(本編完結)『スローモーションの怪盗譚(ルパン・クロノス)』 作:微糖コーヒー
光が収まったとき、俺は床に倒れていた。
呼吸が荒い。視界は白く霞み、耳鳴りが止まらない。
「……生きてるか、転生者!」
聞き慣れた声。振り向く気力もないが、誰かは分かる。
ルパン三世だ。
「……ギリギリな」
「上等だ」
肩を貸され、無理やり立たされる。
周囲を見ると、クロノス・フォートレスは崩壊を免れていた。いや、正確には――“崩壊しかけた時間そのものが巻き戻された”ような違和感。
「成功……したのか?」
「らしいな」
煙をくゆらせながら次元大介が言う。
「だが、お前の顔色が成功って顔じゃねぇ」
「……当たり前だ」
俺は苦笑した。
「時間を無理やりいじったんだ。“ツケ”が来る」
「ツケ?」
峰不二子が首を傾げる。
俺は自分の手を見る。
――微かに“ズレている”。
指先が、ほんの一瞬だけ遅れて動く。
「時間との同期が乱れてる」
「それってマズいんじゃないの?」
「かなりな」
俺は息を吐いた。
「最悪、存在ごと“置いていかれる”」
その言葉に、場の空気が一瞬だけ重くなる。
だが――
「面白ぇじゃねぇか」
ルパンが笑った。
「命の危険付きの能力か。最高だな」
「お前な……」
「だがよ」
ルパンは真顔になる。
「無茶すんのはいいが、勝手に消えられちゃ困る」
「仲間だものね♡」
不二子が軽く腕に触れる。
「……その言葉、信じていいのか?」
「半分くらいは?」
信用できねぇ。
でも――悪くない。
「さて」
ルパンがパンと手を叩いた。
「戦利品の確認といこうじゃねぇか」
机の上には、あのコア。
時間制御コア。
「これが今回の“宝”か」
「金じゃねぇが、価値は桁違いだ」
次元が言う。
「これ一つで戦争が起きるレベルだな」
「それをどうするの?」
不二子が問いかける。
ルパンはしばらく考えて――
「売る」
即答だった。
「だろうな」
次元が苦笑する。
「ただし」
ルパンは指を立てる。
「相手は選ぶ」
「珍しいわね」
「この手の代物はな、扱いを間違えると“世界そのもの”が壊れる」
珍しく真面目な顔だ。
「だから、ちゃんと悪党に売る」
「それ余計ダメじゃない?」
「いいんだよ。悪党はルール守るからな」
……妙に説得力あるのが腹立つ。
そのとき。
ドンッ、と扉が蹴破られた。
「ルパァァァン!!」
怒号と共に突入してくる男。
銭形警部。
「今度こそ逃がさんぞ!!」
「来た来た」
ルパンが笑う。
「タイミングいいねぇ、とっつぁん」
「貴様ら全員逮捕だ!」
銭形が手錠を構える。
だがその瞬間。
俺の視界が――再び歪んだ。
「……っ」
時間のズレが悪化している。
周囲の動きが急に速くなる。
いや、俺が“遅れている”。
「ユウ?」
ルパンが気づく。
「どうした」
「……マズいな」
俺は壁に手をつく。
現実との同期が崩れている。
「このままだと……俺、ここから消えるかもな」
「ふざけんな」
ルパンが即座に言う。
「まだ仕事が残ってる」
「……は?」
「そのコア、完全には制御できてねぇだろ?」
「……ああ」
「だったら決まりだ」
ルパンはニヤリと笑う。
「直してから消えろ」
「順番おかしいだろ……」
「いいからやれ」
無茶苦茶だ。
でも――
「嫌いじゃない」
俺はコアを見た。
まだ“歪み”が残っている。
これを安定させれば、俺のズレも修正できるかもしれない。
「時間稼げるか?」
「任せろ」
次元が銃を構える。
「銭形の相手は慣れてる」
「斬る」
五ェ門が前に出る。
「逃がす気はないわよ♡」
不二子がウインクする。
「ルパン!」
「おうよ!」
全員が動く。
俺はコアに集中する。
「今度は壊すんじゃない……整える」
ズレを読む。
流れを掴む。
時間の“呼吸”を合わせる。
「……見えた」
俺は静かに手をかざす。
ゆっくりと、丁寧に。
世界を“正常”に戻していく。
数秒――いや、体感では数分。
やがて。
カチリ、と音がした。
すべてが噛み合う。
「……戻った」
自分の手が、ちゃんと動く。
ズレは消えた。
「成功か?」
ルパンが振り返る。
「多分な」
「上出来だ!」
その瞬間。
「確保だぁぁぁ!!」
銭形が突っ込んでくる。
「おっと」
ルパンが軽やかにかわす。
「じゃあな、とっつぁん!」
「待てルパーン!!」
いつもの追いかけっこ。
煙幕。
ワイヤー。
跳躍。
そして――
気づけば、俺たちは屋上にいた。
夜風が吹く。
静かな余韻。
「……結局、全部うまくいったな」
「そうでもない」
俺は言う。
「一歩間違えりゃ終わってた」
「だから面白ぇんだろ?」
ルパンが笑う。
「……否定はしない」
「で、どうする?」
次元が聞く。
「これからも付き合うのか?」
俺は少し考えて――
「報酬次第だな」
「ははっ!」
ルパンが大笑いする。
「やっぱ気が合うな!」
不二子がくすっと笑う。
「でも、もう逃げられないわよ?」
「どういう意味だ?」
「だって――」
彼女はコアを指差した。
「あなた、これ扱える唯一の人間だもの」
「……マジか」
「つまりだ」
ルパンが肩を組む。
「お前はもう“俺たちの切り札”ってわけだ」
「勝手に決めるな」
「いいじゃねぇか」
その顔は、どこまでも楽しそうだった。
こうして。
転生者クロガネ・ユウは――
時間すら盗む怪盗団の一員として。
新たな“不可能”へと足を踏み入れる。
第四章予告
「次の標的は“未来予知装置”だ」
「また時間系かよ……」
「今度は“未来”だぜ?」
「ややこしいわね」
「未来が見えるなら、俺たちはどうする?」
「決まってるだろ」
ルパンが笑う。
「未来ごと盗むのさ」