【連載版】我は呪いの書   作:J坊

2 / 9
第2話

 我は呪いの書。

 中世ヨーロッパにて、魔女狩りを逃れたモノホンの魔女が、迫害をした人間どもへの復讐のため、生涯をかけて編み出した、様々な呪法が記されている黒魔術書である。

 使用すれば相手はもちろん、術者本人も破滅する。

 まさに禁忌の書物。

 

「これが呪いの書……これがあれば、あいつに呪いをかけることができる……ッ‼」

 

 そして今宵も、我を求めて禁忌を犯そうとする愚者が現れた。

 夜の部室に忍び込み、我の力を欲したのはオカルト研究部の新入部員・月島拓郎(つきしまたくろう)。

 元野球部だったが、部の先輩が陰でいじめを行い、その様子がネットで公開されたことで三年間、県大会出場禁止処分。巻き添えを喰らい、高校球児としての人生に強制的に終止符を打たれ、燻っていたところを愛実に誘われ入部したのだが、どうやら、我を狙って潜り込んだようだ。

 

「部長は『危ないから絶対に使うな』って言っていたが……関係ねぇ‼ やってやるぜ……‼ これで、俺から瞳を奪ったあの男に呪いをかけてやるんだ‼」

 

 どうやら、この男、フラれた腹いせに呪いをかけるつもりのようだ。

 そういうところがフラれる原因だということにも気づかず、我を手に取ると、ページを捲りはじめた。

 

 

「あった!『相手を指定した通りに殺害する呪術‼』これがあれば……‼」

 

 そして、目当てのページを見つけ、ニヤリと不気味に笑った。

 この呪術は名前の通り、殺したい人間の名前を書いた紙に、術者の望む方法での死亡方法を書くことで、相手は同じ末路を辿るという……

 早い話が死神のノートのパクリだ。

 

『失礼ね‼ こっちの方が先出よ‼』とか我の中に封印されし魔女が言い訳染みたことを言っているが、無視しよう。

 

 とにかく、かなり強力かつ便利な呪いだが、だが、何度も言う通り我は呪いの書。

 安易に術を試せば、代償を払うことになる。

 この術の場合はを実行した術師の寿命。それも呪殺した相手が本来生きる筈の年数分を支払うと言うもの。

 

 一応、そのことも書いてはあるが、我を創造した魔女は御覧の通り重度の根性曲がり。

 当然真っ当になど記しておらず、虫眼鏡でようやく見える程度の小さな文字で――

 

「なにぃ!? 呪殺する相手の本来生きる分の寿命を払うだとぉ!?」

 

 いや、見えるんかいッ⁉

 え? うそ? マジで!? これ、虫眼鏡使わないと見えないくらい小さいって言うとるやんけ! しかも裸眼て、キミ、マサイ族かなんか!?

 

 ……思わず関西弁になってしまったが、これで、この男は躊躇いを覚え――

 

「だが、背に腹は代えられねぇ‼ 寿命くらい払ってやらぁ‼」

 

 いや、思いっきりいいな⁉

 それほど、相手が憎いのだろうか?

 だが、この術、実はもう一つ厄介な問題が潜んでいる。

 それは……

 

「なにぃ!? 術に必要な契約書は処女の血で書かなければならない、だと⁉」

 

 ……そう、そこである。

 黒魔術ご用達“処女の生き血”

 これが必要になる。

 

 術者が女ならワンチャンあり得たが、残念ながら拓郎は男。

 入手する手段は限られて――

 

「処女の代わりに童貞の血でどうだぁぁぁぁぁ‼」

 

 その発想はなかったわ。

 いや、普通、そうはならんやろとなるのだが、拓郎は躊躇わなかった。

 一切の迷いなく、血で文字を書き、契約書を書き上げる。

 

「よし、できた‼ 正直不安だが、部長も芳野も俺のことを女子力高いって言っていたから大丈夫だろ」

 

 たしかにこいつ、よく自作のお菓子を持ってきたり、芳野の取れた制服のボタンを縫ってあげたりしていたから、ギリいけるか……?

 

『んなわけねーだろ‼ 女子力高いってだけで性別の差が超えられてたまるか‼』

 

 魔女の魂がツッコミを入れるのをしり目に、拓郎は契約書を書き上げる。

 

「できた‼ これで、あいつに呪いをかけられる‼」

 

 呪いをかける人間のテンションではない拓郎は、額の汗をぬぐい、満足げに契約書を眺める。

 あとは拓郎の寿命を糧に我が呪いをかけるだけなのだが……

 

 

 

【対象者:魚住陽平(うおずみようへい)】

 交通事故により瀕死の重傷を負い、昏睡状態にあったが、奇跡的に生還。リハビリを終え、無事復学。その後、恋人である神無月瞳(かんなづきひとみ)と結婚。子宝に恵まれ、幸せな家庭を築き、孫や家族、友人たちに囲まれて一二〇歳で、老衰により死亡。

 

 

 

 いや、これ呪いじゃナイヨー!? どう見ても呪いじゃナイヨー!?

 そもそも、瀕死の重傷で生死を彷徨っているなら放っておけよ。

 最低でも失敗を願え。なにを完治させているんだ。

 あと、そのあとの文、相手の幸せ祈ってんじゃん。

 最早祝福である。

 ついでに言うなら、本人気づいていないかもしれないけど『一二〇歳で、老衰により死亡』の降りのせいで、必然的にお前の寿命も延びちゃってるんだけど⁉

 

 これはどういうことかと、拓郎を見やると……

 

「これでいい……あいつが幸せになるんだったら、俺の寿命くらい、いくらだってくれてやる……‼ 俺から瞳を奪ったんだ‼ 幸せにならねぇと許さねぇ‼」

 

 ……詳しく話を聞こうか。

 

 今までなぜ気づかなかったのだろうか?

 この覚悟の込めた漢の瞳に、震える手に、悲哀を背負う背中に。

 どうやら、この漢が我を手にしたのは、なにか悲しき物語が存在するようだ。

 

「陽平……お前なら、瞳を幸せにできるはずだ……退院したら、また三人であの桜を見に行こうぜ……」

 

 ふむ……どうやら、拓郎と陽平・瞳は幼馴染にして三角関係にあったのだな。

 そして、瞳は陽平を選んだと……

 くっ‼ なんと甘酸っぱい青春の一ページ‼

 我としたことが‼ この漢を見誤っていた‼ 許してくれ、拓郎‼ 我を殴ってくれ、拓郎‼

 

 ……しかし、どうしよう。

 この術、術者の寿命を代償に発動するタイプのやつだから、このままでは呪いをかけられない……

 我が困り果てていると、一つ妙案が浮かんだ。

 

 

 

『え? なによ、あんた? まさか……』

 

 

 

 嫌な予感を察した魔女の魂が、少しずつ後ずさる。

 

 

 

 お前のような勘のいいガキは嫌いだよ。

 

 

 

 

「おう、瞳‼ どうした!?」

 

 突然スマホが鳴った。相手は瞳。

 どうやら陽平の手術が終わったようだ。

 

「手術は無事成功!? 意識が回復した!? よかった‼ 今すぐそっちに行く‼」

 

 拓郎は我を放り捨て、そのまま病院へと向かう。

 かくして、一つの恋の物語は終わった。

 拓郎はこれから幼馴染の恋を見守っていくだろう。

 我はこの益荒男と出会えたことを誇りに思う。

 せいぜい呪いが発動するまで幸せに暮らすがいい。

 

『しかし、一二〇歳かぁ……ギリ足りてよかったなぁ……』

 

 魔女の魂を代償にしたが、呪いを発動するか不安だったが……

 まぁ、存在消滅するまで搾り取ったおかげでギリいけた。

 拓郎も瞳も陽平も、ついでにうるさいのがいなくなった我も、誰もが望んだハッピーエンドである。

 

 

 

 




◆登場人物◆
・月島拓郎
 元野球部所属。上記の不祥事の所為でふてくされていたが、オカルト研究部に入り、無事更生。現在はオカルト研究部の作成するホラー動画の役者として活躍中。
 幼馴染の神無月瞳に想いを寄せていたが、彼女は陽平に惹かれていたため玉☆砕。
 後日、呪いの儀式を行ったことで、部長にしこたま怒られる。
 尚、以外にも趣味はお菓子作りと裁縫で、部活の差し入れにたまに持ってくる。評価は好評。

・呪いの書
 この度、うざい魔女から解放され、自由となった。
 学校生活を絶賛エンジョイ中。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。