【TS】自作武器使い女体化娘、男の娘嫁と爆速で添い遂げようとする。   作:秘密の豚園

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第7話 学生はチャイムに屈する。 【サクハ視点】

 (よわい)16歳。今、俺は、自分の人生経験の浅さを酷く痛感している。

 

 こんな一触即発の空気は止めなきゃいけない。それは理解してる。

 

 ここには俺の大事な人がいる。そして誰だって傷ついちゃいけない。そんなの分かってる。何かしなきゃいけない。黙ってちゃいけない。分かってる。そんなの。

 

 でも()()()()んだ。

 

 この緊張感の中、どう動けば良いのかも。どんな台詞を言うべきかも。

 

 ()()()()()()()んだ?

 

 この澱んだ部屋の中、俺が見出すべきものは、恐怖と緊張感だけで良いのか?

 

 俺の道徳と倫理観が、疎外感を作り出して、対峙する四人をさらに遠ざける。

 

 怖い。正解がない。出口がどこにもなかった。

 

 ユウちゃんの部屋に入った時の非日常とは訳が違う。理解の及ばない、共感も、肯定も難しい、敵意と害意と拒絶の奔流があった。

 

 

「…あらあら、羽倉(はくら)サクハさんの精嚢を潰して、しおらしくしたかったのに…。」

班目(まだらめ)生徒会長の声がした。

 

 あまりにフランクな声色の、恐ろしい発言が俺の意識を部屋の中に戻す。そっか…。俺…去勢されるところだったのか…。

 

 理解と()()()が頭にじんわり拡がって、さらに恐怖が身近になる瞬間だった。

 

「うわ、コエ~。キチガイじゃん。」

不適で不遜でいつもと変わらない声が、俺を恐怖から少し遠ざけた。

 

 この中で、唯一の俺の味方。手放しで信用できる女の子、セエカちゃんが肩で風を切るように歩を進める。

 

 セエカちゃんのそのつま先も、目線も、体も、思惑も全て、部屋の奥で微笑みを絶やさない生徒会長に向けられていた。

 

「貴様、B班を全員潰したのかッ…。」

阿月(あつき)副生徒会長がウィッグを揺らしながら、伸ばしきった伸縮棒をセエカちゃんの首元に小さく当てる。()()攻撃性のない警告が、首を撫でる。

 

「まぁ、漫画でも、小説でも、ドラマでも、映画でも、現実でもそうなんだけどさァ。私さァ、キチガイ嫌いなんだよねェ。」

それでも、セエカちゃんは歩みを止めない。語りの抑揚に変わりない。自分の言葉を、誰かとの会話になんてしない。理解を必要としてなかった。

 

「…御黙りなさい…。」

オルネ書記が、威圧感を体から滲ませた。武器は持っていないし、構えすらしていない、表情や何かを変えたわけじゃない。

 

 それでも、こんな素人の俺でも分かるほどの危険性がそこにはあった。破裂寸前の風船みたいな近寄りがたさがあった。

 

「作品の中で用意された逆境と同じなんだよ。敵だの悪だのキチガイなんてのは。大抵は、乗り越えられるための舞台装置じゃん?消費されるだけのギミックじゃん?」

 

「はぁ、ヤダヤダ。『コイツ、狂ってますよ。』ってアピールするために、歪んだタッチで描かれてるキャラとか、小難しい言葉ならべて狂気表現する小説とか、自分のイレギュラーさ加減を表現しようと必死コいてる凡人とか…。」

それでも、尚も、セエカちゃんは止まらない。

 

 まるで、二人なんて眼中にないように、ただただ、見据えた目標に向かって歩いて行ってる。

 

「現実に即してなくて、虫唾が走るんだよネ。あ、良いこと考えた。」

首に当たる暴力の警告も、充満する危険性も意に介さず、セエカちゃんは首をこてんと横に倒した。

 

 自分の解釈や、価値観を、まるで友人に共有するような物言いの後、セエカちゃんは、挑発するように、とある禁句を口に出した。

 

「アンタら絞めて、生徒会簒奪して、次は私が生徒会長。良くない?」

セエカちゃんの冗談じみた、それでいて扇情的な発言に、副会長と書記は、光のない目と暴力で返した。

 

 首元に当たっていた警告は、素早く離れて、また素早く戻り、一振りになった。

 構えのない佇まいは、予備動作を消して、初動の無い足の一発を作り出した。

 

「せ、セエカちゃんッ!」

何もできない俺の情けなく、上擦った声。

 

「フフッ…。」

それに続く満足したような微笑。

 

 肉同士が当たって響く音と、金属が叩きつけられる音。

 

 そして。

 

「なッ…止められた…!?」

「ッ…クソッ…。」

敗北の翳りが見える呟き。

 

「ひょひょ…。まぁまぁらへ…よわっひぃ…。(まぁまぁだね…よわっちぃ…)

さらに煽情的で挑発するような物言いが、俺の心をほんの少し安堵させる。俺以外の精神を強く逆撫でする。

 

 俺にはちゃんと把握できてないかもだけど、きっとセエカちゃんの、精神を、体を削るには、二人の攻撃は何かが足りてなかったんだ。

 

 阿月副会長の放った伸縮棒の一閃は、セエカちゃんの歯で受け止められて、その体に外傷を付けることなく口の中で留まっていた。

 

 オルネ書記の予備モーションの無い右脚の蹴りは、セエカちゃんの右手の中に収まってる。きっと足が攻撃のために動き出してから、それを捉えて手で掴んだんだ。

 

 肝心のセエカちゃんは、痛がる様子もなければ、驚く様子もない。ただ、口の中の衝撃を、手の中のヒリつきを、攻撃の意外性を、愉しむように、理解するように佇んでいた。

 

 

 強い…。圧倒的だった。セエカちゃんから二人に対して、直接的な攻撃はまだしていないのに、絶対負けるわけがないのは、素人目で見ても分かる。

 

 でも阿月副会長もオルネ書記も、弱いわけじゃない。絶対に強者側なんだ。だって、考え方が普通じゃないから。躊躇いと、自分への疑いと、ブレーキが無い。誰かを傷つけるための、戦闘の倫理が出来上がってる。

 

 全員、暴力に対する忌避がない。アッチ側なんだ。

 

 でも…。素人目でも分かるけど…やっぱりセエカちゃんは…。

 

「…で、どうひゅる?まだやりゅ?」

次元が、違う…。普通じゃない……。

 

 アッチ側の中でも、特別強い…。

 

「ぷはッ…。」

鬱陶しそうに口から棒を離したセエカちゃんが、生徒会長から目を離して、阿月副会長とオルネ書記を一瞥した。

 

 その目は、睨みつけるだとか、怒りを晒すとかそんなんじゃなかった。

 

 その目は、二人をただ()()()いた。まるで車窓から流れる風景を捉えるように、食べ終わった皿を見るように。  

 

「あ…。」

「ぐッ…。」

二人の中の敗北の翳りが、さらに濃く深まって、黒になる。その顔には明確な恐れが灯る。床に金属の落ちる冷たい音が響く。

 

「さぁ、アンタらも、あの兵隊同様…()()してやるよ。」

セエカちゃんが二人に囁いた。

 

DIE YOBBO(弱者は死ね)…。」

セエカちゃんの口角が小さく上がる。

 

 俺の中の安堵が、焦燥に変わった。明らかに飛び越えられたハードルと、二人の末路が頭に浮かぶ。

 

「せ、セエカちゃん…。」

止めようにも、止められない。怖い、口に出せない。動けない。

 

 それ以前に、何も出来ず、力に成れてない俺が、この場で【道徳】だとかを持ちだして、セエカちゃんを止めることは、あまりにもおこがましい気がして…。

 

 どうしよう。止めた後のセエカちゃんの反応が怖い。二人が目の前で傷つくのが怖い。自分が情けない。

 

 

 過剰な暴が満ちて、歪な強弱関係が作られた刹那だった。

 

 ある塊が、セエカちゃんの胸まで跳ぶ。

 

「御イタがすぎるのでは?」

その塊から、班目生徒会長の声がした。

 

 セエカちゃんの胸に突き刺さるような鋭い蹴りと、浮かぶ華奢な体。

 

 その穿つような足を、左手で捉える絶対的な強者。

 

「おいおい、内輪に入ってくんなよ、キョロ充か?班目生徒会長。」

 

「あら、肉体言語でしか会話の出来ないコミュ障が何かおっしゃってますね。」

 

 地面にふわりと着地する生徒会長と、首の骨を鳴らすセエカちゃん。どこか対等な二人の掛け合いを見て、阿月副会長とオルネ書記が解放された空気感を感じて、俺は何故か。

 

「はぁ…。」

場違いにも、安堵していた。 

 

 班目生徒会長がセエカちゃんを見上げて、セエカちゃんが見下すように彼女を()()つける。

 

 

 でも、そんな小さい安堵はまた恐怖と狼狽えに変わる。だって、目の前に拡がるのは、もう日常なんて言えるものじゃなかったから。

 

 いや、いつもそこにあったんだ。非日常は。俺が理解しようとしなかったり、遠ざけていたりしただけで、ずっとそこにいたんだ。

 

 変わらない()()()なんてものは、日常なんてものは、風が吹けば、崩れて散っていくトランプタワーみたいなものだったんだ。それは、決して無謬じゃないし、堅牢じゃない。強固でもない。

 

 ちょっとした変化(ユウちゃんの女体化)に、異常はすぐに牙を剥く。

 

 部屋の中で、時計の針が動く音が大きくなった。

 

 敗北感と、ありえた未来に息を荒くする()()

 床に転がる、一人の()()

 対等な関係に、胸を踊らせる()()()

 

 じゃあ、俺って何なんだ…。

 

 崩れやすくて、脆い物の例えでトランプタワーなんて安直なものが出てくる時点で、俺はここの住人じゃない。どこまでも普通で、女の子みたいな可愛い恰好が好きなだけな男だ。

 

 俺って…俺……。

 

 

 あまりに場違いな自己憐憫と、相反する闘争の倫理。決して相容れない俺の内面と外側の戦闘。

 

 

 その境界を溶かしたのは、チューブラベル風の電子音。チャイムだった。

『~♪』

相対的に大きく響いていた針の音も、絶対的な鐘の音にかき消された。

 

 

「あら、チャイムが……。」

班目生徒会長が、口に手を添えて、ドアの方に目線を移した。

 

「チャイムが何?ホラ、早く来なよ。」

セエカちゃんが生徒会長に中指を立てると、挑発するように前後に動かした。

 

「いえ、ご遠慮しておきます。今日は朝の漢字小テストがあるんですもの。そろそろ教室に戻らなくては。」

…は?

 

 朝の、何?小テスト?漢字?

 

「…すぅ…。…ん…。ん?……しょ、小テスト…?」

流石に困惑が口から漏れた。

 

「………は?」

セエカちゃんも同じように動揺している。そりゃそうだよ、さっきまで戦ってた相手が急にそんな至極マトモな事を言うんだから。

 

「何を驚いてらっしゃるんです?不思議な方たちですね。ダルい朝テストは学生の本分でしょう。」

ダルいとは思ってんだ…。

 

「そういう普通の感性と俗っぽさがあるのに…よくもまぁ、あんな恐ろしい喧嘩できましたね…。」

自然に口が開いた。

 

「なんです?闘争と勉学は切り離すものですよ?しかし、貴方方、まさか小テストを御存じで無いと?」

班目生徒会長が驚いたように、口に手を当てる。なんでこっちが異常側みたいになってんだよ。意味分かんねぇよ。その口に手を当てるジェスチャーをやめろよ。

 

「い、いや…概念自体は把握してるんですけど…あの…あまりに今の状況に合ってないというか……きゅ、急にそういう一般的なこと言われると…。」

 

「…そういうモンですか?」

 

「…そ、そういうモンですよ…。」

 

「……あぁ。そうですか…。」

 

 なんだろう。この雰囲気。気まずい。生徒会長の等身大の人間らしさが分かったけど、さっきより苦しい。戦いは終わったはずなのに、もうこれ以上誰かが傷つくことは無いはずなのに。

 

 なんか…こう…なんか……。

 

 あぁ、空気の変化に酔いそう……。

 

「だからキチガイは嫌いなんだよ…。」

セエカちゃんの呆れた声から、冷めていくのが分かる。それから彼女は、伸びを何度か繰り返すと、ソファに沈み込んで足を組んだ。

 

「…んッ…。」

「……ハァ…。」

阿月副会長とオルネ書記も言葉を失って、吐息を口から押し出すだけだった。

 

「んぐッ…。あ?な、なに…?…ヒッ!?羅波矢(らなみや)セエカッ!?」

さっきセエカちゃんが投げ飛ばした子、ずっと伸びていた男子生徒が恐怖と共に目を覚ます。

 

「…チッ…。安心しなよ…。もう…なんか…今日はそういう気分じゃないから…。」

セエカちゃんが男子に目を向けると、それから天井を仰ぎ見て、大きくため息をついた。なんだか、さらにソファに沈み込んだように見えた。

 

「ちょっと。羅波矢セエカ、羽倉サクハ、近本壱也(ちかもといちなり)。貴方達、早く生徒会室を出なさい。鍵を閉められないでしょう?」

生徒会長が、ドアを小さく開けて、口だけ出すと俺達に呼びかけた。

 

 いつの間にか、副会長も書記もいなくなってた。

 

「お、やべ…。そろそろ時間ですの。まぁ、施錠はHR終わってからで良いですわね。ま、今回は、負けでも何でも良いですの。それでは。」

生徒会長の柔い唇が、ドアの隙間から引き抜かれるように消えていった。

 

「…終わったってことで……良いのかなぁ…。」

俺はセエカちゃんに小さくボヤいた。

 

「…さァ…。」

セエカちゃんが立ち上がると、スカートをバサバサとと動かして、風を通していた。

 

 確かに戻ったはずの日常だったのに、もうさほど怖くないはずなのに、胸はずっと痛くて、落ち着かない。

 

「あ!最後にッ!」

ドアの隙間に尖った唇が差し込まれる。

 

「…疑似ラッキーホールみたいになってる…。」

セエカちゃんが呟いた。

 

「やめなって…。セエカちゃん…。」

セエカちゃんの下品な例えと、それを嗜める俺の言葉に、生徒会長は意にも介さない。それから彼女は、唇を動かし、あることを告げる。

 

「これからは貴方達が【()()()】まで、私からは、使()()を送らせていただきます。羽倉サクハ、貴方が殿方の下で屈するまで、私はいくらでも策を弄し、手を打ち、私財を払いましょう。」

は?え?し、使徒って何ィ…。屈するってどういう事?

 

 俺もう、分かんないよ。何だよこの状況…。

 

「い、いや…あの…こ、困りますッ!し、使徒っていったい…。」

 

「悪しからず。遠慮せず。言っちゃえば部下です。まぁ、過度に法に触れるようなことはさせませんので。さ、楽しみにしておいてください。」

楽しめません。意味が分かりません。それに一番楽しそうなのは、貴方じゃないですか。班目生徒会長。

 

「あぁ。壱也さん。保健室に行かれるのなら、養護教諭の笹岡先生には、【チーズ・イン・ハンバーグ】と伝えてください。それで分かると思いますから。B班の皆様もそこにいらっしゃいます。ありがとうね。」

床に座り込んでいる男子生徒の困惑顔に、労いの言葉をかけた生徒会長の唇は、ゆっくりと廊下に消えていった。

 

 あの人、なんだかんだ人間味があって、部下も気に掛けるし、ちょっと馬鹿で怖いし、意味分かんないけど、でも、そんなに嫌いになれないんだよな。…俺のアソコ潰そうとしたり、ユウちゃんとの関係を引き裂こうとしたりしてるけど…。

 

 好きにもなれないけど…。

 

「さっきの…アレだね。風俗で、本当にプレイ止めて欲しい時に言う合言葉みたいだね。」

 

「こら、そういうこと言わないの…。」

 

 でも、セエカちゃんの下ネタに反応する唇はもうなかった。廊下からはただ、床と当たる楽しげな上履きの音が響いていた。

 

 どうなるんだろう。俺。

 

 何にもできなかったし、セエカちゃんの力にもなれなかった。

 

「ごめんね、セエカちゃん…。」

 

「何がさ。」

 

「…色々…。」

 

「……。」

 

 セエカちゃんは小さい沈黙の後、俺の頭に右手を置いて、小さく口を動かした。

 

「やっておやりよ。」

 

「…何を?」

 

「………色々さ。」

 

「……。」

オウム返しのその言葉の意図はつかめなかった。でも、含みと暖かみだけは分かった。

 

 

 体の横で固く握りしめられた左手と、俺を撫でる右手。

 

 俺はこれに守られてたんだ。

 

「ありがとね。」

 

「…謝ったり、礼を言ったり、忙しい義兄だこと。」

セエカちゃんは、壱也さんの後ろ襟を掴んで、扉へと向かった。

 

「ちょ…。離せッ!」

「やかましい。保健室まで連れて行ってやるってんだよ。」

 

 意味が分からない状況に、意味が分からない思想。

 

 でも、ここにユウちゃんが来れば、後は日常が戻ってくるはず。

 

「強くならなきゃ……。」

俺は一人、床に小さく呟いた。

 

 




10日ぐらい、空いてすみません。

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