(本編完結)『スローモーションの怪盗譚(ルパン・クロノス)』 作:微糖コーヒー
夜の屋上。
またこの場所だ。
でも今回は違う。
風は穏やかで、物音一つない。
――不自然なくらいに静かだ。
「……逆に怖いくらいね」
峰不二子が呟く。
「同感だな」
俺――クロガネ・ユウも頷く。
「絶対何か来る」
「フラグ立てないでよ!」
数秒。
何も起きない。
「……あれ?」
「……来ないわね?」
沈黙。
「じゃあ」
不二子が一歩近づく。
「今のうち?」
「今しかないな」
距離ゼロ。
呼吸が重なる。
「ユウ」
「なんだ」
「今回は――」
ゆっくりと。
迷いなく。
キス。
ちゃんと。
最後まで。
数秒。
世界が止まる。
離れる。
「……」
「……」
「……成功したな」
「したわね」
しばらく、何も言わない。
ただ、余韻。
「……ねぇ」
不二子が小さく言う。
「どうだった?」
「聞くか普通」
「聞くわよ」
「……悪くなかった」
「素直ね」
「今回はな」
不二子が少しだけ笑う。
でも――
いつもと違う。
完全に“本気の顔”。
「じゃあ…」
「なんだ」
「これで逃げられないわね?」
「逃げる気ない」
その瞬間。
パチパチパチ。
「いやー、ついにやったな!」
「……」
「……」
振り向くと屋上の影から現れる――
ルパン三世。
「見てたのか」
「もちろん!」
「帰れ!」
「やだね」
「……いつから」
「最初から」
「最悪だ!!」
「最悪ね!!」
「いやーでもさ?」
ルパンがニヤニヤしてる。
「これは祝うべきだろ?」
「いらない」
「乾杯でもするか?」
「しない」
そのとき。
「ルゥパァァァァァァァァン!!!」
「……」
「……」
屋上のドアが吹き飛び、勢いよく飛び出してくる人影。
銭形警部登場。
「現行犯だ!!」
「何のだよ!!」
「知らん!!」
「逃げるぞ」
「賛成」
「当然よ」
全力で走る。
いつもの流れ。
屋上から勢いよく飛ぶ。
ワイヤーによる空中移動。
夜の空には人の影。
「ははっ!」
ルパンが楽しそうに笑う。
「最高のタイミングだったな!」
「最低だ!!」
数分後。
いつものごとく銭形からの逃走に成功し別の屋上に。
「……はぁ……」
「……ほんとにもう」
数秒の沈黙。
「なぁ」
俺が言う。
「なんだ」
「さっきの、なしにはしないよな」
不二子がこちらを見る。
少しだけ意地悪な顔。
「どうしようかしら?」
「おい!」
そして。
少しだけ近づく。
「……ちゃんと覚えてるわよ」
「なら…いい」
「でも」
「なんだ」
「次は、もっといい場所でね♡」
……ほんと…注文多いな。
その距離。
さっきより自然に。
もう“あと一歩”じゃない。
ちゃんと――進んだ。
ただし。
静かに終わることは、一生ない。
こうして。
二人の関係は――ついに一線を越えて。
でもやっぱり騒がしいまま、続いていく。