(本編完結)『スローモーションの怪盗譚(ルパン・クロノス)』 作:微糖コーヒー
夜の高層ホテル。
ガラス張りのラウンジに、柔らかなジャズが流れている。
「――遅いわね」
脚を組み替え、峰不二子がため息をつく。
視線の先には、俺――クロガネ・ユウ。
「呼び出したのそっちだろ」
「待たせるのが礼儀よ」
「どこの文化だそれ」
不二子はくすっと笑った。
「で、仕事。やる?」
「内容次第」
「いい返事ね♡」
「ターゲットは“トリニティ・キー”」
不二子がテーブルに写真を置く。
金属製の小さな鍵。だがただの鍵じゃない。
「三つで一組。揃えると、どんな金庫も開くって噂」
「便利すぎるだろ」
「だから高いのよ」
にっこり。
「で、三つのうち一つはここにある」
「残りは?」
「企業とマフィアが一つずつ持ってる」
「めんどくさいな」
「簡単な仕事なんてつまらないでしょ?」
……それは否定できない。
「今回の問題はね」
不二子が身を乗り出す。
「この鍵、三つとも“偽物”が出回ってるの」
「は?」
「本物かどうか分からない」
「最悪だな」
「でしょ?」
不二子は楽しそうに笑う。
「だから“騙し合い”になるのよ」
数分後。
俺はスーツ姿で会場に入っていた。
完全にパーティー。
「なんで俺が潜入役なんだ」
『顔がバレてないからよ』
イヤーピースから不二子の声。
『あと、あなたズレるでしょ?便利』
「雑だな理由」
『褒め言葉よ♡』
会場内。
ターゲットのケース。
厳重な警備。
「……見つけた」
鍵はガラスケースの中。
だが。
「三つあるな」
『ええ、全部“それっぽい”でしょ』
「どれが本物だ」
『それを見抜くのがあなたの仕事♡』
「丸投げだな」
俺はズレる。
時間を落とす。
細部を見る。
空気の流れ。
微細な振動。
「……これか」
一つだけ、わずかに“ズレてない”。
本物は“違和感がない”。
「取るぞ」
『どうぞ』
俺はケースに手を伸ばす。
――その瞬間。
「動くな」
背後から声。
銃口。
振り向くと、スーツの男。
「やっぱり来たか、ルパン一味」
「俺は違うんだが」
「同じだ」
男は笑う。
「その鍵、いただく」
「悪いな」
俺も笑う。
「それ、偽物だ」
「何?」
一瞬の隙。
ズレる。
銃をかわす。
鍵を奪う。
男が撃つ。
だが外れる。
「じゃあな」
俺はその場を離脱。
外。
屋上。
不二子が待っていた。
「お疲れ様♡」
「で?」
「で?」
「本物か?」
不二子は鍵を見て、にやりと笑う。
「……半分正解」
「は?」
「これ、本物“じゃない”わ」
「おい」
「でも“本物に繋がる鍵”」
「余計ややこしいな」
そのとき。
「さすがだな、不二子ちゃん」
拍手。
振り向くと――
ルパン三世。
「見てたのか」
「最初からな」
「で?」
ルパンはポケットから鍵を取り出す。
「本物はこっち」
「はぁ!?」
不二子が目を細める。
「どうやって?」
「企業の方から盗んできた」
「タイミング良すぎでしょ」
「怪盗だからな」
「じゃあ、その鍵ちょうだい」
「やだね」
「ケチ」
「褒め言葉だ」
にらみ合い。
完全にいつもの流れ。
その隙。
「……いただき」
不二子が動く。
ルパンの懐から鍵を奪う。
「甘いわね」
「おっと」
ルパンが笑う。
不二子の手の中の鍵が――
変わる。
「……偽物」
「二重だ」
ルパンが言う。
「お前が来るのは読んでた」
「性格悪いわね」
「お互い様だろ?」
俺はため息をつく。
「……で、どれが本物だ」
二人同時に答える。
「「これ」」
別々の鍵を指差す。
「……もう嫌だ」
沈黙。
数秒後。
不二子が笑う。
「正解は――これよ」
彼女は俺のポケットから鍵を取り出した。
「……は?」
「さっき渡したときに入れ替えたの」
「いつの間に!?」
「最初からよ♡」
ルパンが大笑いする。
「ははっ!完敗だ!」
「当然でしょ」
「で、それ本物か?」
「さぁ?」
「おい」
「確かめてみればいいじゃない」
結局。
その鍵は“ほぼ本物”。
完全じゃないが、かなり近い。
「まぁ上出来だな」
次元が言う。
次元大介は呆れ顔だ。
「疲れた……」
「楽しかったでしょ?」
不二子が笑う。
「……まぁな」
帰り道。
「ねぇユウ」
「なんだ」
「また組む?」
「条件次第」
「いい返事ね♡」
こうして。
騙し、騙され、また騙す。
不二子の仕事は――
いつだって、三手先まで裏がある。