その狂愛が視るものは   作:Othuyeg

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久し振りに「ULTRA SYNERGY MATRIX」と「König oder Feigling」を聴きながら書いています。
前者のMVのカオスさと曲のクオリティとの落差で頭がどうにかなりそうです。後者は普通に良い曲なので全人類是非。

ちなみに、先生に『』がついているときはユーザーが設定した名称をフルで呼んでいるときのイメージです。閲覧設定の「変換設定」の項目から『先生』を好きな名称に変更できます。


第7節 イオリが水着の場合

 アコが特務命令を発令した、その数日後。風紀委員会のメンバーたちは、ホテルに集合していた。

 

 「ほら、ぼーっとするな! 企画部と情報部はそこの機材を、5階で作ってる最中のオペレーションルームのところに!

 あと、お前(ヒナノ)は離れろ! 暑い!」

 

 「すみません。イオリさんの水着は希少なサンプルなので体が勝手に」

 

 テキパキと指示を出しながら、真隣に張りつくように立つヒナノに文句を言うイオリ。対するヒナノは、共感不能な言い訳を口にして少し離れる。

 

 「意味わかんないって! とりあえずお前は兵站(へいたん)部の物資運搬を手伝ってこい!」

 

 「拝命しました。……おっとすみません。また体が勝手に」

 

 「さっさと行け!」

 

 またイオリに張りついていた体を引き剥がし、兵站部のサポートに向かうヒナノ。その様子にイオリがため息を吐いていると、風紀委員たちがコソコソと小声で話を始めたのが彼女の耳に入った。

 

 「ねえ、やっぱりイオリ先輩とヒナノ先輩って……」

 

 「うん……ちょっと距離近いよね?」

 

 「キマシタワー?」

 

 「キマシ、かなぁ? あれ……」

 

 「そこ! 無駄話してないでテキパキ動け! もたもたしてると訓練が始まるぞ!」

 

 「あっ、すみませーん!」

 

 イオリに注意された風紀委員会のメンバーたちは、慌てて作業に戻る。その様子を見て、イオリはまたため息を吐くと、自分もまた仕事に戻ったのだった。

 

 

 


 

 

 

 こちらは、アコの計画によって召喚され、その監督者として夏季訓練についてきた先生。

 「みんな手慣れてる感じだね」と、訓練の準備が想定していた以上のスピードで進んでいくことに感心する。

 

 「そりゃあもちろん、これでも全員ゲヘナの風紀委員だから。これくらいは当然のようにできてもらわないと、ゲヘナの風紀は守れない」

 

 先生の一言に、「それで当たり前」と強調して回答するイオリ。指示出しが一段落したチナツも、イオリの言葉に補足を入れる。

 

 「毎月とは言いませんが、訓練も定期的にしていますし。

 今回の訓練は、特殊な形になりそうですが……」

 

 アコの如何(いか)にも壮大そうな宣言で始まった計画に、少し辟易(へきえき)した様子のチナツ。

 そんな彼女の所に……否、厳密には彼女と話している先生の所に、アコが現れた。噂をすれば影が差す。

 

 「ああ、ここにいらっしゃいましたか。臨時のオペレーションルームの設置が終わったそうなので、そちらに移動しましょう」

 

 そう言って、主要メンバーを引き連れてオペレーションルームに向かうアコ。二人に訓練の進捗を尋ねる。

 

 「準備の方はいかがですか?」

 

 「問題ない。準備が終わったところには、とりあえず休憩してもらってる」

 

 「こちらも、医療部の運び込みはおよそ完了しています」

 

 イオリとチナツの報告を聞き、状況を確認したアコは、概ね問題なしと判断して微笑む。

 

 「では大丈夫そうですね。良かったです。

 それでは、始めるとしましょうか」

 

 頷いているアコを見ながら、「来る途中にも見えたけど、良い感じの場所だね?」と先生が言う。それに対し、「よくぞ聞いてくれました」とばかりに解説を始めるアコ。

 曰く、ゲヘナ基準では非常に閑静な場所として知られるらしく、年間事故件数は100件以下、事件も爆音ライブや無銭飲食程度に留まるのだという。閑静とは……?

 アラバ海岸がどういう場所なのか説明を聞いた先生は、「それはもう十分、閑静ではないのでは……?」と疑問を呈するが、補足するようにイオリが口を開く。

 

 「ゲヘナだったらそれくらい、子どもの悪戯みたいなもんだよ」

 

 「イオリさんの言う通りです。酷いところなら文字通り毎日のように事件事故が起こるなど当たり前ですからね」

 

 「うわっ!? お前いつの間にそこに!?」

 

 唐突にそこに現れたヒナノに、激しく動揺するイオリ。先生も驚いてその場の全員の顔を見るが、どうやらヒナノの登場に気付いていた者はいなかったらしい。皆、目を見開いている。

 

 「いつ、と言いますと……そうですね。アコさんが何やら『先生』に解説していた時でしょうか。

 興味がなかったので解説の内容はほとんど聞いていませんでしたが」

 

 「それってわざわざ言うべきことですか!? 相変わらず私の神経を苛立たせる物言いが上手いですねあなたは……!

 ……っ、コホン。まあとにかく、静かなところが良かったので。なにせ、表面的には夏季の合宿訓練ではありますが、私たちの真の目的を忘れてはいけません。

 つまり……静かな場所であればあるほど、ヒナ委員長もゆっくり休めるはず! 体裁(ていさい)としての風紀委員の訓練も、何も起きなければ私たちだけで十分ですし」

 

 アコが自信ありげに胸を張るが、他の三人はそうでもない様子で、むしろ先を憂いているような顔、あるいは呆れ顔である。なお、約一名は相変わらず話を聞いていない。

 

 「まあ……そうですね」

 

 「しょうがない、やるか」

 

 二人の言い草に、不満げな顔をし……そして、矛先をイオリに向けるアコ。

 

 「『しょうがない』なんて言ってますが……イオリ? どうしてイオリはもうすでに水着なんですか? どういうことですか、遊ぶ気満々なんですか!?」

 

 「え、いや……その……!」

 

 「何の問題ですか? 水着のイオリさんも素晴らしく素敵なので何も問題ありません。そうですね?」

 

 「だから()()()()そうでしょうね!?」

 

 いつも通り我が道を行くヒナノに、アコがキレる。それを横目に見つつ、先生は「そう言えば言いそびれてたけど。水着、すっごく似合ってるよ、イオリ」と褒める。

 

 「……っ!!!?

 ちっ、違う! これはあくまでその、今回の訓練が海辺だからってことで、それに合わせようとしただけで……!

 その、夏の海に自然な格好じゃないと、問題児たちに逆に警戒されるっていうか……!」

 

 「イオリはどちらにしろ目を引くと思うけど」と、揶揄(からか)い交じりにつつく先生。それを見咎めたヒナノに、強制的に引き剥がされる。なお、彼女自身はそっとイオリの隣に張りつくように立っていた。

 

 「はいそこ、楽しいお喋りはその辺で! はしゃぎたい気持ちも分かりますが、今回大事なのは皆さんの夏休みではありません!」

 

 「だから違うんだってアコちゃん!? あと、お前は離れろ!」

 

 アコに弁明しながら、張り付くヒナノを引き剥がすイオリ。しかしアコには浮かれているようにしか見えないもので、咳払いをし、それはもうハキハキと強調した口調で言葉を続ける。

 

 「……とにかく! 今回の目的はヒナ委員長の休息です! 皆さんはそれを成立させるための駒だと思ってください! 今回の計画においては、各位の意思も言葉も必要ありません! この夏はただ全力で、委員長を休ませるための歯車になってください!

 特にヒナノさん! あなたは本当に頼みますよ! どうせ聞いていないんでしょうけど!」

 

 「了解しました。計画目標をヒナ委員長の休息完遂に設定。完了まで、アコ行政官及び先生の指揮下にて無私的に訓練を実行し、また発生した妨害要素に対処します」

 

 「こういう時はちゃんと聞いてるんですか!?」

 

 朗報。ヒナノ、話をちゃんと聞いていた。彼女はこの通り、業務命令()()はちゃんと聞くのである。

 

 「ん? 業務命令ですよね?」

 

 「ええそうですよ!? 他にどう聞こえるって言うんですか!?

 ああもう、本当にこの人は……!」

 

 「アコちゃん、落ち着きなって。こいつの傍若無人に振り回されてたら身が持たないでしょ」

 

 「ええ、ええ。そうです。その通りですね……!

 ふぅ、はぁ、よし。では皆さん、頼みましたよ! 委員長を煩わせる事象を限りなくゼロにするのです!どんな騒音も、問題も、ヒナ委員長のお耳に届かせてはなりません!」

 

 

 


 

 

 

 ……そして、一方その頃、ホテルの空崎ヒナ当人はというと。

 

 「……待機時間、長くないかしら?」

 

 アコの思惑通りと言うべきか、ガッツリ4時間もの暇を持て余していた。




ちなみに、「了解」という単語は目上の人物には使わない方がいいとされています。
ヒナノのセリフでは敢えて使っています。アコに対しての敬意のなさの表現ですね。
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