『我は呪いの書。中世ヨーロッパにて、魔女狩りを逃れたモノホンの魔女が、迫害をした人間どもへの復讐のため、生涯をかけて編み出した、様々な呪法が記されている黒魔術書である。使用すれば相手はもちろん、術者本人も破滅する。まさに禁忌の書物』
『本が喋った……』
ある日の放課後。
オカルト研究部の面々が集まったのを見計らい、我は名乗りを上げた。
本がしゃべり出すと言う事態に、当然、室内にいた人間全員が困惑する。
ギョッとした表情で、こちらを見る愛実・龍幸・拓郎を始め、ペンを落とす美羽。
取り出したハトをどこかへ飛ばしてしまう茉莉。
メガネが割れる山南。
各々、あまりの出来事に呆気にとられている。
「え? なにこれ、ドッキリ?」
『ドッキリなどではない。今、我は貴様らの脳内に直接語り掛けている』
愛実のつぶやきに応えると、全員、顔を見合わせる。
茉莉のハトが「ぽっぽー」と旋回しながら鳴いている。
まぁ、これが普通の反応だろう。
本が突然喋るなど、ショッキングにもほどがある。
「いや、こんなのトリックでしょう。どこかに仕掛けがあるはずだ」
唯一、科学部だった山南だけが未だに信じておらず、予備のメガネを装着し、我を調べようと手を伸ばす。
うむ、これも奴の性分。信じないのは仕方あるまい。
――なので、分からせることにした。
『そいや!』
バンッ‼
我へ伸ばされた手を思いっきり挟んだ。
「………………」
予想外の出来事に固まる山南。
その隙を突き、我は手を連続で挟む、挟む、挟む‼
『カカカカカカカカカカッ‼』
「おぎゃああああああああああああ!?」
『や、山南さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん‼』
以前もどこかでみたようなショッキングな光景に、部員全員の悲鳴が木霊する。
結局、山南泣くまで、手を挟むのを止めなかった。
「痛いよ“ぉ……」
「ひでぇ……右手がミットみたいになってやがる……」
「これが、呪いの書の恐ろしさ……」
「物理的な意味で?」
ようやくうるさい山南が黙ったところで、話を元に戻す。
愛実と龍幸を除く全員がバリケードの中に避難し、茉莉のハトが「くるっぽー」と旋回する中、我とオカルト研究部の面々は初めて、対話することになった。
「部長、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫よ。私はこの部の部長だもの。こういう時、矢面に立たないと……」
流石に呪いの書たる我と対話するのは緊張するのだろう。
おそらく、返答を間違えたら命を落とすとか考えているに違いない。
我はそんなこと微塵も考えてないが。
そんな震える愛実に龍幸がそっと寄り添った。
「大丈夫です。なにかあったら僕が部長を守りますから」
「龍幸……」
うむ、これが見たかった。
さりげなく漢を見せる龍幸に頬を赤らめる愛実。
いいぞ、もっとやれ。
「そ、それで、呪いの書さん? あなたの目的はなんなのかしら?」
若干上ずった声で、目的を尋ねる愛実。
我は龍幸の出したお茶を飲み(後方で他の部員が「え? お前、茶とか飲めるの⁉」という顔をしている)今回、唐突に話しかけた理由を語り始めた。
『先ほども名乗ったが、我は呪いの書。様々な呪いが記された黒魔術書だ』
「うん、それは知ってるけど……」
『我がここに来てから約三ヶ月、その間、様々な人間が我に記されし闇の儀式を行ってきたのだ』
「それも知ってる」
「なんなら部長もやりましたよね。未遂だけど」
「うむ、龍幸があの場面で告白したのは予想外であったな」
「ちょっと、今は待って。みんないるから」
当時のことを思い出しストップをかける愛実。
するとバリケードの奥から茉莉が挙手し、質問。
「ちなみになんて告白したんですか?」
「だから良いって言ってるでしょ!」
『うむ、あの時は――』
「あんたも言うな‼」
我が返答を遮る愛実。
仕方ない。あとで茉莉にこっそり教えよう。
『とにかく、我の力を利用する人間が後を絶たなかった。が、それは最初の数日だけであった』
「え?」
『最後に我を欲したのは、生徒会長。その後はピタリと誰も来ないで、暇な日が続いた』
まぁ、その間青柳がやらかしたり、雑事をこなしたりした訳だが置いておく。
つまるところ……
『ぶっちゃけ、暇なのだよ、我。これなら、正体明かしてマリ〇カートとか、みんなでワイワイやりたいくらいだ』
「いや、そんな理由で!?」
「っていうか、どうやってマリ〇を?」
『念力』
「即答した」
「マジか」
マジだ。
なんなら格ゲーや落ちゲー、ジェンガもできるぞ。
「いや、〇マンジと遊戯〇とかみたいなデスゲームの主催者的存在がなに言ってんの?」
『そう言うこともできるけど、趣味じゃない。あれはフィクションだからいいのであって、実際にやるのは抵抗がある』
「ほんとに呪いの書か、これ?」
ほんとに呪いの書だよ。失礼な。
『こないだは我と言うものがありながら、こっくりさんとかやり始めるし……なんか野良動物霊いたから、吸収しといたけど』
「あ、あれ、なんとかしてくれたのアンタだったんだ」
『とにかく、我もアオハルしたいから、これを期に我に意志が宿っていることを明かしてみた』
「その場のノリで動いたんか……」
「自由ね、あんた……」
「たまんねぇな、そのライブ感」
茉莉が肩に乗せたハトに餌をやりながら、同意する。
なんとなく、この娘とは波長が合うな。
「で、でも、呪いの書さんも寂しかったんだよ。仲間に入れて上げようよ……」
「僕、手を挟まれたんだけどね」
好意的に我に接する美羽。
対極的に恨みがましい目でこちらを見てくる山南。
まったく、ケツの穴の小さい男である。
「ひょっとして、俺が魚住を助けようと、儀式が成功したのもあんたのおかげだったのか?」
『うむ、いろいろ手順が間違えてたから、そこは我に封印されてた魔女の魂を絞りつくしてカバーした』
「やっぱりそうか‼ ありがとう‼ おかげで陽平が助かったぜ‼」
「いや、創造主、犠牲になってるわよ?」
熱く感謝の意を伝える拓郎に我は『例には及ばない』と返す。
ぶっちゃけ、あの魔女、封印されてる身で偉そうだったからね。
いい加減、縁切りたかったんだよね。
――兎にも角にも。
我と言う存在はすんなり、みんなに受け入れてもらえた。
これで、放課後、暇を持て余すこともなくなるだろう。
思う存分、ゲームもできる。
いいこと尽くめである。
……しかし、それも長くは続かなかった。
『では早速、スマ〇ラでもやるか』
「いや、さっそくってなに? やんないわよ? 動画の編集とかあるし――」
「本が喋ってる‼ う、噂は本当だったんだ‼」
『⁉』
突如、一人の少年が部室の扉を開けて叫んだ。
どうやら、今のを見られたようだ。
仕方ない。記憶を消す呪いを掛けてなかったことにしよう。
そう思った矢先、少年は頭を下げてこんなことを言い始めた。
「いきなりですいません‼ その本、貸してください‼ 時間を巻き戻したいんです‼」
これが、我らの活動を更なる段階へと導くことになるとは。
この時、思いもしなかった。
◆登場人物◆
・ハト
茉莉の飼ってる手品用のハト。オス。くるっぽー。