(本編完結)『スローモーションの怪盗譚(ルパン・クロノス)』   作:微糖コーヒー

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番外編⑳:あと一歩(ニアリー・ラブ)

 

 

 

 

 夜の屋上。

 

 街の光が静かに瞬いている。

 

 風は穏やか。

 

 ――珍しく、何も起きていない。

 

「……静かね」

 

 峰不二子が呟く。

 

「だな」

 

 俺――クロガネ・ユウも頷く。

 

「不気味なくらい」

 

「失礼ね」

 

 並んで立つ。

 

 距離は、自然と近い。

 

 もう“わざと”じゃない。

 

「ねぇユウ」

 

「なんだ」

 

「最近さ」

 

「うん」

 

「変わったわよね」

 

「どっちが」

 

「あなたが」

 

「そうか?」

 

「そうよ」

 

 不二子が少しだけ笑う。

 

「前より逃げなくなった」

 

「逃げても無駄だって学習した」

 

「それもあるけど」

 

 少しだけ間。

 

「それだけじゃないでしょ?」

 

 ……図星だな。

 

「まぁな」

 

「でしょ?」

 

 満足そうな顔。

 

 数秒。

 

 沈黙。

 

 でも、気まずくない。

 

「ねぇ」

 

 不二子が一歩近づく。

 

「前の続き、覚えてる?」

 

「どの続きだ」

 

「とぼけるの下手ね」

 

 距離が、さらに縮まる。

 

 完全にゼロ。

 

「……覚えてる」

 

「ならいいわ」

 

 そのまま。

 

 ゆっくりと。

 

 顔が近づく。

 

 あと少し。

 

 本当に、あと少し。

 

 心拍が上がる。

 

 でも今回は逃げない。

 

「ユウ」

 

「なんだ」

 

「今回は――」

 

 その瞬間。

 

 ガシャーン!!

 

「……」

 

「……」

 

 屋上のドアが吹き飛ぶ。

 

「ルパァァァン!!」

 

「最悪だ!!」

 

「最悪ね!!」

 

 現れたのは、全力の銭形警部。

 

「貴様ら、ここにいたか!!」

 

「なんで今だよ!!」

 

「知らん!!」

 

 その背後から。

 

「いやーいいとこだったな!」

 

「……」

 

「……」

 

 振り向くと、笑っているのは――ルパン三世。

 

「見てたのか!!」

 

「もちろん」

 

「止めろよ!!」

 

「止める理由がねぇ」

 

「……はぁ」

 

 不二子が深くため息。

 

 でも。

 

 少しだけ笑ってる。

 

「タイミング悪すぎでしょ」

 

「最高だろ?」

 

 ルパンが笑う。

 

「よし逃げるぞ!」

 

「賛成!」

 

 全力で走る。

 

 屋上から飛ぶ。

 

 ワイヤー。

 

 いつもの流れ。

 

「待てぇルパーン!!」

 

 銭形が手錠を振り回しながら追う。

 

 追いかけ回されながら数分後。

 

 銭形の追跡を振り切り別の屋上に着地。

 

「……はぁ……」

 

「……またダメだったわね」

 

 数秒の沈黙。

 

「なぁ」

 

 俺が言う。

 

「なんだ」

 

「さっきの続き」

 

 不二子がこちらを見る。

 

 少しだけ意地悪な顔。

 

「また今度♡」

 

「絶対また邪魔入るだろ」

 

「その時はその時よ」

 

 少しだけ近づく。

 

「でも」

 

「なんだ」

 

「さっきの、嫌じゃなかったでしょ?」

 

 ……否定できない。

 

「……ああ」

 

 不二子が笑う。

 

 今度は完全に優しい顔。

 

「ならいいわ」

 

 その距離。

 

 触れそうで触れない。

 

 でも。

 

 もう分かってる。

 

 “あと一歩”だってこと。

 

 こうして。

 

 二人の関係は――確実に進んでいる。

 

 ただし。

 

 毎回、完璧なタイミングで――邪魔が入るだけだ。

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