(本編完結)『スローモーションの怪盗譚(ルパン・クロノス)』 作:微糖コーヒー
夜のカジノ。
シャンデリアの光が、やけにきらびやかだ。
「……今日はやけに機嫌いいな」
俺――クロガネ・ユウが呟くと、
「そうか?」
カードを弄びながら、ルパン三世が笑う。
その視線は、テーブルの向こう――
峰不二子に向いている。
「不二子ちゃん、ドレス似合ってるねぇ」
「当たり前でしょ」
不二子はさらっと返す。
だが、ちらりと俺の方も見る。
……なんだこの空気。
「で、今回の仕事は?」
俺が話を戻す。
「“ハート・オブ・ノクターン”」
ルパンがチップを弾く。
「触れた人間の“感情”を増幅する宝石だ」
「ロクでもねぇな」
「だから高い」
ルパンはニヤリと笑う。
「で、今回は“誰が取るか”勝負だ」
「は?」
「ルパン、またそういうのやるの?」
不二子が呆れる。
「いいじゃねぇか、たまには」
「たまにじゃないでしょ」
「で、ルールは簡単」
ルパンが指を立てる。
「一番先に手に入れた奴の勝ち」
「チームプレイは?」
「なし」
「……お前な」
「楽しそうだろ?」
……確かに。
嫌いじゃない。
展示室。
中央に宝石。
警備は厳重。
「じゃ、スタートだ」
ルパンが軽く言う。
その瞬間。
三人同時に動いた。
俺はズレる。
時間を落とす。
レーザー、センサー、全部問題なし。
だが――
「遅い♡」
不二子が先に進んでいる。
「なんでだよ」
「女の勘よ」
「便利すぎるだろそれ」
その横を――
「いただき」
ルパンが滑り込む。
「おい!」
「怪盗だからな」
宝石に手が伸びる。
だが。
俺はズレる。
その瞬間だけ奪う。
「悪いな」
宝石を掴む。
「やるじゃねぇか」
ルパンが笑う。
そのとき。
不二子が近づく。
「ねぇユウ」
「なんだ」
「ちょっと貸して?」
「嫌だ」
「ケチ」
そのまま、距離が近づく。
……嫌な予感。
「ちょっとだけでいいのに」
「その“ちょっと”が怪しい」
「信用ないのね」
「あるわけないだろ」
不二子が笑う。
そして――
俺の頬に軽く触れる。
その瞬間。
「……!」
宝石が消える。
「……は?」
「いただき♡」
不二子の手に移っている。
「いつの間に!?」
「さっきよ」
……完全にやられた。
「いいねぇ」
ルパンが笑う。
「さすが不二子ちゃん」
「当然でしょ」
勝ち誇る不二子。
だが。
「それ、偽物だぜ」
「え?」
ルパンがポケットから宝石を取り出す。
「本物はこっち」
「……は?」
「お前がユウに仕掛けてる間に入れ替えた」
にやり。
「二人まとめていただき」
「性格悪いわね」
「褒め言葉だ」
沈黙。
数秒。
俺が言う。
「……で、これも偽物だろ」
「なに?」
「触った感触が違う」
ズレた感覚で分かる。
これは違う。
その瞬間。
不二子が笑う。
「正解♡」
彼女はゆっくりと胸元から宝石を取り出す。
「最初から持ってたのよ」
「おい」
「二人とも、ちゃんと見てないんだもの」
「完敗だな」
ルパンが笑う。
「今日は不二子ちゃんの勝ちだ」
「当然でしょ」
不二子は満足そうに笑う。
その後。
屋上。
いつもの場所。
「で、報酬は?」
俺が聞く。
「そうねぇ」
不二子が考える。
そして――
俺の方に来る。
距離が近い。
「ユウには――これ」
軽くキス。
「……おい」
「勝者の特権♡」
……ずるい。
「じゃあ俺は?」
ルパンが手を上げる。
「なし」
「なんで!?」
「頑張りが足りない」
「ひでぇ!」
ルパンが大げさに肩を落とす。
だが、目は笑ってる。
「なぁユウ」
ルパンが小声で言う。
「面白いだろ?」
「……まぁな」
「もうちょい頑張れよ」
「何をだ」
「分かってるくせに」
ニヤリ。
……完全に遊ばれてる。
その横で、不二子がこちらを見る。
ほんの一瞬だけ。
さっきとは違う表情。
少しだけ、真面目な目。
でもすぐに消える。
「さ、帰るわよ」
いつもの調子。
こうして。
三人の距離は、近づいたり離れたり。
決して固定されないまま――
でも確実に、何かが動き始めていた。