だな」

 

「でしょ?」

 

 不二子は楽しそうに笑う。

 

「だから“騙し合い”になるのよ」

 

 数分後。

 

 俺はスーツ姿で会場に入っていた。

 

 完全にパーティー。

 

「なんで俺が潜入役なんだ」

 

『顔がバレてないからよ』

 

 イヤーピースから不二子の声。

 

『あと、あなたズレるでしょ?便利』

 

「雑だな理由」

 

『褒め言葉よ♡』

 

 会場内。

 

 ターゲットのケース。

 

 厳重な警備。

 

「……見つけた」

 

 鍵はガラスケースの中。

 

 だが。

 

「三つあるな」

 

『ええ、全部“それっぽい”でしょ』

 

「どれが本物だ」

 

『それを見抜くのがあなたの仕事♡』

 

「丸投げだな」

 

 俺はズレる。

 

 時間を落とす。

 

 細部を見る。

 

 空気の流れ。

 

 微細な振動。

 

「……これか」

 

 一つだけ、わずかに“ズレてない”。

 

 本物は“違和感がない”。

 

「取るぞ」

 

『どうぞ』

 

 俺はケースに手を伸ばす。

 

 ――その瞬間。

 

「動くな」

 

 背後から声。

 

 銃口。

 

 振り向くと、スーツの男。

 

「やっぱり来たか、ルパン一味」

 

「俺は違うんだが」

 

「同じだ」

 

 男は笑う。

 

「その鍵、いただく」

 

「悪いな」

 

 俺も笑う。

 

「それ、偽物だ」

 

「何?」

 

 一瞬の隙。

 

 ズレる。

 

 銃をかわす。

 

 鍵を奪う。

 

 男が撃つ。

 

 だが外れる。

 

「じゃあな」

 

 俺はその場を離脱。

 

 外。

 

 屋上。

 

 不二子が待っていた。

 

「お疲れ様♡」

 

「で?」

 

「で?」

 

「本物か?」

 

 不二子は鍵を見て、にやりと笑う。

 

「……半分正解」

 

「は?」

 

「これ、本物“じゃない”わ」

 

「おい」

 

「でも“本物に繋がる鍵”」

 

「余計ややこしいな」

 

 そのとき。

 

「さすがだな、不二子ちゃん」

 

 拍手。

 

 振り向くと――

 

 ルパン三世。

 

「見てたのか」

 

「最初からな」

 

「で?」

 

 ルパンはポケットから鍵を取り出す。

 

「本物はこっち」

 

「はぁ!?」

 

 不二子が目を細める。

 

「どうやって?」

 

「企業の方から盗んできた」

 

「タイミング良すぎでしょ」

 

「怪盗だからな」

 

「じゃあ、その鍵ちょうだい」

 

「やだね」

 

「ケチ」

 

「褒め言葉だ」

 

 にらみ合い。

 

 完全にいつもの流れ。

 

 その隙。

 

「……いただき」

 

 不二子が動く。

 

 ルパンの懐から鍵を奪う。

 

「甘いわね」

 

「おっと」

 

 ルパンが笑う。

 

 不二子の手の中の鍵が――

 

 変わる。

 

「……偽物」

 

「二重だ」

 

 ルパンが言う。

 

「お前が来るのは読んでた」

 

「性格悪いわね」

 

「お互い様だろ?」

 

 俺はため息をつく。

 

「……で、どれが本物だ」

 

 二人同時に答える。

 

「「これ」」

 

 別々の鍵を指差す。

 

「……もう嫌だ」

 

 沈黙。

 

 数秒後。

 

 不二子が笑う。

 

「正解は――これよ」

 

 彼女は俺のポケットから鍵を取り出した。

 

「……は?」

 

「さっき渡したときに入れ替えたの」

 

「いつの間に!?」

 

「最初からよ♡」

 

 ルパンが大笑いする。

 

「ははっ!完敗だ!」

 

「当然でしょ」

 

「で、それ本物か?」

 

「さぁ?」

 

「おい」

 

「確かめてみればいいじゃない」

 

 結局。

 

 その鍵は“ほぼ本物”。

 

 完全じゃないが、かなり近い。

 

「まぁ上出来だな」

 

 次元が言う。

 

 次元大介は呆れ顔だ。

 

「疲れた……」

 

「楽しかったでしょ?」

 

 不二子が笑う。

 

「……まぁな」

 

 帰り道。

 

「ねぇユウ」

 

「なんだ」

 

「また組む?」

 

「条件次第」

 

「いい返事ね♡」

 

 こうして。

 

 騙し、騙され、また騙す。

 

 不二子の仕事は――

 

 いつだって、三手先まで裏がある。

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