(本編完結)『スローモーションの怪盗譚(ルパン・クロノス)』   作:微糖コーヒー

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番外編⑯:その後の距離(アフター・グロウ)

 

 

 

 

 朝。

 

 珍しく、静かだった。

 

 銃声もない。警報もない。追跡もない。

 

「……逆に落ち着かねぇな」

 

 俺――クロガネ・ユウはソファに沈みながら呟く。

 

「贅沢な悩みね」

 

 キッチンから声。

 

 振り向くと、峰不二子がコーヒーを淹れている。

 

 ……普通に。

 

 それが一番違和感ある。

 

「ほら」

 

 カップを差し出される。

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして♡」

 

 にっこり。

 

 ……昨日までの“戦場の女”と同一人物とは思えない。

 

「ねぇユウ」

 

「なんだ」

 

「変な感じしない?」

 

「する」

 

「でしょ?」

 

 不二子は笑う。

 

「全部終わった後って、こんな感じなのよ」

 

「慣れてるのか」

 

「何度も経験してるもの」

 

 ……それもどうなんだ。

 

「で、あいつは?」

 

「まだ寝てる」

 

 不二子があっさり言う。

 

「珍しいな」

 

「昨日ちょっと張り切りすぎたのよ」

 

 その言い方、ちょっと含みあるな。

 

 そのとき。

 

「誰が張り切りすぎたって?」

 

 欠伸混じりの声。

 

 ルパン三世が現れる。

 

「おはよ、ヒーローさん」

 

「おう、おはよう」

 

 ルパンは頭をかきながら、俺の隣に座る。

 

「平和だな」

 

「だな」

 

「退屈だな」

 

「それ言うと思った」

 

「で?」

 

 ルパンが不二子を見る。

 

「今日は何すんの?」

 

「何もしない」

 

「マジで?」

 

「たまには休むのよ」

 

「それルパンに言っても無駄だろ」

 

「分かってる」

 

 不二子が笑う。

 

 数秒の沈黙。

 

 コーヒーの香り。

 

 静かな時間。

 

「……なぁ」

 

 ルパンが言う。

 

「なんだ」

 

「昨日のさ」

 

「うん」

 

「いい感じだったよな」

 

「ざっくりだな」

 

「分かるだろ?」

 

 俺は少し考えて。

 

「まぁな」

 

「だろ?」

 

 ルパンが笑う。

 

「三人でやるのが一番しっくりくる」

 

「同感」

 

「私も」

 

 不二子がさらっと言う。

 

 また沈黙。

 

 でも、今度は嫌じゃない。

 

「ねぇユウ」

 

 不二子が言う。

 

「今日、暇?」

 

「見て分かるだろ」

 

「じゃあ付き合って」

 

「どこに」

 

「買い物」

 

「嫌な予感しかしない」

 

「大丈夫よ」

 

 にっこり。

 

 絶対大丈夫じゃない。

 

「俺も行く」

 

 ルパンが手を上げる。

 

「ダメ」

 

「なんで!?」

 

「うるさいから」

 

「ひでぇ!」

 

「じゃあ二人で行くか」

 

「そうね♡」

 

 ……この流れ、確実に面倒なやつだ。

 

 数時間後。

 

 街中。

 

「これどう?」

 

「いいんじゃないか」

 

「適当ね」

 

「正直だ」

 

 不二子が服を選ぶ。

 

 俺は待つ。

 

 平和すぎる。

 

 ……いや、ちょっと違う。

 

「ねぇ」

 

「なんだ」

 

「楽しい?」

 

「……まぁな」

 

「でしょ?」

 

 満足そうに笑う。

 

「ユウってさ」

 

「なんだ」

 

「意外とこういうの向いてるわね」

 

「どこが」

 

「逃げないところ」

 

「逃げたら怒るだろ」

 

「当然よ」

 

 そのとき。

 

「おーい二人とも!」

 

 声。

 

 振り向くと――

 

 ルパン三世。

 

「結局来てるじゃねぇか!」

 

「暇だったからな!」

 

「帰れ」

 

「やだね!」

 

「ほんと懲りないわね」

 

 不二子がため息をつく。

 

 でも。

 

 少しだけ嬉しそう。

 

 三人で並んで歩く。

 

 特に目的もなく。

 

 ただ、なんとなく。

 

「なぁ」

 

 ルパンが言う。

 

「次は何盗む?」

 

「もうその話か」

 

「当然だろ」

 

「仕事中毒だな」

 

「褒め言葉だ」

 

「じゃあさ」

 

 不二子が言う。

 

「次は“休み”盗みましょうか」

 

「なんだそれ」

 

「誰にも邪魔されない時間」

 

「それ一番難しいやつだな」

 

「いいじゃねぇか」

 

 ルパンが笑う。

 

「それ、最高に“価値ある”だろ」

 

 ……確かに。

 

 こうして。

 

 戦いの後の余韻は――

 

 騒がしく、でも穏やかに続いていく。

 

 特別なことはない。

 

 でも、それが一番いい。

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