(本編完結)『スローモーションの怪盗譚(ルパン・クロノス)』   作:微糖コーヒー

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番外編⑫:譲る男(シルバー・スマイル)

 

 

 夜の美術館。

 

 静まり返った展示室の中央に――

 

 例の宝石があった。

 

「今回のターゲット、“ブルー・シンフォニー”」

 

 ルパン三世が軽く言う。

 

「感情増幅系か?」

 

 俺――クロガネ・ユウが聞く。

 

「そんなとこだ」

 

 ルパンは肩をすくめる。

 

「で、今回は“いつも通り”だ」

 

「いつも通り?」

 

「好きにやれ」

 

 ……珍しい。

 

 勝負だのなんだの言いそうな場面なのに。

 

 侵入。

 

 警備は厳重。

 

 だが。

 

「行くぞ」

 

 俺はズレる。

 

 時間を落とす。

 

 レーザーを抜ける。

 

 監視をすり抜ける。

 

 順調すぎる。

 

 ……逆に不自然だ。

 

「ユウ」

 

 イヤーピース越しに声。

 

 峰不二子だ。

 

『左、気をつけて』

 

「了解」

 

 言われた通りに動く。

 

 トラップ回避。

 

 ……全部、完璧に通る。

 

 そして。

 

 宝石の前。

 

「……来たな」

 

 手を伸ばす。

 

 ――その瞬間。

 

 背後に気配。

 

 振り向く。

 

 そこにいるのは。

 

「よぉ」

 

 ルパン。

 

 いつの間にか、すぐ後ろに立っている。

 

「……やっぱり来たか」

 

「そりゃな」

 

 ニヤリと笑う。

 

「譲るわけねぇだろ?」

 

「だろうな」

 

 俺も構える。

 

 軽く。

 

 でも真剣に。

 

 数秒の間。

 

 空気が張る。

 

 どっちが先に動くか。

 

 その勝負。

 

「――どうする?」

 

 俺が聞く。

 

「どうするって?」

 

「取り合うか」

 

「……いや」

 

 ルパンは少しだけ間を置いて――

 

 笑った。

 

「今回はやめとく」

 

「は?」

 

「いいから、取れよ」

 

「お前、何言ってる」

 

「言葉の通りだ」

 

 ルパンは一歩下がる。

 

「お前の仕事だろ?」

 

「……」

 

 違和感。

 

 強すぎる。

 

「何企んでる」

 

「何も?」

 

「信用できるか」

 

「ひでぇな」

 

 笑ってる。

 

 でも。

 

 その目は――いつもより静かだ。

 

「……分かった」

 

 俺は言う。

 

「じゃあ遠慮なく」

 

 宝石を取る。

 

 警報なし。

 

 成功。

 

 屋上。

 

 夜風。

 

「……マジで何もしなかったな」

 

「だろ?」

 

 ルパンが笑う。

 

「どういう風の吹き回しだ」

 

「気分だよ」

 

「嘘つけ」

 

「ばれた?」

 

 ……やっぱりな。

 

「ねぇルパン」

 

 不二子が近づく。

 

「どういうつもり?」

 

「何が?」

 

「分かってるでしょ」

 

 不二子の目は、少しだけ鋭い。

 

「ユウに譲ったでしょ」

 

「譲ってねぇよ」

 

「嘘」

 

「バレるなぁ」

 

 ルパンは頭をかく。

 

「なんで?」

 

 不二子が聞く。

 

 静かな声。

 

 少しだけ、本気のトーン。

 

「簡単だ」

 

 ルパンは言う。

 

「今回は、あいつの方が向いてた」

 

「それだけ?」

 

「それだけ」

 

 ……嘘だな。

 

 分かる。

 

「もう一個理由があるだろ」

 

 俺が言う。

 

「なんだよ」

 

「面白がってる」

 

「正解」

 

 ルパンは笑う。

 

「どうなるか見てみたくてな」

 

「何が」

 

「お前らが」

 

 沈黙。

 

 不二子が少しだけ目を細める。

 

「……最低ね」

 

「最高だろ?」

 

「性格悪い」

 

「褒め言葉だ」

 

「でもよ」

 

 ルパンが続ける。

 

「悪くねぇだろ?」

 

「何が」

 

「こういうの」

 

 視線が、俺と不二子を行き来する。

 

 完全に分かってる顔だ。

 

「……お前な」

 

「いいじゃねぇか」

 

 ルパンは肩をすくめる。

 

「俺は“盗む”のが仕事だが」

 

 一瞬だけ、真面目な目。

 

「譲るのも、たまには悪くねぇ」

 

 不二子が黙る。

 

 珍しく。

 

 そして。

 

「……バカね」

 

 小さく呟く。

 

 でも。

 

 どこか優しい声。

 

「じゃあ、報酬は?」

 

 俺が聞く。

 

「そうね」

 

 不二子が俺を見る。

 

 少しだけ考えて。

 

「あなたにあげる」

 

「何を」

 

 その瞬間。

 

 軽くキス。

 

「……おい」

 

「今回の分♡」

 

「じゃあ俺は?」

 

 ルパンが手を上げる。

 

「なし」

 

「ひでぇ!」

 

 だが。

 

 笑ってる。

 

 満足そうに。

 

「なぁユウ」

 

 ルパンが小声で言う。

 

「なんだ」

 

「ちゃんと掴めよ」

 

「何を」

 

「決まってるだろ」

 

 ニヤリ。

 

 ……完全に分かってる。

 

 その夜。

 

 風は穏やかで。

 

 三人の距離は――

 

 ほんの少しだけ、変わった。

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