【TS】自作武器使い女体化娘、男の娘嫁と爆速で添い遂げようとする。 作:秘密の豚園
俺を囲うのは、生徒で出来た動く楕円の檻だった。その檻は、俺と同じ歩幅とペースを保ち、時たまこちらに目を向けてまた前を向く。そして、俺を離さず、ゆっくりとある場所に誘導していく。
先頭では、さっきの男の娘が俺を囲う檻を先導している。
廊下の模様やひび割れは動いていくのに、周りの生徒達の表情も立ち振る舞いも変わらない。
空気が堅い。今の俺は完全にアウェーだ。…なにか、人間味が欲しい。
「あの…。」
俺は、一番近くを歩く坊主の男の子に声を掛けた。少し会話ぐらいできないかな。
「業務中ですので。」
しかし彼は冷たい言葉を俺に言い放つと顔を背けて、制服を整える。
「業務…。」
俺は言葉を反芻して、小さく俯いた。物理的にはこんなに距離は近いのに、疎外感が大きく俺を突き放す。
胸の中に淋しさと恐れが渦を巻く。息苦しさが喉をつかえさせる。人間扱いされていないようで、日常会話の無さに頬が引き締まる。
でも、そんな周囲の対応に、ほんの少し反骨精神に火が付いた。周りの堅さをほぐしたいだなんて俺は思ってしまう。
「……あの…質問良いですか…?」
俺は懲りずに、さっきの坊主の男の子に声を掛けた。
「……。」
彼は俺にチラリと目をやると、また前を向く。
「…あの、水色の髪の子って誰なんです?」
「………。」
無言の中に、ちょっとした会話欲が混じったような気がした。
「…か、可愛かったから、教えて欲しいなぁ…って思って…。」
「…………副生徒会長の…
ためらうような息遣いの後に、囁き声が俺の耳に届く。会話に応じてくれるちょっとした親切さに、少し頬が緩んだ。
でも…、柴村…?副生徒会長…?あの剣道部の…?…あんな感じだったっけ…。もっと厳かな感じしたけど……。仲間が増えるのは嬉しいけど、なんであんなに可愛くなってたんだろう。
俺はつま先立ちになりながら、前を覗き込んだ。生徒の肩の間から見える水色の髪の質感は、よく目を凝らすと、化学繊維のわざとらしさがあった。
「…なんであんな可愛い格好してるんです?」
俺は坊主の子と同じような声量で問いかけた。
「…僕ら末端なんで…知らされてないんです。…あ、着きましたよ。」
坊主の子から、堅い表情が消えたのも束の間、檻はその場に留まり、足踏みを2回繰り返す。
「ご苦労。解散だ。」
柴村副生徒会長の声と共に静かに檻はバラけていった。檻を形成していた壁は次第に、生徒に戻っていく。冷たい顔はどこかに消えていた。
坊主の子が俺に小さく頭を下げて、その背中を小さくしていく。それから、同じように檻の一員だった男の子が、坊主の子の横腹に小さく肘を入れるのが見えた。
「ふふ…。」
なんだ、みんな機械みたいに見えたけど、ちゃんと年相応の学生じゃないか。俺はその背中に小さく手を振る。
「何を笑っている。」
副生徒会長の、低く響くような声が耳を刺す。
「…え、いや……。その……。」
「それと、この格好は貴様を誑かすためのものだ。」
阿月さんが小さく口を開いた。
「…え…あぁ…。…か、可愛くて良いと思います……。」
「……………。」
「…………。」
「…ま、まぁ良い。入れ。
俺の言葉に返ってきた沈黙は、引き戸がレールを滑る音で崩れていった。
「は、はい……。」
それから副生徒会長の後ろを少し離れて、ついていく。
ドアのガラス窓一面に張り付けられた書道紙には、【生徒会室】という達筆の文字が窓枠を飛び越えんばかりの勢いと太さで書かれている。
「は、初めて入ります……。」
「そうか。」
思い当たるような節は何もないし、この1年間比較的穏やかに学校生活は過ごしてる自負はある…。ウン、俺自体に問題があって、怒られるなんてことは無いはず。
でもユウちゃんの件って言ってたよな…。だったら思い当たる節ばっかりだな…。いっつも一緒にいるし、奇行を注意するように言われるのかも……。
でも、そんな大それたことが起こるはずない…。何か言われるっていったって、ユウちゃんの生活態度とあの小道具の事ぐら……。
「可愛い男の娘は、殿方に抱かれるべきですよねェ?殿方が快楽に歪む顔を、その下で眺めながら、女性としての悦びをその体に見出すなんて、素晴らしくロマンティックでしょうゥ?…」
なァんか誰かとんでもねェこと言ってる……。
「こわぁ…。」
誰の発言かも飲み込めないまま、俺はあんぐり口を開ける。でも抑揚も声色も、女性のモノなのは分かった。でもいったい誰が…。
「……羽倉さん……肯定なさい……。お嬢の素晴らしき…思想…。そして貴方がいずれたどり着く……幸せの形に……共感なさい…。そして…崇拝なさい…。」
それから男の娘論を語っていた女の子のモノとはまた違う出所が分からない声が部屋に響いた。
「……ど…どこから…。」
「ここでござい…。」
唸るような声が確かに聞こえた。俺はその方向に目を移す。
ようやっと捉えることの出来た声の主。その人は室内の奥に設置された長テーブルの傍らで、ポールハンガーのように佇んでいた。
腰まで伸びる長い黒髪を揺らし、白いトレンチコートを羽織った女性がいた。何かしらの台に乗っているわけでも、背伸びをしているわけでもないのに、頭が天井に着きそうだった。落ち着きのある家具のような女の子だった。それでも一度人と認知してしまえば、拭えない違和感を与える記号になる。
そうだ。…この人…【
「…羽倉サクハさん…。…私の男の娘論、共感してくださいましたか?」
不意に声がした。響くように拡がった声でなくて、俺に向けられた声がした。
それから俺に背もたれを向けていた黒い革製の回転椅子がおもむろに動き出す。
「おはようございます。生徒会長の
やっぱりいた。ウチの高校の生徒会長が。
俺が、部屋に入ってすぐに男の娘論を唱えだした女性が。
でも、こんな変な人だったっけ…?…ま、まぁ、人の前に出るときはそりゃ取り繕うか……。
外にハネたボブの中で蠢く紫のインナーカラーが黒髪の境界を何度も行き来する。眼鏡に付いているチェーンは彼女の息遣いと共に、光り小さく踊る。
「あ、おかけになってください。さ、阿月、準備を。茶菓子と玉露と
生徒会長が棚の方に腕を伸ばした。
「御意に…。」
と書記のオルネさんの声。
「承知しました。」
と副会長の阿月さんの声。
「……えっと…。」
と俺の戸惑う声。
言われるがままに、中央に設置されたソファに座る。柔いけど、沈み込み過ぎない程度に固くて芯のある緑のソファだった。
所在なげという訳でもないけど、ここじゃあ手の置き場にも、眼をどこに置くかも、どんな息遣いをすればよいのかも困る。すっげぇ緊張する。
でも…
「萩の月。それと茶だ、熱いぞ。そしてこれがカタログ、もとい名簿だ。」
考える暇も与えられない。副生徒会長が運んでくれた盆の上には、冷えた仙台の銘菓と、熱く湯気の立つお茶と、ぶ厚いファイルが置かれていた。
お茶とお茶菓子はまだ分かる…。でもこのファイルは…。
「…まぁ、察しが悪いですねぇ。」
訝し気にファイルの表面を見ていた俺を、嗤うような声がする。彼女は肩もみに対しての、ため息と気持ちよさそうな声を交えながら俺を眺めていた。
『こんなファイル一つで何を察しろって言うんですか。馬鹿なんですか。』
ホントはそれぐらい言い返してやりたいけど、下手なことを言ったらこの側近二人から何を喰らうか分からない。阿月さんは、ポケットから護身用の伸縮棒を取り出して手の中で遊んでいるようだけど、いつでも俺を仕留められるように眼だけはこちらを向いてる。
『いつでも消せる』って言われてるみたいだ…。
「サクハさん、言ってしまえば、ここから貴方の伴侶を探して欲しいのですよ。全校男子生徒の軽いステータスと顔写真が載っています。」
淡々と生徒会長が告げた。生徒会長の声と共に、身を乗り出した阿月副会長がファイルをペラペラとめくり始める。そこには、各男子生徒の顔写真と、掲載できる最低限度の個人情報。そして六角形で表されたステータスが載せられていた。
「は?」
え、ど、どういう事だ?
「あら、まだ分からないので?」
『分かるわけねぇだろ。』
そう言いたいのをぐっと堪える。
「さ、さっきの…男の娘の語りの延長……ですか?」
俺は恐る恐る生徒会長に問いかけると、彼女は小さく鼻で笑い、長テーブルに肘を乗せて、祈るように手を組み始めた。
「あら、察しが少しは良くなりましたかね。まぁ、便所虫がダンゴムシになった程度の変化ですが。」
違いが分かんねぇよ。外敵に対して、丸まるか丸まらないかぐらいだろそんなの。
「ま、深く踏み込む前に私のスタンスでも語りましょうか。私、矜持というか、思想を簡単に口外したくありませんでしたが…良いでしょう……。語ってあげますかね。」
聞いても、お願いもしてもいないのに、生徒会長は祈るような手に力を込めて、口を開き始めた。
「…私はね、愛と美を信仰しているんです。自分に飼った信仰ですもの。教祖も教主も信徒もいませんが、どんなユダも入り込めない強い信仰なのです。イクナートンがアトンを唯一神にしたようにね。私の中には愛と美の信仰のみがあります。」
甘い語り口調。まるで、自分の恋人を、伴侶を愛でるみたいなそんな話し方で彼女は続けた。そこには、どこまでも続く陶酔と、誰にも踏み荒らせない矜持があった。
「はぁ…。」
やっぱりまだ理解できない。ちょっと気まずいし、理由付けて帰らせてもらおうかな。
「しかし、その信仰に反する愛のカタチが、男の娘と女性の恋愛です。」
抑揚からは途端に甘さも陶酔も消えた。そこには、排斥と怨嗟があった。
「え?」
何が言いたいんだこの人は。
「一般的な男女のカップルは認めましょう。男同士は認めましょう。女同士は認めましょう。近親間も認めましょう。男の娘と男はもちろん認めましょう。それでもね、男の娘と女性とだけは、愛し合って欲しくないのです。」
「可愛らしい男の娘が、女の子と添い遂げるって、もったいなくありません?男の娘には、男性と恋をして欲しいのです。お分かりですか?」
支離滅裂で、誰かの愛と幸せの形を否定するような酷い性的嗜好。でもハッキリ分かったのは、彼女はそれを何よりの正義として、認めて、信じて、愛してやまないことだった。
「だってそうでしょう?可愛らしい男の娘は、殿方に抱かれて愉悦の顔を見せるのがセオリーなのです。男の娘は、男性の腕の中で抱かれ、女性としての側面を見せる瞬間が一番尊く、美しく、輝くんですよ?」
「それを…貴方……。男の娘という性を、女体化した羅波矢ユウオで消費するというのは、あまりにもったいないのですよ。あぁ、ユウオさんのお母さんから届いた情報は生徒会も把握しておりますよ。」
「お分かりですか?貴方には、相応しい恋愛と相手と物語を送ると約束しましょう。さ、選びなさい。デートやホテルのセッティングもこちらで手配しましょう。」
捲し立てるような思想の開示は止まらない。澱んだ願望は止まらない。顔は歪んで、俺の道徳を赦してくれない。
捻くれた人が話す、言葉、芯や思想を、
でもやっぱり、放棄を選びたくなる。
「家主は庭を彩るものでしょう?ふふ、あてがってあげるというのですよ。貴女のような
この人は俺の理解から遠いところにいた。既に俺ではたどり着けないような場所にいて、自分の倫理で周りの倫理を侵そうとしていた。
「……ささ。選びなさいな。」
でもこの瞬間だけ、俺の中の事なかれ主義が、なりをひそめた。
自分の指針を曲げさせまいと、口が開いた。
また、あの反抗心が顔を覗かせる。
「…あの…資料まで作ってもらって申し訳ないんですけど…その、お断りします……。すみません……。にょ、女体化しようがなんだろうが……俺の…結婚相手は…ユウオしか…いないから…。…ごめんなさい……。」
しどろもどろに、どもる言葉。会長の言葉に比べたら酷く散らかって、整いなんてものはない。生の、加工されていない言葉だった。【啖呵を切る】なんてものじゃない。俺のはただの稚拙な願いだった。
それでも、俺の今の意思は伝えたかった。
「素晴らしい勇気に感心しますわ。これがオープンマリッジというモノですの?」
首を横に小さく傾けた会長が、俺に問いかけた。
え?オープンマリッジ…?別に、俺そんな事してないけど……。
「…お嬢…。語感的にオープンマリッジとは、結婚を周知のモノにするというイメージがありますが…実際は……。」
オルネさんが微笑みながら腰を曲げ、会長の耳に囁いた。相槌を打ち、納得したような顔を見せる会長は、年相応でさっきの捻くれた思想を口に出していた人とは思えないぐらい綻んでいた。
「…あら、誤用…。ふふ、お恥ずかしい…。」
ちょっとした自嘲。緩む空気と、小さく笑う俺以外の3人。
疎外感のある暖かみの後、程なくして、あるものが部屋を満たした。
「…でも、まぁ…。その男らしい啖呵切り、とても腹正しく思います。」
敵意と害意と、偏見と信仰で構成された歪んだ正義だった。
「では、貴方が2度と、その勇気とやらを振り絞れないように、テストステロンを製造するその大本を潰してしまいましょう。やりなさい。オルネ、阿月。」
会長が指を鳴らすと、二人の側近が目の色を変えて、動き始める。
「…サクハさん…お嬢が考える物語の為に……その属性を捨ててください……。」
オルネさんの声と共に、阿月さんがソファを挟んで俺の後ろに立つ。
身動きが取れない、勝ち目がない……。
いずれ俺とユウちゃんが未来を作るための、そんな部位が…潰れる…。
目を閉じて、体を小さく丸めた時だった。
「クーリング・オフだよ。馬鹿ども。」
扉が勢いよく開いて、大きな塊が空を切る。俺の前を横切った塊が、壁に当たり、生徒会室を小さく揺らす。揺れを起点に、動揺が部屋中に迸る。
その時、ようやく分かった。その塊は、人だった。大きく傷ついているわけでも、ましてや体を欠損しているわけでも、血を流しているわけでも無い。
壁に当たったその男子生徒から見て取れるのは、疲弊と恐怖と、絶望だけだった。 呆気に取られた側近の間をすり抜けるように、俺はその男子生徒の方に向かった。
「だ、大丈夫ですか!?な、なにが…。」
体を揺らし呼びかけると、震えた一本の指が俺を指す。
「あ…。はぁ…。ばけ…ばけも…ばけもん…が……。」
震えながら俺のいる方向に指を指す男子生徒はその後、こと切れたように気を失った。それからだった、彼が指を指していたのは俺なんかじゃないってことに気が付いたのは。
「トム・ヘイゲンがソロッツォに連れて行かれるシーンみたいだったよ。サク兄ィ。いやぁ、何事かと思ったね、実際。」
暴力性と高揚を親しみで覆い隠したような声、慣れた声色が後ろから聞こえた。創作物を絡めた物言いと、どこか達観した抑揚。
俺は年甲斐もなく、眼に涙を溜める。安堵から勢いよく振り向いた。心強い味方の名前を呼んだ。
「せ、セエカちゃんッ!!」
羅波矢セエカ。俺が知っている女の子の中で、この子より強い子は見たことがなかった。服には傷も汚れもなかった。俺の隣を歩いていた時の彼女がそのまま、そこに佇んでいた。
「フン、ゴッドファーザーですか?若年層が分かりにくい例えを…。兄妹揃って同じようなボキャブラリーと物言いをするのですね。羅波矢セエカ。」
しかし、生徒会長は狼狽えることも、困惑することも、恐怖することも、憤慨することもなく、深く椅子に沈み込む。
「私の兵隊はどうしたのです?貴方の方にも10人ほど向かわせましたが。」
生徒会長が、小さな憤りを交えて、セエカちゃんに問いかけた。
「あぁ。全員仲良く揃って、地面に向かってへばりついてるよ。ま、一人はここに連れてきたけど。」
セエカちゃんは、制服の袖を捲ると、和穂生徒会長に距離を詰めていく。
「何が目的?返答はどうあれ、一回強めに絞め落とすけど。舐めた真似しやがって。」
挑戦するような響きは無かった。まるで確定した事項を、読み上げるようにセエカちゃんは口を動かす。
強さを是とする、闘争の倫理が充満して、空気や雰囲気は、また俺をアウェーにする。
「筋肉ダルマが……。」
「…潰す……。」
二人の側近は、怒りと屈辱からか、各々が闘争の形に移行していく。
阿月副会長は伸縮棒を伸ばし、オルネ書記はトレンチコートを脱いでソファに投げつける。容姿も性別も違う二人が、セエカちゃんの前に立ち塞がって、その瞳を睨みつけている。
「あらあら、酔ってる酔ってる。…この馬鹿ども…。物語に、演技性に、使命に、矜持に、目標に。そして何より……。役割に……。」
そんな二人の戦闘態勢にセエカちゃんは微笑んだ。
「……かくいう私も酔ってるんだけどね…役割にさ…。」
声のトーンが一段上がる。
「アンタらの対して面白くもない…【
ハッキリと自分の意思と言葉を見せたセエカちゃん。
正解の啖呵を切り方と、不敵な笑みと、軋む筋肉に俺は息を呑む。
でもどっちかって言うと機械仕掛けの神様ってよりかは、筋肉の神様だと思う。
「ふふ…。楽しくなってきましたねェ。」
なんて生徒会長は言ってるけど、俺は何も楽しくない……。ただ怖い……。
誰かが傷つくのは、怖いし、見たくない。
どうしよう……。誰も傷つかない手はないかな…。
このままじゃ、きっと喧嘩じゃ済まない……。
俺にも、出来ること…探さなきゃ…。
お気軽にコメントくださィ。
モチベよぉ~ん。