(本編完結)『スローモーションの怪盗譚(ルパン・クロノス)』   作:微糖コーヒー

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番外編⑬:選ぶ女(ラスト・チョイス)

 

 

 

 夜の摩天楼。

 

 風が強い。

 

 いつもと違う。

 

 空気が、少しだけ重い。

 

「今回の仕事は――“最後の鍵”よ」

 

 静かに言ったのは、峰不二子。

 

 その声は、珍しく軽くない。

 

「最後?」

 

 俺――クロガネ・ユウが聞く。

 

「トリニティ・キー、覚えてるでしょ?」

 

「ああ」

 

「三つ揃えば、どんなロックも開くやつ」

 

「その最後が、今夜」

 

「ただし」

 

 不二子は続ける。

 

「今回は“選択”がある」

 

「またそれか」

 

「今度は、本当に」

 

 視線が真っ直ぐ来る。

 

「一人しか取れない」

 

「……どういう意味だ」

 

「簡単よ」

 

 少しだけ間。

 

「誰か一人しか、そこに入れないの」

 

 ルパンが笑う。

 

 ルパン三世。

 

「いいねぇ、分かりやすいじゃねぇか」

 

「誰が行くか、って話か」

 

「そう」

 

 不二子は頷く。

 

「で、私が決める」

 

 沈黙。

 

 風の音だけ。

 

「俺でもいいし」

 

 ルパンが言う。

 

「ユウでもいい」

 

「……」

 

「選べよ、不二子ちゃん」

 

 軽い口調。

 

 でも、その目は――全部分かってる。

 

「……まだ決めてない」

 

 不二子が言う。

 

 ほんの少しだけ、迷いが見える。

 

 それが逆に珍しい。

 

 作戦開始。

 

 施設内部。

 

 静かすぎる。

 

「制限エリア、あそこね」

 

 不二子が指す。

 

 狭い通路。

 

 一人しか通れない。

 

「……ここで決めるか」

 

 ルパンが言う。

 

「そうね」

 

 不二子が頷く。

 

「じゃあ、行くか」

 

 ルパンが一歩出る。

 

 だが。

 

 止まる。

 

 振り返る。

 

 そして――

 

 俺を見る。

 

「……お前、行け」

 

 ぽつりと。

 

「は?」

 

「ユウ、お前が行け」

 

「なんでだ」

 

「分かるだろ」

 

 ニヤリと笑う。

 

「俺じゃねぇ」

 

「ルパン」

 

 不二子が言う。

 

「いいの?」

 

「いいんだよ」

 

 軽く手を振る。

 

「今回はな」

 

 沈黙。

 

 風が吹く。

 

 不二子が、俺を見る。

 

 そして。

 

「……ユウ」

 

 小さく呼ぶ。

 

「行って」

 

 その一言。

 

 迷いはない。

 

「了解」

 

 俺は頷く。

 

 ズレる。

 

 通路へ入る。

 

 内部。

 

 最深部。

 

 鍵がある。

 

「……これか」

 

 手を伸ばす。

 

 取る。

 

 成功。

 

 戻る。

 

 屋上。

 

 風。

 

 二人が待っている。

 

「取ってきた」

 

 鍵を見せる。

 

「さすが」

 

 ルパンが笑う。

 

 だが。

 

 不二子は、何も言わない。

 

 ただ、こちらを見る。

 

「……どうした」

 

「……」

 

 数秒。

 

 そして。

 

「ごめん」

 

 不二子が言う。

 

「何が」

 

「決めたの、さっきじゃないの」

 

「じゃあ?」

 

「最初から」

 

 ルパンが笑う。

 

「だろうな」

 

「……どういう意味だ」

 

 俺が聞く。

 

「最初から決めてたのよ」

 

 不二子が言う。

 

「今回、選ぶなら――」

 

 少しだけ間。

 

「あなたって」

 

 風が強く吹く。

 

「……なんでだ」

 

「理由、いる?」

 

「いるだろ」

 

「簡単よ」

 

 不二子は一歩近づく。

 

「ルパンは、放っておいても大丈夫」

 

「……おい」

 

 ルパンが苦笑する。

 

「ひでぇな」

 

「でも」

 

 不二子は続ける。

 

「あなたは違う」

 

「どう違う」

 

「放っておくと、どっか行きそうなのよ」

 

 小さく笑う。

 

「消えそうで」

 

 ……ああ。

 

 そういうことか。

 

「だから?」

 

「だから、選んだの」

 

 静かに。

 

「ちゃんと“ここにいる方”を」

 

 沈黙。

 

 ルパンが肩をすくめる。

 

「完全に振られたな、俺」

 

「違うわよ」

 

「慰めはいらねぇ」

 

 笑ってる。

 

 本気じゃない。

 

 でも。

 

 ちゃんと分かってる顔。

 

「なぁユウ」

 

「なんだ」

 

「勝ったな」

 

「そういうのじゃないだろ」

 

「いや、そういうのだ」

 

 ニヤリ。

 

「……お前な」

 

 そのとき。

 

 不二子が俺の腕を掴む。

 

「ねぇ」

 

「なんだ」

 

「今度は、ちゃんと捕まってて」

 

「……逃げる気はない」

 

 少しだけ間。

 

 そして。

 

 不二子が笑う。

 

 今度は――完全に本気の顔。

 

「じゃあ、決まりね」

 

 夜風が吹く。

 

 でも。

 

 もう、さっきみたいに冷たくない。

 

 こうして。

 

 峰不二子は、初めて――

 

 “選ぶ”側じゃなく、“選んだ”側になった。

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