その狂愛が視るものは   作:Othuyeg

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ガッツリ戦闘シーン入ります。
ちなみにどうでもいいことですが、「なぶる」という単語には「嬲」と「嫐」の2種類の漢字があります。俺は後者が好きです。


第9節 絶対不落(アンブレイカブル)の場合

 「……あん? なんだァ? テメェら」

 

 海辺で小競り合いを続けていたチンピラたちが、突如として現れた風紀委員たちに威圧をかける。

 中でもヘルメット団の一人が、ヒナノに近づいて睨みつける。

 

 「ココが誰のナワバリか分かって――!」

 

 が、その言葉が最後まで続くことはなかった。

 

 ――ドバンッ! ドッ、バゴォ!

 

 「少なくともあなたたちのものではありません」

 

 ヘルメット団員の顔面に『Analyse』(USP.45 タクティカル)で一発。打ち上がった顎に左肘を、そして脳天に打ち下ろしの右拳を一発。最後に膝蹴りで確実に戦闘不能に(リタイア)させる。

 

 「なっ、テメェ!!」

 

 「ヒャハハ! どうやら風紀委員会サマはお前らの敵みてぇだな!」

 

 スケバンがヘルメット団を煽る。

 ……と。そこで、煽ったスケバンの肩に手が置かれる。彼女が振り向くと同時、強烈な拳の一撃がその頬にめり込んだ。

 

 ――ドグシャア!!

 

 「はっ?」

 

 「何か勘違いされている様子ですが……この場の全員、我々の敵ですよ。

 どうぞ、全員でかかってきてください。今この場で、ヒナ委員長の休息を妨げるものは全てイオリさんの敵です。イオリさんの敵は即ち私の敵。全員即刻排除します」

 

 セスタス※1を嵌め直しながら、ヒナノが宣言した。

 それに対して、仲間をやられたスケバンたちが(いき)り立つ。

 

 「ふざけやがって! イオリだかサオリだか知らねぇが、全員ブッ潰して磔刑にでも処してやる!!」

 

 「応とも! 風紀委員がなんぼのもんだってんだ!!」

 

 ヘルメット団もそれに続く。元はと言えば自分たちの牛耳っていた場所にスケバンたちが土足で踏み込んできたことが原因なのだ。怒りを抱かぬわけがない。

 

 「クソッタレ! スケバンも風紀委員会も、全員ブッ飛ばしてやる!」

 

 「こんなことされて頭に来ねぇやつはいねぇ!!」

 

 スケバンとヘルメット団、そして風紀委員。もはや誰にも止められない三つ巴の争いが、ここに始まった。

 

 

 


 

 

 

 時は少し遡る。

 

 「そう言えば、ヒナノ先輩は『自分だけで何とかなる』と仰っていましたが……実際戦力差としてはどうなんですか? あの人数で勝てる見込みがあるレベルなんですか?」

 

 チナツがイオリに尋ねる。ヒナノはジャケットに袖を通し、拳銃のチャンバーチェックを行っている。

 

 「ん? ああ、多分純粋な戦力差で言うなら敗色濃厚なんじゃないか?」

 

 「えっ……!?」

 

 驚愕するチナツ。当然だ、彼女は確実な勝ち目のある人数があれなのだとばかり思っていたのだから。

 

 「まあ、あいつだし大丈夫でしょ。あいつが『一人でもいける』って言った以上、私がどうこうって言って無策で突っ込むつもりってわけでもないだろうし。

 あ、そうそう。()()()()()()は用意しといた方がいいぞ」

 

 「えっ、ちょっ、本当に大丈夫なんですか……!?」

 

 チナツの狼狽に、イオリは小さく笑う。そして、ある言葉を口にする。

 

 「『絶対不落の(アンブレイカブル)』ヒナノ」

 

 「……えっ?」

 

 「あいつの異名。もしかしたら一回くらいは聞いたことあるんじゃない? ……でも、理由までは知らない。そうだろ?」

 

 そうしていったん言葉を切り、咳払いをして、口を開いた――と同時。

 

 「「どうせなら見てきなよ。あいつがどんな戦い方をするのかさ」……ですか?」

 

 「!?」

 「うわっ!?」

 

 驚くチナツと、驚きすぎて思わず飛び退くイオリ。まあ、完璧にタイミングを合わせて一言一句違わないセリフを後ろから同時に吐く人間がいれば誰だって驚くだろう。

 

 「びっくりした……セリフを合わせに来るんじゃない! 何がしたいんだよお前は!?」

 

 「イオリさんのセリフは一言一句全て記録に残していますので。タイミングの都合上記録できないものも、一度全て記憶して、都合が合った時に記録しています」

 

 鉄のような無表情で、ちぐはぐな回答を返すヒナノ。既にセスタスを嵌めて握りを確認し、戦闘準備も万端といった様子だ。

 

 「いや、だから! 何がしたいんだって聞いてるだろ! まず質問に答えろよ!」

 

 「失礼しました。しかし、『何が』と言われましたら……知りたいのですか?」

 

 「いや! やっぱいい! きっと碌でもないことだと思う!!」

 

 首を傾げ意味深長なセリフを吐くヒナノに、ゾッとして自身をかき抱くイオリ。

 それを見たヒナノは頷いて優雅な礼をすると、グリンと機械的に振り返って、チナツに声をかける。

 

 「そうですか。ではチナツさん、参りましょう。イオリさんの敵を撃滅しに」

 

 「っ! あ、はい……」

 

 

 


 

 

 

 「……」

 

 結局、チナツはヒナノの考えている『策』というものを聞きそびれてしまっていた。だが、この惨状を見ていれば、自ずと見えてくるものがある。

 

 「はぁっ!!」

 

 ――ドゴォ! バゴォ!

 ――ズシャァァ!! ゴキィ!

 

 ヒナノの掛け声と共に、チンピラたちが吹き飛び、砂浜に叩きつけられる。純粋な暴力の嵐は、しかし指向性を持ってある目的を遂行していた。

 

 特定の個人を、集中的に痛めつけているのだ。

 

 「やべぇよ……何なんだよあいつ……!」

 

 「どれだけ攻撃しても表情一つ変えねぇ! 痛覚ってもんがねぇのか!?」

 

 ヒナノの作戦。それは、『最も強い、あるいは弱い相手をひたすら狙い続け、周りの敵が戦意喪失するまで甚振(いたぶ)り続けること』だった。

 

 「やめっ、このっ……! へぶっ! がっ!」

 

 その類稀(たぐいまれ)な観察眼を以てして、より効率的に標的を選別、選択。鍛え上げられた格闘技術で的確に急所を打ち、四肢を破壊。圧倒的な耐久力で他の全てを無視して(なぶ)り倒し、継戦能力を奪う。

 彼女の戦いとは、そういうものだった。

 

 「……くそっ!」

 

 周囲のチンピラたちが皆引いている中、一人のヘルメット団員が仲間を助けようと、ヒナノの背中に弾丸を叩き込む。

 

 「おい! やめろって!」

 

 「でも!」

 

 背中に弾を受けたヒナノは、それを無視してマウントポジションを取り、ヘルメットが砕けるほどに拳を叩き込み続ける。

 

 「嘘、だろ……? 効いてない……?」

 

 「くそっ、何とかしてあいつを撃退(オト)せ! 他の風紀委員に構ってたら誰が同じ目に遭うかわからねぇぞ!」

 

 スケバンとヘルメット団が、同じ思いで動き始める。あいつはヤバい。今すぐにでも何とかしなければ。

 

 「させない!」

 

 「クソが! 邪魔なんだよ!」

 

 だが、それを阻止するためにいるのが他の風紀委員たちでもある。攪乱・陽動に徹した風紀委員たちの連携はすさまじく、チンピラたちが翻弄されている間に、ヒナノに甚振られていたヘルメット団員は打ちのめされ失神してしまった。

 

 「っっが……はっ」

 

 「次」

 

 「ひぃっ!! く、来るぞ! 集中砲火しろ!」

 

 スケバンとヘルメット団、互いに争うことも忘れてヒナノに弾丸の雨霰(あめあられ)を叩きつける。

 しかし、彼女は一切動じない。灼熱の弾幕の中を、確かな足取りで突き進んでいく。そして、次に狙いを定めた一人に掴みかかる。

 

 「ひっ、ひぃいっ!!」

 

 「解析完了(Analyse Fertig)。利き腕は右と推定。破壊します」

 

 ――ゴキャ!

 

 「っ、っがぁぁっ!!」

 

 「後頭部、鳩尾(みぞおち)

 

 ――ドゴッ!! ドムゥッ!

 

 極めて冷徹に、そして冷酷に。銃を弾いて利き腕を破壊し、後頭部に肘打ち、腹部に膝蹴りを一発。首を掴んで砂浜に叩きつけると、顔面を(したた)かに踏みつけて気絶させる。

 

 「次」

 

 「あっ、うわぁぁっっ!!?」

 

 次は風紀委員たちの相手をしていたスケバンの一人に掴みかかると、思い切り引き寄せて膝蹴りを叩き込む。

 蹲った相手に覆い被さるようにして掴みかかると、別のスケバンめがけて走り、大きく跳躍して叩きつけるパワーボムをお見舞いした。

 

 ――ドガァッッ!!

 

 「「ぎゃあぁぁっ!!」」

 

 「次」

 

 パワーボムで吹き飛んだスケバンたちには一瞥もくれず、次は背を向けて風紀委員たちと交戦している一人のヘルメット団員を潜り込むようにして押し倒した。

 

 「うわっ!? あっ、ちょっと、()()()()()()は後で――おごぁっ!?」

 

 「……」

 

 何やら見当違いのセリフを吐いているが、今のヒナノは聞く耳を持たない。またもマウントポジションに陣取り全力のパンチをヘルメット越しに打ち込みまくる。当然、彼女は失神した。

 

 「あっぐ……かはっっ」

 

 「何なんだよ……お前、何なんだよ!!」

 

 「ひぃぃっ! も、もうやめましょうよアネゴ! あんなん人のやることじゃないっすよ!!」

 

 当然、この間もヒナノは被弾し続けていた。それでなお、一人一人、丁寧に、残酷に戦闘不能にされていったチンピラたちは、もはや戦意を喪失して後退(ずさ)りを始めている。

 

 「さて……まだやるというなら、こうなる方が増えるということですが。

 どうします? 続けますか?」

 

 「もっ、もういい! もうしない! やめるから! お願いだから見逃してくれ!」

 

 スケバンの一人が、たまらず絶叫する。それを聞いたヒナノは、セスタスを外して手を払う。

 そして、『Analyse』(H&K USP.45 タクティカル)『Verifizierung』(トンプソン・センター コンテンダー)を抜き、スケバンとヘルメット団員を一人ずつ指し示す。

 

 「そこのあなたと、あなた。仲間を回収しなさい。妙な動きをしたと私が判断したら即撃ちます」

 

 「わ、分かった! 何もしない! 何もしないから!!」

 

 その様子を見たヒナノは、銃を降ろすと、流血だらけの顔を拭う。そして、チナツに向き直り、左手を差し出した。

 

 「もしあれば、マンドレイクジュースを。あれが一番効きますので」

 

 「あ、はい……」

 

 チナツは、イオリに言われて用意していたマンドレイクジュースを手渡すと、周りの惨状を見渡して、呟いた。

 

 「これが、『絶対不落(アンブレイカブル)』の所以(ゆえん)……。

 これでは、どちらが悪人か分かったものではありませんね」

※1
古代ローマのナックルダスター。拳に巻き付ける革紐に鋲を打ち込んだもの




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