(本編完結)『スローモーションの怪盗譚(ルパン・クロノス)』 作:微糖コーヒー
夜の屋上。
街の光が静かに瞬いている。
風は穏やか。
――珍しく、何も起きていない。
「……静かね」
峰不二子が呟く。
「だな」
俺――クロガネ・ユウも頷く。
「不気味なくらい」
「失礼ね」
並んで立つ。
距離は、自然と近い。
もう“わざと”じゃない。
「ねぇユウ」
「なんだ」
「最近さ」
「うん」
「変わったわよね」
「どっちが」
「あなたが」
「そうか?」
「そうよ」
不二子が少しだけ笑う。
「前より逃げなくなった」
「逃げても無駄だって学習した」
「それもあるけど」
少しだけ間。
「それだけじゃないでしょ?」
……図星だな。
「まぁな」
「でしょ?」
満足そうな顔。
数秒。
沈黙。
でも、気まずくない。
「ねぇ」
不二子が一歩近づく。
「前の続き、覚えてる?」
「どの続きだ」
「とぼけるの下手ね」
距離が、さらに縮まる。
完全にゼロ。
「……覚えてる」
「ならいいわ」
そのまま。
ゆっくりと。
顔が近づく。
あと少し。
本当に、あと少し。
心拍が上がる。
でも今回は逃げない。
「ユウ」
「なんだ」
「今回は――」
その瞬間。
ガシャーン!!
「……」
「……」
屋上のドアが吹き飛ぶ。
「ルパァァァン!!」
「最悪だ!!」
「最悪ね!!」
現れたのは、全力の銭形警部。
「貴様ら、ここにいたか!!」
「なんで今だよ!!」
「知らん!!」
その背後から。
「いやーいいとこだったな!」
「……」
「……」
振り向くと、笑っているのは――ルパン三世。
「見てたのか!!」
「もちろん」
「止めろよ!!」
「止める理由がねぇ」
「……はぁ」
不二子が深くため息。
でも。
少しだけ笑ってる。
「タイミング悪すぎでしょ」
「最高だろ?」
ルパンが笑う。
「よし逃げるぞ!」
「賛成!」
全力で走る。
屋上から飛ぶ。
ワイヤー。
いつもの流れ。
「待てぇルパーン!!」
銭形が手錠を振り回しながら追う。
追いかけ回されながら数分後。
銭形の追跡を振り切り別の屋上に着地。
「……はぁ……」
「……またダメだったわね」
数秒の沈黙。
「なぁ」
俺が言う。
「なんだ」
「さっきの続き」
不二子がこちらを見る。
少しだけ意地悪な顔。
「また今度♡」
「絶対また邪魔入るだろ」
「その時はその時よ」
少しだけ近づく。
「でも」
「なんだ」
「さっきの、嫌じゃなかったでしょ?」
……否定できない。
「……ああ」
不二子が笑う。
今度は完全に優しい顔。
「ならいいわ」
その距離。
触れそうで触れない。
でも。
もう分かってる。
“あと一歩”だってこと。
こうして。
二人の関係は――確実に進んでいる。
ただし。
毎回、完璧なタイミングで――邪魔が入るだけだ。