(本編完結)『スローモーションの怪盗譚(ルパン・クロノス)』   作:微糖コーヒー

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最終章:世界泥棒(ワールド・リセット)

 

 

 静寂。

 

 音が、ない。

 

 風も、光も、時間すらも――薄く、遠い。

 

「……ここが最深部か」

 

 俺は足を止めた。

 

 眼前に広がるのは、巨大な球体装置。

 

 脈動している。まるで“世界そのものの心臓”のように。

 

「コードネーム《リセット・コア》」

 

 帽子を押さえ、ルパン三世が低く言う。

 

「発動すりゃ、世界は初期状態に戻る」

 

「人も、歴史も、全部か?」

 

 次元大介が眉をひそめる。

 

「全部だろうな」

 

 ルパンは肩をすくめた。

 

「便利すぎて笑えねぇ」

 

「……笑えないわね」

 

 峰不二子が静かに言う。

 

「これが動いたら、私たちのことも“なかったこと”になる」

 

「斬る価値はある」

 

 石川五ェ門が一歩前に出る。

 

「世界ごと、な」

 

 ……冗談じゃない。

 

「ようやく来たか」

 

 背後から声。

 

 振り向くと、そこにいたのは白いコートの男。

 

「私は“管理者”」

 

「ずいぶん雑な名前だな」

 

 ルパンが笑う。

 

「役割に過ぎないからな」

 

 男は淡々と言う。

 

「世界は不安定になりすぎた。だから“初期化”する」

 

「勝手に決めるな」

 

 俺は一歩出る。

 

「それが必要な未来だ」

 

「未来なんて、いくらでもある」

 

「違う」

 

 男は首を振る。

 

「“正しい一つ”だけでいい」

 

「気に入らねぇな」

 

 ルパンが笑う。

 

「俺たちは“全部欲しい”んだよ」

 

 装置が光る。

 

 リセットカウントが始まる。

 

「来るぞ!」

 

 次元が叫ぶ。

 

 空間が歪む。

 

 時間が崩れる。

 

 存在が揺らぐ。

 

 記憶が削れる。

 

 運命が固定される。

 

 ――全部、同時に。

 

「ふざけんな……!」

 

 俺は歯を食いしばる。

 

 今までの全部が、一気に押し寄せてくる。

 

「ユウ!」

 

 ルパンの声。

 

「やれるか!」

 

「……やるしかねぇだろ!」

 

 俺は笑った。

 

 限界なんて、とっくに超えてる。

 

 同期を外す。

 

 完全に。

 

 時間の外へ。

 

 未来の外へ。

 

 存在の外へ。

 

 記憶の外へ。

 

 運命の外へ。

 

 ――世界の外へ。

 

「……っ!」

 

 視界が消える。

 

 音が消える。

 

 俺という輪郭すら曖昧になる。

 

 だが――

 

「見える」

 

 世界の“構造”。

 

 すべての分岐。

 

 すべての可能性。

 

「これが……全部か」

 

 なら。

 

「盗む」

 

 俺は手を伸ばす。

 

 “終わらない未来”を掴む。

 

「ルパン!」

 

「おう!」

 

 ルパンが笑う。

 

「それでいい!」

 

「次元!」

 

「任せろ!」

 

 銃声が響く。

 

「五ェ門!」

 

「斬る」

 

 空間が裂ける。

 

「不二子!」

 

「任せて♡」

 

 制御が書き換わる。

 

 全員が動く。

 

 俺の“外側”に合わせて。

 

「終わらせるな……!」

 

 俺は叫ぶ。

 

 世界を引き戻す。

 

 リセットを拒否する。

 

 可能性を固定する。

 

 逆に。

 

「決まるのは――こっちだ!」

 

 カウントが止まる。

 

 光が弾ける。

 

 そして――

 

 静寂。

 

 目を開ける。

 

 空が見える。

 

 青い。

 

「……生きてるか?」

 

 低い声。

 

 次元大介だ。

 

「……多分な」

 

 体を起こす。

 

 みんな、いる。

 

「成功ね」

 

 不二子が微笑む。

 

「当然だ」

 

 五ェ門が頷く。

 

「やるじゃねぇか」

 

 次元が煙を吐く。

 

 そして――

 

「最高だったぜ」

 

 ルパンが笑う。

 

「世界ごと盗むなんてな」

 

「……疲れた」

 

「だろうな」

 

 ルパンは肩を叩く。

 

「だがよ」

 

「なんだ」

 

「これで終わりじゃねぇ」

 

「は?」

 

「世界がある限り、“不可能”はなくならねぇ」

 

 ……確かに。

 

「つまり?」

 

「また盗む」

 

 即答だった。

 

「……お前な」

 

「いいじゃねぇか」

 

 ルパンは笑う。

 

「お前も好きだろ?」

 

 俺は少し考えて――

 

「……否定はしない」

 

 こうして。

 

 転生者クロガネ・ユウと、ルパン一味の物語は――

 

 終わらない。

 

 時間も。

 

 未来も。

 

 存在も。

 

 記憶も。

 

 運命も。

 

 世界すらも。

 

 すべてを相手に――

 

 彼らは今日も、“不可能”を盗み続ける。

 

 




エピローグ

「次は何を盗む?」

「決まってるだろ」

 ルパンは笑う。

「まだ誰も思いついてない“不可能”だ」

「……最高だな」

 俺は空を見上げた。

 この世界で。

 この連中となら。

 どこまでも行ける。

 そう思った。
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