(本編完結)『スローモーションの怪盗譚(ルパン・クロノス)』 作:微糖コーヒー
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夜明け前の滑走路に、風が低く唸っていた。
「今回の獲物は“未来予知装置”――名を《オラクル》」
赤いジャケットを翻し、ルパン三世が指先で空をなぞる。
「所有者は民間軍事企業“ヘリオス”。要塞は砂漠のど真ん中、空も陸もガッチガチだ」
「未来が見えるって話は本当か?」
次元大介が煙を吐く。
「“最短一分先までの確定未来を観測する”ってのが売り文句らしい」
「一分か……短ぇが厄介だな」
俺は腕を組む。
「未来が固定されるなら、行動は全部読まれる」
「だから盗むのよ♡」
グラスを揺らし、峰不二子が微笑む。
「読まれても、なお成功する形で」
「また無茶言う」
「斬る」
短く言い切ったのは石川五ェ門。
「未来とやらも、斬ればよい」
「頼もしいねぇ」
ルパンは楽しげに笑った。
「で、鍵になるのが――」
視線が俺に向く。
「時間のズレ持ち、転生者くんだ」
「また俺かよ」
「だってよ」
ルパンは肩をすくめる。
「未来が見えるなら、“見えない未来”を作ればいい」
「……観測外の行動か」
「そう。お前の“同期ズレ”、あれを利用する」
嫌な予感しかしない。
「言っとくが、あれは制御が完全じゃない」
「十分だ」
次元が低く言う。
「一瞬でも“読めない動き”が作れりゃ、それで穴が開く」
……理屈は通る。
「成功率は?」
「ゼロか百だな」
「最悪じゃねぇか」
「最高だろ?」
ルパンは笑った。
やれやれだ。
ヘリオス要塞・外周。
夜はまだ深い。
「監視ドローン、三十秒周期で巡回」
不二子が端末を操作する。
「オラクルは地下三層、中央制御室」
「侵入は正面突破か?」
次元が問う。
「いや」
ルパンが首を振る。
「今回は“見せる侵入”だ」
「は?」
「わざと見つかる」
全員が一瞬黙る。
「未来予知に“俺たちが侵入する”って情報を与える。向こうは対策を打つ」
「その対策の“先”を突くってわけね」
不二子が頷く。
「正解」
ルパンはニヤリと笑う。
「で、その“ズレ”を作るのがユウ」
「つまり俺がバグ役か」
「そういうこと」
ため息が出る。
だが――嫌いじゃない。
侵入開始。
アラームが鳴り響く。
サーチライトが照らす。
「ルパン確認! 侵入者だ!」
無線が飛び交う。
「いいねぇ、この感じ!」
ルパンが笑いながら走る。
銃声。
レーザー。
ドローン。
すべてが襲いかかる。
だが――
「遅い」
俺の視界では、すべてがスローモーション。
「右、三秒後に掃射!」
「了解!」
次元が即応する。
「斬る」
五ェ門の一閃で障害が消える。
「ルート開いたわ!」
不二子が誘導する。
完璧な連携。
だが――
「来たな」
ルパンが呟く。
廊下の先、武装兵が待ち構えている。
配置が完璧すぎる。
「未来を見てるってやつか」
「だな」
次元が舌打ちする。
「全部読まれてる」
「だから――ここからが本番だ」
ルパンが俺を見る。
「ユウ」
「……分かってる」
俺は深く息を吸う。
同期を、あえてズラす。
意識を切り離す。
時間の流れから、半歩外れる。
「行くぞ」
その瞬間。
世界が“二重”に見えた。
予測される未来の動きと、実際の動き。
その間に――
俺がいる。
「そこか」
俺は未来の“外側”をなぞる。
弾道をずらす。
敵の認識を狂わせる。
「なっ――!?」
兵士が戸惑う。
予測と現実が一致しない。
「今だ!」
ルパンが飛び込む。
次元が撃ち抜き。
五ェ門が道を切り開く。
不二子がロックを解除。
俺はそのすべてを“ズラす”。
未来予知を無効化する“例外”として。
地下三層。
中央制御室。
そこにあった。
球状の装置――《オラクル》。
淡く光り、脈動している。
「これが未来か」
ルパンが近づく。
「さて、いただくとするか」
「その必要はない」
低い声が響いた。
振り向く。
そこに立っていたのは、ヘリオスの司令官。
「君たちの未来は、ここで終わりだ」
「そうかい?」
ルパンは笑う。
「じゃあ、見せてくれよ。その未来ってやつを」
司令官が装置に手をかざす。
オラクルが強く光る。
「……確認した」
彼は冷静に言った。
「君たちはここで失敗する」
「へぇ」
ルパンが肩をすくめる。
「だったら――外れてもらおうか」
俺は一歩前に出る。
「未来は一つじゃない」
「違うな」
司令官が首を振る。
「観測された瞬間、未来は確定する」
「なら――」
俺は笑った。
「観測できない未来を作ればいい」
再び、同期をズラす。
限界ギリギリ。
視界が歪む。
だが――
「見えないだろ?」
俺の動きは、オラクルに映らない。
「馬鹿な……!」
司令官の顔が歪む。
「未来が……読めない!?」
「読めねぇ未来もあるってことだ」
ルパンが装置に手をかける。
「いただき!」
その瞬間。
俺は最後のズレを叩き込む。
予測から外れた行動。
確定しない未来。
そして――
オラクルは、俺たちの手に渡った。
脱出後。
夜明けが差し込む丘の上。
「いやぁ、今回も派手だったな!」
ルパンが笑う。
「疲れた……」
俺は座り込む。
「またズレてるわね」
不二子が覗き込む。
「少しな」
「無理しすぎだ」
次元が煙を吐く。
「そのうち本当に戻れなくなるぞ」
「かもな」
俺は苦笑する。
だが――
「でも、悪くない」
「だろ?」
ルパンが言う。
「未来だろうが時間だろうが、盗めるなら盗む」
「それが俺たちだ」
その言葉に、妙な納得があった。
こうして。
未来すら出し抜く怪盗団は――
さらに厄介な領域へと踏み込んでいく。
第五章予告
「次は“存在そのものを消す兵器”だ」
「もう何でもありだな……」
「存在が消えるなら?」
「奪い返すまでよ♡」
「……斬る対象がなくなるな」
「だったら作ればいい」
「ルパン、お前な……」
「安心しろ」
ルパンは笑う。
「消えたものも、ちゃんと盗んでくる」