【連載版】我は呪いの書   作:J坊

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第3話

 我は呪いの書。

 中世ヨーロッパにて、魔女狩りを逃れたモノホンの魔女が、迫害をした人間どもへの復讐のため、生涯をかけて編み出した、様々な呪法が記されている黒魔術書である。

 使用すれば相手はもちろん、術者本人も破滅する。

 まさに禁忌の書物。

 

 ここ最近は中に封印されていた(うるさい)魔女の魂も消滅し、すこぶる調子がいい。

 なんならタップダンスができるくらいだ。

 今ではこの学び舎で過ごす若人たちの青春の一ページを眺める、穏やかな毎日を過ごしている。

 そんなある日、またもや愚かな人間が我を求めてやってきた。

 

「あの……先生、話ってなんですか?」

「あぁ、すまない。すぐ話すよ」

 

 オカルト研究部がホラー動画の撮影で留守にしている部室にて。

 体育教師の猿渡英夫(さわたりひでお)が、一人の女子生徒をつれこんだ。

 そして、あらかじめ用意していた呪いの書()を手にし、呪文を唱える。

 

「■■■■■――‼」

「――ッ⁉」

 

 瞬間、女子生徒の身体がビクンっと痙攣し、瞳から光がなくなった。

 

「やった……‼ うまくいったぞ! やはり噂通り、この本は本物の魔導書だったんだな」

 

 虚ろな表情を浮かべる女子生徒を見て、英夫は満足げに呟いた。

 さきほど、英夫が唱えた呪文は精神操作(マインドコントロール)

 対象を操り人形に変える黒魔術である。

 

「これでお前は俺の思うがままだ……」

 

 どうやら、この男、女子生徒に対して、よからぬことを企んでいるようだ。

 不埒な。どおりでモテない面構えだと思った。なんだその無精ひげ。死ねよマジで。

 だが、所詮、我は書物。どれだけ、悪態を吐こうが相手に伝わるわけがないのだが。

 そうこうしているうちに英夫は女子生徒に「右手を上げろ」だの命令し、本当に術にかかっているか確認中。

 意のままに動く生徒を見て、完全に支配下に置いたと確信し、英夫は「よし、これなら……」と満足げな笑みを浮かべた。

 哀れ、この女子生徒はこの冴えない無精ひげの中年の毒牙の餌食になってしまうのか?

 虚ろな目で見つめる女子生徒に英夫は、最後の命令を下す。

 

「俺への想いを忘れてくれ……‼」

 

 なん……だと……?

 どういうことだ? この流れは完全にエロいことをする流れではなかったのか?

 驚愕する我。対して英夫は寂しげな笑みを浮かべ呟く。

 

「キミはまだ若い。これから先、俺みたいな中年よりも、もっと素敵な相手と出会いがたくさん待っている。だから、気の迷いでそのチャンスを不意にしないでくれ」

 

 そう優し気に語り掛ける英夫。

 どうやら我はこの漢を見誤っていたようだ。

 しかし、いいのか英夫!? お前こそ、気の迷いでチャンスを不意にしてるんだぞ!?

 現役女子高生の告白を無下にしていいと思っているのか⁉

 ハラハラと見守る我。いかん! このままでは、女子生徒は英夫への想いを全て忘れ去ってしまう‼

 それはあまりにも辛すぎるじゃないか‼

 だが、我の心配はすぐに杞憂に変わった。

 

「……いや、です」

「⁉」

 

 なんと精神支配を受けているはずの女子生徒が、明確に拒絶の意を示した。

 見れば、さきほどまで虚ろだった表情も変わり、正気を取り戻している。

 そこで我はようやく気付いた。

 そう言えばこの術、邪な感情の大きさに比例し、効果時間も変わるんだったと。

 こやつはやり方こそ不純なれど、心うちは生徒を思いやっていた。故に洗脳時間が短かったのだ‼

 

「そ、そんな、なぜだ⁉」

 

 当然、予想外のことに動揺する英夫。

 そんな英夫に女子生徒は凛とした態度で、想いを伝える。

 

「先生、私、本気で先生のことを愛してるんです‼」

 

 ――言いおったわ、この女。

 言うに事を欠いて『愛してる』と、断言しおったわ。

 彼女に気圧されて、英夫は後ずさるも、すぐに気を取り直し、冷静になるように諭す。

 

「お前の気持ちは嬉しい。だが、俺は教師で、お前は生徒――」

「じゃあ、卒業したらいいんですね?」

「いや、そういう問題じゃなくて……」

「話をそらさないでください‼ 私、真剣なんです‼」

 

 これは圧倒的に英夫が不利だ。

 なにせ、相手は恋する乙女。彼女いない歴=年齢である英夫では、太刀打ちできない。

 すると、女子生徒は上目遣いで「ねぇ、先生、覚えてる?」と語り掛けてきた。

 

「私の家庭環境が滅茶苦茶で、もう死にたくなって、夜の街をあてもなく彷徨ってた時、先生は私の話を黙って聞いてくれて、いろいろ、助けてくれたこと……」

「……忘れるわけないじゃないか」

 

 ジッと見据える女子生徒の眼差しを直視できず、気まずげに逸らす英夫。

 なんだ貴様、ぱっと見冴えない中年の癖に、やるではないか。

 って言うか、そのバックストーリー見たかったわ~。

 超見たかったわ~。

 

「いつも生徒のために一生懸命な先生を、私はいつの間にか好きになっていたの。だから、この想いを『忘れろ』だなんて、言わないで?」

「うっ……だが……」

 

 もう完全に追い詰められた英夫。

 逃げ場はなく、年貢の納め時である。

 これでまだ立場がどうとか抜かすようなら、本気で呪うからな。

 毎日必ず、足の小指をどこかにぶつける呪いとかかけるからな?

 すると、女子生徒の想いが通じたのか、我の脅しが効いたのか、英夫は観念したかのように、ため息を吐くと……

 

「分かった……正直、俺もお前の気持ちは嬉しかったんだ……」

「先生ッ……‼」

 

 想いは通じ、晴れて二人は結ばれた。

 うむうむ、これでよいのだ。

 二人にはこれから先、さらなる困難が待ち受けているだろう。

 しかし、二人ならそれを乗り越えていけるに違いない。

 数百年の時の中で、そうした事例を見届けてきた我だから断言できる。

 

「ただし、ちゃんとした交際は卒業してからだからな」

「それは分かってます」

 

 微笑ましい二人のやり取りを見て、今日もまた充実した一日を過ごした我であった。

 

「……ちょっと、これ、中に入りづらいんだけど」

「……今度から鍵かけておきますか」

「⁉ お前ら、いつの間に!?」

「ヤベっ! 見つかった‼」

 

 あと、タイミングよく他の生徒――まぁ、オカルト研究部の面々だが、に見つかってしまい、鬼ごっこする羽目なったのだが、これもまたお約束であろう。

 末永くお幸せに。

 

 




◆登場人物◆
・猿渡英夫(さわたりひでお)
 体育教師。彼女いない歴=年齢の冴えない中年男性だが、この度、ついに春が訪れた。
 本人は真面目なので当然手は出してこないが、相手側はぐいぐいいくタイプなので、成就した暁にはばっくり喰われて、尻に敷かれることは確定している。

・女子生徒 86/62/86
 猿渡先生大好きな高校二年生。この度めでたく結ばれる。
 不仲な両親と姉妹間の不和と言う家庭崩壊まっただ中なだが、英夫と一緒なら乗り越えられるだろう。

・オカルト研究部のみなさん
 今回はセリフのみ。
 本格的な活躍は次回から。
 お楽しみに。
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