(本編完結)『スローモーションの怪盗譚(ルパン・クロノス)』   作:微糖コーヒー

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番外編⑭:本気の怪盗(キング・オブ・シーフ)

 

 

 夜。

 

 静かすぎる夜だった。

 

 風も弱い。

 

 音もない。

 

 ――嫌な予感しかしない。

 

「……来るな」

 

 俺――クロガネ・ユウは呟く。

 

 理由はない。

 

 でも分かる。

 

 “あいつ”が来る時は、空気が変わる。

 

 その瞬間。

 

 パリン、とガラスが割れる音。

 

 そして――

 

「悪いな」

 

 軽い声。

 

 でも、いつもと違う。

 

「それ、やっぱりもらうわ」

 

 そこに立っていたのは――

 

 ルパン三世。

 

「……来たか」

 

「来るに決まってるだろ?」

 

 笑ってる。

 

 でも。

 

 目が笑ってない。

 

「不二子ちゃんを“選ばれた側”にしたままってのはさ」

 

 ゆっくり歩いてくる。

 

「ちょっと気に入らねぇ」

 

「ルパン」

 

 峰不二子が言う。

 

「今回はやめなさい」

 

「やだね」

 

 即答。

 

「これは“仕事”じゃねぇ」

 

「じゃあ何よ」

 

 少しだけ間。

 

「プライドだ」

 

 ……来たな。

 

 “ルパンの本気”。

 

「ユウ」

 

 ルパンが言う。

 

「それ、寄こせ」

 

「断る」

 

「だろうな」

 

 ニヤリ。

 

 その瞬間。

 

 消えた。

 

「……!」

 

 速いとかじゃない。

 

 “自然すぎて見えない”。

 

 だが。

 

 俺はズレる。

 

 時間を落とす。

 

 視界が広がる。

 

 見えた。

 

 ルパンの動き。

 

 最短ルート。

 

 無駄ゼロ。

 

「そこか!」

 

 俺は割り込む。

 

 鍵を守る。

 

「いいねぇ」

 

 ルパンが笑う。

 

「ちゃんと見えてるじゃねぇか」

 

 次の瞬間。

 

 フェイント。

 

 動きが二重に見える。

 

「……っ!」

 

 ズレても、追いきれない。

 

「それが限界だ」

 

 ルパンの手が伸びる。

 

 鍵に触れる――

 

 だが。

 

 ギリギリで俺が外す。

 

「甘い」

 

「お前もな」

 

 距離を取る。

 

 息が上がる。

 

 ……おかしい。

 

 さっきより速い。

 

「気づいたか?」

 

 ルパンが言う。

 

「手加減してねぇだけだ」

 

 ……普段どんだけ余裕なんだよ。

 

「もう一回いくぞ」

 

 踏み込む。

 

 今度は真正面。

 

 力押し。

 

 だがそれが一番厄介。

 

 読みが通じない。

 

「……っ!」

 

 俺はズレる。

 

 最大まで。

 

 世界が歪む。

 

 でも。

 

 ルパンは来る。

 

「なんでだよ……!」

 

「決まってるだろ」

 

 笑う。

 

「取りてぇからだ」

 

 その一言。

 

 理屈じゃない。

 

 純粋な意志。

 

 その瞬間。

 

 俺のズレが、ほんの一瞬遅れる。

 

「もらった」

 

 ルパンの指が――

 

「やめなさい」

 

 止まる。

 

 不二子の声。

 

 完全に、動きが止まった。

 

 ルパンが。

 

「……不二子ちゃん」

 

「今回は、終わりよ」

 

「まだ終わってねぇ」

 

「終わり」

 

 静かに。

 

 でも強い。

 

 沈黙。

 

 ルパンがため息をつく。

 

「……参ったね」

 

 帽子を押さえる。

 

「本気出したのに、止められるとはな」

 

「勝手に本気出しただけでしょ」

 

「そうとも言う」

 

 少しだけ笑う。

 

 いつものルパンに戻る。

 

「まぁいい」

 

 肩をすくめる。

 

「今回は負けでいい」

 

「……いいのか」

 

 俺が聞く。

 

「いいんだよ」

 

 ルパンは言う。

 

「選ばれたのはお前だ」

 

 少しだけ間。

 

「だったら、今回は譲る」

 

「……」

 

「でもな」

 

 ルパンがニヤリと笑う。

 

「次は奪い返す」

 

 ぞくっとする。

 

 軽い言い方なのに、本気だ。

 

「望むところだ」

 

 俺も笑う。

 

「ははっ!」

 

 ルパンが笑う。

 

「いいねぇ、それでこそだ」

 

 不二子が小さくため息をつく。

 

「ほんと、バカね二人とも」

 

 でも。

 

 少しだけ嬉しそうに笑っていた。

 

 こうして。

 

 怪盗ルパン三世は――

 

 本気で奪いに来て、本気で引いた。

 

 それは負けじゃない。

 

 ただの“タイミング”だ。

 

 そして。

 

 次に来るときは――

 

 きっと、もっと面白くなる。

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