我は呪いの書。
中世ヨーロッパにて、魔女狩りを逃れたモノホンの魔女が、迫害をした人間どもへの復讐のため、生涯をかけて編み出した、様々な呪法が記されている黒魔術書である。
使用すれば相手はもちろん、術者本人も破滅する。
まさに禁忌の書物。
そんな我のいるオカルト研究部だが、この日、部員の一人である土屋茉莉がこんなこと言い出した。
「ねぇ、こっくりさんやらない?」
「え……なんで?」
わずかな沈黙の後、愛実が聞き返す。
「いや、だってオカルト研究部なのに、それっぽいことやってないし、ちょっとはオカ研らしいことしようと思って」
「たしかに……」
ふり返ってみれば、最近はホラー動画の撮影やら編集やらに時間を取られ、オカルト研究部らしい活動をしていなかった気がする。
オカルト研究部なのだ。曰く付きの品々やら、怪しげな儀式を実証実験しなければ。
「でも、なんでこっくりさん?」
「いや~だって、なんか本格的なのはやると後が怖そうだし」
「まぁ、一理あるわね」
実際はこっくりさんも、手順を間違えれば大惨事になりかねないし、手順通りやってもたまにヤベェことになるが。
まぁ、その点に関しては愛実は詳しいし、いざとなれば我がなんとかすればよい。
「それじゃあ、やってみる?」と愛実は美羽も誘い、こっくりさんをやることにした。
「うぅ……なんか、怖いよぉ……」
「大丈夫よ、美羽ちゃん。十円玉から指を放さないでね」
「んじゃ、始めますか!」
そう言って、こっくりさんを始める娘三人。
「じゃあ、手始めに……こっくりさん、こっくりさん、愛実ちゃんと竜幸くんはどこまでいってますか? お応え下さい」
「またんかい!!」
開始早々、待ったが入った。
「なあに?」
「なあに、じゃないわよ!? のっけからなにを聞いてんのよ!!」
プライバシーの侵害はなはだしい質問をする茉莉に、愛実がツッコむ。
しかし、茉莉は平気の平左とばかり「くっくっくっ……」と低く笑い……
「ひっかかったな阿呆め‼ あたしがこっくりさんをしようと誘ったのは、部長と龍幸君とのあまいあまーい恋愛模様を根掘り葉掘り土砂崩れが起きるまで聞き出すためさ!」
「いや、ホントなに言ってんの、あんた!?」
勝ち誇った笑みを浮かべ、高笑いをする茉莉。
どうやら、愛実はこの悪鬼に陥れられたようだ。
おのれ、なんという女だ‼
いいぞ‼ もっとやれッッッ‼
「え? 部長と龍幸先輩ってそういう仲だったんですか⁉」
「えー? 美羽ちゃん、知らなかったのー? 駄目だよ、恋愛センサーの感度上げとかないと。行き遅れちゃうぞー♪」
「うさっ‼ ホント、うざ‼ 何様なのよあんた!?」
語尾に草でも生やさんばかりに笑う茉莉を、殴りたくなる衝動を抑えられない愛実。
されど、今はこっくりさんの真っ最中。
十円玉から指を放せば、災いを招くだろう。
土屋茉莉、恐るべき策士である。
「さ~て、では早速、質問に答えてもらおうか!」
「くっ……あとで覚えてなさいよ、あんた」
忌々し気に睨みながらも指は離さない愛実。
そんな中、十円玉は答えを示さんと動き始める。
こっくりさんが導き出した答えは――
『手を繋ぐ』
「……あんたにはがっかりだよ」
「うるさいわね‼」
完全に失望しきった視線を向ける茉莉。
ふむ、どうやら、思ったよりも進展してなかったようだ。
我的にはキスぐらいまで行ってて欲しかったんだけどなー。
「いいなぁ……なんか青春って感じで……」
一方で羨望の眼差しを向けるのは、オカ研の天使こと美羽である。
うむ、キミだけは変わらないでいて。
「ま、いいや。次行こうか。こっくりさん、こっくりさん。部長と龍幸君のはじめての時の勝負下着は何色がいいですか?」
「堂々となに聞いてるのよ⁉」
堂々としたセクハラ質問。
これはひどい。TPOを弁えろ。
だが、いいぞ。もっとやれ。
奥手な愛実には、こういう起爆剤が必要なのだ。
して、回答は――
『黒』
「黒……」
初心な美羽は頬を赤らめ――
「黒ww」
いい性格してる茉莉はニヤニヤし――
「黒ぉ!?」
当の本人が絶叫する。
「黒ってなによ⁉ 黒ってなによぉ!?」
頭を片手でかきむしり、抱える愛実。
そりゃそうだ。キスもまだしてないのに、はじめての時の勝負下着が黒とか。
冒険しすぎである。
「黒……」
想像してしまったのか、美羽は顔を真っ赤にしてうつ向いてしまう。
彼女にはまだ、早すぎた話題だったようだ。
「部長、中々セクシーですね(笑) これなら、龍幸くんのご子息も大満足ですよ♪」
「殺されてぇか⁉ テメェ‼」
唯一、茉莉だけが平常運転。
愛実を煽る余裕すらある。
この女、本当にいい性格をしている。愛実のキャラが変わってしまう程度には。
「頭きた‼ こうなったら、あんたの秘密も今ここでこっくりさんに――!?」
だが、愛実が報復に出た瞬間、予想外のことが起こった。
「あれ? 十円玉が」
答えを示したはずの十円玉が動き始め――
『否、白』
「「「⁉」」」
先ほどまでの答えを否定した。さらに驚くべきことに――
『いや、黒だ! 黒の方が彼女の容姿に合っている』
『普通に白だろう。はじめてで黒なんて冒険しすぎた。相手、ドン引きだろう』
『ふん、黒下着の良さを分からぬとはこれだから、キツネは保守的で嫌になる』
『なんだと貴様、田舎タヌキの分際で昨今の恋愛事情を語るか? 泥船に乗せて沈めてやろうか? あ“?』
「「「……」」」
まるで言い争うかのように、動く十円玉。
すると愛実が、おそらく全員が思っていることを口にする。
「ねぇ、これって、ひょっとして……」
「「……(こくん)」」
「こっくりさん、二人来てる?」
予想外の事態である。