(本編完結)『スローモーションの怪盗譚(ルパン・クロノス)』   作:微糖コーヒー

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第六章:記憶泥棒(メモリー・シーフ

 

 夜の都会。ネオンが滲み、記憶のように曖昧な光が揺れる。

 

「今回の相手は“記憶そのものを盗む奴”――コードネーム《ミメシス》」

 

 机に足を乗せて笑うのは、ルパン三世。

 

「触れた相手の“重要な記憶”だけを抜き取る。しかも、抜かれたことに気づかねぇ」

 

「最悪だな」

 

 俺は顔をしかめる。

 

「戦闘技術とかじゃなく、“判断”や“信頼”を奪われるタイプか」

 

「そういうこと」

 

 煙を吐きながら次元大介が続ける。

 

「実際、被害者は全員“自分が何をしてたか”を忘れてる」

 

「つまり対策しなきゃ、俺たちもバラバラになるわね」

 

 峰不二子が指先で頬をなぞる。

 

「安心しろ」

 

 ルパンが笑う。

 

「今回は対策済みだ」

 

 そう言って取り出したのは、小さなイヤーカフ型デバイス。

 

「“外部記憶リンク”。俺たちの思考と行動ログを常時バックアップする」

 

「記憶を盗まれても、外部から復元できるってわけか」

 

「正解」

 

 俺はそれを装着する。

 

 微かな振動とともに、視界の端にログ表示が浮かぶ。

 

「……便利すぎるな」

 

「ただし」

 

 ルパンは指を立てた。

 

「リアルタイムで上書きされる。盗まれた直後の行動にはズレが出る」

 

「その隙が危ないな」

 

「だから――」

 

 ルパンは俺を見る。

 

「お前が調整役だ」

 

「やっぱりか」

 

 俺はため息をつく。

 

 標的は高層ビル《ノクターン・タワー》。

 

 最上階に、《ミメシス》はいる。

 

「侵入はエレベーターで正面突破」

 

「また派手ね」

 

 不二子が笑う。

 

「目立った方が釣れる」

 

 ルパンは肩をすくめる。

 

「相手は“接触”が必要なタイプだ。近づかせてやる」

 

「危険だぞ」

 

 次元が低く言う。

 

「分かってる」

 

 ルパンは軽く笑った。

 

「だから面白ぇ」

 

 最上階。

 

 広いフロアに、静かな音楽が流れている。

 

 そして――

 

「ようこそ」

 

 優雅な声。

 

 振り向くと、スーツ姿の男。

 

 整った顔立ち。だがどこか“空虚”。

 

「私が《ミメシス》だ」

 

「ずいぶん堂々としてるな」

 

 ルパンが笑う。

 

「逃げる必要がないからね」

 

 男は微笑む。

 

「君たちは、ここで“自分を失う”」

 

 次の瞬間。

 

 距離が詰まる。

 

 速い。

 

 だが――

 

「見えてる」

 

 俺は動く。

 

 スローモーションの中、男の手がルパンに触れようとする。

 

「ルパン、右!」

 

「了解!」

 

 かわす。

 

 だが――

 

「っ……!」

 

 次元の動きが一瞬止まる。

 

「……何をしてた?」

 

 彼の目が揺れる。

 

「記憶が……!」

 

「来たわね」

 

 不二子が舌打ちする。

 

「ログ再生!」

 

 彼女のデバイスが光る。

 

 次元の視界に、直前の行動が流れ込む。

 

「……そうか」

 

 次元はすぐに銃を構え直す。

 

「便利だが、ラグがあるな」

 

「そのラグを突いてくる」

 

 俺は言う。

 

 ミメシスは微笑んでいる。

 

「面白い玩具を持っているね」

 

「お前の方がよっぽど厄介だ」

 

 ルパンが舌を鳴らす。

 

「だがな」

 

 彼は笑った。

 

「盗まれるだけじゃ終わらねぇ」

 

 ルパンが飛び込む。

 

 接近戦。

 

 だがミメシスは触れようとするだけでいい。

 

 致命的な能力。

 

「ユウ!」

 

「分かってる!」

 

 俺は集中する。

 

 記憶が盗まれる瞬間。

 

 その直前。

 

 わずかな“認識の揺れ”。

 

「そこだ」

 

 俺は介入する。

 

 記憶の流れに触れる。

 

 時間じゃない。

 

 だが、情報の流れ。

 

 それもまた“順序”を持つ。

 

「止める……!」

 

 ミメシスの手が触れる直前。

 

 その瞬間を引き延ばす。

 

「今!」

 

 ルパンが体を捻り、男の懐に入る。

 

「チェックメイトだ」

 

 ナイフが喉元に当たる。

 

 ミメシスの動きが止まる。

 

「……見事だ」

 

 彼は静かに笑った。

 

「だが、君たちはいずれ“自分を失う”」

 

「その前に盗むだけだ」

 

 ルパンは軽く言う。

 

「お前の能力もな」

 

 数分後。

 

 ミメシスは拘束され、データは回収された。

 

 記憶操作技術。

 

 危険すぎる代物。

 

「これで終わりか?」

 

 次元が問う。

 

「いや」

 

 俺は首を振る。

 

「まだ“穴”がある」

 

「穴?」

 

「こいつ、完全に記憶を奪ってるわけじゃない」

 

 俺はミメシスを見る。

 

「“重要な部分だけ抜いてる”」

 

「つまり?」

 

「逆に言えば、“核”は残ってる」

 

「……戻せるのか?」

 

 不二子が問う。

 

「やってみる価値はある」

 

 俺は手をかざす。

 

 記憶の流れに干渉する。

 

 断片を繋ぐ。

 

 失われた部分を補完する。

 

「……戻れ」

 

 静かに。

 

 慎重に。

 

 やがて――

 

 ミメシスの目が揺れた。

 

「……私は……」

 

「成功ね」

 

 不二子が微笑む。

 

「完全じゃねぇが、戻ってる」

 

 次元が頷く。

 

「十分だ」

 

 ルパンが笑った。

 

「やっぱりな」

 

「何がだ?」

 

「消されたもんは、ちゃんと盗み返せるってことさ」

 

 ビルの屋上。

 

 夜風が吹く。

 

「今回は頭使ったな」

 

 次元が言う。

 

「毎回だろ」

 

「いや、今回は特にだ」

 

 不二子が笑う。

 

「ユウがいなかったら、全員バラバラよ」

 

「過大評価だ」

 

「いいや」

 

 ルパンが言う。

 

「ちょうどいい評価だ」

 

 その目は、真剣だった。

 

「時間、未来、存在、記憶――」

 

 彼は指を折る。

 

「全部いじれる奴なんて、そうそういねぇ」

 

「……だからこそ危ないんだよ」

 

 俺は呟く。

 

「俺自身が、ズレていく」

 

「それでもいい」

 

 ルパンは即答した。

 

「ズレたままでも、盗めるならな」

 

 ……無茶苦茶だ。

 

 でも――

 

「嫌いじゃない」

 

 こうして。

 

 記憶すら取り戻す怪盗団は――

 

 さらに深い“根源”へと近づいていく。

 

 




第七章予告

「次は“運命そのものを固定する奴”だ」

「もう神様レベルだな……」

「運命が決まってるなら?」

「変えるだけだろ」

「簡単に言うな……」

「安心しろ」

 ルパンは笑う。

「決まってる運命ほど、盗みやすいんだよ」
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