異世界で復讐心に囚われてはいけないはずが仲間の暴走を止められません!! 作:ナイ神父
────人は一人では生きていけない。
それは使い古された綺麗事でありながらも、この世で最も残酷な真理の内の一つだ。
社会的に、精神的に、そして物理的に。人が「人」という形を保ち、この理不尽な世界で呼吸をし続けるためには、他者という鏡が必要不可欠なのだ。
かつてこの地上に人間という種が産み落とされてから、それは絶対不変の
それこそが、他者との関わりの中で構築される【人間関係】という名の鎖だ。
人格の形成、知識の継承、社会的な居場所。そのすべては自分以外の誰かが存在して初めて成立する。人は他者に愛され、他者を頼り、他者に認められることで、ようやく己が何者であるかを定義できる。
……だが、その鎖に繋がれた
「───ああ、クソっ……がはっ……」
視界が、濁った黒い青に染まる。
口を開けば、肺を焼くような塩辛い海水が喉の奥まで侵入し、肺が死で満たされ内側から身体を、精神を、私の全てを削り取っていく。絶え間なく繰り返される波の暴力に、もはや上下の感覚すら失われていた。
海、それは俺が生まれ育った場所。兄弟よりも身近で、誰よりもその豊かさと恐ろしさを知っていたはずの母なる存在。
だが今の海は、まるで意志を持っているかのように荒れ狂い、私の弱り切った身体を岩礁に叩きつけ、深淵へと引きずり込もうとしている。
死が間近に迫るにつれて、皮肉にも思考は冷徹なほどに研ぎ澄まされていった。
走馬灯とはよく言ったものだ。意識の混濁の中で脳裏に浮かぶのは、愛しい彼女の笑顔でも、守りたかった故郷の景色でも、幼い頃に私を拾い男手一つで育ててくれた、偉大な漁師であった父の背中でもなかった。
溢れ出してきたのは、私をこの地獄へと突き落とした卑劣な裏切り者たちの顔と声。
彼らの嘲笑が、水圧に潰されそうな鼓膜の奥で、呪詛のように何度も何度も繰り返し響き渡る。
『……お前が悪いんだよ、エド。お前さえ、彼女と結ばれなければ……俺は、俺こそが彼女の隣に立つのに相応しかったはずなんだ!』
幼馴染として、一番の親友だと思っていたユウフェルの声だ。その歪んだ恋慕と嫉妬の炎が、私のすべてを灰にした。
『氷雷の英雄サマも、こうなると惨めったらしくて笑えてくるなぁ!!国を救う英雄から死刑囚への転落人生、どんな気分だぁ? あんなに幸せそうだったお前が、今や俺たちの足蹴にされるゴ★ミ★屑だ!! ヒィャアハハッハハァ!!傑作だなぁ!!』
共に魔術の稽古に明け暮れた悪友、ダングス。豪快な笑い声と態度の下に、これほどまでの醜悪な本性を隠していたとは思いもしなかった。
『……悪いが、これも国の平穏のためだ。
常に冷静沈着で、第三王子の立場としてこの国の未来を憂い、同系統の魔術師として師事をしてくれたヴィンセント。その理性的で冷淡な宣告が、私の心に事実として決定的なトドメを刺した。
「フェル……ダング……ヴィン……どうしてだ……どうしてなんだよ……!!」
声にならない叫びが掠れ、泡となって消える。
嘘の情報で陥れられ、魔刻印により魔術を封印され、最後は刑務所島への海上で【事故】を装って海へと投棄された。
彼らに注いできた信頼も、共に築き上げた功績も、すべては彼らの利己的な欲望という汚泥に飲み込まれて消えた。
悔しい 憎い 許せない
怒りという言葉では到底足りない。恩を仇で返された者の怨恨、心の深淵で煮え滾るどす黒い感情の焔が、冷え切った身体の内側で激しく燃え上がる。
───もし、もしも次があるのなら。
俺はもう、人を信じることは無い。俺を裏切った奴らすべてに、この苦しみ以上の絶望を刻み込んでやる。
ついに体力の限界が訪れ、深く、暗い暗い海中に呑み込まれる。
視界が真っ暗に染まり、肺に満ちた水が意識を断ち切る。
それが私、エドワード・カトライトとしての、最期の記憶だった。
そして、エドワードの身体は何処までも何処までも墜ち
───海底にある、とある
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●用語解説
【ユウフェル、ダングス、ヴィンセント】
かませ裏切り出落ち3バカ、本来の世界において実質的な世界崩壊の元凶も元凶。しばらく出番が無いため詳細解説は後ほど