その狂愛が視るものは   作:Othuyeg

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息抜きです。


第1節 イオリの場合

 きっかけは、1つの質問だった。

 

 「はぁ? あいつについて教えてほしい、って……まさか先生、また変なこと企んでるんじゃないだろうな?」

 

 銀髪褐色の風紀委員――即ち銀鏡イオリ――は訝しむ。何せ、この『シャーレの先生』という大人には様々な奇行の前科がある。……なお、その奇行は、大抵の場合イオリ個人にのみ向いているというのは、敢えて語るべきでもないだろう。

 先生は両手を振って無実を訴える。イオリはまだ疑わしそうな目を向けていたが、やがて語り出す。

 

 「はぁ……それで、だけど。あいつ……永峯(ながみね)ヒナノ』の話でしょ。なんて言うか……一言で言うなら、『優秀だけど不気味な部下』、かな。

 知っての通り、風紀委員会は激務だし、ゲヘナの連中は言うこと聞かないバカも多いけど、あいつは命令の理解も早いし、単独での制圧任務も完璧にこなす。

 正直、実務担当としてはかなり優秀だと思う。ヒナ委員長やアコちゃんも、戦力としては結構評価してるはず」

 

 イオリはそこで言葉を切ると、ため息を吐く。そして、「だけど」と前置きをして話を続けた。

 

 「なんかあいつ……気持ち悪いのよね。

 いつも視線が私を向いてて、上手く言えないけど……なんか、すごくズレてる気がする」

 

 イオリは回想した光景に、小さく肩を震わせる。

 そして、それから彼女が語り出したのは、『永峯ヒナノ』という少女の、どこか歯車のズレた記録だった。

 

 

 


 

 

 

 あれは、ちょっと前のパトロールの時のことだった。

 久しぶりに任務割り当てがあいつと同じになったんだ。一応挨拶しとこうと思って、あいつのところに顔を出したら、あいつなんて言ったと思う?

 

 「イオリさんの来訪を確認しました。肌艶、頭髪のキューティクル、立ち姿勢、何れも特に問題なし。健康状態良好と判断します。

 こんにちは、イオリさん。久しぶりの協働ですね。お困り事がございましたら、いつでもご相談ください。解決できるよう、徹底的に尽力させていただきます」

 

 だってさ。なあ先生、怖いと思わないか? 会って最初に出てきたセリフが相手の状態チェックなんだぞ? 普通は挨拶だろ!?

 「まあそういう人も居るんじゃないかな」、って? いやいや、そんなやつそうそう居ないだろ。……まあ先生が言うんだし、百歩、いや千歩譲って居るってことにしとくか。

 それより、もっと怖かったのは、あいつの目だ。なんて言うかな……『熱』を帯びてた。すごくこう、ねっとりした感じっていうか、(ねば)ついてる感じっていうか。そんな感じの『熱』。正直、気持ち悪かった。

 

 あとは、そうだな。温泉開発部を制圧しに行った時の話でもするか。

 あいつは、いつも私のことを見てる。いや、『観察してる』……って言った方が正しいのかもな。普段からめちゃくちゃ()()()()んだ。

 私が銃を構えようとすると、いつも全く同じタイミングであいつも銃を構える。

 私が前線に出ようとすると、必ず全く同じタイミングでほぼ最適な援護を始める。

 気味が悪いくらいに。本当に、息が合うんだ。もしかしたら、『息を()()()()()()()』って言う方が的確かも。そんなあいつの、あの時一番不気味だったところ……。それは、私が温泉開発部に()められそうになった時。その時にはもうあいつが先に罠にかかってたことかな。

 

 もちろん私は怒ったよ。「何やってるんだお前!?」って。そしたらあいつ、言いやがったんだ。

 

 「鬼怒川カスミなら、対イオリさんならばここに罠を張ると言う予測ができましたので、こうして先んじて踏み抜きました。

 既に彼女の手法とイオリさんの性格との組み合わせは、観測済みです」

 

 って。いや、それならそれで踏み抜くんじゃなくて解除しろよって、先生もそう思うでしょ!? それに、まるで全部お見通しみたいな口調も気色悪いし!

 ……まあ、あいつが気色悪い言い回ししたり、意味わかんない行動したりするのは今に始まったことじゃないんだけどさ。今はもう割と慣れちゃった。

 この前、規則違反者どもを取り締まりに出掛けた時だってそう。私が死角から撃たれそうになった時、あいつはもうその弾道を把握して、私と銃の間に立ってた。もちろん撃たれたよ、私の代わりに。

 もちろんまた怒ったけど、あいつは全然気にしてないみたいな無表情で……いや、むしろそれが嬉しいみたいな雰囲気すら感じる顔で言ったよ。

 

 「弾道は読めているので問題ありません。最適化の結果です。

 私、永峯ヒナノは、いつだってイオリさんの障害を排除するために存在するのですから」

 

 だって。意味わかんない、本当に……! 思わず言っちゃったわよ、「あんたバカなの!?」って。

 

 

 


 

 

 

 「まあ、あいつはそんなやつだよ。いつも私を見ていて、私しか見てない。

 正直、なんであんなに私に執着してるのかなんて全然分からないけど……」

 

 イオリはため息を吐く。そして、苦笑い。

 

 「実際、あいつが居てくれて助かったことは1度や2度じゃない。いつだって私のために動いてくれて、完璧な仕事をしてくれる。

 気色悪いのも嘘じゃないけど、それと同じくらい感謝してるのも嘘じゃない」

 

 そう締めくくるイオリに、先生が「そっか、話してくれてありがとう」と感謝を伝える。

 その言葉に彼女は、「愚痴みたいなものだし、別に礼なんかいらない」と言うと、きりりと目元を引き締めて、先生に人差し指を突きつけた。

 

 「ほら、この話は終わりだ! さっさと手を動かして仕事を終わらせるんだな、先生!」




名前永峯ヒナノ
学園ゲヘナ学園2年生
部活風紀委員会
年齢16歳
身長169cm
誕生日9月20日
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