「っ、くそ! なんでこんなことに……!」
イオリが毒づく。全身をボロボロにしながら、クラックショットを連射して戦線を維持する。
隣にはヒナノもいる。本来はスケバンの拠点に奇襲をかけているはずのヒナノがだ。
「多勢に無勢だ! あの女の残虐ファイトもこの戦力差なら使えない! 一気に畳み掛けろぉー!!」
スケバンとヘルメット団、双方の全戦力と、風紀委員会の全戦力での総力戦。それだけではない。
観戦のつもりでやってきた不良たちまでもが戦線に参加し、混迷極める戦場の中で、空崎ヒナ抜きの風紀委員会は劣勢に立たされていた。アコが叫ぶ。
「なぜ……なぜなんですか!? 私はただ、ヒナ委員長に安らかにお休みいただきたかっただけなのに!」
「やれやれー! おいしいトウモロコシのために!」
「ふふっ、いい感じに盛り上がってまいりましたわね……!」
美食研究会がそれを傍目に焼きとうもろこしを売っている。何だこいつら。
――何故こうなったのかは、およそ1時間半前に
結論から言って、アコの計画は最初の時点で破綻していた。
「風紀委員会だ! 全員動、く…な……?」
ヒナノが強襲した時、スケバンの拠点の中はもぬけの殻。ヒナノが重傷を負わせたメンバー以外は、文字通り誰1人として居はしなかった。
何だ? 何が起きた? いや、それ以前に、この状況は明らかにまずい。ベッドの上で怯えている重傷メンバーに、ガラ悪く尋問をする。
「おい、お前」
「ひっ、ひぃっ! な、何だよぉ!」
「他のメンバーは何処へ行った」
「ヘ、ヘルメット団のアジトに行った! 何しに行ったかまでは聞いてない!」
それを聞き、ヒナノは真顔のまま、即座にヘルメット団の拠点に向かっているはずのイオリに連絡を入れた。
《……? もしもし? 一体どうしたんだ? 何か……》
「緊急事態ですイオリさん。重傷者以外のスケバンが拠点内にいません。重傷メンバー曰く、ヘルメット団のアジトに向かったと」
《は? どういうことだ。それじゃアコちゃんの作戦が……》
「はい。破綻します。そして、この状況下で考えられる、最悪の想定が一つ」
《っ、まさか……》
イオリが息を呑む。ヒナノの言う『最悪』に思い至ったらしい。
「『結託』です」
「イオリさん、できる限り進軍を遅らせる提案をします。
おそらくもう彼女たちは一時停戦を終えて結託している可能性があります。無駄な交戦は避けた方がよろしいかと」
後方で待機していた増援メンバーを引き連れ、全力疾走しながら提案するヒナノ。それを承諾しつつ、思わず救援を要請してしまうイオリ。
《わ、分かった。くそ! おい、そっちに本当に他に誰も居ないか確認し終えたら、可能な限り早くこっちに来てくれ!》
「言われずとももう終わって向かっています。落ち着いてくださいイオリさん」
《あっ、ああ……》
ヒナノは冷静に返す。彼女とて焦りが無い訳ではなかったが、それに駆られるのは無意味だと理解していた。
「状況を再度確認します。スケバンの拠点に奇襲をかけたものの、内部はほぼ無人。スケバンとヘルメット団の両集団が結託し、既に合流している可能性あり。
楽観的に考えるなら、ここで両集団が決戦のタイミングを早めて潰し合っているとすることもできますが、それならそれで戦闘に介入して撃破すれば終わりなので、最悪の状況を想定して動いた方が良いと考えられます」
《どうする? 一時撤退も視野に入れる?》
「いえ、まずはアコ行政官に連絡し、作戦の練り直しを提案して待機しましょう。そろそろ到着するので切りますね」
《分かった。じゃあ、アコちゃんにはこっちから連絡入れとく》
通信を切ると、走る速度をさらに一段階上げ、彼方に見えたイオリの姿目掛けて
「15時30分05秒、イオリさんの部隊と合流。
……イオリさんの状態、概ね異常なし。表情、発汗などから精神的な動揺などもないものと予測でき、今後予想される戦闘への支障は恐らくなし……。
はい。ご無事で何よりです、イオリさん」
「おい、またそれか。やめろってば。
まあいいや、アコちゃんにはさっき連絡したところ。そろそろ折り返しが来ると思うんだけど……っと。来たね」
端末が鳴り、イオリが応答する。すると、怒髪天を衝くといった様子のアコの姿が映し出された。
《本ッッッ当に腹が立つ連中ですね……! 少しくらいヒナ委員長の休息に協力しようという気はないのですかあの不良どもは!》
「不良がそんなこと考えるわけないでしょアコちゃん……」
《そんなことわかってます! イオリ! ヒナノさん! チナツさん! 作戦を伝えますので、そのまま聞いて実行に移してください!》
アコが作戦を伝達し始める。内容はこうだった。
《まずはヒナノさんとイオリを筆頭とした精鋭部隊で、威力偵察を兼ねた強襲をかけてください。拠点内部の戦力状況をある程度把握した後、誘い出して総力戦に持ち込みます。
ヒナノさんは結託している可能性があるとおっしゃってましたが、結局やることは変わりません。
地の利を取れる場所に誘い出して、集中砲火。相手側に有利な展開を決して作らせなければ、まだ勝機はあります!》
「承知しました」
「分かった!」
「……拝命しました」
三者三様に頷き、それぞれ作戦開始に向けて動き出す。だが、動き出しているのは、当然風紀委員会だけではなかった。
「……本当なんだな?」
「
ヘルメット団の団長が問い、スケバンの総長が鼻を鳴らす。
片やびしょびしょヘルメット団団長、片や『破茶滅茶』総長。その二人が、全軍を連れて一堂に会するこの状況。そこで、何をしているのかと言えば。
「『風紀委員会を撃退するまで、お互いに手を出さず、それらとの戦闘の際にはお互いに助力する』……。
正直信じらんねぇな。ついさっきまで
「テメェらが信じるも信じねぇも勝手だ。どうせ風紀委員会
疑り深い団長に、「勝手にしろ」と総長が吐き捨てる。その眼差しにある種の真剣さを受け取った団長は、不承不承と言った様子でそれを承諾する。
「……チッ、分かったよ。風紀委員会どもを潰すまでだぞ」
「交渉成立ってワケだな。んじゃ頼むぜ」
そう言ってひらひらと右手を振ると、総長は撤収の指示を出す。スケバンたちがぞろぞろとアジトを出ていく中、一人のヘルメット団員が団長に声をかける。
「い、いいんですか……? あいつらは……」
「しょーがねぇだろ。相手は風紀委員会、しかも委員長こそいないとはいえ、あの残虐ファイター『
このまま無視して全面戦争おっぱじめたって共倒れにしかなんねぇだろ?」
「そ、それは、確かにそうですけど……!」
二人がそのような会話を交わしていると、
「見てこいカルロ」
「いやあたしカルロじゃないっすけど……団長好きですよねあの映画」
カルロ呼ばわりされた団員が、外の様子を伺いに出る。するとその時。
――ヒュッ。
――コツン、コロン。
「……あん?」
――バゴォオン!!
「うわぁぁぁっっ!?」
爆裂。何が起きた、と慌てて外に這い出る。そこにあった光景は……。
「くそっ、また風紀委員会だ! 重戦車出せ! ドロイドとヘリもだ!」
「少数精鋭での特攻だと!? 舐めてやがんのか!」
「あっ、おいお前ら! 加勢しろ! 風紀委員会だ!」
「っ、なんだよこれ……」
予定よりも90分程度早く、そして本来とは全く異なる形で始まった、全面戦争の様相だった。
オリジナル展開ぶっ込んだ瞬間筆の乗りが良くなるの我ながら酷いと思う。