(本編完結)『スローモーションの怪盗譚(ルパン・クロノス)』 作:微糖コーヒー
昼下がりの街。
人通りも多く、平和そのもの。
「……やっぱ落ち着かねぇ」
俺――クロガネ・ユウは紙コップのコーヒーを見下ろす。
「何度言うのよそれ」
隣で歩く峰不二子が笑う。
「平和なのが落ち着かないって、だいぶ毒されてるわね」
「否定はしない」
「で、今日はほんとに休みなんだな?」
「そうよ」
「仕事なし?」
「なし」
「追跡も?」
「なし」
「……怖い」
「もう黙りなさい」
そのとき。
ドンッ、と大きな音。
通りの先、銀行の前が騒がしくなる。
「……来たな」
「来たわね」
二人同時に呟く。
「全員動くな!!」
怒鳴り声。
覆面の男たち。
銀行強盗。
「ベタね」
「ベタすぎる」
「どうする?」
俺が聞く。
「放っておく?」
「無理だろ」
「無理ね」
不二子が肩をすくめる。
「よし、軽く片付けるか」
「休日なのに?」
「むしろ軽い運動だ」
「言うようになったわね」
銀行内。
人質多数。
強盗三人。
「動くな!」
銃を構える。
だが――
「遅い」
俺はズレる。
時間を落とす。
弾道を読む。
動きを制限。
「何だ!?」
強盗が戸惑う。
その隙。
「いただき♡」
不二子が銃を奪う。
「ちょっと借りるわね」
残り二人。
俺が位置をずらす。
足元を狂わせる。
バランスを崩す。
「うわっ!」
「なんだこれ!」
「終了」
不二子があっさり言う。
数秒。
それで終わり。
「……あれ?」
人質の一人が呟く。
「もう終わった?」
「終わったわよ」
不二子が笑う。
「大丈夫?」
「え、あ、はい……」
「静かに出るぞ」
「了解」
外。
人混みに紛れる。
警察が来る前に離脱。
「……あっけなかったな」
「軽い運動って言ったでしょ」
「その通りだった」
そのとき。
「ルパァァァン!!」
聞き慣れた声。
振り向くと――
銭形警部が走ってくる。
「やはり貴様らか!!」
「違うって」
「銀行強盗の犯人だな!」
「違うって言ってるだろ!」
「説明するの面倒ね」
「逃げるか」
「逃げましょ」
全力で走る。
銭形が追う。
いつもの流れ。
「なんでこうなる!」
「日常だ!」
「嫌な日常だ!」
路地裏。
曲がる。
跳ぶ。
ズレる。
距離を離す。
屋上。
着地。
「……逃げ切ったか」
「逃げ切ったわね」
数秒後。
遠くから。
「ルパァァァン!!」
まだ聞こえる。
「元気だなぁ」
「ほんとね」
「なぁ」
俺が言う。
「これ、休みか?」
「違うわね」
「だよな」
そのとき。
「いやーいい運動だったな!」
背後から声。
振り向くと――
ルパン三世。
「どこから湧いた!?」
「見てた」
「手伝えよ!」
「だって面白かったし」
「で?」
ルパンが笑う。
「銀行強盗、どうだった?」
「軽すぎた」
「だろ?」
「じゃあ次はもっとデカいの行くか?」
「やめろ」
「賛成」
「あなたもか」
不二子が笑う。
風が吹く。
昼の光が眩しい。
こうして。
休日は結局――
“いつも通り”に終わる。
でも、それがいい。