その狂愛が視るものは   作:Othuyeg

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ちなみに、書いてないだけでめちゃくちゃ感想とか評価とかお気に入り登録とかお待ちしてます。


第8節 口が災いを呼んだ場合

 「ところで行政官、一つ疑問が」

 

 チナツが一つ、疑問を挟む。

 

 「はい、どうしましたか?」

 

 「この辺り、何だかあまりにも静かすぎるような気がするのですが……?

 ここまで来る途中も、訓練の準備をする時も、ほとんど誰ともすれ違いませんでしたし……」

 

 「それは別に良いことじゃないのか? ただのタイミングの問題でしょ、何か事件があったわけじゃあるまいし」

 

 チナツの懸念を、気のせいだろうと片付けるイオリ。楽観的なその様子に、チナツは小さくため息を吐く。

 

 「イオリ、『口は災いの元』って知ってますか……?」

 

 「ん? そりゃ、意味は知ってるけど……」

 

 その言葉の直後、アコの携帯端末が着信音を鳴らし始めた。嫌な予感を感じたチナツは、表情を僅かに歪める。アコが端末を手に取った。

 

 「あら……?

 はい、アコです。どうされましたか?」

 

 《あ、行政官。実は合宿用の物資の調達のために、ホテルの付近を回っていたのですが、 お店が一つも開いておらず……いかがしましょう?》

 

 「……はい? どうしてそんな――」

 

 不可解な報告に、状況を訝しむアコ。そこに間髪を入れずといった具合で、コンコンコンとノックの音が響いた。

 

 「失礼いたします。私、当ホテルの支配人を務めているものです。今お時間よろしいでしょうか?」

 

 連絡中のアコに代わり、チナツが返答する。

 

 「……はい、どうぞ。どうかしましたか?」

 

 チナツの嫌な予感は次第に高まりつつあった。支配人が入室する。

 

 「おお……フロントで聞いた時は耳を疑いましたが……本当に来てくださったんですね、ゲヘナ風紀委員会の皆さま!」

 

 「は? どういうことだ?」

 

 「何だか嫌な予感がしますね……」

 

 二人の様子に、ホテルの支配人は困惑した表情を見せる。

 

 「えっと……? 皆さまは私共(わたくしども)の救援要請を聞いて、こちらに来てくださったのですよね?」

 

 明らかにすれ違いが生じている。それに気付いた先生が、「初めから説明をお願いできますか?」と尋ねる。

 

 「はい、承知いたしました。ええとですね……」

 

 支配人は順を追って説明し始める。曰く、元々スラム街を占拠していたヘルメット団と、最近になって急に現れたスケバンたち衝突しているということらしい。

 

 「最初は小競り合いだったのが、どんどん激しくなって……どちらの集団がこの辺の地区を牛耳るのか、約四時間後にはその決着をつけると言っているんです!」

 

 「え……?」

 

 「それがネット上でも騒ぎになり、色んな所から面白半分で見物客が来るだとか、どっちが勝つか賭けになっているだとか……それで逆に、その噂を聞いたこの地域の方々は軒並みお店を閉めて逃げ出してしまったんです!

 これでもし本当に見物客まで巻き込んで、大暴れなんてことになったら……!」

 

 支配人は「うぅ、せっかく改装の一環として温泉の開発も始めたところだったのに……!」と嘆き、顔を覆う。だが一呼吸置くと、イオリたちの手を取って頭を下げる。

 

 「しかし、天は私たちを見捨ててはいませんでした……! こうして風紀委員会の皆さまが来てくださるなんて!

 どうかお願いします……彼女たちの『全面戦争』を止めてください!」

 

 唖然として固まる、風紀委員の面々。連絡中だったはずのアコでさえ、あんぐりと口を開いている。

 そして、誰からともなく、同じ言葉が全員の口から飛び出した。

 

 「「「全面戦争!!?!?」」」

 

 先生は左手で顔を覆い、「これは……口は災いの元……」と呟く。

 

 「ちょっと! 私のせいだって言いたいわけ!?」

 

 詰め寄るイオリに、慌てて自らの不用意な発言を謝罪する先生。それらを横に置いて、アコが声を上げる。

 

 「ま、待ってください! そんな大規模な抗争になりそうなんですか!?」

 

 「アコちゃんさっき、ここはゲヘナでも指折りの静かな場所、って言ってなかった……?」

 

 「そんなことを今、私に言われましても!?」

 

 胡乱気なイオリの視線に、自分の責任ではないだろうと弁解するアコ。そこにヒナノが割り込み、イオリを窘める。

 

 「イオリさん、アコさんの見通しの甘い発言と、現在の状況は関係ありませんので……」

 

 違った。フォローに見せかけた追撃であった。

 

 「『見通しの甘い』は余計です!! こんなことになるなんて誰だって予測できないでしょう!」

 

 「違和感くらいは覚えても良かったのでは?」

 

 「じゃああなたは違和感を覚えたんですか!?」

 

 「まあ、多少は……」

 

 アコとヒナノがギャンギャンやり合っている横で、チナツが端末を開いてネットを検索する。そして、内容の裏取りができてしまったことに嘆息する。

 

 「……ネットで調べてみましたが、今のお話は事実のようですね。

 ゲヘナのSNSで、すごく話題になっています。『約4時間後、アラバ海岸で大規模な全面戦争が起きる』……と」

 

 

GehEricha0201

@GehEricha · フォローする

 

そう言えば今日だっけ?

 
 

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#Nyanko&

@Nyankosan · フォローする

 

海辺でスケバンとヘルメット団が、ド派手な勢力争いするんだって

 
 

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akusi-girl

@Akusi_girl · フォローする

 

今年の夏、一番デカそうなイベントじゃん!

 
 

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美食研究会公式

@EATorDIEOfficial · フォローする

 

何だか面白そうな匂いがしますわね?

 
 

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84件の返信を読む

 

 

 「といった感じです。確かにこれは、かなり大規模になりそうな……」

 

 「……っ!」

 

 アコが息を呑む。するとまた、アコの端末が鳴る。通信先は……『空崎ヒナ』。

 

 「い、委員長!?」

 

 《……もしもし、アコ? さっき聞きそびれたのだけど、よく考えてみたら何もせずに4時間待機は長くない? 何か間違ってる気がするから、今から私の部屋に来て》

 

 明らかに違和感を持たれている。

 

 「くっ、やはりダメでしたか……!」

 

 「いや、そりゃ訓練に来たのにすぐ『4時間はホテルの部屋で待機です♪』って言われたら怪しむでしょ……」

 

 イオリのため息と同時、三度アコの端末が鳴る。

 

 「ああもうっ! こんな時に誰ですか!?」

 

 苛立ちを隠せぬまま、彼女はまた通話を繋いだ。表示された名は……。

 

 「……万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)!?」

 

 あの狸ども一体この忙しい時に何用だ、と歯噛みしながら応答を待つアコ。そして万魔殿の役員から飛び出したセリフは、まさにこの状況に追い打ちをかけるものだった。

 

 《もしもし、アコ行政官でしょうか? 先日ご提出いただいた決裁文書につきまして、幾つかミスが発見されました。至急こちらに来ていただけますでしょうか?》

 

 「はいっ!? え、今からですか!?」

 

 「ちょっと待ってください」と言おうとするよりも早く、言いたいことを言い終えた役員は通信を切ってしまう。

 

 「……」

 

 ふざけやがって、と苛立ちを募らせるも、もはや後の祭り。何とかこの状況を打破しようと、思考を巡らす。……と、今度はオペレーションルームの扉が開け放たれる。

 

 「アコ行政官、ご報告です!

 現在、海辺で正体不明のスケバン及びヘルメット団の小規模集団が、小競り合いを始めた模様です。至急ご対応を!」

 

 風紀委員たちの報告に外を見れば、4時間後を待たずして既に戦闘を始めているチンピラたちの姿があった。

 

 「こ、これは……」

 

 《アコ、今どこ? それにさっき外から銃声が聞こえたけど、訓練の予定でも変わったの?》

 

 ヒナから、また追い打ちのように質問が飛ぶ。イオリからもチナツからも指示を仰がれ、問題が矢継ぎ早に積み上がっていく。

 アコの短い堪忍袋の緒が切れそうになった、次の瞬間。

 

 ――ガッッ。

 

 「ヒナ委員長。アコ行政官に代わりまして、永峯ヒナノがお答え致します」

 

 アコから端末を奪い取ったのは、ヒナノだった。

 

 《ヒナノ? アコに何かあったの?》

 

 「書類の不備で万魔殿に呼び出しを受けています。現在、風紀委員の訓練は順調に進んでおり、問題は起きていません。

 また、アコ行政官は至急学園に戻らなくてはならないため、最も手空きの『先生』が詳しい説明を行いに向かいます。

 先生が到着するまで、そちらで待機していただけると助かります」

 

 《……そう。分かったわ。待ってる》

 

 その言葉を最後に、通信が切れる。ヒナノはアコに向き直り、端末を投げ返すと、毅然として口を開いた。

 

 「気は落ち着きましたか? 落ち着きましたね。では、今すぐ命令を。時間は有限です」

 

 「あなたは本当に……! くっ……すぅ、はぁ……。

 分かりました。ええ、分かりましたとも。私の癇癪に付き合ってる時間は確かに無駄ですね? ええ、そうでしょうとも」

 

 明らかに落ち着いているとは言い難い様子のアコに、先生は「あ、アコ……? 大丈夫……?」と声をかけるが、ここまで来たら彼女はもう止まらない。

 

 「こうなったらもう、槍でも雨でもかかってきなさい! この私が委員長のために、これくらいの試練すら乗り越えられないとでもお思いですか!?」

 

 怒涛の勢いで指示を出し始めるアコ。眥裂髪指とすら表現できる鬼気迫る表情で、先生へと指を向ける。

 

 「まずは先生! ヒナノさんの言う通り、委員長のところへ行って伝えてください! 何も大したことは起きていない、訓練は予定通りに進行しており、何も問題はありませんと!

 『まだ風紀委員長としての出番はこの後ですので、訓練の効果を最大化するためにもまだ待機していただきたい』と言ってください! それで大丈夫なはずです! その先は任せます!

 何はともかく絶対に、ぜっっったいに! ヒナ委員長を部屋の外に出さないでください! 分かりましたね!?」

 

 立て板に水、(まく)し立てるような滑らかな指示に圧倒された先生は、「は、はいっ!」と(かしこ)まった返事と共に走って出ていくことしかできなかった。

 

 「イオリ、チナツ、おふたりは風紀委員のメンバーを連れて、海辺の小競り合いを――」

 

 「イオリさんを出す必要はありません。あの程度であれば私一人でもなんとかなります」

 

 ヒナノがアコを遮って口を出す。その言葉に、アコはヒナノの瞳を見つめ返して問う。

 

 「信じていいんですね!?」

 

 「()()()を信じなさい」

 

 「本気ですね……いいでしょう! イオリは訓練の監督と、万が一ヒナノさんが落ちた場合に備えておきなさい! ヒナノさん! 万全を期して風紀委員のメンバーを複数連れていくこと! くれぐれも一人で全員やろうだなんて考えないように! チナツ、ヒナノさんのサポート頼みましたよ!」

 

 「承知しました」

 

 「拝命しました」

 

 「わ、分かった!」

 

 「……仕方ないので私は一旦、ゲヘナに戻ります。あの面倒な方々と早急に話を付けてきますので! 何だか状況はややこしくなってきましたが、私たちのやるべきことは変わりません!

 全ては、ヒナ委員長の安らかな休息のために!!!




クソ長くなった……。
とりま今日中に更新できたのでヨシ!!

今回でとりあえず前振りは終わりの予定です。
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