(本編完結)『スローモーションの怪盗譚(ルパン・クロノス)』 作:微糖コーヒー
雨が降っていた。
細く、静かで、逃げ場を失わせるような雨だ。
「今回の相手は“運命を固定する男”――コードネーム《ファタリスト》」
濡れた屋上で、ルパン三世が言った。
「対象の“結果”を先に決める能力だ。プロセスは関係ない」
「結果先行かよ……」
俺は空を見上げる。
「つまり、“当たると決まった弾は絶対に当たる”」
「その通りだ」
低く呟く次元大介。
「回避も防御も意味を持たねぇ」
「斬っても、当たる未来なら斬る前に結果が成立する」
石川五ェ門が静かに言う。
「厄介ね」
峰不二子が肩をすくめた。
「じゃあどうするの?」
ルパンは笑う。
「決まってるだろ」
俺を見る。
「運命を“ズラす”」
「また俺か」
「お前しかいねぇ」
……否定できないのが腹立つ。
標的は山岳都市にある研究施設《パラドックス》。
ファタリストはそこで実験を行っている。
「すでに“侵入成功”と“失敗”の両方を見てる可能性がある」
俺は言う。
「ならどっちに転ぶ?」
「決まってる」
ルパンが笑う。
「成功の方を“盗む”」
「意味わかんねぇな」
次元が苦笑する。
「だが、嫌いじゃねぇ」
施設内部。
静かすぎる。
「……罠だな」
次元が呟く。
その瞬間――
銃声。
次元の肩を弾が貫く。
「ぐっ……!」
「次元!」
「問題ねぇ……」
だが血が流れている。
「今のは……」
「決まってたんだ」
俺は歯を食いしばる。
「“当たる”って結果が」
「クソが」
ルパンが舌打ちする。
「面倒くせぇ能力だな」
そのとき。
「ようこそ」
声が響く。
振り向くと、白衣の男。
「君たちの結末は、すでに決まっている」
「お前がファタリストか」
「そうだ」
男は淡々と言う。
「君たちはここで敗北する」
「断る」
俺は一歩前に出る。
「未来は一つじゃない」
「違う」
男は首を振る。
「観測された瞬間、未来は固定される」
「だったら――」
俺は笑う。
「観測の“外”に出ればいい」
同期をズラす。
限界まで。
視界が崩れる。
世界が歪む。
だが――
「見えねぇだろ」
俺の動きは、運命の外にある。
「馬鹿な……!」
ファタリストの顔が初めて歪む。
「運命が……読めない!?」
「読めるのは“中”だけだ」
ルパンが飛び込む。
「外から来られたら意味ねぇよな!」
次元が片手で撃ち返す。
五ェ門が一直線に突っ込む。
不二子が背後を取る。
俺はそのすべてを“ズラす”。
決定された結果を、成立させないように。
「あり得ない……!」
ファタリストが叫ぶ。
「結果は固定されているはずだ!」
「だったら」
俺は言う。
「その“結果”ごと盗む」
ルパンがナイフを突きつける。
「チェックメイトだ」
静寂。
雨の音だけが戻る。
「……終わったか」
次元が息を吐く。
「いや」
俺は首を振る。
「まだだ」
「何が?」
「こいつの能力……」
俺はファタリストを見る。
「“結果を固定する”んじゃない」
「どういうこと?」
不二子が問う。
「“結果を選んでる”んだ」
「……つまり?」
「複数の未来から、一つを選択してる」
「なら――」
ルパンが笑う。
「選ばれなかった未来も、存在してるってことか」
「そういうこと」
「いいねぇ」
ルパンの目が輝く。
「全部盗めるじゃねぇか」
「発想が犯罪すぎる」
「今さらだろ?」
……否定できない。
こうして。
運命すら揺るがす怪盗団は――
ついに“可能性そのもの”へと手を伸ばす。
最終章予告
「次は“世界そのものをリセットする装置”だ」
「もう終わりだろそれ……」
「終わらせなきゃいい」
「簡単に言うな……」
「安心しろ」
ルパンは笑う。
「終わる世界も、ちゃんと盗んでくる」