(本編完結)『スローモーションの怪盗譚(ルパン・クロノス)』   作:微糖コーヒー

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番外編⑲:逆転の一手(リバース・ゲーム)

 

 

 

 

 夜の街。

 

 ネオンが揺れる。

 

「……今日はやけに静かね」

 

 峰不二子が言う。

 

「そうか?」

 

 俺――クロガネ・ユウは肩をすくめる。

 

「嵐の前よ」

 

「そのフラグ、もういい」

 

 並んで歩く。

 

 距離は、いつも通り近い。

 

 でも――

 

 今日は違う。

 

 俺の方が、少しだけ余裕がある。

 

「ねぇユウ」

 

「なんだ」

 

「今日は妙に落ち着いてるわね」

 

「そう見えるか?」

 

「見えるわ」

 

 不二子が目を細める。

 

「何か企んでる?」

 

「さぁな」

 

 カフェ。

 

 席に座る。

 

 コーヒーが運ばれる。

 

 静かな時間。

 

「で?」

 

 不二子が言う。

 

「今日は何するの?」

 

「普通に過ごす」

 

「つまらない答えね」

 

「たまにはいいだろ」

 

 数秒。

 

 視線が合う。

 

 不二子が微笑む。

 

 いつも通り、余裕の笑み。

 

「ねぇ」

 

 彼女が身を乗り出す。

 

「少し距離、詰めてもいい?」

 

「いいぞ」

 

「……あら?」

 

 一瞬だけ、違和感。

 

 いつもなら、俺が動揺する。

 

 でも今日は違う。

 

 動じない。

 

「どうした?」

 

「……いえ」

 

 不二子が少しだけ目を細める。

 

「つまらないわね」

 

「そうか?」

 

 俺はゆっくりと手を伸ばす。

 

 不二子の手を取る。

 

「……っ」

 

 止まる。

 

 ほんの一瞬。

 

 でも確実に止まった。

 

「たまにはこっちからもいいだろ」

 

「……珍しいことするのね」

 

「そうでもない」

 

 距離を詰める。

 

 自然に。

 

 逃げ場を作らない。

 

「ユウ」

 

「なんだ」

 

「それ、反則よ」

 

「お前がよくやってるやつだ」

 

「そうだけど……」

 

 言葉が少し遅れる。

 

 珍しい。

 

 さらに近づく。

 

 顔が近い。

 

「どうする?」

 

 俺が聞く。

 

「何が」

 

「逃げるか」

 

「逃げないわよ」

 

 でも。

 

 ほんの少しだけ、呼吸が乱れてる。

 

 そのまま――

 

 キス。

 

 数秒。

 

 静止。

 

 離れる。

 

「……」

 

「……」

 

「どうだ」

 

「……」

 

 不二子が何も言わない。

 

 ただ、じっと見てくる。

 

「……やるじゃない」

 

 やっと出た言葉。

 

 でも。

 

 声が少しだけ低い。

 

「でしょ?」

 

「調子に乗らないで」

 

「乗るだろ」

 

 不二子がため息をつく。

 

 でも。

 

 少しだけ笑ってる。

 

「完全にやられたわ」

 

「珍しいな」

 

「今日はあなたの勝ち」

 

「今日は?」

 

「次は取り返す」

 

 いつもの台詞。

 

 でも――

 

 少しだけ本気。

 

 そのとき。

 

「おーい、邪魔していいかー?」

 

「……」

 

「……」

 

 振り向くと――

 

 ルパン三世。

 

「いいタイミングだろ?」

 

「最悪だ」

 

「最高よ」

 

 不二子が即答。

 

「で、どうだった?」

 

 ルパンがニヤニヤしてる。

 

「何が」

 

「今の流れ」

 

「見てたのか」

 

「当然」

 

「帰れ」

 

「やだね」

 

 ルパンが肩をすくめる。

 

「いやーでも」

 

「なんだ」

 

「ユウが仕掛けるとは思わなかったな」

 

「俺だってやるときはやる」

 

「いいねぇ」

 

 ルパンが不二子を見る。

 

「不二子ちゃん、焦ってた?」

 

「してないわ」

 

「嘘つけ」

 

「してない」

 

「してたな」

 

「……うるさい」

 

 小声。

 

 確定。

 

「ははっ!」

 

 ルパンが笑う。

 

「これは面白くなってきたな」

 

 不二子が俺を見る。

 

 今度は完全に“いつもの目”。

 

 でも――

 

 ほんの少しだけ違う。

 

「ユウ」

 

「なんだ」

 

「次は覚悟しておきなさい」

 

「望むところだ」

 

 その距離。

 

 さっきより、少しだけ近い。

 

 こうして。

 

 均衡は崩れた。

 

 今までは“不二子が上”。

 

 でもこれからは――

 

 “対等”。

 

 そして。

 

 この関係は、もっと面白くなる。

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