(本編完結)『スローモーションの怪盗譚(ルパン・クロノス)』 作:微糖コーヒー
夜の街。
ネオンが揺れる。
「……今日はやけに静かね」
峰不二子が言う。
「そうか?」
俺――クロガネ・ユウは肩をすくめる。
「嵐の前よ」
「そのフラグ、もういい」
並んで歩く。
距離は、いつも通り近い。
でも――
今日は違う。
俺の方が、少しだけ余裕がある。
「ねぇユウ」
「なんだ」
「今日は妙に落ち着いてるわね」
「そう見えるか?」
「見えるわ」
不二子が目を細める。
「何か企んでる?」
「さぁな」
カフェ。
席に座る。
コーヒーが運ばれる。
静かな時間。
「で?」
不二子が言う。
「今日は何するの?」
「普通に過ごす」
「つまらない答えね」
「たまにはいいだろ」
数秒。
視線が合う。
不二子が微笑む。
いつも通り、余裕の笑み。
「ねぇ」
彼女が身を乗り出す。
「少し距離、詰めてもいい?」
「いいぞ」
「……あら?」
一瞬だけ、違和感。
いつもなら、俺が動揺する。
でも今日は違う。
動じない。
「どうした?」
「……いえ」
不二子が少しだけ目を細める。
「つまらないわね」
「そうか?」
俺はゆっくりと手を伸ばす。
不二子の手を取る。
「……っ」
止まる。
ほんの一瞬。
でも確実に止まった。
「たまにはこっちからもいいだろ」
「……珍しいことするのね」
「そうでもない」
距離を詰める。
自然に。
逃げ場を作らない。
「ユウ」
「なんだ」
「それ、反則よ」
「お前がよくやってるやつだ」
「そうだけど……」
言葉が少し遅れる。
珍しい。
さらに近づく。
顔が近い。
「どうする?」
俺が聞く。
「何が」
「逃げるか」
「逃げないわよ」
でも。
ほんの少しだけ、呼吸が乱れてる。
そのまま――
キス。
数秒。
静止。
離れる。
「……」
「……」
「どうだ」
「……」
不二子が何も言わない。
ただ、じっと見てくる。
「……やるじゃない」
やっと出た言葉。
でも。
声が少しだけ低い。
「でしょ?」
「調子に乗らないで」
「乗るだろ」
不二子がため息をつく。
でも。
少しだけ笑ってる。
「完全にやられたわ」
「珍しいな」
「今日はあなたの勝ち」
「今日は?」
「次は取り返す」
いつもの台詞。
でも――
少しだけ本気。
そのとき。
「おーい、邪魔していいかー?」
「……」
「……」
振り向くと――
ルパン三世。
「いいタイミングだろ?」
「最悪だ」
「最高よ」
不二子が即答。
「で、どうだった?」
ルパンがニヤニヤしてる。
「何が」
「今の流れ」
「見てたのか」
「当然」
「帰れ」
「やだね」
ルパンが肩をすくめる。
「いやーでも」
「なんだ」
「ユウが仕掛けるとは思わなかったな」
「俺だってやるときはやる」
「いいねぇ」
ルパンが不二子を見る。
「不二子ちゃん、焦ってた?」
「してないわ」
「嘘つけ」
「してない」
「してたな」
「……うるさい」
小声。
確定。
「ははっ!」
ルパンが笑う。
「これは面白くなってきたな」
不二子が俺を見る。
今度は完全に“いつもの目”。
でも――
ほんの少しだけ違う。
「ユウ」
「なんだ」
「次は覚悟しておきなさい」
「望むところだ」
その距離。
さっきより、少しだけ近い。
こうして。
均衡は崩れた。
今までは“不二子が上”。
でもこれからは――
“対等”。
そして。
この関係は、もっと面白くなる。