その狂愛が視るものは   作:Othuyeg

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二回行動だッ!!


第12節 大混戦の場合

 何が起きたのか。前回だけではそれを理解するには足りなかっただろうと思われるため、別の視点でもう少し語ることにする。

 

 「『ヒナノがいるからお祭りが中止になりそう』って聞いて駆け足で来たのに、なんでもう誰もいないわけ!? これじゃトウモロコシ売れないじゃん!」

 

 「まあまあ、落ち着いてくださいジュンコさん。

 ですがそうですね……お祭り、もとい全面戦争が未然に防がれてしまっているのだとすれば、私たちは全くの無駄足。

 そうなれば、この大量のトウモロコシは我々で処理しなくてはなりません」

 

 海岸で喚いているのは、美食研究会のジュンコ。窘めるのは、同じく美食研究会のハルナ。

 

 「夏の海辺や、お祭り騒ぎの中で食べる焼きトウモロコシは、なぜあんなにも美味しいのか。

 その究極の美食を証明するためのフィールドワークですのに、お祭りの主催者たちが不在では、ただの海辺のBBQで終わってしまいますわね」

 

 ハルナはため息をつきつつも、その瞳には美食への執念とも言うべき妖しい光を宿らせていた。

 『EAT OR DIE』をモットーとする彼女たちにとって、最高のスパイスである『お祭りの熱気』を諦めるという選択肢は存在しない。

 

 「あーあ、せっかくいっぱい運んできたのに~。これじゃ全部私たちが食べなきゃいけないですねぇ~」

 

 「まあ、売れ残ったなら私が食べるから! イチゴジャム塗って~♪」

 

 アカリがおっとりと微笑みながら物騒な量を積んだ台車を叩き、イズミが奇食への欲望を剥き出しにする。

 

 「何言ってんの! 売りにここまで来たんだから、何が何でも売り切るわよ! っていうか、ネットにはヒナノが暴れてるってあったのに、風紀委員の姿一つ見当たらないのは何なわけ!?」

 

 ジュンコの至極真っ当なツッコミを華麗にスルーし、ハルナは周囲の気配を探る。すると、少し離れた建物の影から、切羽詰まったような声が聞こえてきた。

 

 《緊急事態で……さん。重傷者以外……にいません。重傷メンバー曰く、ヘルメット団のアジトに向かったと》

 《……イオリ! ヒナノさん! チナツさん! 作戦を伝えますので、そのまま……!》

 《…ずはヒナノさんとイオリを筆頭とし…………で、威力偵察を兼ねた強襲……ください。拠点内部の戦力状況をある程度把握した後、誘い出して総力戦に持ち込みます》

 

 漏れ聞こえてくる通信機越しの行政官の声と、現場で合流したらしい風紀委員会たちの会話。

 ハルナは扇子を口元に当て、クスクスと気品のある笑い声を漏らした。

 

 「……なるほど。お祭りは中止になったわけではなく、会場が『ヘルメット団のアジト』に変更されただけのようですわね。

 しかも、風紀委員会は相手を誘い出して総力戦に持ち込むおつもりのようです」

 

 「ってことは、これからもっとデッカいお祭りが始まるってこと!?」

 

 イズミが目を輝かせる。

 

 「ええ。ですが、風紀委員会の皆様のやり方では少々『熱気』に欠けますわね。

 威力偵察から誘い出しなどと悠長なことをしていては、お祭りの火が翳ってしまいますわ。

 もっとこう、一気に燃え上がらせて、周囲のギャラリーも巻き込むくらいでなければ。検証にはなりません」

 

 ハルナは自身の愛銃、スナイパーライフル『アイディール』を優雅に構えた。

 

 「お祭りは、派手な花火で幕を開けるのが相場というものですわ。さあ皆様、究極の美食のために……最高のステージをセッティングいたしましょう!」

 

 ハルナの号令と同時に、アカリがグレネード付きアサルトライフル『ボトムレス』を軽やかに構える。

 彼女たちが狙いを定めたのは、ヘルメット団のアジトと、そこに強襲をかけようと潜伏しつつあったイオリとヒナノの中間地点――すなわち、両者の火種が最も燃え上がりやすい『導火線』のど真ん中だった。

 

 「それでは、開会を祝して……ドカンといきましょう〜♪」

 

 アカリの放った擲弾が、スラム街の入り口付近で凄まじい爆発を巻き起こす。

 さらにハルナの放った凶弾が、ヘルメット団のアジトの壁を粉砕し、イズミの投げ込んだ手榴弾が周囲の車両を次々に爆破していった。

 

 ――バゴォオン!!

 

 「うわぁぁぁっっ!?」

 

 突如として放たれた特大の「花火」に、結託の儀式を終えたばかりの不良集団はパニックに陥り、怒号を上げて一斉に武装を構える。

 そして、爆発の煙の向こう側に、アコからの指示を受けて強襲のタイミングを窺っていたイオリとヒナノの姿があった。

 

 「はぁ!? なんで爆発が!? まだ威力偵察の段階なんだけど!?」

 

 「イオリさん、想定外の攻撃により隠密行動は破綻しました。ヘルメット団及びスケバン集団は既に戦闘態勢に移行。このままでは我々が先制攻撃の的になります」

 

 「分かってる! くっそ、どこのどいつがこんな派手な花火を……!」

 

 イオリがクラックショットを構えながら周囲を見渡すと、瓦礫の上に堂々と立つ四つの影があった。

 

 「あら、風紀委員会の皆様。お仕事ご苦労様ですわ」

 

 「お邪魔しちゃいました? でも、お祭りは賑やかな方がいいですからねぇ」

 

 ハルナが白々しく笑みを浮かべ、アカリが悪びれもせずにこやかに語る。

 

 「美食研究会! お前ら、なんでこんな所にいるんだ!」

 

 「イオリさん、彼女たちの排除も作戦目標に追加しますか?」

 

 「いいえ、私たちはただの屋台の店員ですわ。皆様の熱き闘争に水を差すつもりは毛頭ございません。

 ……さあ、役者は揃いました。存分に、お祭りの熱狂を高めてくださいませ!」

 

 ハルナは優雅に一礼すると、呆気に取られるイオリたちと、怒り狂って突撃してくる不良集団の間に爆発の煙幕を張り、見事な手際で戦線から離脱した。

 

 「あっ、おい逃げるな!

 ……って、ちょ、ちょっと待て! 不良の数が多すぎる!?」

 

 「イオリさん、迎撃態勢を。

 ……仕方ありません、この数の暴徒を相手取るとなれば、最早誘い出しは不可能です。これより全面戦争に移行します」

 

 ヒナノが無表情のまま、二丁拳銃を抜き放つ。イオリも覚悟を決め、迫り来る暴徒の群れへと飛び込んでいった。

 

 「くそっ、また風紀委員会だ! 重戦車出せ! ドロイドとヘリもだ!」

 「少数精鋭での特攻だと!? 舐めてやがんのか!」

 

 さらに、このド派手な爆発音を聞きつけて、噂の真相を確かめに来た見物客の不良たちまでもが続々とスラム街へと押し寄せ、戦場はもはや制御不能の坩堝(るつぼ)と化した。

 

 

 


 

 

 

 「ふふっ、見事な導火線でしたわね。これで参加者たちのカロリー消費は飛躍的に高まり、塩分と糖分の補給を求めるはず」

 

 戦場から少し離れた安全地帯。そこには、素早く展開された『美食研究会特製・焼きトウモロコシ屋台』が鎮座していた。

 

 「やれやれー! おいしいトウモロコシのために!」

 

 「ふふっ、いい感じに盛り上がってまいりましたわね……!」

 

 戦場の喧騒をBGMに、香ばしい醤油(しょうゆ)の匂いが漂い始める。

 こうして、風紀委員会と不良集団による地獄の総力戦は、究極の美食を求める美食研究会の思惑通りに、最悪の形で火蓋を切られ、前回の冒頭に戻る、という流れなのであった。




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