【TS】自作武器使い女体化娘、男の娘嫁と爆速で添い遂げようとする。   作:秘密の豚園

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第8話 火ぶたは落ちて。ここから聖戦。女体化娘はお水を飲んで。 【班目視点→サクハ視点】

班目(まだらめ)視点】

────────────────

 

 いつもより廊下が冷たく、そして足音が響く気がします。

 

 認めてしまった敗北が、あっさりとした引き際が、棘のように残っています。  

 

「…カズちゃん……。…お、お嬢…あの…。」

私の後ろに付いているオルネが、おずおずと口を開きました。別に、私を怖れているわけではないのは分かっています。

 

 私は首を軽く動かして、オルネの顔を見ましたの。あら、なんてショボくれているんでしょう。陰の差し込まれた顔と、力の入らない体。どこかたどたどしい足取り。

 

 オルネと並んで歩いている阿月(あつき)すら、同じように恐怖を共有していらっしゃいます。二人とも、体が縮こまっています。

 

 例えるなら、はやぶさを基準にした時の、こまちぐらいの細さですかね。サクセスストーリーを歩んでいた販促作品の主人公が、身内を討たれた時の縮こまりようですかね。

 

 でも、私の腹心であり親友というのなら、そんな顔をしないで欲しいのです。

 

 一度の敗北がなんですの。最終的に勝てば良くってよ。最後に揺るがない自分を獲得できれば、それが最良でしてよ。

 

 私は、発破を掛けるように言ってやりましたの。

「まったく。なんですの?シケたツラはやめてくださいまし。ほら、教室まで走って競争ですわよ。負けたら、大きな声で男性器の名称を叫んでもらいますからね。」

 

「……はは。」

阿月の乾いた笑いに、まだ翳りがありました。まぁ、正直、分かりますの。

 

 自分の持っていた肩書も強さも統率力も、暴力という純粋な現実に平坦に均される諦念。強者の自分を【()()()】という過去形の枠に収めるが如き、怪力。

 

 認めましょう。アレは化物です。

 

 羅波矢(らなみや)セエカは、力という概念に人皮が張り付いた人ならざるモノです。

 

 でも、分かります。私だから分かるのです。

 

 阿月、オルネ。だからこそです。

 だからこそ、絶望をしないでくださいまし。

 自分に価値がないなんて顔、やめてくださいまし。

 

 すぐその敗北感を晴らすのは難しいでしょう。

 今すぐいつも通りに振る舞えとは思いません。

 きっぱりと折り合いをつけられなくとも、すぐに受け入れられなくとも良いのです。

 

「これだけは覚えていてください。お前たち。」

私は、立ち止まり、二人の方へ振り返りました。そして二人の顔を見るために、少し上を向きました。眼鏡を手の甲で押し上げ、二人の目を見据えました。

 

「物理的な強さとは、どこまで行っても相対的なものです。」

それから私は大きく口を開き、言葉を紡ぎました。コレは先程の敗北を肯定するための、慰めでも、諦めでも言葉遊びでもありません。

 

「もちろん()()()な強さや、比較というのも価値あるものという前提は忘れないでくださいね。でもね、私は、()()()な強さを是としているんです。」

 

「絶対的…。」

阿月の反芻に、私は頷きました。

 

「料理でも、勉学でも、心の強さでも、技術的な物でも、本当に何でも良いのです。その分野で自分より勝っている人がいようが、劣っている人がいようがそれでも良いのです。」

 

 そうなのです。なぜなら本当の強さというものは、表面的な良し悪しや、優劣で決まるモノではないのですから。

 

 私はオルネの目と、阿月の目に交互に視線を移しながら、語ることを続けます。

 

「クオリティの上下関係なく、自分の好きなモノや概念を捨てずに、胸に据えること。たまに疎かにしたとしても、形を変えたとしても、それを捨てず常に胸に抱き続けること。それが強さなのです。お前たち。」

 

「醜くても、歪でも、不格好でも、そんな軸があるのなら、どんな人間も最強なのです。」

私は再度、頷きました。

 

 だって人は、誰でも最強になれるのですから。

 

 二人の目を見て、何度も頷きました。その4つの目に濁りはもうありませんでした。介在するのは様々な感情の絡み合いと、自身の偏見や矜持のぶつかり合い。彼らが言葉を口に出さずとも、咀嚼をして解釈をしようとしていることは伝わります、

 

 鼻息、唾を呑みこむ音、口を開ける水音。

 教室から聞こえる談笑と、ページを捲る紙の音。

 

 それから二人が私の考えを受け取ったことを示すように、頷きを見せました。それでよいのです。二人とも。

 

 でもね、私の抱いている【意味】そのものが伝わらなくとも、私の【思惑】そのものが分からなくとも、二人に私の断片を【残せる】のなら私は、それで良いのです。

 

「泥のような敗北を、珠玉の一口にするんですの。」

むぅ、また語ってしまいました。矜持や思想はあまり口外したくないと、羽倉(はくら)サクハに言ったばかりだったのに。

 

 でも、二人になら良いですの。私を、曝け出しても。

 

 そして、これからです。

 

「さぁ、これからですのよッ!使徒をブッ送って!羽倉(はくら)サクハのキンタマをブッ潰して!エロ雌にしますわよッ!腕が鳴りますわッ!」

その時ですの。二人が顔を顰めましたの。阿月の目は曇り、オルネに至っては、口から小さく吐息を漏らしました。

 

 加えてです。不思議と周囲の教室から、談笑の声や、ノートに鉛筆を走らせる音が止んだのです。あと、空気も一段と冷えましたの?

 

「え?」

はて?なぜでしょう?可愛い男の娘を【()】にするという、一大イベントですのよ?もっと飛び回っても良いんじゃないのかしら?

 

 だって、創作物の構造だってそうではありませんか。男の娘キャラは、男性と添い遂げるようにテンプレートが出来上がっているじゃありませんか。

 

「あ、もしかして、『ふぐりのある男の娘も悪くない』とそう言いたいのですわね!?いやァ…。分かってますわねェ…。お前たちッ…。」

 

 しかし、私の言葉に返ってくるのは沈黙だけでした。

 

 はて?

 

「でもねェ…、羽倉サクハの場合は、テストステロンのせいで勇気を作り出してしまうんですもの。それがどうにもよろしくない。だから【オキャンタマ・ブレイク】ですの。」

 

 なんですの。誰もウンともスンとも、女装子とも言わないじゃありませんの。

 

 おかしいですわねぇ…。なぜ、誰も頷きを返してくれないのでしょう…。

 

 私、芯のある人間は嫌いではありませんが、男の娘がTS娘と添い遂げるというのなら、もう話は別ですの。【オキャンタマ・ブレイク】ですの。その後、男性と添い遂げですの。それ以外、赦せませんの。

 

 だから、その男性ホルモンの元になる大事な袋をプッチュンしたいと思うのは普通ではないですか?東京喰種の鈴屋什造の過去回想みたいにしたくなるのは、至極当然ですのよ?一般倫理でしょう?小学生でも理解る道徳ですのよ?

 

「…お嬢…その…。」

阿月がウィッグを外そうと、頭に手を伸ばしました。

 

「おやめなさい。今日は貴方、ずっと男の娘(おとこのこ)なさい。」

私は手のひらを阿月に向けて、彼を、否、彼女を制しました。

 

「…あ…はい…。」

阿月が、何か言いたげに口を動かしましたが、聞きたくありません。聞き入れません。今日はずっと、男の娘をしてもらうのですから。

 

「あ、それと二つ、業務報告ですの。最初は、使徒の事です。」

私は指を二本立てました。親指と人差し指ですの。

 

「あ…。私…気になってた…。…お嬢…昔から出たトコ勝負…だから………。」

オルネがその場でしゃがみ、私に目線を合わせました。

 

「失礼な。ちゃんと考えておりますのよ。誰を使うかも、どうするかも。」

…オルネは私をよく分かっております。ええ、実際私も、あまり考えておりませんでしたの。生徒会室では。使徒なんて設定、あの時、出まかせでしたもの。

 

 でも誤魔化すように、私は人差し指を強調して、オルネの前で動かします。

「茶会の友人たちも、使徒として扱います。」

 

「…え……?」

とオルネ。

 

「……本当ですか?…しかしアイツら…。」

阿月が苦い顔を私に向けます。

 

「あぁ、生徒会の幹部メンバーと、茶会の皆を合わせても12人もいませんものね。問題はそこですの?」

 

「違います。」

「……違う……。」

二人の声が揃いました。

 

「ふふ、分かっておりますの。人数ではありませんよね?」

二人の揃った頷きが、髪を揺らし、私に同意の意を向けます。

 

「学校外の人間もいらっしゃいますからね。」

 

「違います。」

「…そこじゃない…。」

 

「…………変人が多いからですの?」

私の言葉に、頭が取れんばかりに二人が頷きましたの。

 

「ま、面白ければなんでも良いんですの。そして二つ目。」

私は親指をグルグルと回し、サムズアップの要領で上に向けました。

 

「…羅波矢セエカの事ですの。」

私の発言に対して、二人の顔に翳りが見えましたが、その黒は絶望というほどの強さはありませんでした。ん、よろしいですの。

 

「1週間後、強化合宿ということで、この学校から一時的に去るという情報を手に入れましたの。だから…。」

 

 だから…。

『この1週間は、耐えて、ヤツが消えたら本格的な去勢に移りましょう。』

しかしですの。

 

 しかし、それを言ってしまったら、私は雑魚になるのではないでしょうか。でも、あの女がいる間に羽倉サクハに手を出すのは合理に欠けた判断です。安牌ではない。

 

「だから…。」

私は、言葉を続けることもできずに俯いてしまいました。

 

 あの女が一時的に消えると知った二人がどんな顔をするのかも、見たくなかった。

 

 私はどんな判断を出すべきか、分からなかった。

 

 まだ先延ばしにして、逃げたかった。

 

 そして……。

 

「よーい!ドン!!ですの!!」

私は、おどけることに逃げてしまいました。

 

 二人に背を向け、足を動かし、競争という名目に、自分を置きましたの。

「ホラっ!負けたらっ!…はぁ…!言ってもらいますわよッ!…ブツの名前を…!!」

 

 私の吐息交じりの言葉を聞くと、二人は私を追い越していきました。

 

「それだけは…イヤッ!」

「お嬢!失礼しますッ!」

 

「ちょっ!?クソ早いですの!?お前らッ!!」

あぁ、足が疼きます。羅波矢セエカに蹴りを入れた右脚がズキズキと。

 

 痛みでしょうか、それとも、熱からでしょうか。

 闘争からの逃走による焦燥からでしょうか。

 

 …でも、あの女を避けるのは…やはり……。

 

「あ!ヤベッ…。負けちまいますわッ!クソッ!あ~ッ!チン────────。」

 

 

 

 

────────────────

【サクハ視点】

 

 

 

「う、うまトマハンバーグ!!」

「惜しいッ!」

 

「チーズ・バーグ・ディッシュ!!」

「超惜しいッ!」

 

「あの…アレッ!…あのッ…………。」

「頑張れ!イッチッ!」

「チーズをインしろ!」

 

 ドアの隙間から漏れる声に、セエカちゃんは耳を傾けつつ、冷たい一瞥を送ってた。腕を組み、壁に背を付けながら、鼻息を鳴らすその姿には一仕事終わらせた疲れがあった。

 

 俺もセエカちゃんと同じように隙間から、彼らの様子を覗き見た。ベッドで仰向けになりながら敗北を噛み締める人、体を横にして友人と会話する人、持ち込んだ小説を楽しむ人、色んな人がいた。

 

「皆、元気そうだね。…手加減したでしょ?」

みんな年相応に、友人との時間や、一人の時間を楽しんでた。

 

「別にィ。やりすぎると、後で騒ぐ奴らがいるってだけだし。」

 

「優しいね。」

 

「……別に。……あ。」

セエカちゃんが、思い出したように声をあげると、俺の方に向き直った。

 

「…あのさ、サク兄ィ…。私、もうすぐ強化合宿あんのよ。……だからァ…。」

セエカちゃんが頭頂部を人差し指で掻きながら、面倒くさそうに口を開く。

 

「あ、じゃあ風邪とか気を付けないとね。」

 

「…………。」

セエカちゃんが首を傾げて、俺の目を見た。

 

「どしたの?」

 

「……いや、なんかそのォ…。」

セエカちゃんが小さな困惑を浮かべていた。

 

「ん?」

 

「今現在、キチガイ生徒会に目付けられてんのに、『戦力減るから行かないで。』みたいな発想にはならないんだなァ…って。」

 

「あ。」

セエカちゃんに言われてようやく気付いた。そっか。その発想はなかった。

 

「だって、俺、セエカちゃんに色んな人倒したりして、戦って欲しいわけじゃないもの。…そりゃ…心細いけどさ…セエカちゃんに無理させたくないし。」

これは本心だった。もちろんちょっと寂しいし、居ないと困るかもしれない。でも、セエカちゃんは闘うだけの人じゃないから。

 

「それに、俺自身が強くならなきゃだし。」

 

「…はァ…。」

ため息交じりにセエカちゃんがこちらに近づいた。

 

「あ、俺、なんか変な事言っ…ぽひゅ…。」

俺が言い切る前に、セエカちゃんが俺の頬を人差し指で突いた。

 

「…早めに帰って来るさね。」

そう呟いたセエカちゃんの顔は、今日俺に見せた顔の中でも一番穏やかだった。

 

「ふふ、お土産待ってる。」

 

「しこたま買ってくらァ。」

 

 そんな俺達の会話。将来の義妹と、非日常の後の平穏を共有する団らん。

 

 でも、そんな静かな時間が、崩れるのは、一瞬だった。

 

【~♪】

 

俺のポケットがスマホのバイブで軽く震えた。

「…ユウちゃんかな…?」

 

「出てやんな。生徒会の事色々、教えなきゃだし。」

俺はセエカちゃんに頷きで返すと、スマホを耳に当てた。

 

 正直、ちょっと嬉しい。

 

 だって、あんなことがあった後に、大好きな人の声が聞け……。

『じゅぞぞぞぞぞぞぞぞぞじゅりゅりゅりゅッ!!!!!』

 

「ヒッ!?」

恐怖に声が漏れる。なに!?何が起こってんの!?

 

『じりゅりゅりゅッ!!!!!』

酷い。スマホ越しに聞こえたのは、あまりに汚い水音だった。わざとらしくて、音を立てることだけを目的にしていて、喉を潤すことなんか二の次にした酷い音だった。

 

『はぁ、はぁ、はぁ…。』

それから荒い息遣いの後、ユウちゃんの声が続く。

 

『あ、ストローで煽情的に水飲んでみましたッ!どう!?興奮したっ!?』

 

「テメェッ!!!」

流石に、俺は声を荒げた。

 

『えへへ……。テレフォン疑似オーラリュリュ゛!!!???』

ユウちゃんが苦しむ声、女の人の低いため息が響いた。後ろでは、BGMみたいに電気の迸る音がしている。

 

「ヒィ……。」

俺の目に涙が溜まった。

 

 なんで俺の周りって変な事しか起こらないのぉ…………。

 




 
 遅れてごめんなさいィ。
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