(本編完結)『スローモーションの怪盗譚(ルパン・クロノス)』   作:微糖コーヒー

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番外編⑪:三つ巴の温度(トライアングル・ヒート)

 

 

 夜のカジノ。

 

 シャンデリアの光が、やけにきらびやかだ。

 

「……今日はやけに機嫌いいな」

 

 俺――クロガネ・ユウが呟くと、

 

「そうか?」

 

 カードを弄びながら、ルパン三世が笑う。

 

 その視線は、テーブルの向こう――

 

 峰不二子に向いている。

 

「不二子ちゃん、ドレス似合ってるねぇ」

 

「当たり前でしょ」

 

 不二子はさらっと返す。

 

 だが、ちらりと俺の方も見る。

 

 ……なんだこの空気。

 

「で、今回の仕事は?」

 

 俺が話を戻す。

 

「“ハート・オブ・ノクターン”」

 

 ルパンがチップを弾く。

 

「触れた人間の“感情”を増幅する宝石だ」

 

「ロクでもねぇな」

 

「だから高い」

 

 ルパンはニヤリと笑う。

 

「で、今回は“誰が取るか”勝負だ」

 

「は?」

 

「ルパン、またそういうのやるの?」

 

 不二子が呆れる。

 

「いいじゃねぇか、たまには」

 

「たまにじゃないでしょ」

 

「で、ルールは簡単」

 

 ルパンが指を立てる。

 

「一番先に手に入れた奴の勝ち」

 

「チームプレイは?」

 

「なし」

 

「……お前な」

 

「楽しそうだろ?」

 

 ……確かに。

 

 嫌いじゃない。

 

 展示室。

 

 中央に宝石。

 

 警備は厳重。

 

「じゃ、スタートだ」

 

 ルパンが軽く言う。

 

 その瞬間。

 

 三人同時に動いた。

 

 俺はズレる。

 

 時間を落とす。

 

 レーザー、センサー、全部問題なし。

 

 だが――

 

「遅い♡」

 

 不二子が先に進んでいる。

 

「なんでだよ」

 

「女の勘よ」

 

「便利すぎるだろそれ」

 

 その横を――

 

「いただき」

 

 ルパンが滑り込む。

 

「おい!」

 

「怪盗だからな」

 

 宝石に手が伸びる。

 

 だが。

 

 俺はズレる。

 

 その瞬間だけ奪う。

 

「悪いな」

 

 宝石を掴む。

 

「やるじゃねぇか」

 

 ルパンが笑う。

 

 そのとき。

 

 不二子が近づく。

 

「ねぇユウ」

 

「なんだ」

 

「ちょっと貸して?」

 

「嫌だ」

 

「ケチ」

 

 そのまま、距離が近づく。

 

 ……嫌な予感。

 

「ちょっとだけでいいのに」

 

「その“ちょっと”が怪しい」

 

「信用ないのね」

 

「あるわけないだろ」

 

 不二子が笑う。

 

 そして――

 

 俺の頬に軽く触れる。

 

 その瞬間。

 

「……!」

 

 宝石が消える。

 

「……は?」

 

「いただき♡」

 

 不二子の手に移っている。

 

「いつの間に!?」

 

「さっきよ」

 

 ……完全にやられた。

 

「いいねぇ」

 

 ルパンが笑う。

 

「さすが不二子ちゃん」

 

「当然でしょ」

 

 勝ち誇る不二子。

 

 だが。

 

「それ、偽物だぜ」

 

「え?」

 

 ルパンがポケットから宝石を取り出す。

 

「本物はこっち」

 

「……は?」

 

「お前がユウに仕掛けてる間に入れ替えた」

 

 にやり。

 

「二人まとめていただき」

 

「性格悪いわね」

 

「褒め言葉だ」

 

 沈黙。

 

 数秒。

 

 俺が言う。

 

「……で、これも偽物だろ」

 

「なに?」

 

「触った感触が違う」

 

 ズレた感覚で分かる。

 

 これは違う。

 

 その瞬間。

 

 不二子が笑う。

 

「正解♡」

 

 彼女はゆっくりと胸元から宝石を取り出す。

 

「最初から持ってたのよ」

 

「おい」

 

「二人とも、ちゃんと見てないんだもの」

 

「完敗だな」

 

 ルパンが笑う。

 

「今日は不二子ちゃんの勝ちだ」

 

「当然でしょ」

 

 不二子は満足そうに笑う。

 

 その後。

 

 屋上。

 

 いつもの場所。

 

「で、報酬は?」

 

 俺が聞く。

 

「そうねぇ」

 

 不二子が考える。

 

 そして――

 

 俺の方に来る。

 

 距離が近い。

 

「ユウには――これ」

 

 軽くキス。

 

「……おい」

 

「勝者の特権♡」

 

 ……ずるい。

 

「じゃあ俺は?」

 

 ルパンが手を上げる。

 

「なし」

 

「なんで!?」

 

「頑張りが足りない」

 

「ひでぇ!」

 

 ルパンが大げさに肩を落とす。

 

 だが、目は笑ってる。

 

「なぁユウ」

 

 ルパンが小声で言う。

 

「面白いだろ?」

 

「……まぁな」

 

「もうちょい頑張れよ」

 

「何をだ」

 

「分かってるくせに」

 

 ニヤリ。

 

 ……完全に遊ばれてる。

 

 その横で、不二子がこちらを見る。

 

 ほんの一瞬だけ。

 

 さっきとは違う表情。

 

 少しだけ、真面目な目。

 

 でもすぐに消える。

 

「さ、帰るわよ」

 

 いつもの調子。

 

 こうして。

 

 三人の距離は、近づいたり離れたり。

 

 決して固定されないまま――

 

 でも確実に、何かが動き始めていた。

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