(本編完結)『スローモーションの怪盗譚(ルパン・クロノス)』   作:微糖コーヒー

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第七章:運命破り(デスティニー・ブレイカー)

 

 

 雨が降っていた。

 

 細く、静かで、逃げ場を失わせるような雨だ。

 

「今回の相手は“運命を固定する男”――コードネーム《ファタリスト》」

 

 濡れた屋上で、ルパン三世が言った。

 

「対象の“結果”を先に決める能力だ。プロセスは関係ない」

 

「結果先行かよ……」

 

 俺は空を見上げる。

 

「つまり、“当たると決まった弾は絶対に当たる”」

 

「その通りだ」

 

 低く呟く次元大介。

 

「回避も防御も意味を持たねぇ」

 

「斬っても、当たる未来なら斬る前に結果が成立する」

 

 石川五ェ門が静かに言う。

 

「厄介ね」

 

 峰不二子が肩をすくめた。

 

「じゃあどうするの?」

 

 ルパンは笑う。

 

「決まってるだろ」

 

 俺を見る。

 

「運命を“ズラす”」

 

「また俺か」

 

「お前しかいねぇ」

 

 ……否定できないのが腹立つ。

 

 標的は山岳都市にある研究施設《パラドックス》。

 

 ファタリストはそこで実験を行っている。

 

「すでに“侵入成功”と“失敗”の両方を見てる可能性がある」

 

 俺は言う。

 

「ならどっちに転ぶ?」

 

「決まってる」

 

 ルパンが笑う。

 

「成功の方を“盗む”」

 

「意味わかんねぇな」

 

 次元が苦笑する。

 

「だが、嫌いじゃねぇ」

 

 施設内部。

 

 静かすぎる。

 

「……罠だな」

 

 次元が呟く。

 

 その瞬間――

 

 銃声。

 

 次元の肩を弾が貫く。

 

「ぐっ……!」

 

「次元!」

 

「問題ねぇ……」

 

 だが血が流れている。

 

「今のは……」

 

「決まってたんだ」

 

 俺は歯を食いしばる。

 

「“当たる”って結果が」

 

「クソが」

 

 ルパンが舌打ちする。

 

「面倒くせぇ能力だな」

 

 そのとき。

 

「ようこそ」

 

 声が響く。

 

 振り向くと、白衣の男。

 

「君たちの結末は、すでに決まっている」

 

「お前がファタリストか」

 

「そうだ」

 

 男は淡々と言う。

 

「君たちはここで敗北する」

 

「断る」

 

 俺は一歩前に出る。

 

「未来は一つじゃない」

 

「違う」

 

 男は首を振る。

 

「観測された瞬間、未来は固定される」

 

「だったら――」

 

 俺は笑う。

 

「観測の“外”に出ればいい」

 

 同期をズラす。

 

 限界まで。

 

 視界が崩れる。

 

 世界が歪む。

 

 だが――

 

「見えねぇだろ」

 

 俺の動きは、運命の外にある。

 

「馬鹿な……!」

 

 ファタリストの顔が初めて歪む。

 

「運命が……読めない!?」

 

「読めるのは“中”だけだ」

 

 ルパンが飛び込む。

 

「外から来られたら意味ねぇよな!」

 

 次元が片手で撃ち返す。

 

 五ェ門が一直線に突っ込む。

 

 不二子が背後を取る。

 

 俺はそのすべてを“ズラす”。

 

 決定された結果を、成立させないように。

 

「あり得ない……!」

 

 ファタリストが叫ぶ。

 

「結果は固定されているはずだ!」

 

「だったら」

 

 俺は言う。

 

「その“結果”ごと盗む」

 

 ルパンがナイフを突きつける。

 

「チェックメイトだ」

 

 静寂。

 

 雨の音だけが戻る。

 

「……終わったか」

 

 次元が息を吐く。

 

「いや」

 

 俺は首を振る。

 

「まだだ」

 

「何が?」

 

「こいつの能力……」

 

 俺はファタリストを見る。

 

「“結果を固定する”んじゃない」

 

「どういうこと?」

 

 不二子が問う。

 

「“結果を選んでる”んだ」

 

「……つまり?」

 

「複数の未来から、一つを選択してる」

 

「なら――」

 

 ルパンが笑う。

 

「選ばれなかった未来も、存在してるってことか」

 

「そういうこと」

 

「いいねぇ」

 

 ルパンの目が輝く。

 

「全部盗めるじゃねぇか」

 

「発想が犯罪すぎる」

 

「今さらだろ?」

 

 ……否定できない。

 

 こうして。

 

 運命すら揺るがす怪盗団は――

 

 ついに“可能性そのもの”へと手を伸ばす。

 

 




最終章予告

「次は“世界そのものをリセットする装置”だ」

「もう終わりだろそれ……」

「終わらせなきゃいい」

「簡単に言うな……」

「安心しろ」

 ルパンは笑う。

「終わる世界も、ちゃんと盗んでくる」
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