(本編完結)『スローモーションの怪盗譚(ルパン・クロノス)』 作:微糖コーヒー
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夜の都会。ネオンが滲み、記憶のように曖昧な光が揺れる。
「今回の相手は“記憶そのものを盗む奴”――コードネーム《ミメシス》」
机に足を乗せて笑うのは、ルパン三世。
「触れた相手の“重要な記憶”だけを抜き取る。しかも、抜かれたことに気づかねぇ」
「最悪だな」
俺は顔をしかめる。
「戦闘技術とかじゃなく、“判断”や“信頼”を奪われるタイプか」
「そういうこと」
煙を吐きながら次元大介が続ける。
「実際、被害者は全員“自分が何をしてたか”を忘れてる」
「つまり対策しなきゃ、俺たちもバラバラになるわね」
峰不二子が指先で頬をなぞる。
「安心しろ」
ルパンが笑う。
「今回は対策済みだ」
そう言って取り出したのは、小さなイヤーカフ型デバイス。
「“外部記憶リンク”。俺たちの思考と行動ログを常時バックアップする」
「記憶を盗まれても、外部から復元できるってわけか」
「正解」
俺はそれを装着する。
微かな振動とともに、視界の端にログ表示が浮かぶ。
「……便利すぎるな」
「ただし」
ルパンは指を立てた。
「リアルタイムで上書きされる。盗まれた直後の行動にはズレが出る」
「その隙が危ないな」
「だから――」
ルパンは俺を見る。
「お前が調整役だ」
「やっぱりか」
俺はため息をつく。
標的は高層ビル《ノクターン・タワー》。
最上階に、《ミメシス》はいる。
「侵入はエレベーターで正面突破」
「また派手ね」
不二子が笑う。
「目立った方が釣れる」
ルパンは肩をすくめる。
「相手は“接触”が必要なタイプだ。近づかせてやる」
「危険だぞ」
次元が低く言う。
「分かってる」
ルパンは軽く笑った。
「だから面白ぇ」
最上階。
広いフロアに、静かな音楽が流れている。
そして――
「ようこそ」
優雅な声。
振り向くと、スーツ姿の男。
整った顔立ち。だがどこか“空虚”。
「私が《ミメシス》だ」
「ずいぶん堂々としてるな」
ルパンが笑う。
「逃げる必要がないからね」
男は微笑む。
「君たちは、ここで“自分を失う”」
次の瞬間。
距離が詰まる。
速い。
だが――
「見えてる」
俺は動く。
スローモーションの中、男の手がルパンに触れようとする。
「ルパン、右!」
「了解!」
かわす。
だが――
「っ……!」
次元の動きが一瞬止まる。
「……何をしてた?」
彼の目が揺れる。
「記憶が……!」
「来たわね」
不二子が舌打ちする。
「ログ再生!」
彼女のデバイスが光る。
次元の視界に、直前の行動が流れ込む。
「……そうか」
次元はすぐに銃を構え直す。
「便利だが、ラグがあるな」
「そのラグを突いてくる」
俺は言う。
ミメシスは微笑んでいる。
「面白い玩具を持っているね」
「お前の方がよっぽど厄介だ」
ルパンが舌を鳴らす。
「だがな」
彼は笑った。
「盗まれるだけじゃ終わらねぇ」
ルパンが飛び込む。
接近戦。
だがミメシスは触れようとするだけでいい。
致命的な能力。
「ユウ!」
「分かってる!」
俺は集中する。
記憶が盗まれる瞬間。
その直前。
わずかな“認識の揺れ”。
「そこだ」
俺は介入する。
記憶の流れに触れる。
時間じゃない。
だが、情報の流れ。
それもまた“順序”を持つ。
「止める……!」
ミメシスの手が触れる直前。
その瞬間を引き延ばす。
「今!」
ルパンが体を捻り、男の懐に入る。
「チェックメイトだ」
ナイフが喉元に当たる。
ミメシスの動きが止まる。
「……見事だ」
彼は静かに笑った。
「だが、君たちはいずれ“自分を失う”」
「その前に盗むだけだ」
ルパンは軽く言う。
「お前の能力もな」
数分後。
ミメシスは拘束され、データは回収された。
記憶操作技術。
危険すぎる代物。
「これで終わりか?」
次元が問う。
「いや」
俺は首を振る。
「まだ“穴”がある」
「穴?」
「こいつ、完全に記憶を奪ってるわけじゃない」
俺はミメシスを見る。
「“重要な部分だけ抜いてる”」
「つまり?」
「逆に言えば、“核”は残ってる」
「……戻せるのか?」
不二子が問う。
「やってみる価値はある」
俺は手をかざす。
記憶の流れに干渉する。
断片を繋ぐ。
失われた部分を補完する。
「……戻れ」
静かに。
慎重に。
やがて――
ミメシスの目が揺れた。
「……私は……」
「成功ね」
不二子が微笑む。
「完全じゃねぇが、戻ってる」
次元が頷く。
「十分だ」
ルパンが笑った。
「やっぱりな」
「何がだ?」
「消されたもんは、ちゃんと盗み返せるってことさ」
ビルの屋上。
夜風が吹く。
「今回は頭使ったな」
次元が言う。
「毎回だろ」
「いや、今回は特にだ」
不二子が笑う。
「ユウがいなかったら、全員バラバラよ」
「過大評価だ」
「いいや」
ルパンが言う。
「ちょうどいい評価だ」
その目は、真剣だった。
「時間、未来、存在、記憶――」
彼は指を折る。
「全部いじれる奴なんて、そうそういねぇ」
「……だからこそ危ないんだよ」
俺は呟く。
「俺自身が、ズレていく」
「それでもいい」
ルパンは即答した。
「ズレたままでも、盗めるならな」
……無茶苦茶だ。
でも――
「嫌いじゃない」
こうして。
記憶すら取り戻す怪盗団は――
さらに深い“根源”へと近づいていく。
第七章予告
「次は“運命そのものを固定する奴”だ」
「もう神様レベルだな……」
「運命が決まってるなら?」
「変えるだけだろ」
「簡単に言うな……」
「安心しろ」
ルパンは笑う。
「決まってる運命ほど、盗みやすいんだよ」