(本編完結)『スローモーションの怪盗譚(ルパン・クロノス)』   作:微糖コーヒー

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第四章:未来泥棒(フューチャー・ハイスト

 

 夜明け前の滑走路に、風が低く唸っていた。

 

「今回の獲物は“未来予知装置”――名を《オラクル》」

 

 赤いジャケットを翻し、ルパン三世が指先で空をなぞる。

 

「所有者は民間軍事企業“ヘリオス”。要塞は砂漠のど真ん中、空も陸もガッチガチだ」

 

「未来が見えるって話は本当か?」

 

 次元大介が煙を吐く。

 

「“最短一分先までの確定未来を観測する”ってのが売り文句らしい」

 

「一分か……短ぇが厄介だな」

 

 俺は腕を組む。

 

「未来が固定されるなら、行動は全部読まれる」

 

「だから盗むのよ♡」

 

 グラスを揺らし、峰不二子が微笑む。

 

「読まれても、なお成功する形で」

 

「また無茶言う」

 

「斬る」

 

 短く言い切ったのは石川五ェ門。

 

「未来とやらも、斬ればよい」

 

「頼もしいねぇ」

 

 ルパンは楽しげに笑った。

 

「で、鍵になるのが――」

 

 視線が俺に向く。

 

「時間のズレ持ち、転生者くんだ」

 

「また俺かよ」

 

「だってよ」

 

 ルパンは肩をすくめる。

 

「未来が見えるなら、“見えない未来”を作ればいい」

 

「……観測外の行動か」

 

「そう。お前の“同期ズレ”、あれを利用する」

 

 嫌な予感しかしない。

 

「言っとくが、あれは制御が完全じゃない」

 

「十分だ」

 

 次元が低く言う。

 

「一瞬でも“読めない動き”が作れりゃ、それで穴が開く」

 

 ……理屈は通る。

 

「成功率は?」

 

「ゼロか百だな」

 

「最悪じゃねぇか」

 

「最高だろ?」

 

 ルパンは笑った。

 

 やれやれだ。

 

 ヘリオス要塞・外周。

 

 夜はまだ深い。

 

「監視ドローン、三十秒周期で巡回」

 

 不二子が端末を操作する。

 

「オラクルは地下三層、中央制御室」

 

「侵入は正面突破か?」

 

 次元が問う。

 

「いや」

 

 ルパンが首を振る。

 

「今回は“見せる侵入”だ」

 

「は?」

 

「わざと見つかる」

 

 全員が一瞬黙る。

 

「未来予知に“俺たちが侵入する”って情報を与える。向こうは対策を打つ」

 

「その対策の“先”を突くってわけね」

 

 不二子が頷く。

 

「正解」

 

 ルパンはニヤリと笑う。

 

「で、その“ズレ”を作るのがユウ」

 

「つまり俺がバグ役か」

 

「そういうこと」

 

 ため息が出る。

 

 だが――嫌いじゃない。

 

 侵入開始。

 

 アラームが鳴り響く。

 

 サーチライトが照らす。

 

「ルパン確認! 侵入者だ!」

 

 無線が飛び交う。

 

「いいねぇ、この感じ!」

 

 ルパンが笑いながら走る。

 

 銃声。

 

 レーザー。

 

 ドローン。

 

 すべてが襲いかかる。

 

 だが――

 

「遅い」

 

 俺の視界では、すべてがスローモーション。

 

「右、三秒後に掃射!」

 

「了解!」

 

 次元が即応する。

 

「斬る」

 

 五ェ門の一閃で障害が消える。

 

「ルート開いたわ!」

 

 不二子が誘導する。

 

 完璧な連携。

 

 だが――

 

「来たな」

 

 ルパンが呟く。

 

 廊下の先、武装兵が待ち構えている。

 

 配置が完璧すぎる。

 

「未来を見てるってやつか」

 

「だな」

 

 次元が舌打ちする。

 

「全部読まれてる」

 

「だから――ここからが本番だ」

 

 ルパンが俺を見る。

 

「ユウ」

 

「……分かってる」

 

 俺は深く息を吸う。

 

 同期を、あえてズラす。

 

 意識を切り離す。

 

 時間の流れから、半歩外れる。

 

「行くぞ」

 

 その瞬間。

 

 世界が“二重”に見えた。

 

 予測される未来の動きと、実際の動き。

 

 その間に――

 

 俺がいる。

 

「そこか」

 

 俺は未来の“外側”をなぞる。

 

 弾道をずらす。

 

 敵の認識を狂わせる。

 

「なっ――!?」

 

 兵士が戸惑う。

 

 予測と現実が一致しない。

 

「今だ!」

 

 ルパンが飛び込む。

 

 次元が撃ち抜き。

 

 五ェ門が道を切り開く。

 

 不二子がロックを解除。

 

 俺はそのすべてを“ズラす”。

 

 未来予知を無効化する“例外”として。

 

 地下三層。

 

 中央制御室。

 

 そこにあった。

 

 球状の装置――《オラクル》。

 

 淡く光り、脈動している。

 

「これが未来か」

 

 ルパンが近づく。

 

「さて、いただくとするか」

 

「その必要はない」

 

 低い声が響いた。

 

 振り向く。

 

 そこに立っていたのは、ヘリオスの司令官。

 

「君たちの未来は、ここで終わりだ」

 

「そうかい?」

 

 ルパンは笑う。

 

「じゃあ、見せてくれよ。その未来ってやつを」

 

 司令官が装置に手をかざす。

 

 オラクルが強く光る。

 

「……確認した」

 

 彼は冷静に言った。

 

「君たちはここで失敗する」

 

「へぇ」

 

 ルパンが肩をすくめる。

 

「だったら――外れてもらおうか」

 

 俺は一歩前に出る。

 

「未来は一つじゃない」

 

「違うな」

 

 司令官が首を振る。

 

「観測された瞬間、未来は確定する」

 

「なら――」

 

 俺は笑った。

 

「観測できない未来を作ればいい」

 

 再び、同期をズラす。

 

 限界ギリギリ。

 

 視界が歪む。

 

 だが――

 

「見えないだろ?」

 

 俺の動きは、オラクルに映らない。

 

「馬鹿な……!」

 

 司令官の顔が歪む。

 

「未来が……読めない!?」

 

「読めねぇ未来もあるってことだ」

 

 ルパンが装置に手をかける。

 

「いただき!」

 

 その瞬間。

 

 俺は最後のズレを叩き込む。

 

 予測から外れた行動。

 

 確定しない未来。

 

 そして――

 

 オラクルは、俺たちの手に渡った。

 

 脱出後。

 

 夜明けが差し込む丘の上。

 

「いやぁ、今回も派手だったな!」

 

 ルパンが笑う。

 

「疲れた……」

 

 俺は座り込む。

 

「またズレてるわね」

 

 不二子が覗き込む。

 

「少しな」

 

「無理しすぎだ」

 

 次元が煙を吐く。

 

「そのうち本当に戻れなくなるぞ」

 

「かもな」

 

 俺は苦笑する。

 

 だが――

 

「でも、悪くない」

 

「だろ?」

 

 ルパンが言う。

 

「未来だろうが時間だろうが、盗めるなら盗む」

 

「それが俺たちだ」

 

 その言葉に、妙な納得があった。

 

 こうして。

 

 未来すら出し抜く怪盗団は――

 

 さらに厄介な領域へと踏み込んでいく。

 

 




第五章予告

「次は“存在そのものを消す兵器”だ」

「もう何でもありだな……」

「存在が消えるなら?」

「奪い返すまでよ♡」

「……斬る対象がなくなるな」

「だったら作ればいい」

「ルパン、お前な……」

「安心しろ」

 ルパンは笑う。

「消えたものも、ちゃんと盗んでくる」
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