(本編完結)『スローモーションの怪盗譚(ルパン・クロノス)』   作:微糖コーヒー

3 / 29
第三章:巻き戻しの代償(リワインド・コスト)

 

 

 光が収まったとき、俺は床に倒れていた。

 

 呼吸が荒い。視界は白く霞み、耳鳴りが止まらない。

 

「……生きてるか、転生者!」

 

 聞き慣れた声。振り向く気力もないが、誰かは分かる。

 

 ルパン三世だ。

 

「……ギリギリな」

 

「上等だ」

 

 肩を貸され、無理やり立たされる。

 

 周囲を見ると、クロノス・フォートレスは崩壊を免れていた。いや、正確には――“崩壊しかけた時間そのものが巻き戻された”ような違和感。

 

「成功……したのか?」

 

「らしいな」

 

 煙をくゆらせながら次元大介が言う。

 

「だが、お前の顔色が成功って顔じゃねぇ」

 

「……当たり前だ」

 

 俺は苦笑した。

 

「時間を無理やりいじったんだ。“ツケ”が来る」

 

「ツケ?」

 

 峰不二子が首を傾げる。

 

 俺は自分の手を見る。

 

 ――微かに“ズレている”。

 

 指先が、ほんの一瞬だけ遅れて動く。

 

「時間との同期が乱れてる」

 

「それってマズいんじゃないの?」

 

「かなりな」

 

 俺は息を吐いた。

 

「最悪、存在ごと“置いていかれる”」

 

 その言葉に、場の空気が一瞬だけ重くなる。

 

 だが――

 

「面白ぇじゃねぇか」

 

 ルパンが笑った。

 

「命の危険付きの能力か。最高だな」

 

「お前な……」

 

「だがよ」

 

 ルパンは真顔になる。

 

「無茶すんのはいいが、勝手に消えられちゃ困る」

 

「仲間だものね♡」

 

 不二子が軽く腕に触れる。

 

「……その言葉、信じていいのか?」

 

「半分くらいは?」

 

 信用できねぇ。

 

 でも――悪くない。

 

「さて」

 

 ルパンがパンと手を叩いた。

 

「戦利品の確認といこうじゃねぇか」

 

 机の上には、あのコア。

 

 時間制御コア。

 

「これが今回の“宝”か」

 

「金じゃねぇが、価値は桁違いだ」

 

 次元が言う。

 

「これ一つで戦争が起きるレベルだな」

 

「それをどうするの?」

 

 不二子が問いかける。

 

 ルパンはしばらく考えて――

 

「売る」

 

 即答だった。

 

「だろうな」

 

 次元が苦笑する。

 

「ただし」

 

 ルパンは指を立てる。

 

「相手は選ぶ」

 

「珍しいわね」

 

「この手の代物はな、扱いを間違えると“世界そのもの”が壊れる」

 

 珍しく真面目な顔だ。

 

「だから、ちゃんと悪党に売る」

 

「それ余計ダメじゃない?」

 

「いいんだよ。悪党はルール守るからな」

 

 ……妙に説得力あるのが腹立つ。

 

 そのとき。

 

 ドンッ、と扉が蹴破られた。

 

「ルパァァァン!!」

 

 怒号と共に突入してくる男。

 

 銭形警部。

 

「今度こそ逃がさんぞ!!」

 

「来た来た」

 

 ルパンが笑う。

 

「タイミングいいねぇ、とっつぁん」

 

「貴様ら全員逮捕だ!」

 

 銭形が手錠を構える。

 

 だがその瞬間。

 

 俺の視界が――再び歪んだ。

 

「……っ」

 

 時間のズレが悪化している。

 

 周囲の動きが急に速くなる。

 

 いや、俺が“遅れている”。

 

「ユウ?」

 

 ルパンが気づく。

 

「どうした」

 

「……マズいな」

 

 俺は壁に手をつく。

 

 現実との同期が崩れている。

 

「このままだと……俺、ここから消えるかもな」

 

「ふざけんな」

 

 ルパンが即座に言う。

 

「まだ仕事が残ってる」

 

「……は?」

 

「そのコア、完全には制御できてねぇだろ?」

 

「……ああ」

 

「だったら決まりだ」

 

 ルパンはニヤリと笑う。

 

「直してから消えろ」

 

「順番おかしいだろ……」

 

「いいからやれ」

 

 無茶苦茶だ。

 

 でも――

 

「嫌いじゃない」

 

 俺はコアを見た。

 

 まだ“歪み”が残っている。

 

 これを安定させれば、俺のズレも修正できるかもしれない。

 

「時間稼げるか?」

 

「任せろ」

 

 次元が銃を構える。

 

「銭形の相手は慣れてる」

 

「斬る」

 

 五ェ門が前に出る。

 

「逃がす気はないわよ♡」

 

 不二子がウインクする。

 

「ルパン!」

 

「おうよ!」

 

 全員が動く。

 

 俺はコアに集中する。

 

「今度は壊すんじゃない……整える」

 

 ズレを読む。

 

 流れを掴む。

 

 時間の“呼吸”を合わせる。

 

「……見えた」

 

 俺は静かに手をかざす。

 

 ゆっくりと、丁寧に。

 

 世界を“正常”に戻していく。

 

 数秒――いや、体感では数分。

 

 やがて。

 

 カチリ、と音がした。

 

 すべてが噛み合う。

 

「……戻った」

 

 自分の手が、ちゃんと動く。

 

 ズレは消えた。

 

「成功か?」

 

 ルパンが振り返る。

 

「多分な」

 

「上出来だ!」

 

 その瞬間。

 

「確保だぁぁぁ!!」

 

 銭形が突っ込んでくる。

 

「おっと」

 

 ルパンが軽やかにかわす。

 

「じゃあな、とっつぁん!」

 

「待てルパーン!!」

 

 いつもの追いかけっこ。

 

 煙幕。

 

 ワイヤー。

 

 跳躍。

 

 そして――

 

 気づけば、俺たちは屋上にいた。

 

 夜風が吹く。

 

 静かな余韻。

 

「……結局、全部うまくいったな」

 

「そうでもない」

 

 俺は言う。

 

「一歩間違えりゃ終わってた」

 

「だから面白ぇんだろ?」

 

 ルパンが笑う。

 

「……否定はしない」

 

「で、どうする?」

 

 次元が聞く。

 

「これからも付き合うのか?」

 

 俺は少し考えて――

 

「報酬次第だな」

 

「ははっ!」

 

 ルパンが大笑いする。

 

「やっぱ気が合うな!」

 

 不二子がくすっと笑う。

 

「でも、もう逃げられないわよ?」

 

「どういう意味だ?」

 

「だって――」

 

 彼女はコアを指差した。

 

「あなた、これ扱える唯一の人間だもの」

 

「……マジか」

 

「つまりだ」

 

 ルパンが肩を組む。

 

「お前はもう“俺たちの切り札”ってわけだ」

 

「勝手に決めるな」

 

「いいじゃねぇか」

 

 その顔は、どこまでも楽しそうだった。

 

 こうして。

 

 転生者クロガネ・ユウは――

 

 時間すら盗む怪盗団の一員として。

 

 新たな“不可能”へと足を踏み入れる。

 

 




第四章予告

「次の標的は“未来予知装置”だ」

「また時間系かよ……」

「今度は“未来”だぜ?」

「ややこしいわね」

「未来が見えるなら、俺たちはどうする?」

「決まってるだろ」

 ルパンが笑う。

「未来ごと盗むのさ」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。